🐸 自然のふしぎ 🧲 電磁気 予備知識なしでOK 読了 約6分

水は磁石に反発するって本当?
― 強い磁石の上で、生きたカエルが宙に浮きました

磁石にくっつかないものは、磁石と「無関係」だと思われがちです。ところが水は、ほんのわずかな力で磁石から逃げようとしています。その力はとても弱く、ふだんは気づけません。けれど磁石をとびきり強くすると、水でできた生き物が、そのまま宙に浮いてしまいます。

公開:2026.09.29 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

冷蔵庫の扉にメモを留めている磁石を、コップの水に近づけてみます。水は、何も変わらないように見えます。

ところが1997年、オランダの研究所で、筒の形をした巨大な磁石の中に、生きた小さなカエルが入れられました。カエルは筒の中で、何にも支えられずにふわふわと浮かびました。

カエルに鉄が入っていたわけではありません。浮かせていたのは、カエルの体の大部分をしめる「水」そのものでした。

カエルが浮いた理由は、2つだけ

1
水は、磁石からそっと逃げる

水の中の電子は、磁石が近づくと、磁石を押し返す向きの小さな磁石に変わります。だから水は、ごく弱い力で磁石に反発します。

2
力は、強さの「2乗」で増える

反発する力は、磁石の強さを2倍にすると約4倍、10倍にすると約100倍になります。極端に強い磁石では、ついに体の重さを上回ります。

つまり、反発する力はいつも働いています。ただ、ふだんの磁石では弱すぎて、重さに負けているだけなのです。

水は、なぜ磁石に反発するの?

すべての物は、原子でできています。原子の中では、電子が動き回っています。電子が動くと、そのまわりには小さな磁石の性質が生まれます。

ここへ外から磁石を近づけると、電子の動きがほんの少し変わります。その変わり方には決まりがあります。近づいた磁石の影響を「打ち消す」向きに変わるのです。

その結果、水は近づいた磁石と逆向きの、ごく弱い磁石になります。N極を近づけると、水の側にもN極が向き合うような形です。だから、押し返されます。

この性質は、実は水だけのものではありません。木も、プラスチックも、私たちの体も、みな同じように弱く反発します。鉄のように強く引きつけられる物は、この弱い反発が、もっと強い「引きつけ」に隠されているだけです。

左:強い磁石の筒の出口で浮く 巻き線 巻き線 筒の中 磁力線(点線) 上で広がる ↑ 押し返す力 (上向き) ↓ 重さ (下向き) 2本の矢印が同じ長さ = つり合って浮く 右:磁石の強さ(テスラ) 目盛りは1つ右へ行くごとに10倍 地球の磁場 0.00005 冷蔵庫の磁石 0.005 ネオジム磁石 0.4 病院の検査装置 3 カエルが浮いた磁石 16 縦の点線:水が浮く目安(約10テスラ) 押す力は強さの2乗:10倍強い → 約100倍
図1:左は、筒の形の強い磁石の出口でカエルが浮くようす。上向きの矢印(押し返す力)と下向きの矢印(重さ)がつり合っています。右は磁石の強さのくらべっこで、目盛りは1つごとに10倍です。縦の点線が水が浮く目安で、ふだんの磁石はそこから遠く離れています。

なぜ、ふだんは気づかないの?

水が磁石に反発する力は、鉄が磁石に引かれる力とくらべて、とてつもなく弱いものです。水が磁石に反応する度合いは、鉄とくらべて1億分の1ほどしかないとされています。

そこで効いてくるのが、2つ目の理由です。反発する力は、磁石の強さの2乗に比例します。図1の右を見てください。冷蔵庫の磁石は約0.005テスラ(テスラは磁石の強さの単位)です。カエルが浮いた磁石は16テスラで、約3200倍の強さです。2乗で効くので、押す力の違いは1000万倍にもなります。

さらに、浮かせるには「強さ」だけでなく、場所によって強さが急に変わることも必要です。図1の左のように、筒の出口では磁力線が広がり、上へ行くほど磁石が弱くなります。水は弱いほうへ押し出されるので、上向きの力が生まれます。

体の中の水は、あらゆる場所で同じように押されます。そのため、カエルは体のすみずみまで均等に支えられ、重さを感じにくい状態になったと考えられています。実験のあと、カエルは元気だったとされています。

💡 この実験で、イグノーベル賞とノーベル賞の両方

カエルを浮かせた物理学者の一人、アンドレ・ガイムは、この実験で2000年に「人を笑わせ、考えさせる研究」に贈られるイグノーベル賞を受けました。そして2010年、別の研究でノーベル物理学賞も受けています。両方を受けた人は、ほかにいないとされています。

💡 逆に、磁石に吸いつく液体もある

液体にした酸素は、強い磁石に近づけると吸いつくことが知られています。酸素の分子は、弱い反発よりも強い「引きつけ」の性質をもっているからです。同じ液体でも、中の電子の並び方で、磁石への反応は正反対になります。

まとめ

磁石にくっつかない物も、実はみな、ごく弱い力で磁石から逃げようとしています。水もその一つです。力は磁石の強さの2乗で増えるので、冷蔵庫の磁石の数千倍の強さまで上げると、水でできた生き物さえ浮かせられます。ふだん見えないのは、力が無いからではなく、弱すぎて重さに隠れているからです。

磁石にくっつかない物は、無関係なのではない。
ほんの少しだけ、磁石をいやがっている。

磁石の力が紙や手を通り抜けるしくみは「磁石は、なぜ紙や手ごしでもくっつくの?」で、磁石を割ると何が起きるかは「磁石を半分に割ったら、N極だけの磁石ができるの?」で紹介しています。

🧪 ぶどうで、磁石への「反発」を見てみよう
  1. ストローの両はしに、ぶどうを1つずつ刺します。ペットボトルのふたの上に、ストローの真ん中をのせて、つり合わせます。
  2. 風が当たらないように箱などで囲み、ストローが静かに止まるまで待ちます。
  3. 強いネオジム磁石を、ぶどうに触れないぎりぎりまでゆっくり近づけます。ぶどうが、磁石からじわりと逃げるように回り出します。

ぶどうはほとんどが水なので、この記事と同じ反発が起きます。動きはとてもゆっくりなので、根気よく見てください。ネオジム磁石はとても強く、2個が指をはさむとけがをします。小さな子どもが飲みこむと危険なので、手の届かない場所に保管してください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(電磁気学・物性物理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:水を浮かせるには、どれだけ強い磁石が要る?

水1立方メートルあたりにかかる「押し返す力」と「重さ」がつり合う条件を立て、必要な磁石の強さを見積もります。

⓪ もとになる式
記号で書くとB × ( dB / dz ) = μ0 × ρ × g ÷ |χ|
言葉で書くと磁石の強さ × 上へ行くときの強さの減り方 = 真空の透磁率 × 水の密度 × 重力加速度 ÷ 水の反発しやすさ
どこから来る式か反磁性の物が受ける上向きの力(体積あたり |χ| × B × 傾き ÷ μ0)と、体積あたりの重さ(ρ × g)のつり合い
記号意味と単位
B磁石の強さ(磁束密度)。単位はテスラ
dB / dz上へ1メートル進むあいだに強さがどれだけ変わるか。単位はテスラ毎メートル
μ0真空の透磁率。約1.26 × 10⁻⁶(単位はテスラ・メートル毎アンペア)
ρ水の密度。単位はキログラム毎立方メートル
g重力加速度。単位はメートル毎秒毎秒
χ体積磁化率(反発しやすさ)。水は負の値で、単位はない
① もとになる数値
水の体積磁化率の大きさ約9.0 × 10⁻⁶ とされています
真空の透磁率約1.26 × 10⁻⁶
水の密度1000 キログラム毎立方メートル
重力加速度9.8 メートル毎秒毎秒
磁石の中で強さが大きく変わる距離(筒の大きさの目安)約0.1 メートル
② 計算してみる
反発しやすさ ÷ 透磁率(10⁻⁶ どうしは打ち消し合う)9.0 ÷ 1.26 ≒ 7.14
体積あたりの重さ1000 × 9.8 = 9800
必要な「強さ × 強さの減り方」9800 ÷ 7.14 ≒ 1373
減り方を「強さ ÷ 0.1メートル」と見なすと、強さの2乗は1373 × 0.1 ≒ 137
137 の平方根およそ 11.7 テスラとされる値になります
冷蔵庫の磁石(0.005テスラ)とくらべると11.7 ÷ 0.005 = 2340

必要な強さは、およそ10テスラ台です。実際の実験で使われた16テスラの磁石と、よく合っています。これは冷蔵庫の磁石の約2000倍以上で、地球の磁場の20万倍を超える強さです。水を浮かせるには、それだけ極端な磁石が必要なのです。

高校高校+なぜ「2乗」で効くの?

高校高校物理では、磁場が変化するとそれを打ち消す向きに電流が流れる「レンツの法則」を習います。反磁性は、原子の中の電子の運動が、これと似た向きに少しだけ変わることで生まれる、と大まかに理解できます。

高校+水が磁石から受ける反応(磁化)は、磁石の強さ B に比例します。その磁化が、さらに磁石の強さの「傾き」から力を受けます。比例するものが2回かかるので、力は B と傾きの積、つまりおおよそ強さの2乗に比例します。このため磁気のエネルギーは体積あたり |χ| × B² ÷ ( 2 × μ0 ) の形で書かれます。

大学ふつうの磁石では、安定に浮かせられない

永久磁石どうしを組み合わせても、物を静かに浮かせ続けることはできません。これを示すのがアーンショーの定理です。ところが反磁性の物は、磁石の「弱い場所」へ向かって落ち着こうとするため、この制限を逃れられます。これはブラウンベックの拡張とも呼ばれます。反磁性の起源そのものは、電子の軌道運動を量子力学で扱うラーモア反磁性(ランジュバンの反磁性)として説明されます。カエルの実験を解説した論文「Of flying frogs and levitrons」では、この安定の条件がくわしく議論されています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:反磁性(ウィキペディア) / アーンショーの定理(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。理屈の上では人の体も浮くはずですが、人が入れる広さでその強さを作れる磁石は、今のところ無いとされています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科2年「電流と磁界」磁石の強さ、磁力線の広がり
高校物理「電磁誘導・レンツの法則」反発が「打ち消す向き」に生まれること
高校+物理(発展)「物質の磁性」力が強さの2乗で効くこと
大学電磁気学・物性物理学アーンショーの定理、ラーモア反磁性
研究生物物理・材料科学無重力の再現、新しい反磁性素材
―生活とのつながり病院の検査装置の強い磁場、ネオジム磁石の扱い方

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。10テスラを超える磁石は研究施設の特殊な装置で、家庭で再現できるものではありません。ネオジム磁石は、はさみこみや誤飲に注意して扱ってください。