自然のふしぎ 地球科学 予備知識なしでOK 読了 約6分

池や湖は凍るのに、海はなぜなかなか凍らないの?
― 冷えた海の水は、表面にとどまらずに沈んでいきます

「海がしょっぱいから」という答えは、半分しか合っていません。塩は凍る温度を2℃ほど下げるだけです。本当に効いているのは、冷えた海水が重くなって沈むことです。そのせいで海は、表面だけでなく深いところまでまとめて冷えないと、凍りはじめられません。

公開:2026.10.30 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

真冬の朝、公園の池に薄い氷が張っています。近くの田んぼの水たまりも、白く凍っています。

同じ日に海辺へ行くと、海はいつもどおり波を立てています。気温は同じように氷点下なのに、氷はどこにも見えません。

子どもに「なんで海は凍らないの?」と聞かれたら、どう答えますか。「しょっぱいから」で終わらせると、大事な半分を言いそびれます。

海が凍りにくい理由は、2つだけ

1
塩のせいで、凍る温度が約−1.9℃に下がる

水に何かがとけていると、水は凍りにくくなります。ふつうの海水では、凍りはじめる温度は0℃ではなく、およそ−1.9℃です。

2
冷えた海水は沈むので、表面だけ冷えることができない

池では、冷えた水が表面に浮いたまま凍ります。海では、冷えた水が重くなって沈み、下の水と入れかわります。海が凍るには、混ざっている層全体が冷えきる必要があります。

1つ目はよく知られています。でも2℃の差だけなら、寒い地方の海は毎冬あっさり凍るはずです。効き目が大きいのは2つ目のほうです。

池は「ふた」から凍り、海は「なべ全体」が冷えるまで待つ

真水には、ちょっと変わった性質があります。冷やしていくと4℃でいちばん重くなり、それより冷たくなると、かえって軽くなるのです。

冬の池では、まず全体が4℃前後まで冷えます。そのあと表面の水がさらに冷えても、軽いので沈みません。表面に薄い冷たい層ができ、そこだけが0℃になって凍ります。凍るのは「ふた」の部分だけでよいのです。

ところが、塩がとけると話が変わります。塩が多いほど、いちばん重くなる温度は下がっていきます。塩分が約2.5%を超えると、その温度が凍る温度よりも下になります。ふつうの海水の塩分は約3.5%なので、この境目をはっきり超えています。

つまり海水は、凍る直前まで「冷えるほど重くなる」ままです。表面で冷えた水はすぐに沈み、下から少し温かい水が上がってきます。図1のつまみを動かすと、この入れかわりの境目が見えます。

左:湖のタイプ(表面だけ冷えて凍る) 右:海のタイプ 4 2 0 −2 温度(℃) 0 1 2 3 水にとけている塩の量(%) 左はし=真水、右はし=ふつうの海水 上の線:水がいちばん重くなる温度 下の線:凍りはじめる温度 交わる点:塩分 約2.5%
凍る温度 −1.9 ℃ / いちばん重くなる温度 ― ℃ つまみを左へ動かすと、真水に近づき、2本の線の上下が入れかわります
図1:塩の量と、2つの温度の関係(近似)。左はしの真水では、上の実線(いちばん重くなる温度、約4℃)が、下の線(凍る温度、0℃)よりずっと上にあります。だから表面の冷たい水は浮いたまま凍ります。右側の色の濃い範囲では上の線が下の線をくぐり抜け、点線の部分は実際には現れません。冷えた水が凍る直前まで沈み続ける、という意味です。

海が凍るまでに、何が起きているの?

寒い風が海面を冷やすと、冷えた海水は沈み、下の水が上がってきます。この入れかわりは、塩分や温度が急に変わる深さまで続きます。そこまでの層を「混合層」と呼び、場所や季節によって数十メートルから数百メートルの厚さがあるとされています。

池なら、冷やすのは表面の薄い層だけでした。海では、深さ100メートルの水を丸ごと−1.9℃まで冷やさないと、表面に氷ができません。冷やさなければならない水の量が、けた違いに多いのです。図2に、池と海の違いを並べました。

左:池や湖(真水) 右:海(塩水) 表面に薄い氷(ふた) 0℃に近い水:軽いので浮いたまま 底には4℃の重い水がたまる 動かないので、冷えるのは上だけ 表面:まだ凍らない 左の矢印:冷えた水は 重くなって沈む 右の矢印:下の水が 上がってくる 混ざる層ぜんぶが冷えきるまで凍れない 冷やすのは表面の数センチでよい 冷やすのは数十〜数百メートル
図2:左の池では、冷えた水が表面に浮いたまま薄い氷のふたになります。右の海では、下向きの矢印のように冷えた水が沈み、上向きの矢印のように下の水が上がってきます。深いところまで混ざり続けるので、表面だけが先に凍ることができません。

それでも、北極や南極の海、そして北海道のオホーツク海沿岸では、海が凍ります。オホーツク海では、大きな川から流れこむ真水が表面に塩分のうすい層をつくります。このうすい層の下で塩分が急に濃くなるため、混ざる深さが浅く抑えられるとされています。冷やす水が少なくて済むので、北海道の沿岸は、北半球で流氷が見られる最も南の地域の1つとされています。

💡 海の氷は、あまりしょっぱくない

海水が凍るとき、水の分子だけが先に並んで氷になり、塩の多くは外へ押し出されます。そのため海の氷(海氷)は、もとの海水よりずっと塩分がうすくなります。押し出された濃い塩水は重いので沈んでいきます。これが、地球規模の深い海の流れを動かす力の1つと考えられています。

まとめ

海が凍りにくいのは、塩で凍る温度が約−1.9℃に下がることと、冷えた海水が沈んでしまうことの2つが理由です。池は表面の薄い層だけ冷えれば凍ります。でも海は、深いところまで混ざっている層全体を冷やしきらないと、表面に氷を張れません。「しょっぱいから」は入口で、本当の答えは「冷えた水が沈むから」です。

池は、ふただけ冷えれば凍る。
海は、なべごと冷えるまで凍れない。

真水が4℃でいちばん重くなることが、湖の中でどんな季節の動きを生むかは「湖の水は、秋になるとなぜ上と下が入れかわるの?」で詳しく紹介しています。塩が凍る温度を下げるしくみは「氷に塩をかけると、なぜ0℃より冷たくなるの?」、海がしょっぱい理由は「海の水はなぜしょっぱいの?」もどうぞ。

🧪 冷凍庫で、真水と塩水の凍り方をくらべてみよう
  1. 同じ形のコップを2つ用意し、片方に水だけ、もう片方に水200mLと塩小さじ1杯強(約7g、海水とほぼ同じ濃さ)を入れます。
  2. 2つを冷凍庫に並べ、30分ごとに表面を見ます。真水のほうが先に表面から凍りはじめるはずです。
  3. 塩水が凍ったら、とけかけの氷を少しなめてみます。最初にとけ出る水はしょっぱく、残った氷は思ったより塩味がうすいことがあります。

コップは浅いので、海のような深い混ざり方までは再現できません。確かめられるのは「凍る温度が下がる」ことと「塩が氷から押し出される」ことの2つです。冷凍庫の中のものを口にするときは、清潔なコップと食用の塩を使ってください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学」「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(海洋物理学・物理化学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:海水が凍る温度と、冷やすのにかかる日数

まず、海水の凍る温度がどこまで下がるかを式で出します。次に、混合層を1℃冷やすのに何日かかるかを見積もります。

⓪ もとになる式
記号で書くとΔT = Kf × m  (あわせて Q = M × c × Δθ)
言葉で書くと凍る温度の下がり幅 = 水の種類で決まる定数 × 水1kgにとけている粒の数(モル)。冷やすのに必要な熱 = 水の質量 × 比熱 × 下げる温度
どこから来る式かとけた粒が水の分子の「凍りやすさ」をうすめる効果で、とけた物の種類によらず粒の数だけで決まる(希薄溶液の性質)。熱の式は、エネルギーの保存から来る
① もとになる数値
水の凝固点降下定数 Kf1.86 ℃・kg/mol
海水にとけている粒(イオン)の総量 m水1kgあたり 約1.0 モルとされる
混合層の厚さ(ここでの仮定)100 m
海水1立方メートルの質量約1000 kg
水の比熱 c約4200 J/(kg・℃)
真冬の強い寒気で海面から逃げる熱(ここでの仮定)1平方メートルあたり 毎秒200 J
② 計算してみる
凍る温度の下がり幅1.86 × 1.0 = 1.86(℃)
海面1平方メートルの下にある混合層の水の質量100 × 1000 = 100000(kg)
その水を1℃冷やすのに奪う熱100000 × 4200 = 420000000(J)
かかる時間(秒)420000000 ÷ 200 = 2100000(秒)
日に直す2100000 ÷ 86400 ≒ 24(日)

凍る温度は 0 − 1.86、つまり約−1.9℃になり、実際の海水の値と合います。そして厚さ100mの混合層は、強い寒気の下でも1℃冷えるのに3週間以上かかる計算です。池の表面数センチなら、一晩で凍ることもあります。この量の差が、「海はなかなか凍らない」の正体です。

高校高校+粒の数で決まる性質と、塩で変わる密度

高校凝固点降下は、沸点上昇や浸透圧と同じく「束一的性質」の1つです。とけた物が何かではなく、粒の数で大きさが決まります。食塩は水中で2つのイオンに分かれるので、同じモル数の砂糖より約2倍よく効きます。

高校+図1の2本の線は、どちらも塩分にほぼ比例して下がる近似です。凍る温度は塩分1%あたり約0.54℃、いちばん重くなる温度は1%あたり約2.2℃下がります。後者のほうが傾きが大きいため、塩分約2.5%・約−1.3℃で2本が交わります。

大学海氷の形成と、熱塩循環

海洋物理学では、海面の冷却による沈みこみを「対流」として扱い、混合層の深さは冷却の強さ・風・塩分の層の構造で決まります。オホーツク海のように表層の塩分が低い海では、密度の段差(塩分躍層)が対流を浅く抑えます。海氷ができるときに押し出された濃い塩水(ブライン)は沈みこみ、南極周辺などでは深層水のもとになります。これが「熱塩循環」と呼ばれる、地球規模の海の循環の一部です。

📖 式の導出や、さらに先の内容:凝固点降下(ウィキペディア) / 熱塩循環(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。特に海氷と気候の関係は、これから数値が変わりうる分野です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・状態変化と密度水は4℃でいちばん重い、冷えた水が沈む
高校化学・希薄溶液の性質凝固点降下の式で−1.9℃を出す
高校+地学・海洋の構造混合層、塩分で変わる最大密度の温度
大学海洋物理学対流、塩分躍層、熱塩循環
研究気候と海氷の研究海氷の減少と深層循環
―生活とのつながり冬の海辺の景色、流氷の観光、冷凍庫での実験

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。混合層の厚さや海面から逃げる熱は、場所・季節・天候によって大きく変わります。