コンパスの針は、なぜ北を向くの?
― 地球そのものが、巨大な磁石です
登山やキャンプで使うコンパスは、どこで手を離しても、必ず同じ方向(北)を指して静止します。近くに磁石を置いた覚えもないのに、なぜ針は迷わず北を向くのでしょうか。答えは、私たちが立っている地球そのものが、巨大な磁石としてふるまっているという事実にあります。
コンパスを手のひらに乗せ、どんな向きから始めても、針はくるくると回転しながら、最後には同じ方向でぴたりと止まります。屋外のどこに立っても、この結果は変わりません。
磁石が北を向くのは、磁石どうしが引き合ったり反発したりする力によるものだと知っていても、「では、何がコンパスを引っぱっているのか」までは、意外と考えたことがないかもしれません。
その正体は、足の下、はるか地中深くにあります。
針は磁化された金属でできており、まわりの磁力線の向きに沿って、自由に回転できるようになっています。
地球の内部で起きている現象が、惑星スケールの磁場を作り出しています。この磁場が、コンパスの針の向きをそろえています。
「地球が磁石である」という、日常ではめったに意識しない事実を、順番に見ていきます。
コンパスの針は、それ自体が小さな磁石です
コンパスの針は、あらかじめ磁化された、細長い金属でできています。磁石には、N極とS極という、性質の違う両端があり、N極どうし、S極どうしは反発し合い、N極とS極は引き合うという性質があります。
コンパスの針は、中心を軸にしてほとんど摩擦なく自由に回転できるように作られています。そのため、まわりに磁力の向きがあれば、針はその向きに沿うように回転し、落ち着いた状態で静止します。
地球は、内部の運動で作られた巨大な磁石です
地球の内部は、中心に向かうほど高温・高圧になっています。中心付近には、主に鉄でできた核があり、その外側部分(外核)はドロドロに溶けた液体の状態だと考えられています。
この液体の鉄は、地球の自転や、内部の熱の対流によって、絶えずかき混ぜられるように動いています。電気を通しやすい金属が、このように大規模に運動すると、電流が生まれ、その電流が磁場を作り出すという現象が起こります。これを地球ダイナモと呼びます。この地球ダイナモのはたらきによって、地球全体を取り巻く、惑星スケールの磁場が作られていると考えられています。
私たちが立っている地球そのものが、静かに力を及ぼしています。
実は「北」を引きつけているのは、磁気的には「S極」です
ここで、少しややこしい、しかし面白い事実があります。磁石の性質としては、N極とS極が引き合うのでした。コンパスの針の、北を指す側は「N極」と呼ばれています。ということは、その針を引きつけている、地球の北極付近の磁場は、磁気的には「S極」にあたることになります。
私たちが日常的に「北極は磁石のN極」というようなイメージを持っていたとしたら、それは磁石の性質から見ると、正確ではありません。「北を指す極」という呼び名の由来と、磁気的な極の種類は、混同しやすいポイントです。
磁石の北と、地図の北は、少しずれています
コンパスが指す北(磁北)は、地図の北(地理的な北、地球の自転軸の北)とは、わずかにずれていることが知られています。このずれは磁気偏角と呼ばれ、場所によって角度が異なります。さらに、地球の磁場そのものが、地球ダイナモの変化にともなって、少しずつ、しかも予測しにくい形で移動し続けているため、磁北の位置も年々変化しているとされています。
地球の磁力は、地球規模とはいえ、身近な磁石に比べると、実はかなり弱いとされています。そのため、スマートフォンや金属製品、強力な磁石をコンパスに近づけると、正しい方角を示さなくなることがあります。実際にどれくらいの差があるのか、次の折りたたみで数字を使って確かめます。
自分で確かめられること
- コンパスを、金属や磁石から十分離れた、平らな場所に置き、針が北を指して落ち着くのを確認する
- 冷蔵庫用の磁石などを、コンパスにゆっくり近づけていく
- ある程度近づいたところで、針が北ではなく、磁石のほうを向いてしまうことを確かめる
- 磁石を遠ざけると、針が再び北を指して落ち着くことも確かめる
身近な磁石が、地球全体の磁力よりも、近い距離では、はるかに強い影響を及ぼすことを体感できます。
まとめ
コンパスの針が北を向くのは、針自体が小さな磁石であり、地球の内部にある液体の鉄の運動(地球ダイナモ)によって作られた、惑星スケールの磁場に沿って回転するためです。コンパスの北を指す側がN極と呼ばれる一方、それを引きつける地球の北極付近は磁気的にはS極にあたるという、少しねじれた関係もあります。地図の北と磁北にはわずかなずれがあり、この磁場自体も、ゆっくりと変化し続けているとされています。
コンパスの針は、遠くの北極星を見ているのではありません。
足元はるか下の、地球の心臓の鼓動を感じ取っています。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「地学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:コンパスと地磁気をめぐる言葉
- 磁場(磁界):磁力がはたらいている空間の状態。
- 磁力線:磁場の向きと強さを、目に見える線として表したもの。
- 地磁気:地球そのものが持つ磁場。
- 磁気偏角:地図の北(真北)と、コンパスが指す北(磁北)とのずれの角度。
高校式で確かめる:地球の磁力は、身近な磁石よりどれだけ弱いのか
地球全体の磁力の強さと、身近な磁石の強さを比べてみます。
| 地球の磁場の強さ(地表付近、目安) | 代表的な目安として、およそ50マイクロテスラ程度とされています |
| 冷蔵庫用の磁石の強さ(表面付近、目安) | 代表的な目安として、およそ5000マイクロテスラ(5ミリテスラ)程度とされています |
磁力の強さの単位にはテスラが使われます。マイクロテスラは、テスラの100万分の1です。
| 5ミリテスラを、マイクロテスラに直す | 5 × 1000 = 5000 |
| 磁石の強さ(マイクロテスラ換算) | 5000 マイクロテスラ |
| 磁石の強さは、地球の磁力の何倍か | 5000 ÷ 50 = 100 |
| 磁石の強さは、地球の磁力の何倍か | 約 100 倍 |
逆に、地球の磁力は、磁石の強さの何%にあたるかも計算してみます。
| 地球の磁力は、磁石の何%か | (50 ÷ 5000) × 100 = 1 |
| 地球の磁力は、磁石のおよそ何%か | 約 1% |
身近な冷蔵庫用の磁石でさえ、その表面付近では、地球全体が作り出す磁力のおよそ100倍もの強さがあるという計算になります。逆に言えば、地球の磁力は、身近な磁石の強さのわずか1%程度ということです。地球の磁場は、惑星規模という壮大なスケールを持つ一方で、身近な場所での強さそのものは、意外なほど弱いのです。だからこそ、コンパスのすぐそばに磁石を近づけると、あっさり地球の磁場の影響を上回ってしまうのです。
※ 磁石の強さは種類によって大きく異なり、ここでの数値は代表的な目安です。
高校+磁北は、時間とともに動いています
地球の磁場のもとになる地球ダイナモは、常に一定ではなく、その様子は少しずつ変化しています。この変化にともなって、コンパスが指す磁北の位置も、年月とともに、ゆっくりと移動していることが観測によって確認されています。地図や測量では、この磁気偏角の変化を考慮する必要があるとされています。
大学地球の磁場は、何度も逆転してきました
地球物理学の研究では、海底の岩石に記録された、過去の磁場の向きの痕跡(古地磁気)を調べることで、地球の磁場のN極とS極が、地質学的な時間スケールで、何度も入れ替わってきたことがわかっています。これを地磁気逆転と呼びます。海底の岩石には、この逆転の記録が、しま模様のように残されていることが知られており、プレートテクトニクスを裏づける、重要な証拠の1つにもなっています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- 地球ダイナモの詳しい動きを、より正確にシミュレーションし、将来の磁場の変化を予測する研究が、いまも続けられています。近年、磁北の移動する速さが、過去に比べて速くなっているという報告もあり、その原因の解明が研究課題とされています。
- 次の地磁気逆転が、いつ、どのように起こるのかについては、正確な予測はまだできていないとされています。地磁気逆転が起きる期間中は、地球の磁場が一時的に弱まる可能性が指摘されており、その影響についての研究も進められています。
- 地球以外の惑星の磁場が、どのようなしくみで生まれているのかを比較する研究も、地球の磁場の理解を深めるうえで、重要な研究テーマとされています。
身近なコンパスの針の動きの裏には、地球内部の壮大な運動という、いまも研究が続くテーマが広がっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・磁石とコンパス | 磁場・磁力線・地磁気の基本用語 |
| 高校 | 物理基礎・磁気 | 地球の磁力と身近な磁石の強さを比べる計算 |
| 高校+ | 地学・地球の磁場 | 磁北の移動と磁気偏角 |
| 大学 | 地球物理学・古地磁気学 | 地磁気逆転と海底の記録 |
| 研究 | 地球物理学(研究中) | 地球ダイナモのシミュレーション、次の地磁気逆転の予測 |
- 気象庁「地磁気」に関する解説資料。
- 物理基礎教科書における、磁場・磁力線に関する解説。
- 地球物理学関連の教科書における、地球ダイナモ理論の解説。
- 古地磁気学分野における、海洋底の縞状磁気異常と地磁気逆転に関する研究レビュー。
- 国土地理院「磁気偏角」に関する解説資料。
※ 磁場の強さの数値は代表的な目安であり、実際の値は場所や製品によって幅があります。
※本記事は一般向けの科学解説です。登山や野外活動でのコンパスの正しい使い方、磁気偏角の補正方法については、専門機関や国土地理院の情報をご確認ください。