自然のふしぎ 気象 予備知識なしでOK 読了 約7分

蔵王の樹氷は、なぜ風上に向かって育つの?
― 氷点下の雲の粒は、ぶつかった瞬間に凍ります

真冬の山に立ち並ぶ「スノーモンスター」。あれは雪が積もっただけのものではありません。氷点下でも凍らずに漂っていた雲の粒が、木にぶつかった瞬間に凍りつき、風の来る方向へ少しずつ伸びていったものです。

公開:2026.10.31 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

冬の蔵王や八甲田で、ロープウェイの窓の外に白い怪物の群れが現れます。写真やテレビで見たことがある人も多いでしょう。

近づいて見ると、枝の片側にだけ、エビのしっぽのようなギザギザの氷が並んでいます。反対側は、ほとんど何もついていません。

雪なら上から降るので、上に積もるはずです。なのに氷は横向きに、しかも決まった方角へだけ伸びています。いったい何が起きているのでしょうか。

理由は2つだけ

1
氷点下でも、雲の粒は水のまま

山を包む雲や霧の粒は、マイナス10℃を下回っても凍らずに漂っていることがあります。こうした粒は、何かにぶつかった瞬間に凍りつきます。

2
粒が当たるのは風上の面だけ

粒は風に運ばれて飛んでくるので、ぶつかるのは風の来る側だけです。しかも細くとがった所ほど粒をよく捕まえるので、氷は風上へ伸び続けます。

つまり樹氷は「積もった」のではなく、風が運んでくる水の粒を、木が正面から受け止めて「貼りつけた」ものです。順に見ていきましょう。

氷点下なのに、なぜ雲の粒は凍らないの?

水は0℃で凍ると習います。けれども、それは水の中に「氷になるきっかけ」があるときの話です。雲の粒はとても小さく、直径は0.01〜0.02ミリほどとされています。

粒が小さいと、中に氷のきっかけとなるちりが入っている確率が低くなります。そのため、マイナス10℃やマイナス20℃でも液体のまま浮いていられる粒が多いのです。これを過冷却(かれいきゃく)といいます。

過冷却の粒は、ちょっとした刺激で一気に凍ります。木の葉や枝に勢いよくぶつかるのは、まさにその刺激です。ぶつかった粒はその場で凍り、次の粒がその上にまた凍りつきます。

このとき、粒と粒のあいだに小さなすき間が残ります。だから樹氷は透明ではなく、空気を抱いた白い氷になります。冬の日本海から吹く北西の季節風は、海から水蒸気をたっぷり運んでくるので、山の上ではこうした粒が絶えず吹きつけます。

左が風上:過冷却の雲の粒が、風に乗って吹きつける 風(矢印) 雲の粒(点) 枝(断面) 右の風下側は 粒が回り込まず ほとんど付かない 風上へ伸びる氷(エビのしっぽ) 1時間に伸びる厚さ(目安) 約1.4 cm 半日で 約16 cm ※雲の水分・捕まる割合・氷の密度を一定と置いた概算(折りたたみの「式で確かめる」と同じ式)
つまみを動かすと、風上へ伸びる氷の長さが変わります
図1:枝を真横から見たところ。左の矢印が風で、点で描いた雲の粒が吹きつけます。粒は枝の左側(風上)にぶつかって凍り、先のとがった白い氷が左へ伸びていきます。右側(風下)にはほとんど付きません。つまみで風速を上げると、運ばれてくる粒が増え、半日で伸びる氷が長くなることが分かります。

図1を見てください。氷は枝の風上側にだけ付き、風に向かって伸びています。風が強いほど、1時間に運ばれてくる粒の数が増えるので、氷の伸びも速くなります。

なぜ氷は、風上へ「伸び続ける」の?

風に乗った粒は、ものの手前で空気といっしょに向きを変え、横をすり抜けようとします。ところが粒には重さがあるので、急に曲がりきれません。曲がりきれなかった粒だけが、ものの表面にぶつかります。

ここで大事なのが、ものの太さです。太い幹の前では、空気はずっと手前からゆるやかに曲がり始めます。小さな粒はその流れについていけるので、多くが幹をよけて通り過ぎます。

細い葉や小枝の前では、空気はすぐ目の前で急に曲がります。粒はついていけず、まっすぐ突っ込んでぶつかります。つまり、細いものほど粒をよく捕まえるのです(図2)。

左:太い幹 流れは手前から曲がり、粒もよけて通る 幹 点線=粒の通り道(多くが外れる) 右:細い葉や小枝 流れは直前で急に曲がり、粒は曲がりきれない ぶつかって凍る 点線=粒の通り道(まっすぐ当たる)
図2:太さによる違い。左の太い幹の前では、灰色の流れの線が手前から大きく曲がり、点線で描いた粒の通り道もそれに沿って幹をよけていきます。右の細い葉の前では、流れは直前で急に曲がるだけなので、点線の粒はまっすぐ進んでぶつかり、白い氷になります。

ここから、樹氷が風上へ伸び続けるしくみが見えてきます。ついた氷の先端は、それ自体が「細くとがった出っぱり」です。だから次の粒もまず先端に当たり、氷はますます風上へ突き出していきます。

こうして枝ごとにできたエビのしっぽの上に、今度は降ってきた雪がひっかかります。氷と雪がかわるがわる重なり、木は数メートルもある白いかたまりに変わっていきます。これが「スノーモンスター」の正体です。

💡 樹氷が見られる山は、意外と限られています

大きな樹氷ができるには、過冷却の粒を運ぶ強い季節風、ほどよい雪の量、そして葉が細かく雪をよく受け止める針葉樹(オオシラビソなど)がそろう必要があります。日本でも蔵王や八甲田、八幡平など、東北の一部の山に限られるとされています。

💡 樹氷の向きは、天然の風向計

エビのしっぽが向いている方向が、その冬いちばんよく吹いた風の来る方角です。冬山を歩く人のあいだでは、霧で見通しが悪いときに方角の手がかりにする、という話も知られています。

まとめ

樹氷は、氷点下でも凍らずに漂う雲の粒が、木にぶつかった瞬間に凍ってできます。粒は風に乗って飛んでくるので、当たるのは風上の面だけです。しかも細くとがった所ほど粒をよく捕まえるため、ついた氷の先端がさらに粒を集め、氷は風に向かって伸び続けます。

樹氷は、雪が積もったものではない。
風が運ぶ「凍りたがっている水」を、木が正面で受け止めた跡です。

0℃以下でも凍らない水のしくみは「水は0℃で凍ると習ったのに、なぜマイナス20℃でも凍らない水があるの?」で、冬の地面から氷が育つ別の現象は「霜柱は、なぜ土の中から生えてくるの?」で詳しく紹介しています。

🧪 冬の朝に、風上の跡を探してみよう
  1. 霧が出た寒い朝に、フェンスの金網や細い枝、電線の近くの草を観察します。白い氷の粒がついていないか探してみましょう。
  2. 氷がついていたら、どちら側に多いかを確かめます。スマートフォンの方位アプリで、その向きの方角も記録しておきます。
  3. 同じ場所で、細い針金と太い柱の両方を見くらべます。細いものほど氷が多くついているかどうかを見てみましょう。

平地でも、冷えこんだ霧の朝には小さな霧氷が見られることがあります。凍った道で転ばないよう、足もとに気をつけて観察してください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(雲物理学・流体力学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:樹氷は1時間にどれくらい伸びるの?

風が1秒間に枝へ運んでくる水の量を考え、それが氷になったら何センチの厚さになるかを見積もります。値はどれも目安で、実際の伸び方は天気によって大きく変わります。

⓪ もとになる式
記号で書くと(伸びる速さ)= E × w × v ÷ ρ
言葉で書くと1秒に伸びる厚さ = 捕まる割合 × 空気1立方メートル中の水の量 × 風速 ÷ 樹氷の密度
どこから来る式か風が面へ運んでくる水の重さ(水の量 × 風速)のうち、捕まった分がすべて氷になる、という重さの保存から。重さを密度で割ると体積、つまり厚さになります
① もとになる数値
記号意味と単位
w(雲の水の量)空気1立方メートルあたり 0.3 g(山の霧ではおよそ0.1〜0.5 gとされる)
v(風速)秒速 10 m
E(捕まる割合)0.5(細い葉や小枝での目安。太い幹ではずっと小さい)
ρ(樹氷の密度)1立方メートルあたり 400000 g(空気を含むため、ふつうの氷の半分以下とされる)
② 計算してみる
1秒に1平方メートルへ運ばれる水(g)0.3 × 10 = 3
そのうち捕まる量(g)3 × 0.5 = 1.5
1時間(3600秒)でたまる量(g)1.5 × 3600 = 5400
氷の厚さに直す(m)5400 ÷ 400000 = 0.0135
センチメートルに直す(cm)0.0135 × 100 = 1.35
1日(24時間)で伸びる長さ(cm)1.35 × 24 = 32.4

1時間に約1.4センチ、1日で30センチを超える計算です。ひと晩で、手のひらの幅を超える氷が風上へ伸びることになります。式から分かるとおり、伸びる速さは風速に比例します。図1のつまみは、この式をそのまま使っています。

高校高校+なぜ粒は凍らないのか、なぜ白くなるのか

高校水が凍るには、氷の小さな芽ができる必要があります。小さな粒ほど、その芽のもとになるちり(氷晶核)を含みにくく、過冷却のまま残りやすくなります。また、凍るときに出る熱(凝固熱)が周りの冷たい空気へすぐ逃げるので、ぶつかった粒は一瞬で凍ります。

高校+粒が一つずつ瞬時に凍ると、粒の形を残したまま積み重なり、すき間に空気が閉じこめられます。これが白く軽い樹氷(霧氷)です。気温が0℃に近く粒が大きいと、凍るのが間に合わずに広がってから凍るため、透明で重い氷になります。この氷は電線などに付くと重さで被害を生むことがあります。

大学粒を捕まえる効率とストークス数

粒が流れに沿って曲がれるかどうかは、流体力学のストークス数で表されます。これは「粒が向きを変えるのにかかる時間」と「流れが障害物の前で曲がる時間」の比です。ストークス数が1より十分大きいと粒はまっすぐ進んでぶつかり、小さいと流れに乗ってよけていきます。

障害物の太さは分母に入るので、太さが小さいほどストークス数は大きくなります。直径0.02ミリの粒と秒速10メートルの風で見積もると、太さ1ミリの針葉では1を大きく超え、太さ30センチの幹では0.05程度とされます。雲物理学ではこの捕まる割合を捕捉効率(衝突効率)と呼び、航空機や送電線の着氷予測にも同じ考え方が使われています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「ストークス数」 / ウィキペディア「過冷却」

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。粒が凍るしくみは確かでも、樹氷という景色がこの先どうなるかは、まだ見守っている最中です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「状態変化」「気象(季節風)」水が氷になること、冬の北西の季節風
高校地学「大気の構造・雲のでき方」過冷却の雲の粒、氷晶核
高校+物理「熱(凝固熱)」白い霧氷と透明な氷のちがい
大学流体力学・雲物理学ストークス数、捕捉効率、着氷
研究気候変動と山岳の生態系樹氷の分布の変化、森の再生
―生活とのつながり冬山の景色、風向きの手がかり、電線の着氷
参考・出典
  1. ウィキペディア「霧氷」(樹氷を含む)
  2. 小倉義光『一般気象学』東京大学出版会
  3. H. R. Pruppacher, J. D. Klett, Microphysics of Clouds and Precipitation, Springer
  4. 気象庁「予報用語」(霧氷・着氷の項)
  5. ウィキペディア「ストークス数」

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。冬山へ出かけるときは、現地の気象情報や施設の案内に従ってください。