ガラスは、なぜ透明なの?
― 砂からできているのに、光をまったく止めない理由
ガラスの原料は、ほぼ砂です。それなのに砂は透けず、ガラスは向こうがはっきり見えます。答えは「光が弱すぎて、ガラスに相手にされない」ことと、「ガラスの中に、光をはね返す境目がない」こと。この2つがそろったとき、物は透明になります。
雨の日、子どもが窓に顔をくっつけて、外をながめています。そして、ふり向いてこう聞きます。「ねえ、なんでガラスは向こうが見えるの? 壁は見えないのに」。
「ガラスだからだよ」と答えかけて、言葉につまります。そういえば、ガラスは砂を溶かしてつくると聞いたことがあります。砂浜の砂は、どう見ても透けていません。
同じ材料なのに、片方は透けて、片方は透けない。この違いをたどると、「透明とは何か」という問いの答えが見えてきます。
透明になる理由は2つだけ
物が光を吸い込むのは、光が物の中の電子をひと押しできるときだけです。ガラスの電子を動かすには大きな力が要り、目に見える光ではまったく足りません。だから光は、何もせずに通り抜けます。
光は、物と物の境目に来るたびに、少しずつ曲がったりはね返ったりします。ガラスは中身が一様で、細かな境目がありません。だから光は、まっすぐ向こう側へ抜けられます。
この2つは、どちらか1つでは足りません。吸い込まれなくても境目が多ければ白く濁りますし、境目がなくても吸い込まれれば色がついて暗くなります。順番に見ていきましょう。
目に見える光は、ガラスにとって「軽すぎる」
光は、小さなエネルギーのつぶが、たくさん飛んでくるものだと考えることができます。つぶ1個が持っているエネルギーは、光の色で決まります。赤い光のつぶはエネルギーが小さく、紫の光のつぶは大きくなります。
物の中には、原子にしばられた電子がいます。電子は、決まった高さの「段差」をひと息にのぼれるだけのエネルギーをもらったときだけ、光のつぶを受け取ります。段差に届かないつぶは、受け取ってもらえません。ちょっとだけ届かない、ということも許されません。
図1を見てください。縦の高さが、光のつぶ1個のエネルギーです。ガラスの主成分(二酸化ケイ素)の電子がのぼる段差は、約9とされています。目に見える光は、いちばん強い紫でもおよそ3しかありません。段差の3分の1にも届かないので、ガラスは光に知らん顔をします。光は、そのまま通り抜けるしかないのです。
つまみを左いっぱいに動かすと、紫外線の領域に入ります。紫外線はつぶのエネルギーが大きいので、窓ガラスに含まれる成分に吸い込まれ始めます。窓ガラスは、日焼けの原因になる紫外線のうち、波長の短いもの(エネルギーの大きいもの)を多く止めるとされています。ただし波長の長い紫外線はかなり通すため、窓ぎわでも日焼けはします。
逆に、色のついたガラスは、わざと金属などを少し混ぜて、段差の低い電子を用意したものです。その電子が特定の色の光だけを吸い込むので、残りの色がついて見えます。
同じガラスでも、粉にすると白くなる
電子の話だけなら、砂もガラスと同じ二酸化ケイ素なので、透けて見えるはずです。ところが砂浜の砂は透けません。ここで効いてくるのが、2つ目の理由の「境目」です。
光は、空気からガラスへ、ガラスから空気へと入るたびに、ほんの少しはね返り、進む向きも曲がります。窓ガラスなら、境目は表と裏の2回だけです。はね返るのは合わせて1割足らずで、残りはまっすぐ抜けていきます。
ところが砂の山や、くだいたガラスでは、光は小さな粒に当たるたびに、何百回、何千回と曲がり、はね返ります。そのうち光はあらゆる向きに散らばって、もと来た側へも戻ってきます。すべての色が同じように散らばるので、白く見えるのです(図2)。
同じことは身のまわりにたくさんあります。透明な氷も、細かく削ると白いかき氷になります。透明な水晶と、白っぽい砂も、中身は同じ二酸化ケイ素です。石や木が透けないのも、小さな結晶や細胞のすき間という境目が、無数にあるからです。
ガラスは、溶かした材料を結晶ができる前に冷やし固めてつくります。そのため中に粒の境目ができず、どこを切っても同じ中身になります。この「どこまでも一様」なつくりが、透明さを支えています。
金属の中には、原子にしばられずに動き回れる電子がたくさんいます。この電子には「のぼる段差」がほとんどないので、どんな色の光にもすぐ反応して、はね返してしまいます。金属がピカピカ光って見え、向こうが透けないのはこのためです。ガラスとはちょうど正反対のしくみです。
すりガラスが向こうを見せないのは、表面のこまかなでこぼこが「境目」になって光を散らすからです。ここに水をぬると、でこぼこのすき間を水がうめます。水とガラスは光の曲がり方が近いので、境目が目立たなくなり、ぐっと透けて見えるようになります。
まとめ
ガラスが透明なのは、目に見える光がガラスの電子を動かすには弱すぎて吸い込まれないこと、そしてガラスの中に光をはね返す境目がないことの、2つがそろっているからです。同じ材料でも、粉にして境目を増やせば白くなります。
透明とは、光が「相手にされず」、
しかも「邪魔されない」ことです。
境目で光が散らばって白く見えるしくみは、氷は透明なのに、雪はなぜ白く見えるの?でも詳しく紹介しています。ガラスが固体なのか液体なのかという話は、ガラスは固体なの、液体なの?をどうぞ。窓ごしの紫外線については、曇りの日でも日焼けするのは、なぜ?も参考になります。
- 氷砂糖と粉砂糖をならべてみます。どちらも同じ砂糖ですが、大きな粒の氷砂糖は透け、細かい粉砂糖は真っ白です。粒が細かいほど境目が増えることが分かります。
- 家にすりガラスがあれば、指で少し水をぬってみます。ぬった部分だけ、向こう側がうっすら見えるようになります。透明なセロハンテープをはっても、同じように透けます。
- 白いティッシュや紙に、サラダ油を1滴たらします。しみた部分が半透明になります。紙の繊維のすき間(境目)を油がうめて、光が散らばりにくくなったからです。
ガラスをわざと割ったり、くだいたりして確かめるのは危ないのでやめましょう。砂糖や紙で同じしくみが確かめられます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(固体物理・光学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 光の屈折と反射:光が性質のちがう物の境目に来たとき、進む向きが曲がったり、はね返ったりすること。中学で習う、光の基本的な性質です。
- 光子(こうし):光を「エネルギーのつぶ」として見たときの呼び名。つぶ1個のエネルギーは、光の色(波長)で決まります。
- 非晶質(アモルファス):原子が規則正しく並んだ結晶にならず、ばらばらのまま固まった固体。ガラスはその代表で、粒の境目ができません。
中学高校式で確かめる:目に見える光は、ガラスの段差の何分の1か
光のつぶ1個のエネルギーを、波長から計算します。そして、ガラスの電子がのぼる段差(約9電子ボルト)とくらべます。単位の電子ボルトは、電子1個が1ボルトの電圧で得るエネルギーで、原子の世界の「ものさし」です。
| 記号で書くと | E = h × c ÷ λ |
| 言葉で書くと | 光のつぶ1個のエネルギー = プランク定数 × 光の速さ ÷ 光の波長 |
| どこから来る式か | 光のつぶのエネルギーは振動数に比例する(アインシュタインの光量子仮説)。振動数は「光の速さ ÷ 波長」なので、波長が短いほどエネルギーが大きくなります。 |
| E | 光のつぶ1個のエネルギー(単位は電子ボルト) |
| h | プランク定数(自然界の決まった数) |
| c | 光の速さ(秒速約30万km) |
| λ | 光の波長(単位はナノメートル。1ナノメートルは100万分の1ミリ) |
| h と c をかけた値(電子ボルトとナノメートルで表すと) | 約1240 |
| 緑の光の波長 | 550ナノメートル |
| 目に見えるいちばん短い波長(紫) | 約400ナノメートル |
| 石英ガラスの電子がのぼる段差 | 約9電子ボルトとされる |
| 窓ガラスが吸い込み始める目安 | 約4電子ボルトとされる |
| 緑の光のつぶ1個のエネルギー | 1240 ÷ 550 ≒ 2.25 電子ボルト |
| 紫の光のつぶ1個のエネルギー | 1240 ÷ 400 = 3.1 電子ボルト |
| 段差は、いちばん強い紫の何倍か | 9 ÷ 3.1 ≒ 2.9 倍 |
| 窓ガラスが吸い始める波長(式を逆に使う) | 1240 ÷ 4 = 310 ナノメートル |
目に見える光は、いちばん強い紫でも、段差の3分の1ほどにしか届きません。窓ガラスが吸い始めるのは310ナノメートルあたりで、これは目に見えない紫外線の領域です。だから目に見える光はすべて素通りし、ガラスは透明に見えます。
高校高校+表面の反射と、屈折率
高校光の曲がりやすさを表す数を屈折率といい、空気はほぼ1、窓ガラスは約1.5です。境目の両側で屈折率の差が大きいほど、反射が強くなります。真正面から当たるとき、ガラス表面1枚で反射するのは約4%とされ、表と裏で合わせて1割足らずになります。
高校+すりガラスに水(屈折率約1.33)をぬると透けるのは、境目の両側の屈折率の差が「0.5」から「0.17」ほどに縮むからです。境目の差を消して透明にする考え方は、屈折率整合と呼ばれ、顕微鏡で生き物の体を透明にして観察する技術にも使われています。
大学バンド理論と、光ファイバーの限界
大学の固体物理では、電子がとれるエネルギーの幅をエネルギーバンドと呼び、電子がいられない「段差」をバンドギャップ(禁制帯)と呼びます。光子のエネルギーがバンドギャップより小さいと、電子を上のバンドへ持ち上げられず、光は吸収されません。これが透明な絶縁体の基本的なしくみです。金属にはバンドギャップがなく、自由電子が光を反射します。
それでも完全に一様な物質はありません。ガラスは固まるときに、ごくわずかな密度のむらを閉じこめます。このむらで光が散らばる現象をレイリー散乱といいます。通信用の光ファイバーは、このレイリー散乱がおもな損失となり、もっとも光の減りが少ない波長でも、1kmあたり約0.2デシベル(約5%)ほど弱まるとされています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:バンドギャップ(ウィキペディア) / 光子(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- ガラスはなぜ結晶にならずに固まれるのか。 液体が冷えて動きが急に遅くなる「ガラス転移」は、物理学で今も議論が続く大きな問題の1つとされています。
- 光ファイバーはどこまで透明にできるか。 密度のむらを減らす材料や、中心を空洞にしたファイバーなど、レイリー散乱の壁をこえる工夫が研究されています。
- 本来は透けない物を透明にする技術。 木の色のもとになる成分を抜き、すき間を樹脂でうめた「透明な木」や、粒の境目をなくした透明なセラミックスが開発されています。どこまで実用になるかは、まだ研究の途中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。透明さの基本は分かっていても、それを極限まで高める方法は、いまも探され続けています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「光の反射と屈折」 | 境目で光が曲がり、はね返る(図2) |
| 高校 | 物理「光の屈折率」「光子のエネルギー」 | 式で確かめる、表面の反射 |
| 高校+ | 物理・化学の発展「非晶質」「屈折率整合」 | すりガラスと水、ガラスのつくり |
| 大学 | 固体物理「バンド理論」、光学「レイリー散乱」 | 段差(バンドギャップ)、光ファイバー |
| 研究 | ガラス転移、透明な新素材 | 研究の節 |
| ― | 生活とのつながり | 窓ぎわの日焼け、すりガラス、色ガラス |
- ウィキペディア「バンドギャップ」
- ウィキペディア「光子」
- 作花済夫『ガラス科学の基礎と応用』内田老鶴圃
- 高校物理の教科書(光の屈折・光子のエネルギーの単元)
- C. Kittel, Introduction to Solid State Physics, Wiley(バンド理論の標準的な教科書)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。ガラスの吸収や反射の値は、ガラスの種類や厚みによって変わります。ガラスを割ったりくだいたりする実験は、けがの危険があるので行わないでください。