小さい動物ほど、なぜ食べ続けないと生きられないの?
― 体が小さいほど、熱は速く逃げていきます
ゾウは1日くらい食べなくても平気ですが、ハツカネズミは半日食べられないだけで命に関わります。がまん強さの差ではありません。体が小さいほど、体の中身に対して外に接する面が広く、熱がどんどん逃げていくからです。そのぶんを食べ物で埋め続けなければ、体温が保てなくなります。
動物園で、ゾウがゆっくり草を食べています。となりの小動物のコーナーでは、ハムスターがひっきりなしに食べ物をかじっています。
体の大きさは10万倍以上ちがうのに、あわてているのは小さいほうです。ゾウはのんびりしていて、小さな動物はいつも忙しそうに見えます。
これは性格の話ではありません。体の大きさが決まった瞬間から、どれくらい食べ続けなければならないかも決まってしまうのです。
理由は、大きく2つです
熱が逃げるのは体の表面からです。体が小さくなると、中身(体積)は表面よりずっと速く減ります。つまり小さい動物は、少ない中身を広い表面で冷やされ続けている状態です。
体温を保つには、逃げた熱と同じだけ体の中で熱を作らなければなりません。その材料が食べ物です。逃げる速さが大きいほど、食べる間隔は短くなります。
この2つは、順番につながっています。まず形の話(1)を見て、それから体の中で起きること(2)を見ていきましょう。
体を半分にすると、逃げ道の割合は2倍になる
難しい生き物の形ではなく、四角い箱で考えてみます。1辺が1センチの立方体は、体積が1立方センチ、表面積が6平方センチです。中身1に対して、外に接する面は6です。
次に1辺を2センチにします。体積は8立方センチ、表面積は24平方センチになります。中身1に対して、面は3しかありません。大きくしただけで、中身あたりの逃げ道が半分になったのです。図1を見てください。左の小さい箱のほうが、中身のわりにたくさんの矢印が出ています。
だから、体重あたりの「燃やす量」が跳ね上がる
逃げた熱の穴は、体の中で熱を作って埋めるしかありません。その熱は、食べたものを体の中でゆっくり燃やして作られます。逃げる速さが大きい小さな動物ほど、体重あたりで見た「燃やす量」は大きくなります。
実際に動物の代謝を測ると、体重1キログラムあたりの1日の消費エネルギーは、体が小さいほどはっきり大きくなります。図2の曲線は、右へ行く(体が大きくなる)ほど下がっていきます。ハツカネズミは、ゾウのおよそ20倍を体重あたりで使っているとされています。
体重あたりの消費が大きいということは、体にためておける燃料の持ち時間が短いということです。ゾウは体にためた分でしばらくしのげますが、小さな動物にはその余裕がありません。だから、起きているあいだじゅう食べ続けることになります。
トガリネズミやハチドリのようにごく小さな動物は、数時間食べないだけで体温を保てなくなるとされています。そこで一部の種は、夜のあいだ体温をわざと下げて消費を落とす「休眠」という手を使います。がまんしているのではなく、燃費を切りかえているのです。
大きな動物は熱が逃げにくいので、こんどは体の中にこもった熱を捨てるのに苦労します。ゾウの大きな耳は、血液を薄く広げて熱を外に逃がす役に立っていると考えられています。小さければ寒さに、大きければ暑さに悩むわけです。
まとめ
体が小さいほど、中身のわりに表面が広くなります。熱は表面から逃げるので、小さい動物は体重あたりでたくさんの熱を作り続けなければなりません。その材料が食べ物なので、小さい動物ほど食べる間隔が短くなります。同じ形のまま大きさだけを変えても、生き方はまるごと変わってしまうのです。
小さい体は、がまんが足りないのではありません。
広い表面から、休みなく熱を奪われ続けているのです。
寒さのなかで熱を守るくふうについては鳥の足が凍らない理由の記事、体の熱を捨てる側の話は鳥肌の記事もあわせてどうぞ。
- 同じ温度のお湯を、小さなカップと大きめのマグカップに、同じ高さまで注ぎます。
- そのまま置いて、10分後と20分後に、それぞれ指の腹をそっと当てて温度を比べます。
- 小さいカップのほうが先にぬるくなります。中身のわりに、湯にふれている面が広いからです。
やけどをしないよう、熱すぎない湯で行ってください。温度計があれば、10分ごとの数値を記録すると差がはっきり見えます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・生態学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 基礎代謝量:安静にしているときに、体温や心臓の動きを保つためだけに使うエネルギーの量です。
- 表面積と体積の比:体積1つぶんに対して表面がどれだけあるかを表す割合です。小さいものほど大きくなります。
- 恒温動物:まわりの温度が変わっても、自分の体温をほぼ一定に保つ動物です。ほ乳類と鳥がこれにあたります。
中学高校式で確かめる:ネズミとゾウで、体重あたりの消費は何倍ちがうか
体重が増えると、基礎代謝量は体重そのままの割合では増えず、それより緩やかにしか増えないことが知られています。体重の4分の3乗に比例するというこの関係は、クライバーの法則と呼ばれています。ここでは、その関係を使って比べてみます。単位は、体重がキログラム、消費エネルギーが1日あたりのキロカロリーです。
| 記号 大(アフリカゾウの体重) | 単位はキログラム、値は 4000 |
| 記号 小(ハツカネズミの体重) | 単位はキログラム、値は 0.025 |
| 体重あたりの消費の比は、体重の比の4乗根になるとされる | クライバーの法則から |
| まず体重の比を出す | 4000 ÷ 0.025 = 160000 |
| 4乗根が20になるかを確かめる(1回目) | 20 × 20 = 400 |
| 4乗根が20になるかを確かめる(2回目) | 400 × 400 = 160000 |
| ヒトの体重1キログラムあたりの1日の消費 | 1500 ÷ 60 = 25 |
160000の4乗根は20です。つまり体重あたりの消費は、ハツカネズミがゾウのおよそ20倍になります。ヒトが体重1キログラムあたり1日25キロカロリーほどなら、同じ関係をあてはめたハツカネズミは1キログラムあたり百数十キロカロリーの水準になります。体重25グラムのネズミにとっては、1日に体重の1割を超える食べ物が要る計算です。
高校高校+なぜ「体重そのまま」ではないのか
高校熱の逃げやすさだけを考えると、消費は表面積に比例しそうです。表面積は体重の3分の2乗に比例するので、その予想では0.67乗になります。実際の測定値の0.75乗とは、少しずれます。
高校+このずれの説明として、体の中で酸素や栄養を配る血管が枝分かれの構造をとっていること、姿勢を保つ骨や筋肉の割合が大きさで変わることなどが挙げられています。単純な表面積の話だけでは足りない、というのがこの分野の面白いところです。
大学体の大きさが決める「時間の速さ」
体重あたりの代謝が大きい動物は、心拍も呼吸も速く、寿命も短い傾向があります。生涯の心拍数をおおまかに数えると、大きさのちがう動物どうしで近い値になるという見方も紹介されてきました。体の大きさは、食べる量だけでなく、その動物が生きる時間の刻み方まで決めているとみることができます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 指数は本当に4分の3か。 動物のグループごとに測り直すと、0.67に近い値が出る場合も、0.75より大きい値が出る場合もあり、ひとつの値で片づけてよいかは議論が続いています。
- 血管の分岐で説明しきれるか。 栄養を配る管の構造から法則を導く理論が提案されていますが、その前提が実際の体でどこまで成り立つかは検証の途中です。
- 休眠のスイッチ。 ごく小さな動物が体温を下げて消費を落とすとき、何が引き金になり、どこまで下げても安全なのかは、種によって大きく異なり、まだ整理しきれていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。体の大きさと代謝の関係は、100年近く測られ続けて、なお決着していないテーマです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・生物のからだのつくり/熱の伝わり方 | 立方体の表面積と体積の比べ方 |
| 高校 | 生物基礎(体温の調節)・物理基礎(熱) | 逃げた熱を作って埋めるという考え方 |
| 高校+ | 生物の発展(代謝とからだの大きさ) | 0.67乗と0.75乗のずれ |
| 大学 | 動物生理学・生態学 | 大きさが決める時間の刻み方 |
| 研究 | 比較生理学・生態学の理論 | 指数の値と、その説明をめぐる議論 |
| ― | 生活とのつながり | 小さなペットに絶食させてはいけない理由 |
- Kleiber, M. "Body size and metabolic rate", Physiological Reviews, 1947.
- Schmidt-Nielsen, K. "Scaling: Why is Animal Size so Important?", Cambridge University Press, 1984.
- West, G. B., Brown, J. H., Enquist, B. J. "A general model for the origin of allometric scaling laws in biology", Science, 1997.
- 本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間』中公新書、1992年.
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。動物の飼育にあたっては、種ごとの適切な給餌の方法を専門家や獣医の指示に従って確認してください。