日常のふしぎ エネルギー 予備知識なしでOK 読了 約6分

寒いと体がガタガタ震えるのは、なぜ?
― 筋肉が、ほとんど動かずに熱だけを作っています

寒さで歯がカチカチ鳴り、肩がこわばって震える。あれは寒さに負けているのではありません。体が筋肉を「発熱装置」として使い、急いで熱を作っている状態です。しかも震えには、運動よりも熱を作るのに向いた、うまい仕掛けがあります。

公開:2026.10.27 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

秋の夕方、薄着のまま外で待ち合わせをしていたら、急に風が冷たくなりました。

気がつくと、あごがカタカタと小刻みに動き、腕や背中が勝手に震えています。止めようと力を入れても、なかなか止まりません。

自分で動かしているわけではないのに、体はいったい何をしているのでしょうか。

震えが熱を作れる理由は、2つだけ

1
筋肉は、もともと「熱が出やすい」

筋肉が燃料を使うとき、動きに変わるのは一部だけで、残りの大部分は熱になります。ふだんは欠点のこの性質を、震えは逆に利用しています。

2
引き合うので、体がほとんど動かない

震えでは、曲げる筋肉と伸ばす筋肉が細かく交互に、ときには同時に縮みます。力が打ち消し合うので外へ仕事をせず、エネルギーがほぼ全部、熱として体に残ります。

この2つが合わさると、震えは「その場で燃料を熱に変える」専用の動きになります。順に見ていきましょう。

筋肉は、燃料の大半を熱にしてしまう

体は、食べ物からとった糖や脂肪を、筋肉の中で少しずつ燃やして力を出しています。ところが、この変換はあまり効率がよくありません。

歩いたり自転車をこいだりするとき、燃料のエネルギーのうち外への動きになるのは、およそ2〜3割とされています。残りの7〜8割は熱です。運動すると体が温まり、汗が出るのはこのためです。

震えは、この「熱が出やすい」性質を目的そのものにしています。寒さを感じると、脳の奥の体温調節の中枢が、全身の筋肉に細かく縮むよう指令を出します。自分の意思とは関係なく始まるので、止めようとしても止まりにくいのです。

どれくらい熱が増えるかを動かして確かめられるのが、図1です。つまみで震えの強さを変えてみてください。

体が1秒あたりに作る熱(ワット) 0 200 400 73 W 左:安静時 365 W 右:震え ふだんより増えた熱 +292 W 10分続けたときの体温の上がり方 (体重60kg、熱が逃げないとした場合) +0.83 ℃
つまみを動かすと、右の棒の高さと、10分で上がる体温が変わります
図1:左の棒が安静時、右の棒が震えているときに体が作る熱です。つまみで震えの強さを変えると、右の棒の高さと、右側の「10分で上がる体温」が変わります。実際には熱は肌から逃げ続けるので、震えはこの差を埋めるために働いています。

腕はほとんど動かないのに、なぜ熱だけ増えるの?

腕には、ひじを曲げる筋肉と、伸ばす筋肉が向かい合って付いています。ふだんはどちらか片方が縮み、もう片方がゆるむことで腕が動きます。

震えでは、この両方が細かく交互に、ときには同時に縮みます。綱引きで両チームが同じ力で引いていると、綱がほとんど動かないのと同じです。図2の下を見てください。

物を持ち上げたり体を前へ運んだりする「外への仕事」がほぼゼロなので、燃やした燃料のエネルギーは、ほとんどすべて熱として筋肉に残ります。図2の上の2本の帯は、歩くときと震えるときで、エネルギーの行き先を比べたものです。

燃料のエネルギーは、どこへ行く? 歩くとき 仕事 約25% 熱 約75% 震えるとき 熱 ほぼ100% 外への仕事は、ほぼゼロ 骨はほとんど動かない 曲げる筋肉が引く 伸ばす筋肉が引く
図2:上の帯は歩くとき、下の帯は震えるときのエネルギーの行き先です。歩くときは左側の約4分の1が外への仕事になりますが、震えではほぼ全部が熱です。いちばん下の左右の矢印は、向かい合う筋肉が骨を反対向きに引き合い、腕がほとんど動かないようすを示しています。

歯がカチカチ鳴るのも同じしくみです。あごを閉じる筋肉が細かく震え、その動きが歯どうしの小さなぶつかりとして聞こえています。

💡 震えは、燃料をかなり食う

震えは熱を作るぶん、燃料もどんどん使います。長く震え続けると、筋肉にためた糖が減っていき、震えが弱まることがあるとされています。お腹がすいた状態で寒い場所にいると冷えやすいのは、このためと考えられています。

💡 赤ちゃんは、あまり震えない

生まれたばかりの赤ちゃんは、震えて熱を作る力が弱いとされています。代わりに、首や背中にある「褐色脂肪」という特別な脂肪が、動かずにじかに熱を作ります。大人にも少しだけ残っていることが、近年わかってきました。

まとめ

寒いときの震えは、筋肉が熱を作るための動きです。筋肉はもともと燃料の大半を熱にしてしまう性質があり、震えではさらに、向かい合う筋肉が引き合って外への仕事をほとんどしません。そのため燃料のエネルギーがほぼすべて熱になり、強い震えでは安静時の数倍の熱が生まれるとされています。

震えは、動くための筋肉を
「動かないストーブ」に切り替えたもの。

ただし、震えがあるのは体がまだ熱を作れているしるしです。寒さの中で震えが止まるのは危険な合図になることがあります。くわしくは低体温症は、なぜ「そこまで寒くない日」でも起きるの?を、同じ寒さへの反応については寒いと鳥肌が立つのは、なぜ?を読んでみてください。

🧪 自分で確かめてみよう:力を入れるだけで温まる?
  1. 片方の手のひらを胸の前で軽く握り、手首の内側の温かさを、もう片方の手で覚えておきます。
  2. ひじを90度に曲げたまま、腕の表と裏の両方に力を入れて、腕が動かないように30秒ほど「固め」ます。
  3. 力を抜いて、腕をさわってみます。動いていないのに、ほんのり温かく、少し疲れていることに気づくかもしれません。

腕は動いていなくても、筋肉は燃料を使って熱を出しています。震えは、これを細かく速く、全身でくり返している状態です。体調のすぐれないときや、痛みがあるときは無理に行わないでください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・熱力学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:強い震えは、体をどれくらい温められる?

体重60kgの人が、安静時の5倍の強さで10分間震えたとします。熱が肌から逃げないと仮定して、体温がどれだけ上がるかを計算します。単位は、熱がジュール、熱を作る速さがワット(1秒あたりのジュール)です。

⓪ もとになる式
記号で書くとΔT = ( P震え − P安静 ) × t ÷ ( m × c )
言葉で書くと上がる体温 = 増えた熱の速さ × 時間 ÷ (体重 × 比熱)
どこから来る式かエネルギーの保存(熱力学第一法則)と、比熱の定義(物を1℃上げるのに要る熱)から。震えでは外への仕事がほぼゼロなので、燃料のエネルギーがそのまま熱として体にたまる。
記号意味と単位
P安静安静時に体が作る熱の速さ(ワット)
P震え震えているときに体が作る熱の速さ(ワット)
t震えている時間(秒)
m体重(キログラム)
c体の比熱(1キログラムを1℃上げる熱、キロジュール)
① もとになる数値
成人の基礎代謝(1日)およそ1500キロカロリーとされる
1キロカロリー4.184キロジュール
強い震えの熱産生安静時の最大5倍ほどとされる
人の体の比熱およそ3.5キロジュール(1kgを1℃上げる熱)とされる
② 計算してみる
1日の基礎代謝をキロジュールに1500 × 4.184 = 6276
1秒あたりに直す(1日=86400秒、ジュールで)6276000 ÷ 86400 ≒ 73
強い震えの熱(ワット)73 × 5 = 365
ふだんより増えた熱(ワット)365 − 73 = 292
10分間(600秒)でたまる熱(ジュール)292 × 600 = 175200
体全体を1℃上げる熱(キロジュール)60 × 3.5 = 210
上がる体温(℃)175.2 ÷ 210 ≒ 0.83

熱が逃げなければ、強い震えを10分続けるだけで体温は1℃近く上がる計算です。実際には冷たい風が熱を奪い続けるので体温は上がらず、震えは「奪われる分を補う」ことで体温を保っています。

③ 実感に直す
同じ燃料で歩いたとき、外への仕事になる分(ワット)365 × 0.25 ≒ 91

歩けばこのおよそ91ワットぶんは体を運ぶ仕事に回り、熱にはなりません。震えはその分も熱に回せるので、同じ燃料で体を温めるには効率のよい方法です。

高校高校+体温調節と、筋肉のエネルギー

高校体温は、脳の視床下部にある体温調節の中枢が保っています。皮膚の冷たさの受容器や、血液の温度の変化を受け取ると、皮膚の血管を細くして熱を逃がしにくくし、さらに足りなければ震えで熱を作ります。筋肉が縮むときに使うのは、細胞の中のエネルギーの通貨であるATPです。

高校+筋肉がATPを分解して縮むとき、外への仕事になる割合(機械的効率)は、自転車こぎなどで2〜3割ほどとされます。震えでは拮抗筋が同時に働くため外への仕事が打ち消され、効率はほぼゼロ、つまりエネルギーのほぼすべてが熱になります。

大学ふるえ熱産生と非ふるえ熱産生

生理学では、寒さに対する熱産生を「ふるえ熱産生(シバリング)」と「非ふるえ熱産生」に分けます。後者の代表は褐色脂肪組織で、ミトコンドリアの脱共役タンパク質(UCP1)が、燃料のエネルギーをATPに変えずに直接熱として放出させます。熱の収支は熱力学第一法則で、体温の変化は比熱容量で見積もれます。人の震えは、細かく続く収縮に、数秒ごとの強弱の波が重なった形で記録されることが知られています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:シバリング(ウィキペディア) / 褐色脂肪組織(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。震えのような身近な反応にも、まだ答えの出ていない問いが残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「動物の体のつくりとはたらき」「エネルギー」筋肉と骨のしくみ、熱への変換
高校生物「体内環境の維持」、物理「熱とエネルギー」体温調節の中枢、比熱を使った計算
高校+生物「筋収縮とATP」筋肉の機械的効率
大学生理学・熱力学ふるえ熱産生と非ふるえ熱産生、熱力学第一法則
研究代謝・エネルギー生理学大人の褐色脂肪、寒さへの慣れ
―生活とのつながり空腹で寒い場所にいると冷えやすい理由、震えが止まることの意味
参考・出典
  1. シバリング - ウィキペディア
  2. 褐色脂肪組織 - ウィキペディア
  3. 基礎代謝 - ウィキペディア
  4. 熱力学第一法則 - ウィキペディア
  5. Haman, F. "Shivering in the cold: from mechanisms of fuel selection to survival." Journal of Applied Physiology, 2006.
  6. 入來正躬 編『体温生理学テキスト』文光堂

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。体の冷えや震えが続く、意識がぼんやりするなどの症状があるときは、ためらわずに医療機関に相談してください。