自然のふしぎ 光 予備知識なしでOK 読了 約7分

光の速さは、どうやって初めて測ったの?
― 木星の月が、予定より遅れて姿を見せました

光は、1秒で地球を7周半するほど速く進みます。速すぎて、地上の実験では長いあいだ「一瞬で届く」としか思えませんでした。最初に光の速さをとらえたのは、地上の装置ではありません。はるか遠くの木星をまわる、小さな月の「遅刻」でした。

公開:2026.09.29 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

夏の夜、遠くで花火が開きます。光はパッと見えるのに、ドンという音は数秒たってから届きます。音には速さがあると、誰でも体で知っています。

では、光のほうはどうでしょう。花火が開いた瞬間と、それが目に入る瞬間のあいだに、すき間はあるのでしょうか。見ている限り、まったく分かりません。

350年ほど前まで、多くの学者も「光は一瞬で届く」と考えていました。それをくつがえしたのが、望遠鏡で木星を見つめ続けた一人の天文学者です。

決め手は、2つのことを組み合わせたことでした

1
木星の月は、正確な「空の時計」だった

木星のいちばん内側をまわる月イオは、約42.5時間ごとに木星の影に入り、また出てきます。この出入りは、ほぼ決まった間隔でくり返されます。

2
地球が遠ざかると、時計が遅れて見えた

地球は太陽のまわりを1年で回ります。木星から遠い側にいる時期は、イオが影から出る時刻が、予定より遅れて見えました。遅れたのはイオではなく、光の到着でした。

つまり、同じ出来事でも、遠くにいるほど「知らせ」が届くのが遅れます。その遅れの大きさが分かれば、光の速さが計算できるのです。

イオは、空に浮かぶ正確な時計でした

木星の4つの大きな月は、1610年にガリレオ・ガリレイが望遠鏡で見つけました。中でもイオは木星にいちばん近く、2日足らずで1周します。1周するたびに、木星がつくる影の中へ入り、しばらくして出てきます。

この「食」の時刻は、地球のどこから見ても同じ瞬間に起きます。そのため当時は、陸や海で自分のいる経度を知るための時計として注目されていました。パリ天文台では、イオの食の時刻を予報する表が作られていたとされています。

ところが、何年も観測を積み重ねると、困ったことが分かってきました。予報と実際の時刻が、季節によってずれるのです。地球が木星に近い時期は早めに、遠い時期は遅めに見えました。

地球が遠ざかると、なぜ時計が遅れるの?

このずれに正面から向き合ったのが、デンマーク出身でパリ天文台にいたオーレ・レーマーです。1676年、彼は「その年の11月のイオの食は、予報より約10分遅れる」と前もって述べたとされています。そして観測は、その予告に近い結果になりました。

理由は図1を見ると分かります。地球が木星に近い位置にいるとき、イオからの光は短い道のりで届きます。半年ほどたって地球が太陽の反対側へ回ると、光は地球の通り道の直径ぶん、余分に走らなければなりません。

上から見た図(距離の比は実際とは違います) 点線の円=地球の通り道(1年で1周) 太陽 近い側(0日) 遠い側(約半年後) 木星と月イオ (右の暗い帯=木星の影) ● 地球 ― イオからの光の道 いちばん近い位置と比べた、食の見え方の遅れ 約 0.0 分
つまみを動かすと、地球の位置と、イオの食が遅れて見える時間が変わります
図1:上から見た太陽・地球・木星の位置。右端の木星のそばで、イオが右の暗い帯(木星の影)に出入りします。左の点線の円を地球が回ると、地球から木星への黄色い線の長さが変わります。つまみで日数を進めると、地球が遠い側へ回るほど右下の遅れが増え、約半年後に最大の約17分になります。ただし半年後あたりは木星が太陽のまぶしさに隠れて見えないため、実際の観測はその前後で行われました。

イオが影から出た瞬間の光は、地球が遠い側にいるほど長い距離を旅してから目に入ります。だから食が遅れて見えるのです。レーマーは、地球の通り道を横切るのに光が22分ほどかかると見積もったとされています。いまの値は約16分40秒なので、最初の測定としては驚くほど近い数字です。

なぜ地上の実験では分からなかったの?

ガリレオは、離れた丘に立った2人がランプの覆いを開け閉めして、光が往復する時間を測ろうとしたとされています。けれども、何の遅れも分かりませんでした。光が1km進むのにかかる時間は、10万分の1秒にもなりません。人の反応の遅れのほうが、何千倍も大きかったのです。

レーマーの方法がうまくいったのは、距離のほうを宇宙の大きさにしたからです。地球の通り道の直径は約3億km。ここまで道のりを伸ばせば、光でさえ何分もかかります。それなら、当時の振り子時計でも十分に測れました。

もう1つの工夫は、遅れを「ためて」見たことです。イオが1周するあいだに地球が遠ざかる距離は、光にとってはわずか15秒ほどの差にしかなりません。それでも、何十周ぶんも積み重なれば、10分以上のはっきりしたずれになります。

💡 すぐには信じてもらえなかった

パリ天文台の台長カッシーニは、このずれを光の速さで説明する考えに、最後まで賛成しなかったとされています。光に速さがあることが広く認められたのは、約50年後の1728年です。イギリスのブラッドリーが、星の見える方向が1年周期でわずかにずれる「光行差」という別の現象を見つけ、同じ結論にたどり着きました。

まとめ

光は一瞬で届くのではなく、決まった速さで進みます。それを最初に示したのは、木星の月イオの食が、地球が遠い時期ほど遅れて見えるという観測でした。レーマーは、地上では短すぎる光の道のりを、地球の通り道の大きさまで伸ばすことで、見えない遅れを見える遅れに変えたのです。

光は一瞬ではなかった。
それを教えたのは、遅れてきた木星の月でした。

2200年前に影で地球の大きさを測った話は「地球の大きさは、どうやって測ったの?」、光の往復時間で月までの距離を測る話は「月って、どれくらい遠いの?」で紹介しています。

🧪 自分でイオを見てみよう
  1. 木星が夜空に見える時期に、双眼鏡を三脚などに固定して木星を見ます。木星のすぐ横に、小さな光の点が一直線に並んで見えます。これがガリレオの見つけた4つの月です。
  2. 数日おきに、点の位置を紙にスケッチします。いちばん木星に近い点ほど、位置が大きく入れ替わります。それがイオです。
  3. 天文ソフトやアプリで「イオの食」の予報時刻を調べ、小型の望遠鏡で見てみましょう。予報どおりの時刻に点がふっと現れる様子を見ると、レーマーが見ていた光景を体験できます。

木星がいつ見えるかは年によって変わります。国立天文台のウェブサイトの星空情報などで確かめてください。いまの予報は光の遅れをあらかじめ計算に入れてあるので、ずれは見えません。それこそが、レーマーの発見が今も使われている証拠です。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(天文学・電磁気学・計測学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:光の速さを、イオの遅れから出す

地球が木星に近い側と遠い側で、光が進む道のりの差は、地球の通り道の直径です。その差を走るのにかかった時間が、食の遅れです。

⓪ もとになる式
記号で書くとc = Δd ÷ Δt
言葉で書くと光の速さ = 余分に進んだ道のり ÷ 余分にかかった時間(食の遅れ)
どこから来る式か「速さ = 道のり ÷ 時間」。光が一定の速さで進むなら、道のりの差はそのまま到着時刻の差になります

記号の意味と単位は次のとおりです。

c光の速さ(km/秒)
Δd近い側と遠い側での、光の道のりの差(km)。ここでは地球の通り道の直径
Δtその差によって生じる、食の見え方の遅れ(秒)
① もとになる数値
地球と太陽の距離(半径)約 150,000,000 km
通り道を横切る遅れ(いまの値)約 1000 秒(約16分40秒)
レーマーの見積もった遅れ約 22 分とされる
イオが1周する時間約 42.5 時間
地球が公転する速さ秒速 約 30 km
② 計算してみる
道のりの差(直径)150,000,000 × 2 = 300,000,000 km
光の速さ(いまの遅れで)300,000,000 ÷ 1000 = 300,000 km/秒
レーマーの22分を秒に22 × 60 = 1320 秒
光の速さ(22分で)300,000,000 ÷ 1320 ≒ 227,000 km/秒
イオ1周を秒に42.5 × 3600 = 153,000 秒
その間に地球が遠ざかる最大の距離30 × 153,000 = 4,590,000 km
1周ぶんの遅れ4,590,000 ÷ 300,000 ≒ 15.3 秒

光の速さは秒速約30万kmと出ます。22分という当時の見積もりでも、秒速20万km台という正しいけた数に届いていました。1周ごとの遅れは15秒ほどで、振り子時計でもぎりぎりの差です。何十周ぶんを積み重ねて10分を超える遅れにしたことが、成功のかぎでした。

高校高校+そのあと、光の速さはどう測られたか

高校高校物理では、光は電磁波の一種で、真空中の速さは秒速約3.0×10⁸ mと習います。この記事の式は、音の速さを求めるときと同じ「速さ = 道のり ÷ 時間」です。違うのは、道のりのけたが宇宙の大きさだという点だけです。

高校+1728年、ブラッドリーは「光行差」を発見しました。雨の中を走ると雨が前から降ってくるように見えるのと同じで、地球の公転の速さと光の速さの比によって、星の見かけの方向がずれる現象です。1849年にはフィゾーが、回転する歯車のすき間に光を通して往復させ、地上の実験で初めて光の速さを測りました。

大学いまでは、光の速さは「測るもの」ではない

1983年から、真空中の光速は 299,792,458 m/秒と定義され、測定値ではなくなりました。長さの単位メートルは、光がこの値の分の1秒で進む距離として決められています。一方、レーマーの見たイオの食の遅れは、天文学では「光時間効果」と呼ばれ、連星や系外惑星の観測で今も使われています。星の食の時刻が周期的にずれることから、見えない伴星を見つける方法です。

📖 式の導出や、さらに先の内容:光速(ウィキペディア) / 光行差(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。350年前の小さな遅刻は、いまも宇宙を調べる道具として生き続けています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・光と音/太陽系と惑星花火の光と音のずれ、地球と木星の位置
高校物理・波(光の速さ)/地学・惑星の運動速さ = 道のり ÷ 時間 による光速の計算
高校+物理の発展・光速測定の歴史ブラッドリーの光行差、フィゾーの歯車
大学天文学・計測学(単位の定義)光速による長さの定義、光時間効果
研究科学史/連星・系外惑星の観測レーマーの原資料、食の時刻による天体探し
―生活とのつながり衛星からの電波を使う位置の測定は、光の速さが決まっていることを前提に動いています
参考・出典
  1. ウィキペディア「光速」
  2. ウィキペディア「オーレ・レーマー」
  3. ウィキペディア「光行差」
  4. I. B. Cohen, "Roemer and the First Determination of the Velocity of Light (1676)", Isis, 31 (1940)
  5. 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(光速度・天文単位・惑星の軌道要素)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。歴史上の出来事の日付や数値は、資料によって多少異なることがあります。