日常のふしぎ エネルギー 予備知識なしでOK 読了 約7分

人が集まると、なぜ部屋が暑くなるの?
― 人ひとりは、いつも電球1個ぶん、約100ワットの熱を出しています

じっと座っているだけでも、人の体は約100ワットの熱を出し続けています。35人の教室なら、電気ストーブ3台ぶんです。しかも部屋の空気は、思っているよりずっと少しの熱で温まってしまいます。

公開:2026.11.03 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

冬の朝、だれもいない教室はひんやりしています。ところが全員がそろって1時間目が終わるころには、窓がくもり、なんだかむっとしています。

暖房の設定は変えていません。外の気温も、ほとんど変わっていません。

変わったのは、部屋の中にいる人の数だけです。では、人はいったいどれくらいの熱を出しているのでしょうか。

理由は2つだけ

1
人の体は、いつも約100ワットの「暖房」

食べ物から取り出したエネルギーは、最後にはほとんどが熱になって体から出ていきます。座っているだけでも約100ワットです。

2
部屋の空気は、熱をためる力がとても小さい

空気は軽いので、温めるのに必要な熱がわずかです。教室1つぶんの空気を1℃温める熱で、水なら55リットルほどしか温まりません。

大きな熱の出どころと、温まりやすい入れ物。この2つがそろうと、人数が増えただけで部屋の温度がはっきり上がります。順番に見ていきましょう。

100ワットは、どこから来るの?

大人が1日に食べるエネルギーは、およそ2000キロカロリーです。これを1日の秒数で割ると、1秒あたり約100ジュールになります。1秒に100ジュールのことを、100ワットといいます。

体はこのエネルギーで心臓を動かし、呼吸をし、体温を保っています。けれども外に向かって仕事をしない限り、使われたエネルギーは最後に熱として体から出ていきます。だから人は、昔の白熱電球1個くらいの熱を、寝ているあいだも出し続けています。

体を動かすと、この量はさらに増えます。歩くと2〜3倍、激しい運動では10倍近くになるとされています。

では、人数が増えるとどうなるでしょうか。図1を見てください。つまみで部屋にいる人数を変えられます。

部屋にいる人が出す熱の合計(1人 約100ワット) 合計 3500 ワット 1台 2台 3台 4台 5台 点線の目もり = 電気ストーブ(1台1200ワット)何台ぶんか 教室(たて8m・よこ8m・高さ3m)の空気だけを温めるとしたら 1℃上がるまで 約 66 秒 実際は壁や机も熱を吸い、換気でも逃げるので、上がり方はもっとゆるやかです
つまみを動かすと、熱の合計と、空気が1℃上がるまでの時間が変わります
図1:部屋にいる人が出す熱の合計。上の横棒が熱の合計で、縦の点線は電気ストーブ何台ぶんかの目もりです。35人では棒が3台目の点線のすぐ手前まで届きます。下の枠は、教室の空気だけを温めるとしたら1℃上がるのに何秒かかるかです。つまみで人数を減らすと棒が短くなり、時間はのびていきます。

空気は、なぜそんなにすぐ温まるの?

教室1つぶんの空気の重さは、およそ230キログラムです。大きく見えても、中身はとても軽いのです。

しかも空気は、同じ重さの水と比べて、約4分の1の熱で1℃温まります。軽いうえに温まりやすいので、教室全体の空気でも、熱をためる力は水55リットルぶんほどしかありません。

そこへ35人が3500ワットを注ぎこむと、空気だけなら約1分で1℃上がる計算になります。実際には壁や机、床が熱の多くを吸い取り、換気でも外へ逃げます。それでも1時間の授業で数℃上がることは珍しくないとされています。

暑いだけでなく、むしむしするのはなぜ?

体から出る熱には、出口が3つあります。図2を見てください。

座っている人の約100ワットは、3つの出口から出ていく(目安) 約100ワット ① 放射(目に見えない赤外線)約6割 → 壁・天井・机が温まり、そこから空気へ ② 対流(肌にふれた空気が温まる)約2割 → 部屋の空気の温度が、じかに上がる ③ 蒸発(息と肌から出る水分)約2割 → 温度ではなく湿度が上がる=むしむし
図2:座っている人の体から出る熱の行き先。左の人の形から右へのびる3本の矢印が出口です。上の矢印の放射がいちばん多く、中の矢印の対流、下の矢印の蒸発がそれに続きます。下の蒸発の分は、温度ではなく部屋の湿度を上げます。割合は室温や服装で大きく変わる目安です。

いちばん下の蒸発は、息や肌から水分が出ていくときに熱を持ち去るものです。この熱は温度計の目もりを上げず、部屋の湿度を上げます。人が集まった部屋で窓がくもるのは、この水分が冷たいガラスで水に戻るからです。

つまり人が集まると、温度と湿度が同時に上がります。むっとした感じは、この2つが重なったものです。

💡 冷房の設計では、人を「暖房器具」として数えます

建物の冷房を設計する人は、部屋に入る人数を必ず聞きます。1人あたり何ワットの熱と、どれだけの水分が出るかを数えて、冷房の強さを決めるからです。満員になるホールや電車では、真冬でも冷房が動いていることがあります。

まとめ

人の体は、食べたエネルギーを最後には熱として出す、約100ワットの暖房です。部屋の空気は軽くて熱をためにくいので、人が集まるだけで温度が上がります。出る熱の一部は水分として出ていくので、湿度も上がります。

人は、歩く100ワットの暖房。
35人集まれば、電気ストーブ3台がついているのと同じです。

体の中でエネルギーの2割を使っている臓器の話は「頭を使うとお腹がすくって本当?」に、寒いときに体が熱を増やすしくみは「寒いと体がガタガタ震えるのは、なぜ?」にまとめています。

🧪 家で確かめてみよう
  1. 温度と湿度が表示される温湿度計を、部屋の真ん中の机の上に置きます。
  2. ひとりで過ごしているときの温度と湿度をメモします。次に家族が集まって30分ほどたったら、もう一度メモします。
  3. 暖房や窓の開け閉めは、同じ条件のままにしておきます。温度と湿度のどちらが、どれくらい変わったかをくらべます。

部屋が小さいほど、人数が多いほど、変化ははっきり出ます。冬なら、窓ガラスのくもり方もいっしょに見てみてください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」「生物基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(環境生理学・建築設備工学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:35人の教室の空気は、何秒で1℃上がる?

1人が出す熱を食事の量から出し、それが教室の空気を温めるとしたら1℃上がるのに何秒かかるかを計算します。壁や家具が吸う熱と換気は、ここでは考えません。単位は、熱がジュール(J)、時間が秒(s)、出す熱の速さがワット(W)です。

⓪ もとになる式
記号で書くとt = ( ρ × V × c × ΔT ) ÷ ( N × P )
言葉で書くとかかる時間 = 空気を温めるのに必要な熱 ÷ 人が1秒に出す熱の合計
どこから来る式かエネルギーの保存。人が出した熱(N × P × t)が、すべて空気の温度上昇(ρ × V × c × ΔT)になるとおいた式です。1人の熱 P も、P = 1日の食事のエネルギー ÷ 1日の秒数、という同じ考え方で出します。
記号意味と単位
t空気が ΔT だけ温まるまでの時間(秒)
ρ空気の密度(キログラム毎立方メートル)
V部屋の体積(立方メートル)
c空気の比熱(1キログラムを1℃上げる熱、ジュール)
N部屋にいる人数
P1人が出す熱(ワット)
① もとになる数値
大人1人が1日に食べるエネルギー(目安)2000 kcal
1キロカロリーをジュールに直すと4.184 kJ
1日の秒数86400 s
教室の大きさたて 8 m、よこ 8 m、高さ 3 m
空気の密度(20℃前後)1.2 kg/m³
空気の比熱1000 J/(kg・℃)
水の比熱4.18 kJ/(kg・℃)
② 計算してみる
1日のエネルギーをキロジュールに2000 × 4.184 = 8368 kJ
ジュールに直す8368 × 1000 = 8368000 J
1秒あたり(1人の熱 P)8368000 ÷ 86400 ≒ 96.9 W
35人の合計(P を約100ワットとして)35 × 100 = 3500 W
教室の床面積8 × 8 = 64 m²
教室の体積 V64 × 3 = 192 m³
空気の重さ(ρ × V)192 × 1.2 = 230.4 kg
1℃上げるのに必要な熱(ρ × V × c)230.4 × 1000 = 230400 J
1℃上がるまでの時間 t230400 ÷ 3500 ≒ 65.8 s
同じ熱で温まる水の量230.4 ÷ 4.18 ≒ 55.1 kg

空気だけなら、35人がいるだけで約66秒に1℃のペースで温まる計算です。教室いっぱいの空気でも、熱をためる力はバケツ数杯ぶん、約55リットルの水と同じしかありません。実際の上がり方がこれよりずっとゆるやかなのは、壁や家具の熱容量が空気よりはるかに大きく、熱の大部分をそちらが受け止めるからです。

高校高校+体は、なぜエネルギーを熱にしてしまうの?

高校体は食べ物の糖や脂肪を呼吸で分解し、そのエネルギーをいったん体の中の「エネルギーの通貨」に移してから使います。この移しかえの効率は半分ほどで、残りはその場で熱になります。使われた分も、筋肉が外の物を持ち上げるなどの仕事をしない限り、最後は熱になります。

高校+体の大きさによって、1人の熱は変わります。体重あたりの熱は小さい動物ほど大きいことが知られ、体重の4分の3乗に比例するという経験則(クライバーの法則)があります。子どもばかりの教室と大人ばかりの会議室では、1人あたりの熱も少しちがいます。

大学人体の熱収支式と、空調の熱負荷計算

環境生理学では、体の熱のつり合いを「人体の熱収支式」で表します。代謝で作る熱から外への仕事を引いたものが、放射・対流・伝導・蒸発で出る熱と、体にたまる熱の合計に等しい、という式です。この式をもとに暑さ寒さの感じ方を予測するのが、ファンガーの快適方程式と予測平均温冷感申告(PMV)です。建築設備の分野では、人体からの熱を温度を上げる「顕熱」と水分として出る「潜熱」に分けて、熱負荷計算に入れます。図2の蒸発の分が、この潜熱にあたります。

📖 式の導出や、さらに先の内容:熱容量(ウィキペディア) / 基礎代謝(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。100ワットという数字も、体格や活動によって上下する目安だと考えてください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「電力と熱量」「エネルギーの保存」ワットとジュール、熱の量の計算
高校物理基礎「熱とエネルギー」、生物基礎「代謝」比熱と熱容量、呼吸で出る熱
高校+生物の発展(体の大きさと代謝)クライバーの法則
大学環境生理学、建築設備工学人体の熱収支式、顕熱と潜熱、熱負荷計算
研究温熱快適性の研究快適な室温の基準と個人差
―生活とのつながり人が集まる部屋の換気、冷暖房の設定、窓のくもり
参考・出典
  1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」(基礎代謝基準値・推定エネルギー必要量)
  2. 空気調和・衛生工学会『空気調和・衛生工学便覧』(人体からの発熱量)
  3. ASHRAE Handbook—Fundamentals(Nonresidential Cooling and Heating Load Calculations の章、人体発熱)
  4. Kingma, B. & van Marken Lichtenbelt, W. (2015) Energy consumption in buildings and female thermal demand. Nature Climate Change
  5. ウィキペディア「基礎代謝」

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。1人あたりの熱は体格・年齢・活動・服装によって大きく変わります。