🧊 台所の化学 🌡 熱の出入り 予備知識なしでOK 読了 約7分

氷に塩をかけると、
なぜ0℃より冷たくなるの?

氷の温度は0℃です。それ以上冷たくはなりません。ところが塩をふりかけるだけで、マイナス20℃近くまで下がります。冷凍庫も電気も使わずに、です。しかもこれは、冬の道路にまく融雪剤とまったく同じ現象です。溶かすための塩が、なぜ冷やすことにも使えるのでしょう。

公開:2026.08.16 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんなことを考えてみてください

コップに氷を入れて、温度計を差し込みます。しばらく置くと、温度は0℃で止まります。まわりが暑い日でも、氷が残っているあいだは0℃のままです。

ここに塩をひとつかみ入れて、かき混ぜます。すると温度計の数字が、するすると下がっていきます。マイナス5℃、マイナス10℃。うまくやればマイナス20℃近くまで落ちます。

塩は冷たくありません。台所の常温に置いてあったものです。冷たいものを足したわけでもないのに、全体はより冷たくなりました

熱はどこへ行ったのでしょうか。答えは「氷が融けることに使われた」です。

1
塩は、氷が融ける温度を引き下げる

塩水は0℃では凍りません。だから塩をかけられた氷は、0℃より低い温度でも融けはじめます。ふつうなら融けない寒さでも、融け続けます。

2
氷が融けるとき、まわりから熱を奪う

固体が液体になるには、たくさんの熱が要ります。その熱はまわりから奪われます。融け続ける限り、奪われ続けます。

この2つが組み合わさります。「融ける温度を下げる」ことで「融け続ける状態」を作り、その融解が熱を奪い続ける。だから温度がどんどん下がります。順に見ていきましょう。

氷だけ氷+塩 0℃ 氷が残っているあいだ ずっと0℃のまま 0℃では、もう融けない = 熱を奪う動きが止まる まわりの 熱を奪う −20℃ 塩のせいで、0℃以下でも 氷が融け続ける 融けるあいだ、熱を奪い続ける = 温度が下がっていく 塩は冷たくない (常温のまま)
図1:左は氷だけ。0℃になると融けるのが止まるので、温度もそこで止まります。右は塩を加えた場合。塩が凍る温度を引き下げるので、0℃を下回っても氷は融け続けます。融けるたびにまわりから熱が奪われる(赤い矢印)ので、温度は下がり続けます。加えた塩そのものは常温です。

そもそも、なぜ氷は0℃で止まるのか

固体が液体に変わるには、大量の熱が必要です。氷を1グラム融かすには、同じ量の水を0℃から80℃近くまで温めるのと同じくらいの熱が要ります。

この熱は、まわりから奪われます。だから氷を入れた飲み物は冷たくなります。氷が「冷たいから」冷えるのではなく、氷が「融けるから」冷えるのです。

ただし、氷が融けられるのは0℃までです。0℃になると、それ以上は融けません。融けなければ熱も奪いません。だから温度は0℃で止まります。0℃という壁は、「もう融けられない」という壁なのです。

塩は、その壁をずらす

塩水は、0℃では凍りません。海の水が真冬でもなかなか凍らないのと同じです。水に何かが溶けていると、凍る温度が下がります。

氷に塩をかけると、氷の表面のわずかな水に塩が溶けて、濃い塩水ができます。この塩水は、0℃どころかマイナス10℃でも液体のままでいられます。

すると、氷から見れば「まだ融けられる」状態が続きます。マイナス5℃でも融ける。マイナス10℃でも融ける。融け続ける限り、熱は奪われ続けます。

こうして温度は下がっていきます。どこまでも下がるわけではなく、塩水がついに凍る温度まで来ると止まります。食塩の場合、その限界はおよそマイナス21℃とされています。

💡 よくある説明の誤り:「塩が溶けるとき熱を奪うから」

「塩が水に溶けるときに熱を吸収するので冷える」という説明を見かけますが、これは主な理由ではありません。

食塩が水に溶けるときの熱の出入りは、ごくわずかです。マイナス20℃まで下げられるほどの量ではありません。実際に熱を奪っているのは、氷が融けることのほうです。塩の役割は、熱を奪うことではなく、氷が融け続けられる状況を作ることです。

証拠もあります。塩だけを水に入れても、ほとんど冷えません。氷がなければ、この現象は起きないのです。

塩は冷やしていません。
氷に「融け続けろ」と命じているだけです。

同じ塩が、道路では氷を「溶かす」役をする

ここで疑問が出ます。冬の道路にまく融雪剤も塩です。あちらは氷を溶かすためにまくのに、こちらは冷やすために使う。矛盾しているように見えます。

しかし、起きていることはまったく同じです。塩は「凍る温度を下げる」だけ。あとは、目的の違いです。

A
道路では「溶かす」ことが目的

気温がマイナス5℃なら、ふつう氷は溶けません。でも塩をまけば、その温度でも溶けるようになります。路面から氷がなくなるので、目的は達成です。

B
アイス作りでは「冷やす」ことが目的

同じことが起きていますが、注目するのは奪われた熱のほうです。融ける過程で周囲が冷えるので、その冷たさを利用します。

つまり「溶かす」と「冷やす」は、同じ現象の別々の側面です。氷が溶けるとき、必ずまわりは冷えています。道路でも、塩をまいた場所の周囲はいったん冷えています。ただ、そちらは誰も気にしないというだけです。

🔎 融雪剤について知っておくとよいこと

台所で確かめられること

🧪 20分でできる観察:電気を使わずにアイスを作る
  1. 小さめのジッパー袋に、牛乳100 mL・砂糖大さじ1ほどを入れ、空気を抜いてしっかり閉じる
  2. 大きめのジッパー袋に、氷をたっぷりと、塩を大さじ3〜4入れる
  3. 小さい袋を大きい袋の中に入れ、大きい袋も閉じる
  4. タオルで包んで(手が凍傷になるのを防ぐため)、10〜15分ふり続ける
  5. 中身が固まったら完成。ふる前とふった後で、外側の袋の温度を測ってみると、氷点下まで下がっているのがわかります

冷凍庫を使わずにアイスができます。塩を入れずに同じことをすると、0℃までしか下がらないのでいつまでも固まりません。両方試すと違いがはっきりします。素手で長時間持たないでください(マイナス20℃近くになるため、凍傷の危険があります)。塩水は飲まず、そのまま排水してください。

まとめ

氷に塩をかけると冷たくなるのは、塩が冷たいからでも、塩が熱を吸うからでもありません。塩が「凍る温度」を引き下げることで、本来なら止まるはずの融解を続けさせ、その融解がまわりから熱を奪い続けるからです。

道路の氷を溶かすことと、アイスを冷やすこと。
同じ現象を、反対側から見ているだけです。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学基礎」「物理基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:冷たさをめぐる言葉

高校式で確かめる:なぜ砂糖ではなく、塩なのか

「氷に塩」は誰でも知っていますが、砂糖ではだめなのかという疑問はあまり語られません。これは計算で決着がつきます。

① まず、式そのもの

ΔT = K × m × i

ΔT 凍る温度の下がり単位は ℃
K 水で決まっている定数1.86(水1 kgあたり)
m 溶かした量単位は mol(水1 kgあたり)
i 水の中でいくつに分かれるか食塩は2、砂糖は1

ここで見てほしいのは、式に「重さ」ではなく「粒の数」が入っていることです。効くのは何グラム入れたかではなく、水の中に粒がいくつ散らばったかだけ。何の粒かは関係ありません。

そして i の意味が効きます。食塩は水の中でナトリウムと塩素に分かれるので、1粒入れると2粒になります。砂糖は分かれないので1粒のままです。

② 食塩を100 g 入れたとき
食塩1 mol の重さ約 58.5 g
100 g は何 mol か100 ÷ 58.5 ≒ 1.71 mol
分かれる数i = 2
式に入れるΔT = 1.86 × 1.71 × 2
答えΔT ≒ 6.4 ℃ 下がる
③ 同じ100 g を、砂糖でやってみる
砂糖1 mol の重さ約 342 g
100 g は何 mol か100 ÷ 342 ≒ 0.29 mol
分かれる数i = 1
式に入れるΔT = 1.86 × 0.29 × 1
答えΔT ≒ 0.54 ℃ しか下がらない

差は 6.4 ÷ 0.54 ≒ 12 倍です。同じ100 g を入れたのに、これだけ違います。

理由は式の2か所にあります。ひとつは、砂糖の粒が重いので、同じ100 gでも粒の数が6分の1しかないこと。もうひとつは、砂糖は水の中で分かれないので、さらに2分の1になること。この2つが掛かって、約12倍の差になります。

「塩がいい」のではありません。「軽くて、水の中で分かれるものがいい」のです。式を見なければ、この言い換えは出てきません。

④ 式が合わなくなるところ

ここで正直に書いておきます。実際の寒剤は −21℃ ほどまで下がります。②で出した −6.4℃ とは、まるで合いません。

式が間違っているのではなく、使える範囲を外れています。この式は薄い溶液で成り立つ近似で、塩が濃くなると、粒どうしが互いに影響しあってずれていきます。塩を増やし続けても −21℃ 付近で止まるのも、この式では説明できません(次の節の共晶点の話です)。

食塩 100 g/水 1 kg の計算値約 −6.4 ℃
食塩を限界まで入れたときの実測約 −21 ℃ とされています

式には必ず「使える範囲」があります。合わなかったときに、式を疑うのか、範囲を疑うのか。ここを見分けられるようになると、計算が道具として使えるようになります。

おまけ:氷100 gが融けるときに奪う熱
氷100 gの融解熱334 × 100 = 33400 J
水100 gを1℃下げる熱4.2 × 100 = 420 J
何度ぶん下げられるか33400 ÷ 420 ≒ 80 ℃ぶん

※ 値は代表的な目安です。冷たさの主役が「融けること」であって「塩が溶けること」ではない、という差がここに出ています。

高校高校+なぜ溶けていると凍りにくいのか

水が凍るとは、水分子が規則正しく並んで結晶を作ることです。ここに別の粒子が混じっていると、並ぼうとする水分子の邪魔になります。結果として、より低い温度まで冷やさないと結晶ができません。

面白いのは、この効果の大きさが「何が溶けているか」ではなく「どれだけの数の粒子が溶けているか」で決まることです。砂糖でも塩でも、同じ数の粒子なら同じだけ下がります。こうした性質を束一的性質(そくいつてきせいしつ)と呼びます。

ここで塩が有利になります。NaCl は水の中で Na⁺Cl⁻ の2つに分かれるので、同じ量でも粒子の数が2倍になります。砂糖は分かれないので1個のままです。融雪剤に塩が使われるのは、安いことに加えて、この効率のよさがあります。

高校+式で書くと ΔTf = Kf × m × iKf は水では約 1.86 K·kg/mol、m は質量モル濃度、i は分かれてできる粒子の数(食塩では理想的には2)です。

大学限界がある理由 ― 共晶点

塩を増やせば増やすほど下がる、というわけにはいきません。塩水を冷やしていくと、まず氷が分離して残った液は濃くなります。濃くなるほど凝固点はさらに下がりますが、ある濃度・ある温度で、氷と塩の結晶が同時に析出しはじめます。この点が共晶点で、食塩水では約 −21.1℃、塩の質量割合およそ23% とされています。ここから先は、混合物全体が固まってしまうため、それ以上冷やす働きは得られません。

また、上に挙げた ΔTf = Kf·m·i の式は希薄な溶液でしか正確ではありません。濃い塩水ではイオンどうしが影響し合い、実効的な i は2より小さくなります。厳密な扱いには活量という概念が必要になり、状態図(相図)を使って議論します。

研究まだ決着していないこと

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・状態変化と熱/溶解融解に熱が要ること、氷が0℃で止まる理由
高校化学基礎・物質量/物理基礎・熱量と比熱融解熱の計算、80℃ぶんに相当するという比較
高校化学・溶液の性質(凝固点降下)束一的性質、電解質で粒子数が2倍になること
高校+化学・希薄溶液の束一的性質ΔTf = Kf・m・i の式
大学物理化学・相平衡共晶点、状態図、活量、式が成り立たなくなる条件
研究表面科学・低温生物学(未解決)氷表面の液体層、氷が滑る理由、不凍タンパク質
参考・出典
  1. Atkins, P. & de Paula, J., Physical Chemistry(凝固点降下、束一的性質、相図と共晶点)。
  2. Dash, J. G., Rempel, A. W. & Wettlaufer, J. S., The physics of premelted ice and its geophysical consequences, Reviews of Modern Physics 78, 695–741, 2006(氷の表面融解)。
  3. Rosenberg, R., Why is ice slippery?, Physics Today 58(12), 50–55, 2005(圧力融解説が不十分であることの解説)。
  4. 国土交通省および各道路管理者による、凍結防止剤の散布と環境影響に関する資料。
  5. Davies, P. L., Ice-binding proteins: a remarkable diversity of structures for stopping and starting ice growth, Trends in Biochemical Sciences 39(11), 548–555, 2014(不凍タンパク質)。

※ 融解熱・共晶点などの数値は、条件や測定方法によって幅があります。本記事では一般に用いられる目安を示しました。

※本記事は一般向けの科学解説です。観察を行う際は、氷と塩の混合物が氷点下まで下がるため、素手で長時間触れないでください。凍結防止剤の散布については、道路管理者および自治体の案内に従ってください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。