自然のふしぎ 予備知識なしでOK 読了 約7分

水は0℃で凍ると習ったのに、なぜマイナス20℃でも凍らない水があるの?
― 氷になるには「最初のひとかけら」が要ります

氷になるには、温度が下がるだけでは足りません。水の中に「最初のひとかけら」の氷が生まれる必要があります。この足りないものを探して、水はマイナス20℃でも液体のままさまよいます。

公開:2026.09.11 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

冬の空を見上げます。高いところに浮かぶ白い雲は、上空マイナス20℃という冷たい世界にあります。

ところが、その雲をつくっている水滴の多くは、氷ではなく液体の水のままです。0℃をはるかに下回っているのに、凍っていないのです。

水は0℃で凍る。学校でそう習いました。あの水滴は、いったい何をさぼっているのでしょうか。

理由は2つだけです

1
氷になるには「型」が要る

水の分子がきちんと並んだ小さなかたまりが、まず1つできなければ、氷は始まりません。この最初のひとかけらが、なかなか生まれません。

2
小さすぎる氷は、すぐ壊れる

やっと生まれた氷の芽も、小さいうちは表面ばかりで損をします。ある大きさを超えないと、できたそばから溶けて消えてしまいます。

この2つは、じつは同じことを別の角度から言っています。順に見ていきます。

0℃は「凍る温度」ではなく「凍ってもよくなる温度」

0℃という数字の本当の意味は、「水と氷が同じくらい安定になる温度」です。これより冷たければ、氷でいるほうが得になります。ですが「得になる」ことと「実際にそうなる」ことは、別の話です。

水の分子は、液体の中では自由な向きで動き回っています。氷になるには、この分子たちが六角形の決まった並び方に落ち着かなければなりません。冷えた水の中では、分子がたまたま氷の形に並ぶことがありますが、そのかたまりはすぐ崩れます。崩れずに残る最初の1個が現れるまで、水は液体のまま待ち続けます。この状態を過冷却と呼びます。

図1を見てください。0℃からマイナス38℃あたりまでの広い帯が、まるごと「凍ってもいいのに、凍っていない」領域です。

温度を下げていくと、水はどうなるか ふつうの水 過冷却できる帯 凍ってもいいのに、まだ液体 必ず氷 +10℃ 0℃ -20℃ -38℃ -50℃ ちりや傷が「種」になると この途中でいきなり凍る 右端では種がなくても 水だけで氷が生まれる
図1:横向きの温度の帯。左の濃い青がふつうの水、まん中の広い帯が過冷却、右端の白い部分が必ず凍る温度です。下から伸びる点線の矢印は、ちりなどの「種」があると帯の途中でいきなり凍ってしまうことを表しています。

氷の芽は、小さいうちは損をする

なぜ最初のひとかけらが、そんなに生まれにくいのでしょうか。理由は、かたまりの「表面」にあります。

氷のかたまりの内側にいる分子は、まわりを仲間に囲まれていて安定しています。ところが表面にいる分子は、片側が液体の水に面していて落ち着きません。つまり表面は損、内側は得です。

小さなかたまりは、ほとんどが表面でできています。だから損のほうが勝ち、すぐ崩れてしまいます。かたまりが大きくなるにつれて内側の割合が増え、あるところで得が損を追い越します。この境目の大きさを超えた芽だけが、あとは一気に育っていきます。図2の左と右が、その2つの運命です。

氷の芽の運命は、大きさで決まる この点線が「境目の大きさ」 左:境目より小さい芽 氷の芽 表面ばかりで損が勝つ → 崩れて消える 右:境目より大きい芽 氷の芽 内側の割合が増えて得が勝つ → そのまま育つ
図2:左の小さい丸は、矢印の先で点線の輪になって消えます。右の大きい丸は、矢印の先でさらに大きく育ちます。まん中のたての点線が、消えるか育つかを分ける境目の大きさです。

ここで大事なのが、ちりや器の傷です。すでにある固い面に水が寄りかかると、氷の芽は「おわん型」で済み、まるごとの球をつくるより小さな元手で境目を超えられます。だから現実の水は、たいてい何かのちりを足がかりにして凍ります。台所のコップの水がきちんと0℃近くで凍るのは、水がきれいだからではなく、むしろ汚れているおかげなのです。

💡 マイナス38℃という限界の意味

ちりを一切含まない、ごく小さな水滴をどこまでも冷やしていくと、およそマイナス38℃前後で、外の助けなしに氷の芽が生まれるとされています。ここが過冷却の下限です。それより冷たい世界に、ふつうの液体の水は存在できません。

💡 氷の「種」をまく生き物がいます

ある種の細菌は、氷の並び方によく似た形のたんぱく質を体の表面に持っています。これがみごとな足がかりになり、マイナス2℃ほどでも植物の中の水を凍らせてしまうとされています。逆に、寒い土地の魚や虫は、氷の芽にくっついて成長を止めるたんぱく質を持ち、凍らずに冬を越します。同じ「氷の芽」をめぐって、まったく逆向きの道具が進化しました。

まとめ

水が凍るかどうかは、温度だけでは決まりません。氷という新しい秩序が始まるには、必ず「最初のひとかけら」という出発点が要ります。空に浮かぶマイナス20℃の水滴は、その出発点にまだ出会っていないだけなのです。

0℃は、凍る温度ではありません。
凍ってもよくなる温度です。

氷にまつわる話は、ほかにもあります。氷はなぜ水に浮くのかを読むと、この記事に出てきた六角形の並び方が、そのまま氷の軽さにつながっていることが分かります。過冷却の水滴が空でどう育つかは雹(ひょう)のできかたに、凍らせて作物を守る不思議な方法は霜の朝に水をまく理由に書きました。

🧪 過冷却を自分の目で見る
  1. 未開封のペットボトル入りの水(炭酸でないもの)を、家庭用の冷凍庫に立てて入れます。ゆすらず、そっと置くのがこつです。
  2. 2時間半ほどたったら、そっと取り出します。まだ液体のままなら、それが過冷却の水です。凍っていたら、次はもう少し短い時間で試します。
  3. 取り出した水を、机の上でトンと軽くたたきます。上のほうから下へ、氷の筋がすーっと走っていくのが見えます。

うまくいく時間は冷凍庫によってかなり違うので、15分きざみで何度か試してください。凍り終わってもシャーベット状で、かちかちの氷にはなりません。その理由は下の計算にあります。冷凍庫を長く占領することになるので、家の人に一言ことわってから行いましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学基礎・化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学・大気物理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:過冷却の水は、何割が凍るのか

マイナス10℃の過冷却水をたたいて凍らせると、全部が氷になる前に、自分が出した潜熱で自分を0℃まで温めてしまいます。0℃に戻ってしまえば、もうそれ以上は凍り進めません。何割が氷になるのか計算します。

① もとになる数値
水の温度を1℃上げるのに要る熱1グラムあたり 約4.2ジュール
水が氷になるときに出す熱(潜熱)1グラムあたり 約334ジュール
はじめの水の温度マイナス10℃
② 計算してみる
全体を0℃まで温めるのに要る熱(1グラムあたり)10 × 4.2 = 42
そのぶんを出すために凍る割合42 ÷ 334 ≒ 0.126
百分率に直す0.126 × 100 = 12.6

単位は、熱がジュール、温度が℃、割合は単位のない数です。答えは約13パーセント。マイナス10℃の過冷却水は、たたいても1割ちょっとしか凍らず、残りは0℃の水のまま残ります。実験でかちかちの氷ではなくシャーベットになるのは、このためです。深く冷やしたときほど凍る割合が増えることも、この式から読み取れます。

高校高校+なぜ「境目の大きさ」が生まれるのか

高校氷になることで得られる安定さは、かたまりの体積に比例します。体積は半径の3乗で増えます。いっぽう損のもとである表面積は、半径の2乗で増えます。半径が小さいうちは2乗の項が勝ち、大きくなると3乗の項が勝ちます。この入れかわる点が、境目の大きさです。

高校+温度が凝固点に近いほど、体積あたりの得が小さくなるため、境目の大きさは大きくなります。0℃ちょうどでは得がゼロなので、境目は限りなく大きくなり、けっして凍りません。深く冷やすほど境目が小さくなり、偶然できたかたまりがそれを超えやすくなる、というのが過冷却に下限がある理由です。

大学雲の中で、ほんとうに起きていること

雲の中では、過冷却水滴と氷の粒が同時に存在します。同じ温度でも、氷の表面のほうが水面より水蒸気を引きつける力が強いため、水滴が蒸発しながら氷だけが太っていきます。この過程が、日本を含む中緯度の雨の主な作られ方だと考えられています。つまり私たちの頭上に降る雨の多くは、いったん氷を経由して落ちてきた水です。氷の芽をどんな粒子が何度で作るのかという問題は、雲の寿命や降水量の予測に直結するため、大気物理学の中心的なテーマになっています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。特にマイナス38℃という数字は、条件によって動く目安として受け取ってください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・状態変化と熱0℃で凍る話、潜熱の出入り
高校化学基礎・状態変化/物理・熱量凍る割合の計算
高校+化学・凝固点と表面のエネルギー境目の大きさが生まれる理由
大学物理化学・大気物理学雲の中で氷だけが太る話
研究核生成の研究・雲物理下限の値と氷の種の正体
生活とのつながり冷凍庫の実験、冬の木の枝につく氷
参考・出典
  1. 気象庁「気象観測・雲と降水に関するよくある質問」
  2. 小倉義光『一般気象学』東京大学出版会(雲物理の章に、過冷却水滴と氷晶の共存が解説されています)
  3. 日本雪氷学会編『雪と氷の事典』朝倉書店(過冷却・核生成の項)
  4. 水野量『雲と雨の気象学』朝倉書店(氷晶核と降水過程)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実験は家庭用の冷凍庫の範囲で行い、器具の扱いは大人といっしょに確認してください。冬の気象や路面の状態については、気象庁・自治体などの発表する情報と指示に従ってください。