池や湖は凍るのに、海はなぜなかなか凍らないの?
― 冷えた海の水は、表面にとどまらずに沈んでいきます
「海がしょっぱいから」という答えは、半分しか合っていません。塩は凍る温度を2℃ほど下げるだけです。本当に効いているのは、冷えた海水が重くなって沈むことです。そのせいで海は、表面だけでなく深いところまでまとめて冷えないと、凍りはじめられません。
真冬の朝、公園の池に薄い氷が張っています。近くの田んぼの水たまりも、白く凍っています。
同じ日に海辺へ行くと、海はいつもどおり波を立てています。気温は同じように氷点下なのに、氷はどこにも見えません。
子どもに「なんで海は凍らないの?」と聞かれたら、どう答えますか。「しょっぱいから」で終わらせると、大事な半分を言いそびれます。
海が凍りにくい理由は、2つだけ
水に何かがとけていると、水は凍りにくくなります。ふつうの海水では、凍りはじめる温度は0℃ではなく、およそ−1.9℃です。
池では、冷えた水が表面に浮いたまま凍ります。海では、冷えた水が重くなって沈み、下の水と入れかわります。海が凍るには、混ざっている層全体が冷えきる必要があります。
1つ目はよく知られています。でも2℃の差だけなら、寒い地方の海は毎冬あっさり凍るはずです。効き目が大きいのは2つ目のほうです。
池は「ふた」から凍り、海は「なべ全体」が冷えるまで待つ
真水には、ちょっと変わった性質があります。冷やしていくと4℃でいちばん重くなり、それより冷たくなると、かえって軽くなるのです。
冬の池では、まず全体が4℃前後まで冷えます。そのあと表面の水がさらに冷えても、軽いので沈みません。表面に薄い冷たい層ができ、そこだけが0℃になって凍ります。凍るのは「ふた」の部分だけでよいのです。
ところが、塩がとけると話が変わります。塩が多いほど、いちばん重くなる温度は下がっていきます。塩分が約2.5%を超えると、その温度が凍る温度よりも下になります。ふつうの海水の塩分は約3.5%なので、この境目をはっきり超えています。
つまり海水は、凍る直前まで「冷えるほど重くなる」ままです。表面で冷えた水はすぐに沈み、下から少し温かい水が上がってきます。図1のつまみを動かすと、この入れかわりの境目が見えます。
海が凍るまでに、何が起きているの?
寒い風が海面を冷やすと、冷えた海水は沈み、下の水が上がってきます。この入れかわりは、塩分や温度が急に変わる深さまで続きます。そこまでの層を「混合層」と呼び、場所や季節によって数十メートルから数百メートルの厚さがあるとされています。
池なら、冷やすのは表面の薄い層だけでした。海では、深さ100メートルの水を丸ごと−1.9℃まで冷やさないと、表面に氷ができません。冷やさなければならない水の量が、けた違いに多いのです。図2に、池と海の違いを並べました。
それでも、北極や南極の海、そして北海道のオホーツク海沿岸では、海が凍ります。オホーツク海では、大きな川から流れこむ真水が表面に塩分のうすい層をつくります。このうすい層の下で塩分が急に濃くなるため、混ざる深さが浅く抑えられるとされています。冷やす水が少なくて済むので、北海道の沿岸は、北半球で流氷が見られる最も南の地域の1つとされています。
海水が凍るとき、水の分子だけが先に並んで氷になり、塩の多くは外へ押し出されます。そのため海の氷(海氷)は、もとの海水よりずっと塩分がうすくなります。押し出された濃い塩水は重いので沈んでいきます。これが、地球規模の深い海の流れを動かす力の1つと考えられています。
まとめ
海が凍りにくいのは、塩で凍る温度が約−1.9℃に下がることと、冷えた海水が沈んでしまうことの2つが理由です。池は表面の薄い層だけ冷えれば凍ります。でも海は、深いところまで混ざっている層全体を冷やしきらないと、表面に氷を張れません。「しょっぱいから」は入口で、本当の答えは「冷えた水が沈むから」です。
池は、ふただけ冷えれば凍る。
海は、なべごと冷えるまで凍れない。
真水が4℃でいちばん重くなることが、湖の中でどんな季節の動きを生むかは「湖の水は、秋になるとなぜ上と下が入れかわるの?」で詳しく紹介しています。塩が凍る温度を下げるしくみは「氷に塩をかけると、なぜ0℃より冷たくなるの?」、海がしょっぱい理由は「海の水はなぜしょっぱいの?」もどうぞ。
- 同じ形のコップを2つ用意し、片方に水だけ、もう片方に水200mLと塩小さじ1杯強(約7g、海水とほぼ同じ濃さ)を入れます。
- 2つを冷凍庫に並べ、30分ごとに表面を見ます。真水のほうが先に表面から凍りはじめるはずです。
- 塩水が凍ったら、とけかけの氷を少しなめてみます。最初にとけ出る水はしょっぱく、残った氷は思ったより塩味がうすいことがあります。
コップは浅いので、海のような深い混ざり方までは再現できません。確かめられるのは「凍る温度が下がる」ことと「塩が氷から押し出される」ことの2つです。冷凍庫の中のものを口にするときは、清潔なコップと食用の塩を使ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(海洋物理学・物理化学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 凝固点降下:水に物がとけると、凍りはじめる温度(凝固点)が下がる現象。
- 最大密度の温度:水がいちばん重く(密度が大きく)なる温度。真水では約4℃。
- 混合層:海の表面から、冷えた水の沈みこみや波で上下がよく混ざっている深さまでの層。
- 海氷(かいひょう):海水が凍ってできた氷。岸から離れて流れてくるものを流氷と呼ぶ。
中学高校式で確かめる:海水が凍る温度と、冷やすのにかかる日数
まず、海水の凍る温度がどこまで下がるかを式で出します。次に、混合層を1℃冷やすのに何日かかるかを見積もります。
| 記号で書くと | ΔT = Kf × m (あわせて Q = M × c × Δθ) |
| 言葉で書くと | 凍る温度の下がり幅 = 水の種類で決まる定数 × 水1kgにとけている粒の数(モル)。冷やすのに必要な熱 = 水の質量 × 比熱 × 下げる温度 |
| どこから来る式か | とけた粒が水の分子の「凍りやすさ」をうすめる効果で、とけた物の種類によらず粒の数だけで決まる(希薄溶液の性質)。熱の式は、エネルギーの保存から来る |
| 水の凝固点降下定数 Kf | 1.86 ℃・kg/mol |
| 海水にとけている粒(イオン)の総量 m | 水1kgあたり 約1.0 モルとされる |
| 混合層の厚さ(ここでの仮定) | 100 m |
| 海水1立方メートルの質量 | 約1000 kg |
| 水の比熱 c | 約4200 J/(kg・℃) |
| 真冬の強い寒気で海面から逃げる熱(ここでの仮定) | 1平方メートルあたり 毎秒200 J |
| 凍る温度の下がり幅 | 1.86 × 1.0 = 1.86(℃) |
| 海面1平方メートルの下にある混合層の水の質量 | 100 × 1000 = 100000(kg) |
| その水を1℃冷やすのに奪う熱 | 100000 × 4200 = 420000000(J) |
| かかる時間(秒) | 420000000 ÷ 200 = 2100000(秒) |
| 日に直す | 2100000 ÷ 86400 ≒ 24(日) |
凍る温度は 0 − 1.86、つまり約−1.9℃になり、実際の海水の値と合います。そして厚さ100mの混合層は、強い寒気の下でも1℃冷えるのに3週間以上かかる計算です。池の表面数センチなら、一晩で凍ることもあります。この量の差が、「海はなかなか凍らない」の正体です。
高校高校+粒の数で決まる性質と、塩で変わる密度
高校凝固点降下は、沸点上昇や浸透圧と同じく「束一的性質」の1つです。とけた物が何かではなく、粒の数で大きさが決まります。食塩は水中で2つのイオンに分かれるので、同じモル数の砂糖より約2倍よく効きます。
高校+図1の2本の線は、どちらも塩分にほぼ比例して下がる近似です。凍る温度は塩分1%あたり約0.54℃、いちばん重くなる温度は1%あたり約2.2℃下がります。後者のほうが傾きが大きいため、塩分約2.5%・約−1.3℃で2本が交わります。
大学海氷の形成と、熱塩循環
海洋物理学では、海面の冷却による沈みこみを「対流」として扱い、混合層の深さは冷却の強さ・風・塩分の層の構造で決まります。オホーツク海のように表層の塩分が低い海では、密度の段差(塩分躍層)が対流を浅く抑えます。海氷ができるときに押し出された濃い塩水(ブライン)は沈みこみ、南極周辺などでは深層水のもとになります。これが「熱塩循環」と呼ばれる、地球規模の海の循環の一部です。
📖 式の導出や、さらに先の内容:凝固点降下(ウィキペディア) / 熱塩循環(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 海氷が減ると、深い海の流れはどう変わるか。 海氷ができる量が減ると、沈みこむ濃い塩水も減ります。深層の循環がどれくらい弱まるかは、観測と計算の両方で調べられている最中です。
- オホーツク海の海氷の将来。 流氷の量は長い目で見て減る傾向にあるとされますが、年ごとの変動も大きく、川の水や風の変化がどう効くかは研究が続いています。
- 氷の中の塩水の通り道。 海氷の中には細い塩水の通り道が網の目のように残ります。その形が熱や生き物の暮らしにどう影響するかは、まだ細かくは分かっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。特に海氷と気候の関係は、これから数値が変わりうる分野です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・状態変化と密度 | 水は4℃でいちばん重い、冷えた水が沈む |
| 高校 | 化学・希薄溶液の性質 | 凝固点降下の式で−1.9℃を出す |
| 高校+ | 地学・海洋の構造 | 混合層、塩分で変わる最大密度の温度 |
| 大学 | 海洋物理学 | 対流、塩分躍層、熱塩循環 |
| 研究 | 気候と海氷の研究 | 海氷の減少と深層循環 |
| ― | 生活とのつながり | 冬の海辺の景色、流氷の観光、冷凍庫での実験 |
- ウィキペディア「凝固点降下」
- ウィキペディア「海氷」
- ウィキペディア「流氷」
- ウィキペディア「熱塩循環」
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(海水の物性)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。混合層の厚さや海面から逃げる熱は、場所・季節・天候によって大きく変わります。