木を切り出すのは、なぜ秋から冬なの?
― 冬の木は、自分から水を減らしています
山で木を伐る仕事は、昔から秋から冬に集中しています。雪の中の重労働なのに、わざわざその季節を選ぶのです。理由は、冬の木のほうが「乾きやすく、傷みにくい」から。木は冬になると、自分の体の中の水を減らして眠りに入ります。そして、木を傷める菌や虫も、同じ寒さで動けなくなっています。
冬の山。雪をかぶった斜面で、伐り出された丸太が積み上げられています。これから雪が深くなるという、いちばん働きにくい季節です。
夏なら道もぬかるまず、日も長く、作業はずっと楽なはずです。それなのに、林業のカレンダーは秋から冬に偏っています。「木は寒に伐れ」という言い方も各地に残っています。
これは根性論でも縁起かつぎでもありません。木の中で起きていることが、夏と冬でまるで違うからです。
現場の人が冬を選ぶ理由は、大きく2つ
木は春から夏にかけて、根から葉へ大量の水を通しています。冬は葉を落として休み、水の流れがぐっと落ちます。同じ1本でも、伐った直後に含んでいる水の量が季節で変わるのです。
切り株や丸太を青黒く変色させるのは、カビの仲間です。穴を開けるのは小さな甲虫です。どちらも気温が10℃を下回るとほとんど活動しません。冬に伐れば、乾くまでの時間を彼らに邪魔されずに済みます。
この2つは、じつは同じひとつの事情から出ています。「木も、木を食べる生き物も、冬は活動を止めている」ということです。順番に見ていきましょう。
木の中の水は、季節でこれだけ変わる
木は水を吸い上げて生きています。根から吸った水は、幹の外側にある新しい部分を通って葉へ運ばれ、葉の裏の小さな穴から水蒸気になって出ていきます。これが蒸散です。
大きな木では、夏の晴れた日に1日あたり数百リットルもの水が通るとされています。逆に言えば、夏の幹は「水の通り道が全開の状態」です。
秋になると木は葉を落とし、蒸散が止まります。根から水を吸い上げる力もほとんど働かなくなります。木は活動を落とし、休眠に入ります。この時期に伐ると、幹に残っている水の量が夏より少なくて済むのです。図1の左が夏の木、右が冬の木のようすです。
水が多い木を伐って、そのまま製材するとどうなるでしょうか。乾くにつれて木は縮みますが、外側から先に乾くため、外と内で縮む時期がずれます。すると表面が引っぱられて、割れが入ります。含んでいる水が最初から少なければ、この「ずれ」も小さくて済みます。
菌と虫が眠っている、という時間の余裕
もうひとつの理由は、伐ったあとの時間の使い方にあります。丸太は伐ってすぐ製品になるわけではなく、山で、あるいは土場で、しばらく乾かされます。この待ち時間が問題です。
伐りたての木は、水と栄養をたっぷり含んだ「ごちそう」です。夏なら、木材を青黒く変色させる菌がすぐに入りこみます。木くずを出しながら穴を掘る小さな甲虫もやってきます。数週間で商品としての価値が落ちることもあります。
ところが冬は、菌も虫も気温が下がると代謝が落ちます。多くの木材腐朽菌や変色菌は、およそ10℃を下回るとほとんど増えなくなるとされています。つまり冬に伐るというのは、「乾くまでの数か月を、邪魔されずに使える」という時間の買い方なのです。
秋に伐った木を、枝と葉をつけたまま山に寝かせておく方法があります。葉枯らし乾燥と呼ばれます。根から水が来なくなっても、葉はしばらく蒸散を続けます。木は自分の葉を使って、自分の体から水を抜いていくのです。人が何もしない数週間で、幹はかなり軽くなります。この方法が使えるのも、葉がまだ落ちきらない秋だからこそです。
ヨーロッパにも日本にも、「冬の新月の前後に伐った木は長もちする」という言い伝えがあります。月と木の水分を結びつける主張については、はっきりした裏づけは得られていないとされています。ただし、この言い伝えが指しているのは結局「冬に伐る」ことでもあります。効いているのは月ではなく季節のほう、というのが素直な読み方でしょう。
まとめ
秋から冬にかけて木を伐るのは、寒さに耐える根性の話ではありません。木が自分から水を減らし、木を傷める生き物が動きを止める、その重なった数か月を選んでいるのです。現場の人が経験で見つけた季節は、木の生理と、菌や虫の活動温度に、きれいに重なっていました。
冬の木は、乾かしやすいのではありません。
木のほうが先に、乾く準備をしています。
木が水をどうやって高いところまで運んでいるのかは「木はなぜ、100メートルの高さまで水を吸い上げられるの?」で、木が自分から葉を切り離すしくみは「木の葉は、なぜ秋になると落ちるの?」でくわしく書いています。幹の中に季節が記録されていることは「木の年輪は、なぜ1年に1本ずつできるの?」もあわせてどうぞ。
- 庭や公園の木で、葉のついた枝先に透明なポリ袋をかぶせ、口を軽くしばります。枝を折らないよう、木の持ち主や管理者の許可を得てから行ってください。
- 晴れた日の朝にかぶせ、夕方に見にいきます。袋の内側に水滴がびっしりつきます。これが葉から出た水です。
- 同じことを、葉が落ちたあとの冬の枝でやってみます。ほとんど水滴がつきません。夏と冬で、木の中の水の動きが違うことが目で見えます。
袋は必ず外して持ち帰ってください。長くかぶせたままにすると、その枝を弱らせてしまいます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(木材科学・森林科学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 含水率:木にどれだけ水が含まれているかを表す数値。水をすべて抜いた状態の木の重さを基準にし、それに対する水の重さの割合で表します。水のほうが重ければ100%を超えます。
- 辺材と心材:幹の外寄りで、まだ水を通している新しい部分が辺材。中心寄りで、水を通す役目を終えた部分が心材です。伐りたてでは辺材のほうが水を多く含みます。
- 葉枯らし乾燥:伐倒した木を、枝葉をつけたまま林内に寝かせ、葉の蒸散で水を抜く方法。日本で古くから行われてきました。
- 変色菌:木材の中で増えて色を変える菌の仲間。強度をほとんど落とさないこともありますが、見た目が悪くなるため価値が下がります。
中学高校式で確かめる:丸太1本から、どれだけの水が出ていくのか
伐りたてのスギの丸太が、乾くまでにどれだけ水を手放すのかを見てみます。数値は、しくみをつかむための目安です。
| 記号のかわりに、重さはすべてキログラム、体積は立方メートルで表します | 単位は kg と m³ |
| 水をすべて抜いたスギ材の重さ | 1立方メートルあたり 約350 kg |
| 伐りたての丸太の含水率 | 約150%(全体の目安とされる) |
| 建材として出荷するときの含水率 | 約20% |
| 伐りたてに含まれる水の重さ | 350 × 1.5 = 525 |
| 伐りたての丸太1立方メートルの重さ | 350 + 525 = 875 |
| 含水率20%まで乾いたときの水の重さ | 350 × 0.2 = 70 |
| 手放す水の重さ | 525 − 70 = 455 |
| 2リットル入りの容器に直すと | 455 ÷ 2 ≒ 228 |
丸太1立方メートルから、2リットルの容器で228本ぶんもの水が抜けていく計算になります。伐りたてに875kgあった丸太は、乾けば420kgほどまで軽くなります。夏に伐って含水率が高いほど、この「抜くべき水」が増え、乾くまでの時間も長くなります。長くなればそのぶん、菌や虫にさらされる時間も延びます。
高校高校+なぜ「乾くと割れる」のか
高校木の細胞のかべには、細いすき間に水がしみこんでいます。木が縮みはじめるのは、細胞の空洞にある自由な水が抜けきってからで、その境目はおよそ含水率30%とされています。ここを下回ると、細胞のかべ自体が縮みはじめます。
高校+縮み方は方向によって違います。年輪に沿う向きがもっとも大きく縮み、年輪を横切る向きはその半分ほど、幹の長さの向きはほとんど縮みません。この差があるため、丸太を輪切りにして乾かすと、外周が中心より強く縮もうとして引っぱり合い、放射状の割れが入ります。乾燥割れは、水が減ること自体ではなく、縮み方の不ぞろいから生まれます。
大学木の中の水は、どこにどう入っているのか
木材の水は3つに分けて考えられます。細胞の空洞にたまっている自由水、細胞のかべの内部に取りこまれている結合水、そして水蒸気です。乾燥の初期には自由水が抜け、この間は寸法がほとんど変わりません。自由水が尽きたあと結合水が抜けはじめ、ここから収縮が起こります。木材乾燥の技術は、この結合水を抜く段階を、割れを出さずにいかに速く進めるかという問題として組み立てられています。伐採する季節の選択は、この問題を出発点でやさしくする手立てだといえます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 季節による差は、どれくらい大きいのか 冬の木のほうが含水率が低いという傾向は広く知られていますが、その差は樹種・地域・その年の天候で大きくばらつきます。「何%下がる」と一律には言えないのが現状です。
- 耐久性まで変わるのか 冬に伐った材のほうが腐りにくい、虫がつきにくい、という主張は古くからあります。乾くまでの環境が違う以上そうなりそうですが、木材そのものの性質が季節で変わるのかは、はっきりしていません。
- 言い伝えの検証 新月伐採については比較試験が行われてきましたが、月の満ち欠けによる差を明確に示した結果は得られていないとされています。ただし比較試験そのものが難しく、決着したとまでは言いにくい状況です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。現場の知恵が正しいことと、その理由が完全に説明できていることは、別のことです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・植物のからだのつくりとはたらき | 蒸散と、季節で変わる水の流れ |
| 高校 | 生物基礎・生物/植物の水分生理 | 休眠と、含水率30%という境目 |
| 高校+ | 物理基礎の発展/材料の収縮 | 方向で違う縮み方と、乾燥割れ |
| 大学 | 木材科学・森林科学 | 自由水と結合水、木材乾燥の設計 |
| 研究 | 木材保存・林産学 | 伐採する季節と耐久性の関係 |
| ― | 生活とのつながり | 木の家具や床が季節で動く理由、まきを冬に用意する理由 |
- 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
- 林野庁(森林・林業に関する統計と技術情報)
- 京都大学 生存圏研究所(木質科学に関する研究・解説)
- 日本木材学会 編『木材科学講座 3 木材の物理』海青社(含水率・収縮の異方性・木材乾燥の基礎)
- 日本木材加工技術協会 編『木材の乾燥』(自由水と結合水、乾燥割れの発生のしくみ)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。樹木の伐採には所有者の許可と、法令・自治体の定めに従った手続きが必要です。山での作業は必ず経験者の指導のもとで行い、現場の指示に従ってください。