自然のふしぎ 熱 予備知識なしでOK 読了 約7分

ゾウは、なぜ大きな耳をパタパタさせるの?
― 耳は、体の熱を捨てる「放熱板」です

ゾウの大きな耳は、音を聞くためだけのものではありません。あの薄い耳には血管がびっしり通っていて、あおぐたびに血の熱を風へ逃がしています。体が大きすぎて熱がこもり、しかも汗をほとんどかけない動物ならではの工夫です。

公開:2026.10.29 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

動物園のゾウ舎の前。ゾウが大きな耳を、ゆっくりパタン、パタンと前後に振っています。

虫を追いはらっているのかな、と思いますよね。たしかにそれもあります。でもよく見ると、暑い日の午後ほど、耳を動かす回数が増えていることに気づくはずです。

ゾウはいったい、耳で何をしているのでしょうか。

理由は2つだけ

1
大きな体ほど、熱がこもる

熱は体の中身で作られ、体の表面から逃げていきます。体が大きくなると、中身の増え方に表面の増え方が追いつきません。しかもゾウは、汗をほとんどかけない体です。

2
耳は、薄くて広い「放熱板」

ゾウの耳は薄い皮膚の板で、裏側には太い血管が浮き出ています。そこを流れる血が、耳をあおいで起こした風に熱を渡し、少し冷えて体へ戻っていきます。

順番に見ていきましょう。

体が大きいと、なぜ熱がこもるの?

サイコロを思い浮かべてください。辺の長さを2倍にすると、表面の広さは2×2で4倍になります。ところが中身の量は2×2×2で8倍です。図1を見てください。大きくするほど、中身にくらべて表面が足りなくなっていきます。

動物の体も同じです。熱を作るのは筋肉や内臓といった「中身」で、熱を捨てるのは皮膚という「表面」です。小さなネズミは表面が広すぎて、熱がどんどん逃げてしまいます。逆にゾウは、作った熱をなかなか捨てられません。

人は暑いと汗をかき、それが蒸発するときに熱を奪ってもらいます。ところがゾウには、汗を出す腺がほとんど無いとされています。体重5トンほどの大きな体で、汗という強力な冷房が使えないのです。

大きくするほど、中身にくらべて表面が足りなくなる 長さ 1 表面 6 / 中身 1 中身1あたりの表面 6 長さ 2 表面 24 / 中身 8 中身1あたりの表面 3 長さ 4 表面 96 / 中身 64 中身1あたりの表面 1.5
図1:左から右へ、立方体を大きくしていったところ。いちばん下の行が「中身1あたりの表面」で、6、3、1.5と半分ずつ減っていきます。熱を作る中身にくらべて、熱を捨てる表面が足りなくなるということです。右の大きな立方体がゾウ、左の小さな立方体がネズミの立場です。

耳は、どうやって熱を捨てているの?

そこで役に立つのが耳です。アフリカゾウの耳は、片方だけで大人の背丈ほどもある大きな板です。厚みは薄く、裏側には太い血管が木の枝のように広がっています。

温かい血がこの広い板を通るあいだに、まわりの空気へ熱を渡します。耳をあおげば、温まった空気がすぐに入れかわり、新しい空気がまた熱を受け取ります。うちわであおぐと涼しいのと同じしくみです。冷えた血は体へ戻り、体の中をめぐって、また熱を集めてきます。

ここで大事なのは、耳から熱が逃げるのは「耳がまわりの空気より温かいとき」だけだ、という点です。図2のつまみで、まわりの気温を変えてみてください。

15℃ 25℃ 35℃ 45℃ 差 10℃ 耳の表面 まわりの空気 点線=耳の表面の35℃ 耳から逃げる熱(耳をあおいだとき) 0 1600ワット およそ 800 ワット 休んでいる体が作る熱(約2000ワット)に対して 40% 気温が35℃をこえると、値はマイナス (耳から熱が逃げず、逆に入ってくる)
つまみを動かすと、耳と空気の温度差と、耳から逃げる熱の量が変わります
図2:左の2本の棒は、耳の表面(左、35℃のまま)とまわりの空気(右)の温度です。2本の高さの差が、熱の逃げやすさを決めます。右の横棒は、耳から逃げる熱の量の見積もりです。つまみで気温を上げると、右の棒が左の点線に近づいて温度差が縮み、横棒も短くなることが分かります。

気温25℃なら、耳から逃げる熱は、休んでいる体が作る熱の4割ほどにもなる計算です(計算は最後の折りたたみにあります)。ところが気温33℃では、それが1割にも届きません。気温が耳の温度をこえると、耳は熱を捨てるどころか、まわりから熱をもらう側に回ってしまいます。

そのため、本当に暑い日のゾウは、耳だけに頼りません。水を浴び、泥を体に塗りつけます。ゾウの皮膚には細かいひび割れが網の目のように走っていて、そこに水や泥が長くとどまることが分かっています。汗の代わりに、外から持ってきた水を蒸発させているのです。

💡 暑い土地の動物ほど、耳が大きい

アフリカの草原に住むアフリカゾウは、森の多いアジアに住むアジアゾウより、ずっと大きな耳を持っています。砂漠のフェネックギツネや、北アメリカの乾いた土地のジャックウサギも、体の割にとても大きな耳です。逆に、寒い北極のホッキョクギツネの耳は小さく丸く、氷河期の寒い土地にいたマンモスの耳も、今のゾウよりずっと小さかったとされています。

💡 寒いときは、耳の血を止める

耳がいつも熱を捨てていたら、寒い夜には体が冷えすぎてしまいます。ゾウは耳へ向かう血管を細めたり広げたりして、流れる血の量を調節できると考えられています。赤外線カメラで撮ると、同じゾウでも耳が明るく光るときと、暗く冷えているときがあります。

まとめ

ゾウは、体が大きすぎて熱がこもりやすく、しかも汗をほとんどかけません。そこで、血管の通った薄くて広い耳を、うちわのようにあおいで血を冷やしています。ただし耳が役に立つのは、空気が耳より冷たいときだけです。それより暑い日は、水浴びと泥浴びに切りかえます。

ゾウの耳は、聞くための道具であると同時に、
大きな体の熱を捨てるための「放熱板」です。

体の大きさと熱の関係は小さい動物ほど、なぜ食べ続けないと生きられないの?で、汗をかけない動物のもう1つの冷やし方は犬は、なぜ舌を出してハアハアするの?で、逆に熱を逃がさない血の流し方はカモは氷の池に立っていても、なぜ足が凍らないの?で紹介しています。

🧪 自分で確かめてみよう
  1. 動物園でゾウを見るとき、気温の高い午後と、涼しい朝とで、耳を1分間に何回振るか数えてみましょう。
  2. 暑い日に、手の甲をうちわであおいでみてください。汗をかいていない状態でも、あおぐと涼しく感じます。動いた空気が熱を運んでいくからです。
  3. 次に、同じ手の甲を少しぬらしてからあおぎます。ぬれていないときよりずっと冷たく感じるはずです。これがゾウの水浴び・泥浴びの効き目です。

動物園では、柵の外から観察しましょう。ゾウの耳を振る回数は、気温だけでなく、風の強さや、そのときの機嫌でも変わります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(動物生理学・伝熱工学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:耳からどれくらいの熱が逃げるの?

耳から空気へ逃げる熱の量を、いちばん基本の式で見積もります。耳の広さや風の当たり方は個体や状況で変わるので、ここでの数値は「しくみを知るための目安」です。

⓪ もとになる式
記号で書くとQ = h × A × (T耳 − T空気)
言葉で書くと逃げる熱 = 熱の伝わりやすさ × 耳の広さ × 耳と空気の温度差
どこから来る式か表面から空気へ移る熱は、温度差と広さに比例する、という経験則(ニュートンの冷却の法則)。風が強いほど熱の伝わりやすさが大きくなる
記号意味と単位
Q1秒あたりに耳から逃げる熱(単位はワット)
h熱の伝わりやすさ(1平方メートル・1℃あたり何ワットか)
A耳の表面の広さ(両耳の表と裏の合計、平方メートル)
T耳、T空気耳の表面の温度と、まわりの空気の温度(℃)
① もとになる数値
熱の伝わりやすさ(耳をあおいで風を受けるとき、見積もりに使う値)1平方メートル・1℃あたり 20 ワット
耳の表面の広さ(大きなアフリカゾウを想定した仮の値)4 平方メートル
耳の表面の温度(血管が広がっているとき)35 ℃
まわりの気温25 ℃
体重5トンのゾウが休んでいるときに作る熱(見積もり)およそ 2000 ワット
② 計算してみる
耳と空気の温度差35 − 25 = 10
伝わりやすさ × 広さ20 × 4 = 80
耳から逃げる熱(ワット)80 × 10 = 800
体が作る熱に対する割合800 ÷ 2000 = 0.4
気温33℃のときの温度差35 − 33 = 2
そのとき逃げる熱(ワット)80 × 2 = 160
体が作る熱に対する割合160 ÷ 2000 = 0.08

気温25℃なら、耳だけで体の熱の4割ほどを捨てられる計算です。電気ストーブ1台に近い熱を、耳から出し続けているイメージです。ところが気温が33℃になると、同じ耳でも1割に届きません。暑くなるほど耳を振る回数が増えるのは、伝わりやすさを少しでも上げて、縮んでいく温度差を補おうとしているのだと考えられます。

高校高校+体の大きさと、熱のつり合い

高校恒温動物の体温は、体の中で作られる熱と、外へ捨てる熱がつり合うことで保たれています。暑い環境では、汗や呼吸で水を蒸発させる「蒸発による放熱」と、皮膚から空気へ熱を渡す放熱を組み合わせます。気温が皮膚の温度に近づくと後者は効かなくなり、蒸発だけが頼りになります。

高校+体の長さが何倍かになると、表面積はその2乗、体積は3乗で増えます。これを二乗三乗の法則と呼ぶことがあります。体積あたりの表面積(比表面積)は、体が大きいほど小さくなります。実際の動物では、体重あたりの熱の生産も大きい動物ほど少なくなりますが、それでも表面の減り方には追いつかないとされています。

大学熱伝達率と、耳の中の血の流れ

上の式の伝わりやすさは、伝熱工学では熱伝達率と呼ばれ、風の速さや板の大きさから、ヌセルト数やレイノルズ数を使って見積もります。耳をあおぐと、耳のまわりの空気の流れが強制対流になり、熱伝達率が大きくなります。また動物生理学では、ゾウの耳のように血流を変えて放熱量を調節できる部位を「熱の窓」と呼び、赤外線による体表温度の測定で調べられています。体の大きさと代謝量の関係は、クライバーの法則として知られています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ニュートンの冷却の法則(ウィキペディア) / 熱伝達率(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。上の計算も、仮の値を置いた見積もりにすぎません。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「熱の伝わり方」「動物のなかま」対流による熱の移動、恒温動物
高校生物「恒常性」、物理「熱」熱のつり合いで体温が保たれること
高校+生物の発展(生物の地理的な変異)アレンの法則、二乗三乗の法則
大学動物生理学、伝熱工学熱伝達率、強制対流、熱の窓
研究動物の体温調節の研究耳の放熱の割合、血流の調節
―生活とのつながりうちわ・扇風機が涼しい理由、ぬれた肌があおぐと冷える理由
参考・出典
  1. Phillips, P. K. & Heath, J. E. (1992) Heat exchange by the pinna of the African elephant (Loxodonta africana). Comparative Biochemistry and Physiology Part A
  2. Weissenböck, N. M. et al. (2010) Thermal windows on the body surface of African elephants (Loxodonta africana) studied by infrared thermography. Journal of Thermal Biology
  3. Martins, A. F. et al. (2018) Locally-curved geometry generates bending cracks in the African elephant skin. Nature Communications
  4. アレンの法則(ウィキペディア)
  5. Schmidt-Nielsen, K. (1984) Scaling: Why Is Animal Size So Important? Cambridge University Press

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。動物園や野生の動物を観察するときは、施設の決まりや係員の指示に従ってください。