真夏なのに、なぜ空から氷の粒(ひょう)が降ってくるの?
― 何度も持ち上げられて、氷は少しずつ厚くなります
気温が30℃を超える午後に、白い氷の粒が屋根を打つことがあります。ふしぎに思えますが、上空数キロメートルは真夏でも氷点下です。発達した積乱雲の中では、強い上昇気流が小さな氷の粒を何度も上へ運びます。運ばれるたびに、まわりの水が氷にくっついて凍りつきます。こうして層を重ねた氷が、支えきれない重さになって落ちてきたもの。それがひょうだとされています。
夏の午後、急に空が暗くなって、大粒の雨が降り出します。そのうち、雨に混じって白くて硬いものが落ち始めます。屋根やベランダで、パチパチと乾いた音がします。
外を見ると、地面に小さな氷の粒が跳ねています。手のひらに載せると、すぐに溶けて水になります。気温は30℃を超えているのに、氷です。
この氷は、どこで作られて、なぜ夏の暑さの中を溶けきらずに落ちてこられたのでしょうか。
理由は、大きく2つあります
空気の温度は、高いところほど低くなります。地上が30℃でも、高さ5キロメートルあたりでは0℃を下回ります。夏でも「氷を作れる場所」が、頭の上にあるのです。
発達した積乱雲の中では、空気が勢いよく上に向かっています。小さな氷の粒は落ちようとしても押し戻されます。その往復のあいだに水がくっつき、層を重ねて大きくなります。
この2つがそろって初めて、大きな氷の粒ができます。ひとつずつ見ていきましょう。
上空の「氷の部屋」は、夏でも閉じません
地面から高く上がるほど、空気の温度は下がっていきます。おおよそ100メートル上がるごとに0.6℃ほど下がるとされています。地上が30℃なら、高さ5キロメートルでは0℃前後です。
積乱雲は、この氷点下の層をはるかに越えて、高さ10キロメートル以上まで伸びることがあります。雲の上のほうは、マイナス20℃、マイナス40℃という世界です。つまり夏の空にも、氷を作る場所はいつでもあります。ふだんそれが地上に届かないのは、落ちてくる途中で溶けてしまうからです。
「何度も持ち上げる」ことが、粒を大きくします
小さな氷の粒は、そのままなら落ちながら溶けて、ただの雨になります。ところが積乱雲の中には、秒速で数十メートルにもなる上昇気流があります。氷の粒は落ちきる前に押し戻され、また氷点下の高さへ戻されます。
上昇気流の中には、0℃を下回っても凍らずにいる水滴がたくさん浮かんでいます。これを過冷却水滴と呼びます。氷の粒がこの水滴にぶつかると、水滴はその場で凍りつきます。持ち上げられて落ちる、を繰り返すあいだに、氷は玉ねぎのように層を重ねていきます。図1を見てください。
冬でも上空は氷点下ですが、上昇気流が弱いため大きな粒は育ちにくいとされています。日ざしで地面が強くあたためられる春から夏にかけてのほうが、雲を突き上げる力が強くなります。日本では初夏に多いという統計もあります。
日本の気象の決まりでは、直径5ミリメートル未満のものを「あられ」、5ミリメートル以上のものを「ひょう」と呼び分けています。できかたは地続きで、育ちきったかどうかの違いです。
じゃあ、どうすればいいの?
- 硬い音がしたら、すぐ建物の中へ入る氷の粒は速く落ちてきます。頭を守れる屋根の下がいちばんです。
- 窓のそばから離れる大きな粒はガラスを割ることがあります。壁側にいましょう。
- 降っているあいだは外に出ない拾いに行きたくなりますが、やんでからにしましょう。
ひょうを降らせる積乱雲では、強い風や落雷も同時に起きることがあります。木の下や電柱のそばには近づかないでください。丈夫な建物の中へ避難し、やむまで待つのが基本とされています。頭を打つなどのけがをした場合や、人が倒れている場合は、ためらわず119番へ通報してください。ここに書いた対処は目安であり、状況によって最善の行動は変わります。
まとめ
夏に氷が降るのは、上空に氷点下の層がいつもあるからです。そして強い上昇気流が、その層と下の層のあいだで氷の粒を何度も往復させます。往復のたびに過冷却水滴が凍りついて層になり、粒は大きくなります。上昇気流が支えきれなくなったとき、粒は一気に落ちてきます。大きな粒が降ったということは、それだけ強い上昇気流があった証拠でもあります。
ひょうは、空から降ってきた氷ではありません。
空の中を何度も往復して、少しずつ厚くなった氷です。
ひょうを育てる雲そのものについては「入道雲(積乱雲)は、なぜあんなに高く成長するの?」で、氷や水の粒が空でどう浮いているかは「雲は水のかたまりなのに、なぜ落ちてこないの?」で、氷の形が決まるしくみは「雪はなぜ六角形なの?」でくわしく扱っています。
- ひょうが降ったあと、やんでから粒を拾い、直径を定規で測ってみましょう。5ミリメートル以上なら「ひょう」です。
- 冷やした皿の上に粒を載せ、明るい光に透かしてみましょう。透明な部分と白く濁った部分が、層になって見えることがあります。
- 製氷皿の水をゆっくり凍らせたときと、急いで凍らせたときで、氷の濁り方を比べてみましょう。速く凍った氷ほど白く濁ります。ひょうの白い層も、同じ理由でできています。
粒を拾うのは、必ず降りやんで安全を確かめてからにしてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎・物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(気象学・雲物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 過冷却水滴:0℃を下回っても凍らずに液体のままでいる小さな水滴。ぶつかる相手があると、その場で急に凍ります。
- 着氷成長(ライミング):氷の粒が過冷却水滴を捕まえて凍らせ、外側へ大きくなること。ひょうが育つ主な道すじです。
- 終端速度:落ちるものが空気の抵抗とつり合って、それ以上速くならなくなったときの速さ。粒が大きいほど速くなります。
- 気温減率:高さが上がるにつれて気温が下がる割合。おおよそ100メートルで0.6℃ほどとされています。
中学高校式で確かめる:ひょうは、どれくらいの速さで落ちてくるのか
ひょうの落ちる速さは、粒の直径でおおよそ決まります。ここでは目安の値を使い、時速に直して実感してみます。出てくる記号の意味と単位は、次の表のとおりです。
| 記号 d | 意味:ひょうの粒の直径/単位はセンチメートル |
| 記号 v | 意味:落ちるときの終端速度/単位は毎秒メートル |
| 記号 V | 意味:終端速度を時速に直したもの/単位は毎時キロメートル |
| 直径1センチメートルの粒の落ちる速さ | 毎秒 約14メートルとされる |
| 直径5センチメートルの粒の落ちる速さ | 毎秒 約33メートルとされる |
| 毎秒メートルを毎時キロメートルに直す数 | 3.6 |
| 直径1センチメートルの粒を時速に直す | 14 × 3.6 = 50.4 |
| 直径5センチメートルの粒を時速に直す | 33 × 3.6 = 118.8 |
| 大きい粒は小さい粒の何倍の速さか | 33 ÷ 14 ≒ 2.4 |
直径1センチメートルの粒でも、時速およそ50キロメートルで落ちてきます。市街地を走る自動車と同じくらいの速さです。直径5センチメートルなら時速およそ119キロメートルになります。そして粒がそこまで育つには、同じくらいの速さの上昇気流が雲の中で吹いていたことになります。
高校高校+なぜ層になるのか
高校水が凍るとき、凝固熱と呼ばれる熱が出ます。この熱をまわりに逃がせるかどうかで、氷の見た目が変わります。ゆっくり凍れば空気は押し出され、透明な氷になります。急に凍れば空気が閉じこめられ、白く濁ります。
高校+粒が過冷却水滴の多い場所を通ると、水が表面に広がってからゆっくり凍り、透明な層になります。水滴の少ない冷たい場所では、ぶつかった水がすぐ凍って空気を抱きこみ、白い層になります。層の重なりは、粒がたどった道すじの記録だと考えられています。
大学粒を支える力のつり合い
落下する粒には、重力と空気抵抗がはたらきます。空気抵抗は、およそ粒の断面積と速さの2乗に比例します。重力のもとになる質量は体積、つまり直径の3乗に比例します。両者がつり合う条件を整理すると、終端速度はおおよそ直径の平方根に比例するという関係が出てきます。直径が25倍になっても速さは5倍ほどにしかならない、という比較的おだやかな増え方です。この関係は雲物理学の教科書で扱われます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 粒の道すじは、本当に「何往復」なのか。 層の数がそのまま往復回数を表すとは限らず、一度上がって落ちるあいだにいくつも層ができる場合もあると指摘されています。
- 大きさの予測が難しい。 積乱雲の発生は予測できても、どこにどの大きさの粒が落ちるかを事前に絞りこむのは、いまも難しい課題です。
- 気候の変化との関係。 気温が上がると氷点下の層が高くなり、落ちるあいだに溶ける距離が延びます。一方で上昇気流は強まる可能性も指摘され、差し引きの結論は定まっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。観測の網が細かくなるにつれて、書き換わる部分が出てくるかもしれません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・天気とその変化 | 上空ほど気温が低いこと、雲のでき方 |
| 高校 | 地学基礎・大気の構造/物理基礎・落体と抵抗 | 気温減率と、終端速度の話 |
| 高校+ | 化学基礎の発展・状態変化と潜熱 | 凍るときに熱が出て、層の見た目が変わる話 |
| 大学 | 気象学・雲物理学 | 力のつり合いから終端速度を出す部分 |
| 研究 | メソ気象学・気候変化の影響評価 | 「まだわかっていないこと」の節 |
| ― | 生活とのつながり | 硬い音がしたら建物の中へ避難する判断 |
- 気象庁「予報用語 ― 降水(ひょう・あられの定義)」気象庁ホームページ
- 小倉義光『一般気象学(第2版補訂版)』東京大学出版会
- 日本気象学会 編『気象科学事典』東京書籍
- アメリカ海洋大気庁 国立悪天研究所「Severe Weather 101: Hail」
- 気象庁「雷・ひょうから身を守るために」気象庁ホームページ
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。荒天のときの行動については、気象庁の発表と、消防・自治体等の指示に従ってください。