曇りの日でも日焼けするのは、
なぜ?
「今日は曇ってるし、涼しいから大丈夫」――そう思って一日外にいたら、夜になって肌がヒリヒリ。誰もが一度は経験する失敗には、はっきりした理由があります。日焼けを起こす紫外線は、目に見える光とも、暑さとも、別ものなのです。
秋の運動会。空は一日じゅう薄い曇りで、日差しはやわらかく、風も涼しい。日なたにいても、まぶしくもなければ暑くもありません。「これなら日焼け止めはいらないな」と、何も塗らずに応援席で過ごしました。
その夜、お風呂で腕がしみて驚きます。鏡を見ると、顔も首も、うっすら赤くなっている。日差しなんて、ほとんど感じなかったのに。
実は、肌が感じる「暑さ」と、日焼けを起こす「紫外線」は、まったく別の測りものです。涼しい日も、曇りの日も、紫外線はしっかり降っています。
理由は、2つだけ
雲は目に見える光をよくさえぎるので、あたりは暗く、涼しくなります。ところが日焼けを起こす紫外線は、薄い曇りなら8割前後が通り抜けるとされています。「暗さ」は紫外線のバロメーターにならないのです。
紫外線は空気の分子にぶつかって四方八方に散らばりやすく、太陽の方向だけでなく、空全体から降りそそぎます。だから日陰や、太陽が雲に隠れているときでも、ゼロにはなりません。
この2つが重なると、「涼しい曇りの日に、気づかないうちにじっくり焼かれる」という冒頭の失敗ができあがります。ひとつずつ見ていきましょう。
「暑さ」と「紫外線」は、別の測りもの
太陽の光には、いろいろな種類の光が混ざっています。目に見える光(明るさのもと)、肌で熱として感じる光(暖かさのもと)、そして目にも肌の感覚にも映らない紫外線です。
やっかいなのは、この3つが雲に対して違うふるまいをすることです。熱として感じる光や見える光は雲でよく弱められるので、曇りの日は暗く涼しい。ところが紫外線は波長が短く、薄い雲なら大部分がすり抜けてきます。つまり曇りの日は、「暑さのセンサー」だけが油断する条件がそろっているのです。
さらに、気温も当てになりません。紫外線の強さを決めるのは主に太陽の高さ(季節と時刻)で、気温はほとんど関係ないとされています。日本では紫外線は5月から8月がピークで、まだ暑くない5月の晴れた日の紫外線は、真夏に近い強さがあります。
晴れた日でも、地上に届く紫外線のおおよそ半分は「空全体から来る散乱分」だとされています。パラソルは太陽からの直射は防ぎますが、空からの散乱分はほとんど素通しです。日陰に入ると紫外線はおよそ半分になる――ゼロになるわけではない、と覚えておくのが正確です。砂浜や雪面では、地面からの照り返しも加わります(新雪は紫外線の8割を反射するとされ、冬のスキー場で顔が焼けるのはこのためです)。
じゃあ、どうすればいいの?
対策の考え方はシンプルです。「暑いかどうか」ではなく「太陽が高い季節・時間帯かどうか」で判断すること。日本では5〜8月、時間帯では午前10時〜午後2時ごろが紫外線のピークです。この条件に当てはまる日の長時間の外出は、曇りでも涼しくても、帽子・長袖・日焼け止めの出番だとされています。気象庁が毎日発表している「UVインデックス」(紫外線の強さの指数)を天気予報と一緒に確認するのが、いちばん確実な方法です。
まとめ
曇りの日に日焼けする理由は2つです。①紫外線は目に見える光や熱と違って、薄い雲の8割前後を通り抜けること。②紫外線は空全体からの散乱としても降るため、日陰や曇りでもゼロにならないこと。肌の「暑い・まぶしい」というセンサーは、紫外線には反応できません。
日焼けは「暑さ」ではなく「太陽の高さ」で決まります。
涼しい曇りの日こそ、油断のしどころです。
「短い波長の光ほど、空気の分子でよく散らばる」――紫外線が空全体から降ってくるこの性質は、実は空が青い理由と同じ物理です。詳しくはこちらの記事で説明しています。
- 色の濃い折り紙や新聞紙を、日当たりのよい窓際に置く
- 上に硬貨やクリップなど、形のはっきりした物をのせて、数日〜1週間そのままにする
- 物をどけて、覆われていた部分と、光が当たっていた部分の色の差を見る
当たっていた部分だけ色があせて、硬貨の形がくっきり残ります。色あせの主犯は、紙の色素を壊す紫外線です。曇りの日が続いた週でも差が出ることを確かめると、「曇りでも紫外線は届く」を目で確認できます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光生物学・大気科学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この光には名前と種類があります
- 紫外線(UV):目に見える紫の光より波長が短い光。波長によってUV-A・UV-B・UV-Cに分けられます。
- UV-B:肌が赤くなる日焼け(サンバーン)の主犯。オゾン層でかなり吸収され、地上に届くのは一部です。
- UV-A:UV-Bより波長が長く、量は多い。肌の奥まで届き、じわじわとしたダメージ(しわ・たるみ)に関わるとされます。窓ガラスも通り抜けます。
- UV-C:もっとも波長が短くエネルギーが強いが、大気でほぼ全部吸収され、地上には届きません。
- UVインデックス:地上の紫外線の強さを0〜11+で表す国際的な指数。気象庁が毎日予報を出しています。
- SPF・PA:日焼け止めの効果の表示。SPFはUV-Bを、PAはUV-Aを防ぐ目安です。
中学高校式で確かめる:曇り・日陰・日焼け止めを数字で比べる
晴れた日の直射の紫外線の強さを100として、いろいろな条件を比べてみましょう。
| 薄い曇り(通り抜け8割とされる) | 100 × 0.8 = 80 |
| 日陰(直射を遮り、空からの散乱分のみ) | 100 × 0.5 = 50 |
| 新雪のゲレンデ(直射100+雪の反射8割) | 100 + 80 = 180 |
「曇り80・日陰50」は、晴れの直射と桁が変わらない数字です。逆に雪面では晴れの平地を超えることすらあります。冬山や春スキーで顔だけ焼けるのは、この足し算のせいです。
| 素肌で肌が赤くなり始めるまでの時間(目安) | 約20分とされる(肌質・季節で大きく変わる) |
| SPF30を正しく塗った場合の理論値 | 20 × 30 = 600(分) |
| 時間に直す | 600 ÷ 60 = 10(時間) |
SPFは「赤くなるまでの時間を何倍に延ばせるか」の倍率です。ただしこれは規定量(意外と多い)をムラなく塗った理論値で、実際は塗る量が足りず、汗でも落ちるため、2〜3時間おきの塗り直しが推奨されています。数字の大小より、塗る量と塗り直しのほうが効くとされています。
高校高校+なぜ紫外線は「空全体」から来るのか
高校光は波長によって、空気の分子での散らばりやすさ(散乱)が大きく違います。波長が短いほど散乱は激しくなり、紫外線は目に見えるどの色の光よりも波長が短いため、大気中で盛大に散らばります。
高校+この「短い波長ほど散乱が強い」は、空が青く見える理由(青い光が空全体に散らばる)とまったく同じ法則です。紫外線は青い光よりさらに散らばるので、空そのものが「見えない紫外線でぼんやり光っている」状態になっています。日陰にも届く散乱分の正体はこれです。
大学日焼けの生物学:光がDNAを傷つける
UV-Bのエネルギーは、皮膚の細胞のDNAに直接吸収され、隣り合う塩基どうしを誤って結合させます(チミンダイマーと呼ばれる損傷が代表例です)。細胞には修復酵素があり、大半は修復されますが、浴びる量が多いと追いつかず、炎症(赤くなる日焼け)や、長期的には突然変異の蓄積につながるとされています。肌が黒くなるのは、色素(メラニン)を増やしてDNAを紫外線から守ろうとする防御反応です。日焼け止めの成分は、紫外線を吸収する分子や、反射・散乱させる微粒子で、この攻撃を肌の手前で受け止めています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
紫外線と健康の関係には、単純に「浴びない方がよい」とは言い切れない難しさが残っています。
- 「どれだけ浴びるのが最適か」は決着していない。 紫外線は肌のダメージ源である一方、体がビタミンDを作るのに必要です。必要量は緯度・季節・肌の色で大きく変わり、「防ぎすぎ」によるビタミンD不足を指摘する研究もあって、最適なバランスの定量化は進行中の課題とされています。
- オゾン層の回復と紫外線の長期変化の監視が続いている。 国際的な規制でオゾン層は回復傾向とされますが、気候変動との相互作用で地域ごとの紫外線量が今後どう変わるかは、観測と予測の研究が続いています。
- 日焼け止め成分の環境影響の評価が進行中。 一部の紫外線吸収剤がサンゴなどの海の生き物に影響する可能性が報告され、地域によっては特定成分の使用を規制する動きもあります。影響の大きさの定量評価と、代替成分の開発が現在の研究テーマです。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。見えない光とのつき合い方は、物理と生物学と環境科学にまたがる、現在進行形の問いです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・光の性質 | 見える光と見えない光、雲でのさえぎられ方の違い |
| 高校 | 物理基礎・波の性質、生物基礎・体のしくみ | 波長と散乱、メラニンによる防御 |
| 高校+ | 物理・光の散乱(発展的内容) | 短波長ほど強く散乱=空の青と同じ法則 |
| 大学 | 光生物学・大気科学 | DNA損傷と修復、オゾン層と紫外線の関係 |
| 研究 | 公衆衛生・環境科学(未解決) | ビタミンDとの最適バランス、日焼け止めの環境影響 |
| ― | 生活とのつながり | UVインデックスの活用、SPFの読み方、雪面・日陰の注意 |
- 気象庁「紫外線の性質」「UVインデックスとは」(雲の透過率、散乱光の割合、雪面反射、季節・時刻による変化)。
- 世界保健機関(WHO)Global Solar UV Index: A Practical Guide(UVインデックスの定義と防護の目安)。
- 環境省「紫外線環境保健マニュアル」(UV-A/B/Cの性質、SPF・PAの意味、日焼け止めの使い方)。
- 光生物学の標準的な教科書・総説(チミンダイマーの形成とDNA修復、メラニンの光防御)。
- Downs, C. A. et al., Toxicopathological effects of the sunscreen UV filter oxybenzone, Archives of Environmental Contamination and Toxicology 70, 2016(紫外線吸収剤とサンゴへの影響の報告)。
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。肌の症状が強い場合や長引く場合は、皮膚科の受診をおすすめします。日焼け止めの選び方・使い方は、製品の説明と専門家の助言に従ってください。