北極星は、いちばん明るい星なの?
― 明るさの順では50番目あたり。それでも「道しるべ」になれる理由
北極星は、空でいちばん明るい星だと思われがちです。ところが実際に明るさを比べると、順番はだいぶ下のほう。ごくふつうの明るさの星です。それでも人類が何千年も頼りにしてきたのは、明るさとはまったく別の性質があるからでした。
夜、街の明かりから離れた場所で空を見上げます。「北極星ってどれだろう」と探しはじめます。
いちばん明るく光っている星を指さして、「あれかな」と言ってみます。でも、その星はしばらくすると位置を変えていきます。
明るさを手がかりにするかぎり、北極星はなかなか見つかりません。探し方そのものが、じつは間違っているのです。
思いこみがはずれる理由は、2つあります
北極星の明るさは2等星ほどです。明るい順に並べると40〜50番目あたりとされ、まわりの星に埋もれてしまいます。いちばん明るい恒星はシリウスで、北極星より20倍以上まぶしく光ります。
北極星は、地球の回転軸をまっすぐ空へ延ばした先の、すぐそばにあります。そのため一晩じゅう、ほとんど同じ場所にとどまります。ほかのすべての星は、その点のまわりを回っていきます。
つまり北極星の値打ちは、まぶしさではなく「居場所を変えないこと」にあります。順に見ていきましょう。
明るさで探すと、なぜ見つからないの?
星の明るさは「等級」という数字で表します。数字が小さいほど明るく、1等級ちがうと明るさは約2.5倍変わります。
北極星はおよそ2等級です。夜空でふつうに見える明るさで、特別まぶしくはありません。いちばん明るい恒星シリウスはマイナス1.5等級ほどで、北極星の20倍以上の明るさになります。
さらにまぎらわしいのが惑星です。金星や木星は星よりずっと明るく見えることがあり、「いちばん明るいもの」を探すと、たいていそちらに目が行きます。
そこで昔から使われてきたのが、形をたよりに探す方法です。北斗七星のひしゃくの先の2つの星をむすび、その間かくのおよそ5倍だけ先へ延ばすと、北極星に行き当たります。カシオペヤ座のWの形からたどる方法もあります。
なぜ、北極星だけ動かないの?
地球は1日に1回、軸を中心に回っています。その軸を北の空へまっすぐ延ばした一点を「天の北極」といいます。地球が回っても、この一点だけは向きが変わりません。
北極星は、たまたまこの天の北極のすぐそばにあります。そのため、ほかの星が大きな円を描いて動くあいだ、北極星はほとんど動きません(図1の左)。カメラを三脚に固定して長く写すと、星の軌跡が同心円になり、その中心に北極星が写ります。
この性質から、もうひとつ便利なことが分かります。地平線から北極星までの高さ(角度)が、そのままその土地の緯度と一致するのです(図1の右)。東京なら北の空のおよそ36度の高さ、札幌ならおよそ43度の高さに見えます。海の上で自分の位置を知る手がかりとして、長いあいだ使われてきました。
北極星は天の北極とぴったり重なってはいません。およそ0.7度ずれています。満月の見かけの大きさが約0.5度ですから、その1.5個分ほどです。北極星も小さな円を描いていますが、肉眼ではまず分かりません。
地球の軸は、こまの首ふりのようにゆっくり向きを変えています。一周するのに、およそ2万5800年かかるとされています。5000年ほど前に天の北極の近くにいたのは、りゅう座のトゥバンという星でした。1万年以上あとには、こと座のベガがその役を引きつぐと考えられています。
まとめ
北極星がいちばん明るい、というのは思いこみです。明るさはごくふつうで、探すときは北斗七星やカシオペヤ座の形をたよりにします。北極星の値打ちは、地軸の延長線上にあって動かないこと。そして、その高さが緯度を教えてくれることにあります。
北極星は、いちばん明るい星ではありません。
いちばん動かない星です。
方角を知る道具といえば方位磁針ですが、あの針が北を向くしくみは北極星とはまったく別ものです。コンパスの針は、なぜ北を向くの?もあわせてどうぞ。星のまたたきが気になった方は星はなぜ、チカチカとまたたいて見えるの?を、地軸の傾きと季節の関係は季節はなぜあるの?をご覧ください。
- 街の明かりの少ない場所で、北の空に北斗七星かカシオペヤ座を見つけ、そこから北極星をたどってみましょう。思ったより地味な明るさだと分かります。
- 北極星の見つかった方向を覚えておき、2時間ほどあとにもう一度見ます。まわりの星は位置を変えているのに、北極星はほとんど同じ場所にあります。
- 腕をまっすぐ伸ばし、にぎりこぶしの幅を目に当てて測ります。この幅がおよそ10度です。地平線から北極星まで何個分あるか数え、住んでいる土地の緯度と比べてみましょう。
スマートフォンのカメラを三脚に固定し、数分間の長時間撮影ができるなら、星の軌跡が円になるようすも写せます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(天文学・天体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 天の北極:地球の回転軸を北へまっすぐ延ばし、空とぶつかったと考えた一点。地球が回っても向きが変わりません。
- 視等級:地球から見たときの星の明るさを表す数字。小さいほど明るく、1つの差が約2.5倍にあたります。
- 日周運動:地球の自転のせいで、星が一晩のうちに空を動いていくように見えること。
- 歳差運動:地球の軸の向きが、こまの首ふりのようにゆっくり変わっていくこと。
中学高校式で確かめる:シリウスは北極星の何倍明るいの?
視等級は、地球から見た明るさを表す数字です。単位はなく、数字が小さいほど明るいという決まりになっています。この数字の差から、明るさの比を計算してみます。
| いちばん明るい恒星シリウスの視等級 | およそ マイナス1.5 |
| 北極星の視等級 | およそ 2.0 |
| 2つの等級の差 | 3.5 |
| 等級が1つ小さいときの明るさの比 | およそ 2.5倍 |
| まず1等級ぶんを2回かける | 2.5 × 2.5 = 6.25 |
| もう1等級ぶんをかける | 6.25 × 2.5 ≒ 15.6 |
| 残り0.5等級ぶん(およそ1.6倍)をかける | 15.6 × 1.6 ≒ 25 |
シリウスは北極星より、およそ25倍明るいことになります。「いちばん明るい星」を探すやり方では、北極星にたどり着けないわけです。
高校高校+高さが緯度と同じになるのは、なぜ?
高校地平線は、その場所で地面に垂直な線と直角に交わります。一方、天の北極の向きは地球の軸と平行です。この2つの関係を図に描くと、地平線から天の北極までの角度と、その場所の緯度が同じ角になります。北極点では真上に、赤道では地平線ぎりぎりに見えます。
高校+実際の測定では、空気による光の曲がり(大気差)の補正が要ります。地平線に近いほど、星は本当の位置より少し浮き上がって見えるからです。北極星が0.7度ずれていることの補正もあわせ、航海用の表が整えられてきました。
大学地球の軸は、なぜゆっくり向きを変えるの?
地球は完全な球ではなく、赤道のあたりがふくらんでいます。このふくらみを月と太陽が引くと、傾いた軸を起こそうとする力が働きます。回転している物体にこの力が加わると、軸は倒れずに向きだけがゆっくり回ります。こまが倒れずに首をふるのと同じしくみで、周期はおよそ2万5800年とされています。天体力学では、これに月の軌道の変化による細かなゆれ(章動)が重なります。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 北極星までの距離 北極星は明るさが規則的に変わる脈動星の仲間で、宇宙の距離をはかる目安として重要です。ところが観測の方法によって、およそ320光年という値と、およそ430光年という値が報告され、議論が続いてきました。
- ゆらぎが小さくなった理由 北極星の明るさの変わり幅は、20世紀のあいだに大きく小さくなったと報告されています。近年はまた増えつつあるという観測もあり、その原因は分かっていません。
- 星の重さと年齢 北極星は連星で、相手の星の動きから重さを求められます。しかし、その値と、明るさから見積もった年齢とがうまく合わないという指摘があります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。これほど有名な星でも、まだ分かっていないことが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・地球と宇宙(日周運動) | 星が北極星を中心に回る話 |
| 高校 | 地学基礎・天球と座標 | 北極星の高さが緯度と同じになる話 |
| 高校+ | 地学・視等級と明るさの比 | シリウスとの明るさ比べ |
| 大学 | 天体力学(歳差と章動) | 北極星が交代する話 |
| 研究 | 恒星物理学・距離のものさし | 距離と脈動をめぐる議論 |
| ― | 生活とのつながり | 夜の野外で方角と、おおよその緯度を知る |
- 国立天文台(星空の基礎知識・天文情報)
- 国立天文台編『理科年表』(丸善出版)恒星・天球座標の各表
- 海上保安庁海洋情報部『天測暦』(天体の高度と緯度の関係、大気差の補正)
- 北極星(ポラリス)の距離と脈動に関する複数の観測報告(視差の測定および変光の観測にもとづくもの)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。夜間の屋外で星を観察するときは、足元と周囲の安全に十分注意し、現地の案内や自治体等の指示に従ってください。