自然のふしぎ 力学 予備知識なしでOK 読了 約7分

地球の重さは、どうやって量ったの?
― 載せられる はかりが無いので、細い糸のねじれで量りました

地球の重さは、およそ6000000000000000000000トンとされています。でも、地球を載せられるはかりはありません。それなのに、なぜこの数字が分かるのでしょうか。答えは「ものとものが引き合う、ごくわずかな力を、実際に測った人がいた」からです。その測定は今から200年以上前に行われ、しかも驚くほど正確でした。

公開:2026.09.11 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

台所のはかりに、りんごを載せます。針が動いて「300グラム」と出ます。重さを量るとは、ふつうこういうことです。

ところが相手が地球になると、この方法はまったく使えません。載せる台がありませんし、そもそもはかりの針を動かしているのは、地球の引く力そのものです。

それでも私たちは、地球の重さを知っています。18世紀の人たちが、まったく別の入り口から答えにたどり着いたからです。

なぜ、そんなに難しかったの? 理由は2つです

1
地球は、はかりに載せられない

載せる代わりにできるのは、引く力どうしを比べることだけです。地球が引く力と、重さの分かっているものが引く力。この2つをくらべれば、比の形で地球の重さが出ます。

2
身近なもの どうしの引力が、小さすぎた

ものとものが引き合うことは17世紀に見抜かれていました。ところが、机の上のもの どうしの引力はあまりに弱く、誰も測れませんでした。測れなければ、比べようがありません。

つまり必要だったのは、「とても小さな力を、目に見えるほど大きな動きに変える工夫」でした。18世紀の人たちは、それを2つの道で手に入れます。ひとつは山を使う道、もうひとつは細い糸を使う道です。

山のそばでは、おもりの糸がまっすぐ下を向かない

ひもの先におもりを吊るすと、糸は地面に対してまっすぐ下を向きます。建築で使う下げ振りと同じです。ところが、すぐ横に大きな山があると、山も横からおもりを引きます。その分だけ、糸はほんのわずかに山の側へ傾きます。

1774年、この傾きを実際に測る計画がイギリスで実行されました。選ばれたのはスコットランドのシーハリオン山です。まわりに他の山が少なく、形がそろっていて、山自体の体積を見積もりやすかったからです。観測隊は星の位置を基準にして、山の北側と南側で糸の向きがどれだけ違うかを測りました。傾きは、角度にしてごくわずかでした(図1)。

左:平らな場所 右:大きな山のそば 糸は真下を向く 点線より山の側へ傾く
図1:左の枠は平らな場所。おもりを吊るした糸は、点線と重なってまっすぐ下を向きます。右の枠は山のそば。山がおもりを横向きに引く(右向きの矢印)ため、糸は点線よりわずかに山の側へ傾きます。この傾きの大きさが、山の重さと地球の重さの比を教えてくれます。

山の体積と岩の重さから、山がどれくらいの力で引くかは計算できます。そして傾きの角度が、山の引く力と地球の引く力の比を教えてくれます。こうして初めて、地球全体の重さがおおよその数字になりました。ただしこの方法には弱点がありました。山の形も、中の岩の詰まりぐあいも、外からは正確には分からないのです。

細い糸は、小さな力を大きな回転に変える

そこで登場するのが、山を使わないやり方です。細い糸で棒を水平に吊るし、棒の両端に小さな球をつけます。この棒をひねろうとすると、糸は抵抗します。ただし、その抵抗は驚くほど弱いのです。

糸を横に引きちぎるには大きな力が要りますが、ねじる向きにはほとんど踏ん張れません。ですから、ごくわずかな横向きの力でも、棒はゆっくりと回り始めます。小さな力が、目で見える角度に翻訳されるわけです(図2)。

真上から見たところ 中央の細い糸(上から吊るす) 点線:置く前の棒の位置 実線:回ったあと 小さな球 大きな球(重い) 大きな球(重い)
図2:真上から見た図です。点線が、大きな球を置く前の棒の位置。左下と右上に大きな球を近づけると、棒の両端の小さな球がそれぞれ大きな球の側へ引かれ(短い矢印)、棒は実線の向きまで回ります。この回った角度が、引力の大きさそのものを表します。

1798年、イギリスのキャベンディッシュがこの装置で測定を行いました。装置そのものは、先に亡くなった友人ミッチェルが設計したものを受け継いだものです。大きな球には鉛のかたまりを使い、棒の回りぐあいを離れた場所から望遠鏡でのぞきました。人が部屋に入ると、体温で空気が動いてしまうからです。

こうして得られた答えは、地球の平均の重さは同じ体積の水の5.48倍、というものでした。現在の値は5.51倍です。200年以上前の測定が、1パーセントも外していなかったことになります。

💡 この測定が、地球の中身を見せてくれた

私たちが歩いている地面の岩は、同じ体積の水の2.6〜2.7倍ほどの重さです。ところが地球全体をならすと5.5倍でした。表面より、ずっと重い何かが中にあるということです。今では中心に鉄を主とするかたまりがあると考えられていますが、その最初の手がかりは、この静かな糸のねじれから出てきました。

まとめ

地球ははかりに載せられませんでした。そこで人は、山がおもりを横へ引く角度と、細い糸がねじれる角度という、二つの小さなずれを手がかりにしました。測れないものを測るとは、多くの場合、測れる別のものに置きかえることです。

量れなかったのは、はかりが小さすぎたからではありません。
小さすぎる力を、大きな動きに翻訳する道具が無かったからです。

身のまわりでも「見えない力を、動きに置きかえて読む」しくみはよく登場します。たとえば エレベーターで、体が一瞬軽くなるのはなぜ? では、床が私たちを押す力そのものが体の感覚に変わる話をしています。地球の引く力を私たち自身が感じる側の話として、あわせて読んでみてください。

🧪 ねじれの弱さを、自分の手で確かめる
  1. 細い糸(ミシン糸など)を50センチほど切り、端を高いところに結びます。
  2. 下の端に、消しゴムなど軽いものを結びつけて吊るします。
  3. 消しゴムを下に引っぱってみます。糸はほとんど伸びず、強く抵抗します。
  4. 今度は、消しゴムを指先でそっと回してみます。驚くほど軽い力で回り、手を離すとゆっくり戻ります。

同じ1本の糸なのに、引く向きにはとても強く、ねじる向きにはとても弱い。この差こそが、200年前に地球の重さを量れた理由です。回ってから戻るまでの時間を数えておくと、糸の細さを変えたときの違いも見えます。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(力学・測地学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:220年前の答えは、どれくらい正確だったのか

キャベンディッシュが出した値と、いま使われている値を並べて、ずれの大きさを見てみます。水を1としたときの比で考えます。

① もとになる数値
1798年の測定値(水を1としたとき)5.48
現在の地球の平均密度(同じ比で)5.51
地表のふつうの岩(同じ比で)2.7
② 計算してみる
今の値との差5.51 − 5.48 = 0.03
ずれの割合0.03 ÷ 5.51 ≒ 0.0054
百分率になおす0.0054 × 100 = 0.54

つまり、ずれはおよそ0.54パーセントでした。望遠鏡と鉛の球と細い糸だけで、この精度に届いていたことになります。

③ 実感に直す
身長170センチで同じ割合だけ外すと170 × 0.0054 ≒ 0.92
地球全体は表面の岩の何倍の詰まりか5.51 ÷ 2.7 ≒ 2.04

身長を測って1センチ足らずしか外さない精度です。そして下の行が示すのは、地球をならした詰まりぐあいが表面の岩の約2倍だという事実で、これが「中心に重いものがある」という結論につながりました。

高校高校+なぜ「地球の重さを量る」ではなく「定数を量る」なのか

高校地表で落ちるものの加速のしかたと、地球の半径は、どちらも昔から分かっていました。万有引力の法則を使うと、この2つから「地球の質量と、引力の強さを決める定数の積」までは求まります。ところが積までしか分からないので、片方が分からなければもう片方も決まりません。

高校+記号で書くと、地表での落下の加速度、地球の半径 R、地球の質量 M、万有引力定数 G のあいだに関係があり、落下の加速度と R から決まるのは M と G の積です。キャベンディッシュの実験は、机の上の球どうしの引力を測ることで G を単独で決めました。その瞬間に M も決まります。彼自身は論文で「地球の密度を量った」と書いており、定数を求めたという書き方はしていません。

記号意味と単位
M地球の質量。単位はキログラム
R地球の半径。単位はメートル
G万有引力定数。引力の強さを決める、宇宙共通とされる数

大学山を使う方法が、測地学に残したもの

山のそばで下げ振りが傾く量は、地下の岩の詰まりぐあいを反映します。この考え方は逆向きにも使えて、重力のわずかな差を各地で測れば、地下に重いものがあるか軽いものがあるかを推定できます。現在の重力探査や、人工衛星による重力場の観測はこの延長線上にあります。シーハリオンの観測データを整理する過程で、同じ高さの地点を線で結ぶ等高線の考え方が使われたとされています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。地球の重さの桁が動くことはまずありませんが、その根拠となる定数は今も測り直されています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・力と圧力/地球と宇宙ものどうしが引き合う話、地球の内部の話
高校物理・万有引力山の傾きから比を求める考え方
高校+物理・単振動とねじれ振り子ねじればかりが小さな力を読む理由
大学測地学・地球物理学重力の差から地下を推定する話
研究精密測定の物理定数の値が揃わない問題
生活とのつながり下げ振り、糸のねじれやすさ、はかりのしくみ
参考・出典
  1. アメリカ国立標準技術研究所・基礎物理定数(万有引力定数の推奨値と不確かさ)
  2. アメリカ航空宇宙局・地球のデータ集(質量・平均密度・半径)
  3. H. Cavendish, Experiments to determine the Density of the Earth, Philosophical Transactions of the Royal Society of London, 1798.
  4. N. Maskelyne, An Account of Observations Made on the Mountain Schehallien for Finding Its Attraction, Philosophical Transactions of the Royal Society of London, 1775.

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。観察を試すときは、高いところに手を伸ばして転ばないよう足元に気をつけてください。