人が集まると、なぜ部屋が暑くなるの?
― 人ひとりは、いつも電球1個ぶん、約100ワットの熱を出しています
じっと座っているだけでも、人の体は約100ワットの熱を出し続けています。35人の教室なら、電気ストーブ3台ぶんです。しかも部屋の空気は、思っているよりずっと少しの熱で温まってしまいます。
冬の朝、だれもいない教室はひんやりしています。ところが全員がそろって1時間目が終わるころには、窓がくもり、なんだかむっとしています。
暖房の設定は変えていません。外の気温も、ほとんど変わっていません。
変わったのは、部屋の中にいる人の数だけです。では、人はいったいどれくらいの熱を出しているのでしょうか。
理由は2つだけ
食べ物から取り出したエネルギーは、最後にはほとんどが熱になって体から出ていきます。座っているだけでも約100ワットです。
空気は軽いので、温めるのに必要な熱がわずかです。教室1つぶんの空気を1℃温める熱で、水なら55リットルほどしか温まりません。
大きな熱の出どころと、温まりやすい入れ物。この2つがそろうと、人数が増えただけで部屋の温度がはっきり上がります。順番に見ていきましょう。
100ワットは、どこから来るの?
大人が1日に食べるエネルギーは、およそ2000キロカロリーです。これを1日の秒数で割ると、1秒あたり約100ジュールになります。1秒に100ジュールのことを、100ワットといいます。
体はこのエネルギーで心臓を動かし、呼吸をし、体温を保っています。けれども外に向かって仕事をしない限り、使われたエネルギーは最後に熱として体から出ていきます。だから人は、昔の白熱電球1個くらいの熱を、寝ているあいだも出し続けています。
体を動かすと、この量はさらに増えます。歩くと2〜3倍、激しい運動では10倍近くになるとされています。
では、人数が増えるとどうなるでしょうか。図1を見てください。つまみで部屋にいる人数を変えられます。
空気は、なぜそんなにすぐ温まるの?
教室1つぶんの空気の重さは、およそ230キログラムです。大きく見えても、中身はとても軽いのです。
しかも空気は、同じ重さの水と比べて、約4分の1の熱で1℃温まります。軽いうえに温まりやすいので、教室全体の空気でも、熱をためる力は水55リットルぶんほどしかありません。
そこへ35人が3500ワットを注ぎこむと、空気だけなら約1分で1℃上がる計算になります。実際には壁や机、床が熱の多くを吸い取り、換気でも外へ逃げます。それでも1時間の授業で数℃上がることは珍しくないとされています。
暑いだけでなく、むしむしするのはなぜ?
体から出る熱には、出口が3つあります。図2を見てください。
いちばん下の蒸発は、息や肌から水分が出ていくときに熱を持ち去るものです。この熱は温度計の目もりを上げず、部屋の湿度を上げます。人が集まった部屋で窓がくもるのは、この水分が冷たいガラスで水に戻るからです。
つまり人が集まると、温度と湿度が同時に上がります。むっとした感じは、この2つが重なったものです。
建物の冷房を設計する人は、部屋に入る人数を必ず聞きます。1人あたり何ワットの熱と、どれだけの水分が出るかを数えて、冷房の強さを決めるからです。満員になるホールや電車では、真冬でも冷房が動いていることがあります。
まとめ
人の体は、食べたエネルギーを最後には熱として出す、約100ワットの暖房です。部屋の空気は軽くて熱をためにくいので、人が集まるだけで温度が上がります。出る熱の一部は水分として出ていくので、湿度も上がります。
人は、歩く100ワットの暖房。
35人集まれば、電気ストーブ3台がついているのと同じです。
体の中でエネルギーの2割を使っている臓器の話は「頭を使うとお腹がすくって本当?」に、寒いときに体が熱を増やすしくみは「寒いと体がガタガタ震えるのは、なぜ?」にまとめています。
- 温度と湿度が表示される温湿度計を、部屋の真ん中の机の上に置きます。
- ひとりで過ごしているときの温度と湿度をメモします。次に家族が集まって30分ほどたったら、もう一度メモします。
- 暖房や窓の開け閉めは、同じ条件のままにしておきます。温度と湿度のどちらが、どれくらい変わったかをくらべます。
部屋が小さいほど、人数が多いほど、変化ははっきり出ます。冬なら、窓ガラスのくもり方もいっしょに見てみてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(環境生理学・建築設備工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- ワット(電力・仕事率):1秒あたりに出入りするエネルギーの量。1秒に1ジュールが1ワットです。
- 熱容量:ものの温度を1℃上げるのに必要な熱の量。重いほど、温まりにくい物質ほど大きくなります。
- 基礎代謝:何もせず横になっていても、生きるために使われるエネルギー。大人で1日1200〜1500キロカロリーほどとされています。
中学高校式で確かめる:35人の教室の空気は、何秒で1℃上がる?
1人が出す熱を食事の量から出し、それが教室の空気を温めるとしたら1℃上がるのに何秒かかるかを計算します。壁や家具が吸う熱と換気は、ここでは考えません。単位は、熱がジュール(J)、時間が秒(s)、出す熱の速さがワット(W)です。
| 記号で書くと | t = ( ρ × V × c × ΔT ) ÷ ( N × P ) |
| 言葉で書くと | かかる時間 = 空気を温めるのに必要な熱 ÷ 人が1秒に出す熱の合計 |
| どこから来る式か | エネルギーの保存。人が出した熱(N × P × t)が、すべて空気の温度上昇(ρ × V × c × ΔT)になるとおいた式です。1人の熱 P も、P = 1日の食事のエネルギー ÷ 1日の秒数、という同じ考え方で出します。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| t | 空気が ΔT だけ温まるまでの時間(秒) |
| ρ | 空気の密度(キログラム毎立方メートル) |
| V | 部屋の体積(立方メートル) |
| c | 空気の比熱(1キログラムを1℃上げる熱、ジュール) |
| N | 部屋にいる人数 |
| P | 1人が出す熱(ワット) |
| 大人1人が1日に食べるエネルギー(目安) | 2000 kcal |
| 1キロカロリーをジュールに直すと | 4.184 kJ |
| 1日の秒数 | 86400 s |
| 教室の大きさ | たて 8 m、よこ 8 m、高さ 3 m |
| 空気の密度(20℃前後) | 1.2 kg/m³ |
| 空気の比熱 | 1000 J/(kg・℃) |
| 水の比熱 | 4.18 kJ/(kg・℃) |
| 1日のエネルギーをキロジュールに | 2000 × 4.184 = 8368 kJ |
| ジュールに直す | 8368 × 1000 = 8368000 J |
| 1秒あたり(1人の熱 P) | 8368000 ÷ 86400 ≒ 96.9 W |
| 35人の合計(P を約100ワットとして) | 35 × 100 = 3500 W |
| 教室の床面積 | 8 × 8 = 64 m² |
| 教室の体積 V | 64 × 3 = 192 m³ |
| 空気の重さ(ρ × V) | 192 × 1.2 = 230.4 kg |
| 1℃上げるのに必要な熱(ρ × V × c) | 230.4 × 1000 = 230400 J |
| 1℃上がるまでの時間 t | 230400 ÷ 3500 ≒ 65.8 s |
| 同じ熱で温まる水の量 | 230.4 ÷ 4.18 ≒ 55.1 kg |
空気だけなら、35人がいるだけで約66秒に1℃のペースで温まる計算です。教室いっぱいの空気でも、熱をためる力はバケツ数杯ぶん、約55リットルの水と同じしかありません。実際の上がり方がこれよりずっとゆるやかなのは、壁や家具の熱容量が空気よりはるかに大きく、熱の大部分をそちらが受け止めるからです。
高校高校+体は、なぜエネルギーを熱にしてしまうの?
高校体は食べ物の糖や脂肪を呼吸で分解し、そのエネルギーをいったん体の中の「エネルギーの通貨」に移してから使います。この移しかえの効率は半分ほどで、残りはその場で熱になります。使われた分も、筋肉が外の物を持ち上げるなどの仕事をしない限り、最後は熱になります。
高校+体の大きさによって、1人の熱は変わります。体重あたりの熱は小さい動物ほど大きいことが知られ、体重の4分の3乗に比例するという経験則(クライバーの法則)があります。子どもばかりの教室と大人ばかりの会議室では、1人あたりの熱も少しちがいます。
大学人体の熱収支式と、空調の熱負荷計算
環境生理学では、体の熱のつり合いを「人体の熱収支式」で表します。代謝で作る熱から外への仕事を引いたものが、放射・対流・伝導・蒸発で出る熱と、体にたまる熱の合計に等しい、という式です。この式をもとに暑さ寒さの感じ方を予測するのが、ファンガーの快適方程式と予測平均温冷感申告(PMV)です。建築設備の分野では、人体からの熱を温度を上げる「顕熱」と水分として出る「潜熱」に分けて、熱負荷計算に入れます。図2の蒸発の分が、この潜熱にあたります。
📖 式の導出や、さらに先の内容:熱容量(ウィキペディア) / 基礎代謝(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 快適な室温は、だれの体を基準にすべきか。 オフィスの室温の基準は、昔の40歳前後の男性の代謝をもとに作られたとされます。女性の代謝はそれより低めで、基準の室温では寒く感じやすいという指摘が2015年に出され、議論が続いています。
- 同じ体格でも、熱の出し方には個人差がある。 基礎代謝は体格だけでは説明しきれず、1割ほどの個人差が残るとされます。筋肉の量や、熱を作る特別な脂肪(褐色脂肪)の量がどこまで効いているかは、まだ調べられている最中です。
- 人が集まったときの空気の流れ。 体のまわりには温まった空気の上昇気流ができます。満員の部屋でこの流れがどう重なり、どこが暑くなるかは、部屋ごとの計算や測定が必要です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。100ワットという数字も、体格や活動によって上下する目安だと考えてください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「電力と熱量」「エネルギーの保存」 | ワットとジュール、熱の量の計算 |
| 高校 | 物理基礎「熱とエネルギー」、生物基礎「代謝」 | 比熱と熱容量、呼吸で出る熱 |
| 高校+ | 生物の発展(体の大きさと代謝) | クライバーの法則 |
| 大学 | 環境生理学、建築設備工学 | 人体の熱収支式、顕熱と潜熱、熱負荷計算 |
| 研究 | 温熱快適性の研究 | 快適な室温の基準と個人差 |
| ― | 生活とのつながり | 人が集まる部屋の換気、冷暖房の設定、窓のくもり |
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(基礎代謝基準値・推定エネルギー必要量)
- 空気調和・衛生工学会『空気調和・衛生工学便覧』(人体からの発熱量)
- ASHRAE Handbook—Fundamentals(Nonresidential Cooling and Heating Load Calculations の章、人体発熱)
- Kingma, B. & van Marken Lichtenbelt, W. (2015) Energy consumption in buildings and female thermal demand. Nature Climate Change
- ウィキペディア「基礎代謝」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。1人あたりの熱は体格・年齢・活動・服装によって大きく変わります。