太陽の大爆発で、地球が停電することはあるの?
― 史上最大の太陽嵐では、電信線がひとりでに動き出しました
あります。実際に1989年、カナダのケベック州では、太陽の嵐をきっかけに約600万人が停電しました。ふしぎなのは、太陽の電気が届いたわけではないことです。地球の磁石の力が揺さぶられると、地面そのものに弱い電気の「押す力」が生まれます。それを何百kmも拾い集めてしまうのが、長い電線なのです。
1859年9月のある夜。アメリカの電信局で、係の人が困っていました。機械が勝手にカタカタ鳴り、紙からは火花が散って焦げたにおいがします。
そこで、ためしに電池を外してみました。すると、電池なしのまま、遠くの局と通信ができてしまったのです。同じころ、ふだんは見えないはずの南の国々の空まで、赤いオーロラが染めていました。
これが、記録に残る史上最大の太陽嵐「キャリントン・イベント」です。いま同じことが起きたら、私たちの暮らしはどうなるのでしょうか。
太陽の爆発が地上の電線に効く理由は、2つだけ
太陽の表面で大爆発が起きると、電気を帯びたガスの巨大な雲が飛び出します。これが地球にぶつかると、地球をつつむ磁石の力(地磁気)が、数時間にわたって大きく揺れ動きます。
磁石の力が変わると、そのまわりには電気を押す力が生まれます。地面では1kmあたり数ボルトと、ごく弱いものです。ところが何百kmもの電線は、それを端から端まで足し合わせてしまいます。
つまり、太陽の電気が電線に飛びこんでくるわけではありません。地球の磁石が揺れることで、地上の長い電線に電気が「わいて出る」のです。順番に見ていきましょう。
太陽の雲は、ふつうより何倍も速く届いた
太陽からは、ふだんから「太陽風」というガスの流れが吹き出しています。速さは秒速400kmほどで、地球に届くまで4日ほどかかるとされています。
ところが大爆発のときは、もっと濃くて速いガスの雲がまとめて飛び出します。これを「コロナ質量放出」と呼びます。1859年の雲は、爆発からわずか17.6時間ほどで地球に着いたとされています。計算すると、秒速2000kmを超える速さです。
この雲は、自分も磁石の力を持っています。その向きが地球の磁石と逆向きだと、二つがつながって、雲のエネルギーが地球のまわりへ流れこみます。こうして地磁気が大きく揺れる状態を「磁気嵐」といいます。オーロラが南の空まで広がるのも、このときです(オーロラのしくみはオーロラは、なぜ北極や南極の近くでしか見られないの?で解説しています)。
電線が長いほど、生まれる電気は大きくなる
磁石の力が時間とともに変わると、そのまわりに電気を押す力(電場)が生まれます。これは発電機と同じしくみで、「電磁誘導」と呼ばれます。磁気嵐のときは、足もとの地面全体に、この弱い電場が広がります。
大きな磁気嵐では、地面の電場は1kmあたり数ボルトほどになるとされています。乾電池1本ぶんくらいの弱さです。ところが電線は、その道のりの分だけ電圧を足し合わせます。図1のつまみで電線の長さを変えてみてください。
図1の下の段を見ると、家の中の短い配線にはほとんど何も起きないことが分かります。危ないのは、国や州をまたいで張られた長い送電線です。昔の電信線も、まさにそういう長い電線でした。1859年に電池なしで通信できたのは、このためだと考えられています。
2000ボルトなら、送電線には小さいのでは?
送電線には、もともと何十万ボルトという電気が流れています。それにくらべれば、2000ボルトは小さく見えます。問題は、電気の「種類」が違うことです。
送電線の電気は、向きが1秒に何十回も入れかわる「交流」です。一方、磁気嵐で生まれる電気は、何分もかけてゆっくり変わるので、ほとんど一方向に流れる「直流」のようにふるまいます。変電所の変圧器は交流のためにつくられていて、直流がまじると鉄の芯が磁石としていっぱいになってしまいます。すると変圧器が熱を持ち、電圧を保つしくみがうまく働かなくなります。
1989年3月のケベックでは、こうして保護装置が次々に働き、送電網が90秒ほどで止まったとされています。復旧には約9時間かかりました。
2024年5月の大きな磁気嵐では、北海道などで赤いオーロラが写真に写りました。これは「低緯度オーロラ」と呼ばれます。1859年の太陽嵐は、それよりさらに強かったと推定されています。キャリントンが太陽の爆発を望遠鏡で見てから、約18時間後のできごとでした。
磁気嵐のときは、地球の上空の空気の層も乱れます。そのため、スマホの位置情報に使う衛星の電波がずれたり、短波の無線が届きにくくなったりすることがあります。人工衛星そのものが、ふくらんだ大気にぶつかって高度を下げることもあります。
まとめ
太陽の大爆発で飛び出したガスの雲は、地球の磁石の力を大きく揺さぶります。磁石の力が変わると、地面に1kmあたり数ボルトの弱い電場が生まれます。何百kmもの長い送電線はそれを足し合わせ、変電所の変圧器に直流をまぜてしまいます。こうして、太陽の嵐が地上の停電につながることがあるのです。いまは各国が太陽を見張り、嵐の到着を前もって知らせるしくみ(宇宙天気予報)を動かしています。私たちにできるのは、ふだんの停電と同じ備えをしておくことです。
太陽の電気が届くのではない。
揺れた地磁気が、長い電線の中に電気をわき出させる。
雷のときに電線へ電気が入りこむ話は雷が鳴ったら、コンセントは抜いたほうがいいの?で、地球が磁石である理由はコンパスの針は、なぜ北を向くの?で解説しています。
- 情報通信研究機構(NICT)の「宇宙天気予報」のページを開き、今日の太陽の活動と地磁気のようすを見てみましょう。
- 気象庁の地磁気観測所のページには、磁気嵐が起きると「磁気嵐速報」が出ます。出たときは、地磁気のグラフが大きく波打つ様子を見られます。
- 大きな磁気嵐が報じられた夜は、街の明かりの少ない場所で、北の空をスマホのカメラで長めに撮ってみましょう。目では見えなくても、赤い色が写ることがあります。
太陽の爆発から地球に影響が出るまでは、ふつう1〜3日ほどかかります。予報を見てから空を待つ時間があるのも、宇宙の天気のおもしろいところです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(電磁気学・宇宙空間物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- コロナ質量放出:太陽の外側の大気(コロナ)から、電気を帯びたガスが雲のようにまとまって飛び出す現象。
- 磁気嵐:太陽からのガスの影響で、地球の磁気(地磁気)が数時間から数日にわたって大きく乱れること。
- 電磁誘導:磁石の力が変化すると、そのまわりに電流を流そうとする電圧が生まれる現象。中学2年の理科で習います。
- 地磁気誘導電流:磁気嵐のときに、送電線やパイプラインなどの長い導体へ流れこむ電流。
中学高校式で確かめる:1000kmの電線には、何ボルト生まれる?
地面の電場が一様だとして、電線の両端のあいだに生まれる電圧を計算します。あわせて、1859年のガスの雲の速さも出してみます。
| 記号で書くと | V = E × L |
| 言葉で書くと | 電線に生まれる電圧 = 地面の電場(1kmあたりの電圧) × 電線の長さ |
| どこから来る式か | ファラデーの電磁誘導の法則。地磁気が時間とともに変わると、地面に電場が生まれる。電圧はその電場を道のりに沿って足し合わせたもの |
| 記号 | 意味と単位 |
| V | 電線の両端のあいだに生まれる電圧(ボルト) |
| E | 地面の電場の強さ(1kmあたりのボルト) |
| L | 電線の長さ(km) |
| 大きな磁気嵐での地面の電場 | 1kmあたり数ボルトとされる(ここでは2ボルト) |
| 長い送電線の長さ | 1000 km |
| 家の中の配線の長さ | 30 m(0.03 km) |
| 太陽と地球の距離 | 約1億5000万 km |
| 1859年の雲が届くまでの時間 | 約17.6時間とされる |
| 送電線に生まれる電圧(V) | 2 × 1000 = 2000 |
| 家のコンセント100ボルトの何倍か | 2000 ÷ 100 = 20 |
| 家の中の配線に生まれる電圧(V) | 2 × 0.03 = 0.06 |
| 17.6時間を秒に直す | 17.6 × 3600 = 63360 |
| 1859年の雲の速さ(km/秒) | 150000000 ÷ 63360 ≒ 2367 |
| ふつうの太陽風(秒速400km)なら何秒か | 150000000 ÷ 400 = 375000 |
| それを日数に直す | 375000 ÷ 86400 ≒ 4.3 |
同じ地面の上でも、1000kmの送電線には2000ボルト、30mの家の配線には0.06ボルトしか生まれません。差を生むのは嵐の強さではなく、電線の長さです。1859年の雲は、ふつうの太陽風なら4日以上かかる道のりを、1日もかけずに渡ってきたことになります。
高校高校+なぜ「直流」になると困るのか
高校変圧器は、鉄心の中の磁束を交流で変化させ、電磁誘導で電圧を変える装置です。高校物理の「交流」と「変圧器」の単元で習います。
高校+磁気嵐で生まれる電流は数分から数十分の周期でゆっくり変わるため、交流の50〜60回/秒にくらべてほぼ直流です。これが変圧器の中性点の接地から流れこむと、鉄心の磁束が片側に偏ります。すると鉄心が磁気飽和を起こし、ひずんだ電流や発熱、余分な無効電力の消費につながるとされています。
大学地面の電場は、大地の電気の通しにくさで決まる
地面の電場の大きさは、地磁気の変化の速さだけでなく、地下の電気伝導度で大きく変わります。電気を通しにくい古い岩盤の上では電場が強くなり、ケベック州の地盤はこの典型とされています。地下を平らな層とみなして計算する方法は「マグネトテルリク法」と呼ばれ、地下探査にも使われています。地磁気の乱れの大きさは「Dst指数」で表され、1989年は約−589ナノテスラでした。1859年の値は、−850から−1700ナノテスラほどと幅をもって推定されています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:電磁誘導(ウィキペディア) / 磁気嵐(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 1859年の嵐は、どれほど強かったのか。 当時の地磁気の記録は少なく、強さの推定には大きな幅があります。木の年輪に残る炭素から、もっと強い太陽嵐が過去にあった可能性も議論されています。
- 同じ規模の嵐が、次にいつ来るのか。 10年あたりの発生確率を見積もる研究がありますが、数値は研究によってばらつきがあります。
- 到着前に、雲の磁石の向きを知れるか。 被害の大きさを左右するのは雲の磁石の向きですが、それが分かるのは地球の手前の観測衛星を通るときで、到着の1時間ほど前とされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。宇宙天気の予報は、天気予報がたどってきた道を、いま追いかけている最中です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「電流と磁界」電磁誘導 | 磁石の力の変化が電圧を生む |
| 高校 | 物理「電磁誘導と交流」、地学「太陽と地球」 | 変圧器、太陽風と地磁気 |
| 高校+ | 物理(発展)磁気飽和 | 直流が変圧器を困らせる理由 |
| 大学 | 電磁気学、宇宙空間物理学、地球電磁気学 | 大地の伝導度と地面の電場、Dst指数 |
| 研究 | 宇宙天気予報、古い太陽嵐の復元 | まだわかっていないこと |
| ― | 生活とのつながり | 停電への備え、衛星の位置情報のずれ、オーロラ観察 |
- 情報通信研究機構(NICT)「宇宙天気予報」
- 気象庁 地磁気観測所
- 1859年の太陽嵐(ウィキペディア)
- Boteler, D. H. (2019). A 21st Century View of the March 1989 Magnetic Storm. Space Weather, 17.
- Tsurutani, B. T. et al. (2003). The extreme magnetic storm of 1–2 September 1859. Journal of Geophysical Research, 108(A7).
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。停電や通信障害の際は、電力会社・自治体等の案内に従ってください。