カエルは、なぜ凍っても生き返るの?
― 氷を細胞の「外」にだけ作り、糖で凍りすぎを止めています
北米の森にすむアメリカアカガエルは、冬になると体がカチカチに凍ります。心臓も呼吸も止まります。それでも春に解けると、何事もなかったように跳ね回ります。人の体や冷凍イチゴにはできないこの芸当は、「どこに氷を作るか」と「どこまで凍らせるか」の2つで決まっています。
夏に買ったイチゴを冷凍庫に入れておき、あとで解かしてみます。皿には赤い汁がたまり、実はふにゃふにゃにつぶれています。凍らせる前の、張りのある実には戻りません。
一方、カナダやアラスカの森では、落ち葉の下でカエルが冬を越します。触ると石のように硬く、心臓は動いていません。それなのに春になって解けると、数時間から1日ほどで動き出すとされています。
同じ「生き物の体が凍る」なのに、なぜ一方は壊れ、一方は元に戻るのでしょうか。
カエルが壊れない理由は2つ
細胞の中で氷ができると、とがった結晶が膜を破ります。カエルは体の表面から早めにゆっくり凍り始め、氷を細胞と細胞のすき間だけに育てます。
凍り始めると、肝臓が一気に糖を作って全身に配ります。糖が溶けた水は凍りにくいので、体の水がすべて氷になるのを防げます。
どちらも、特別な魔法ではありません。塩をまいた道が凍りにくいのと同じ、「水に何かが溶けると凍りにくくなる」という性質を、体の中でうまく使っています。
氷が「どこにできるか」で、生き死にが分かれる
生き物の体は、小さな細胞の集まりです。細胞は薄い膜の袋で、中にも外にも水があります。図1を見てください。
左はイチゴのように、ゆっくり凍って細胞の中にまで氷ができた場合です。氷の結晶は針のようにとがっていて、育つほど膜や壁を内側から突き破ります。解けると、破れた袋から中身が流れ出します。これが皿にたまる汁の正体です。
右はカエルの場合です。カエルの体の表面や血液には、氷ができるきっかけになる物質があるとされています。そのため、まだマイナス1〜2℃ほどの浅い寒さで、細胞の外から先に凍り始めます。外の水が氷になると、残った水は塩分などが濃くなります。すると細胞の中の水が、濃いほうへ引かれて外へしみ出します。細胞は水を出して小さくしぼみ、中は凍らないまま残ります。
糖は「凍らせない」ためではなく、「凍りすぎない」ため
凍り始めると、カエルの肝臓はためていたでんぷんのような物質を、急いで糖に変えます。血液の糖の濃さは、ふだんの数十倍から100倍以上に上がると報告されています。
ここで意外なことがあります。これだけ糖をためても、凍り始める温度は0.5℃ほどしか下がりません。カエルは結局、凍るのです。では糖は何をしているのでしょうか。
外の水が凍るほど、残った水は濃くなります。そして残りの水は、「その濃さならちょうど凍り始める」ところで凍るのをやめます。最初に溶けている粒が多いほど、早い段階でその濃さに届きます。つまり糖を足すと、同じ寒さでも氷になる水の割合が減るのです。
図2を見てください。つまみで温度を下げると、糖がない場合は体の水の8割以上がすぐに氷になります。糖をためたカエルは、マイナス3℃ほどでも氷を6割台におさえられます。アメリカアカガエルが耐えられるのは、体の水の65%ほどが凍るところまでとされています。糖は、この上限を越えないための「ブレーキ」なのです。
人の細胞は、氷を外だけに作るしくみも、急いで糖をためるしくみも持っていません。手足の組織が凍ると、元には戻りません。凍っても生き返る動物は、ほかに一部の昆虫や、北米のカメの子どもなどが知られています。どれも寒さの厳しい土地で、長い時間をかけて身につけた能力と考えられています。
冷凍食品の工場では、食材をできるだけ速く凍らせます。速く凍らせると氷の結晶が小さいまま固まり、細胞を傷つけにくいからです。家の冷凍庫ではゆっくり凍るので、結晶が大きく育ってしまいます。
まとめ
カエルが凍っても生き返れるのは、氷を細胞の外にだけ作って細胞を守り、糖で体の水の凍る割合を上限の手前でおさえているからです。凍ること自体は止めていません。どこに、どれだけ凍らせるかを管理しているのです。
凍らないのではなく、凍り方を選んでいる。
カエルの冬越しは、氷との「つき合い方」の技術です。
水が0℃より冷えても凍らないふしぎはマイナス20℃でも凍らない水の記事で、同じく寒さに耐える鳥の足のしくみはカモの足が凍らない理由の記事で解説しています。
- 同じ大きさのコップを2つ用意し、片方には水だけ、もう片方には砂糖を大さじ3杯ほど溶かした水を、同じ量だけ入れます。
- 冷凍庫に入れ、1時間ごとにスプーンでつついて、どれくらい凍ったかを比べます。
- 砂糖水のほうは、氷と、凍らずに残ったとろりとした液が長く混ざったままになるはずです。残った液をなめると、最初より甘くなっています。
凍るのは水だけで、砂糖は残りの液に押し出されて濃くなります。カエルの体の中で起きていることを、台所で小さく再現した実験です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(動物生理学・低温生物学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 凍結耐性:体の水の一部が凍っても生きのびられる性質のこと。アメリカアカガエルはその代表例です。
- 凝固点降下:水に何かが溶けていると、凍り始める温度が0℃より下がる現象。溶けている粒の数に比例します。
- 細胞外凍結:氷が細胞の中ではなく、細胞と細胞のすき間だけにできる凍り方。細胞は水を外へ出してしぼみます。
中学高校式で確かめる:マイナス3℃で、体の水は何割凍るのか
外の氷と、凍らずに残った水がつり合っているとき、残った水の凝固点は、ちょうどそのときの温度になっています。この関係から、凍らずに残る水の割合を見積もります。
| 記号で書くと | ΔT = Kf × c 、 f = c0 ÷ c = ( c0 × Kf ) ÷ ΔT |
| 言葉で書くと | 凍り始める温度の下がり幅 = 比例定数 × 溶けている粒の濃さ。凍らずに残る水の割合 = 最初の濃さ ÷ その温度で凍り始める濃さ |
| どこから来る式か | 凝固点降下の法則(薄い溶液では、下がり幅は溶けている粒の数に比例する)と、「溶けている粒は氷に入らず、残った水に全部残る」という量の保存から来ます |
| ΔT | 凍り始める温度が0℃からどれだけ下がるか(単位は ℃)。ここでは今の気温の「マイナス何度」と同じ |
| Kf | 水のモル凝固点降下。水1kgに粒が1mol溶けると、約1.86℃下がる(単位は ℃・kg/mol) |
| c0 | 凍る前の体液に溶けている粒の濃さ(単位は mol/kg) |
| f | 凍らずに液のまま残る水の割合(0〜1)。凍った割合は 1 − f |
| 水のモル凝固点降下 | 1.86 ℃・kg/mol |
| 糖をためる前の体液の濃さ(目安) | およそ 0.3 mol/kg |
| 凍ったときに増える糖の濃さ(目安) | およそ 0.25 mol/kg とされる |
| 気温 | マイナス3℃ |
| マイナス3℃で凍り始める濃さ | 3 ÷ 1.86 ≒ 1.61 mol/kg |
| 糖なし:凍らずに残る割合 | 0.3 ÷ 1.61 ≒ 0.19 |
| 糖なし:凍った割合 | 1 − 0.19 = 0.81 |
| 糖ありの体液の濃さ | 0.3 + 0.25 = 0.55 mol/kg |
| 糖あり:凍らずに残る割合 | 0.55 ÷ 1.61 ≒ 0.34 |
| 糖あり:凍った割合 | 1 − 0.34 = 0.66 |
| おまけ:糖だけで下がる凍り始めの温度 | 0.25 × 1.86 ≒ 0.47 ℃ |
糖なしでは体の水の約81%が凍り、上限の目安65%を大きく越えます。糖ありでは約66%で、上限のすぐ近くにとどまります。一方、糖そのものが凍り始めの温度を下げる幅は、たった0.5℃ほどです。糖の本当の役目は「凍らせない」ことではなく、「凍る量を減らす」ことだと、数字で確かめられます。
高校高校+浸透圧で、細胞から水が出ていく
高校細胞の膜は、水は通しやすく、溶けている物質は通しにくい「半透膜」としてふるまいます。外の水が凍って外側が濃くなると、浸透圧の差で細胞の中の水が外へ移ります。細胞がしぼむのはこのためです。
高校+ただし、しぼみすぎると細胞は壊れます。カエルは糖を細胞の中にも取り込ませることで、中の濃さを上げ、出ていく水の量をおさえていると考えられています。外と中の両方に糖があることが、細胞の大きさを守るうえで大切だとされています。
大学凍結保護物質と、氷の核づくり
低温生物学では、糖のように細胞を凍結から守る物質を凍結保護物質と呼びます。アメリカアカガエルではグルコースが主役で、尿素も補助的に働くとされています。肝臓のグリコーゲンを分解してグルコースを放出する反応は、皮膚で凍結が始まってから数分のうちに始まると報告されています。氷を高めの温度で確実に作り始めるため、氷核形成を起こすタンパク質などの物質が体液中にあるとも考えられています。過冷却したまま一気に凍ると、細胞の中にまで氷ができやすくなるからです。
📖 式の導出や、さらに先の内容:凝固点降下(ウィキペディア) / Storey & Storey (2017) 脊椎動物の凍結耐性の分子生理学(総説)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 止まった心臓は、なぜ再び動き出すのか。 解けたあと、心臓が自分から拍動を再開するきっかけは、細かい部分まで分かっていません。
- アラスカのカエルは、なぜもっと寒さに耐えられるのか。 アラスカの野外では、マイナス10℃台の土の中で数か月凍ったまま冬を越した例が報告されています。南の地域の個体より多くの糖をためることが分かっていますが、それだけで説明できるのかは調べられている最中です。
- 人の臓器の凍結保存に使えるか。 移植用の臓器を凍らせて長く保存する研究で、カエルのしくみが手本の1つとされています。ただし、実用化はまだ先と考えられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。式で出した割合も、溶けている粒の量だけで決めた単純な見積もりで、実際の体ではもっと複雑な要因がからみます。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・物質の状態変化、水溶液 | 水が凍る、溶けた物は氷に入らない |
| 高校 | 化学・希薄溶液の性質(凝固点降下、浸透圧) | 式で確かめる、細胞から水が出ていく話 |
| 高校+ | 生物・細胞膜と物質の出入り | 糖を細胞の中にも取り込む話 |
| 大学 | 動物生理学・低温生物学 | 凍結保護物質、氷核形成 |
| 研究 | 比較生理学・臓器保存 | 心臓の再始動、アラスカの個体、臓器の凍結保存 |
| ― | 生活とのつながり | 冷凍食品の急速冷凍、解凍したイチゴの汁 |
- Storey, K. B. & Storey, J. M. (2017) Molecular Physiology of Freeze Tolerance in Vertebrates. Physiological Reviews 97.
- Larson, D. J. ほか (2014) Wood frog adaptations to overwintering in Alaska: new limits to freezing tolerance. Journal of Experimental Biology 217.
- Costanzo, J. P. & Lee, R. E. (2013) Avoidance and tolerance of freezing in ectothermic vertebrates. Journal of Experimental Biology 216.
- ウィキペディア「凝固点降下」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算で、研究によって幅があります。野生のカエルを捕まえて凍らせるなどの実験は、決して行わないでください。