木の年輪は、なぜ1年に1本ずつできるの?
― 色の違いをつくるのは、細胞のかべの厚さです
切り株の輪を数えると、その木が生きた年数がわかる。よく知られた話ですが、木は数を数えているわけではありません。明るい輪と暗い輪ができるのは、春と秋とで木が「作る細胞の形」を変えているからです。年輪は、木が季節に合わせて働き方を切りかえた記録なのです。
公園や山道で、切られた木の切り株を見かけたことがあると思います。表面には、細かい輪がびっしりと並んでいます。
よく見ると、輪は明るい帯と暗い帯が交互に重なっています。中心のほうは輪の間隔が広く、外側にいくほど、輪はぎゅっと詰まって見えます。
この輪は、いったい何が積み重なったものなのでしょうか。そして、どうして1年に1本という、きれいなペースで増えるのでしょうか。
理由は、大きく2つあります
木が太くなるのは、幹の全体がふくらむからではありません。樹皮のすぐ内側にある、紙のように薄い層だけが細胞を作り続けます。作られた細胞は内側に置き去りにされ、その年の記録がそのまま残ります。
春は水をたくさん運ぶ必要があるので、大きくてかべの薄い細胞ができます。夏の終わりから秋は、体を支えるための、小さくてかべの厚い細胞に変わります。この「粗い部分」と「詰まった部分」の1組が、1年ぶんの輪です。
言いかえると、年輪は年齢を数えるための目盛りではなく、木が1年をどう過ごしたかの記録です。順番に見ていきます。
木は、樹皮のすぐ内側だけで太っている
木の幹の中心の部分は、すでに役目を終えた古い細胞の集まりです。そこはもう成長しません。生きていて、細胞を増やし続けているのは、樹皮の内側にある薄い層だけです。
この層は、外側に向かって樹皮のもとになる細胞を、内側に向かって幹の本体になる細胞を作ります。作られた細胞はやがて水を運ぶ管になったり、体を支える柱になったりして、そのまま固まります。つまり幹は、外へ外へと年ごとの層を重ねていく、たまねぎのような構造になっているのです。
子どものころに幹へ打った釘が、大人になっても同じ高さのままだった。そんな話を聞いたことはないでしょうか。木は上へ伸びるときも、幹の途中が引き伸ばされるのではなく、先端で伸びます。だから幹の途中の高さは変わりません。太るのも伸びるのも、決まった場所でだけ起きています。
春の細胞は大きく、秋の細胞は小さい
春、葉がいっせいに開くころ、木は大量の水を根から葉へ送らなければなりません。水を運ぶ管は、太いほど流れやすくなります。そこで木は、内側が広くてかべの薄い細胞をたくさん作ります。この部分は隙間が多く、すかすかです。
夏の終わりから秋にかけて、成長のいきおいはゆるみます。今度は水を運ぶことより、育った体を支えることが大事になります。作られる細胞は小さくなり、かべは厚くなります。この部分は材がぎゅっと詰まります。
この密度の差が、そのまま見た目の差になります。隙間の多い春の部分は光をよく散らして明るく見え、詰まった秋の部分は暗く見えます。図1を見てください。明るい帯と暗い帯の1組が、1年ぶんの成長です。
雨や日照に恵まれた年、木は大きく育ち、年輪の幅は広くなります。逆に乾いた年や日陰になった年は、輪が細くなります。同じ地域の木は、同じ年に似た幅の変化を見せます。この模様を照合すると、木を切らずに年代を調べる手がかりになります。
季節の差が小さい熱帯では、輪がぼやけたり、そもそも数えにくかったりすることが知られています。年輪は「1年たったこと」ではなく、「成長の条件が大きく変わったこと」を記録しているからです。雨季と乾季がはっきりした地域では、その差が輪として現れることもあります。
まとめ
木は樹皮のすぐ内側の薄い層だけで太り、春には水を運ぶ大きな細胞を、秋には体を支える小さくかべの厚い細胞を作ります。すかすかの部分は明るく、詰まった部分は暗く見えます。その1組が1年ぶん。年輪は、木が季節に合わせて働き方を切りかえてきた記録です。
年輪は、年齢の目盛りではありません。
1年ごとの暮らしぶりが、そのまま厚みになったものです。
木がどうやって水を高いところまで運んでいるのかは木はなぜ、100メートルの高さまで水を吸い上げられるの?で、葉の色が季節で変わるしくみは紅葉は、なぜ赤や黄色に色づくの?で説明しています。
- 公園や工事現場のそばで切り株を見つけたら、中心から外側へ向かって輪を数えてみてください。明るい帯と暗い帯を1組として数えるのがこつです。
- 輪の幅を見比べます。広い年と狭い年が交互に現れるはずです。同じ場所にある別の切り株でも、幅の並び方が似ていないか確かめてみてください。
- まな板やテーブルなど、身のまわりの木の板の木目を見ます。板は幹を縦に切ったものなので、年輪が縞や山の形になって現れます。指でなでると、暗い部分のほうがわずかに硬く感じられることがあります。
切り株を探すときは、私有地や立入禁止の場所に入らないでください。生きている木を傷つける必要はまったくありません。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学・木材の物理)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 形成層(けいせいそう):樹皮のすぐ内側にある、細胞を作り続ける薄い層。木が太くなるのは、ここの働きによります。
- 早材(そうざい)と晩材(ばんざい):1年のうち早い時期にできる、大きくてかべの薄い部分が早材。遅い時期にできる、小さくてかべの厚い部分が晩材です。明るい帯と暗い帯の正体がこれです。
- 年輪年代学:年輪の幅の並び方を照合して、木材が育った年代を特定する研究分野。建物の柱や古い板の年代を調べるのに使われています。
中学高校式で確かめる:年輪から1年の成長を求める
年輪の本数と幹の太さがわかると、1年あたりに幹の半径がどれだけ伸びたかを見積もれます。使う量は3つです。直径は幹の太さで、単位はセンチメートル。本数は数えた輪の数で、単位は本。伸びは1年あたりの半径の増加で、単位はミリメートルです。
| 幹の直径(切り株の差し渡し) | 60センチメートル |
| 数えた年輪の本数 | 100本 |
| 長さの単位の関係 | 1センチメートルは10ミリメートル |
| 直径から半径を出す | 60 ÷ 2 = 30 |
| 1年あたりの半径の伸び(センチメートル) | 30 ÷ 100 = 0.3 |
| ミリメートルに直す | 0.3 × 10 = 3 |
1年に増える太さは、半径で3ミリメートルほど。鉛筆の芯を1本ぶん重ねるくらいの厚みです。この薄い層が100回積み重なって、差し渡し60センチメートルの幹になったことになります。
高校高校+なぜ密度の差が、色の差になるのか
高校木材は主にセルロースとリグニンでできています。細胞のかべが厚い部分は、同じ体積あたりの材料が多く、密度が高くなります。密度が高いところは光を通しにくく、暗く見えます。
高校+もう一つの効き方が、光の散乱です。かべの薄い細胞が並んだ部分は、細胞の内側の空洞が多く、空気と細胞かべの境目がたくさんあります。境目のたびに光は向きを変えるので、当たった光の多くが外へ戻ってきます。これが明るく見える理由です。雪が白く見えるのと同じ理屈で、材料の色ではなく、境目の数が効いています。
大学年輪は、幅だけでなく「密度の波形」として読まれる
年輪の研究では、輪の幅を測るだけでなく、放射線や光を当てて材の密度を細かく測り、1年の中での密度の変化を波の形として記録する方法が使われています。晩材の最大密度は、その年の夏の終わりの気温とよく対応することが知られており、過去の気候を推定する手がかりになります。また、木材に取りこまれた炭素や酸素の同位体の比率を測れば、その年の降水や湿度の情報も引き出せます。年輪は、幅・密度・同位体という何層もの記録が重なった帳簿だと言えます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 成長と気温の対応がずれる問題 近年、高緯度地方の一部で、年輪から予想される気温と実際に観測された気温の食い違いが報告されています。原因については、乾燥の影響や日射の変化など複数の説が検討されている段階です。
- いつ晩材に切りかわるのかを決めるしくみ 日の長さ、気温、水の不足のうち、どれがどれだけ効いて細胞のかべを厚くさせるのか。木の種類や場所によって違うと考えられており、まだ整理の途中です。
- 熱帯の木の年輪をどう読むか 季節の差が小さい地域では、年輪が不明瞭だったり、1年に複数できたりすることがあります。同位体などを組み合わせて年を切り分ける手法が試みられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。切り株の輪は単純に見えて、その読み方はいまも更新され続けています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科/植物のからだのつくり | 幹が外側で太る話、明るい帯と暗い帯 |
| 高校 | 生物/植物の体制と成長 | 形成層のはたらき、早材と晩材 |
| 高校+ | 物理/光の散乱と反射 | 密度の差が明暗の差になる理由 |
| 大学 | 植物生理学・木材の物理 | 密度の波形、同位体による気候の復元 |
| 研究 | 年輪気候学 | 成長と気温のずれ、熱帯の年輪 |
| ― | 生活とのつながり | まな板や家具の木目の見え方、切り株の数え方 |
- アメリカ海洋大気庁 国立環境情報センター「古気候データ」
- Fritts, H. C.『Tree Rings and Climate』Academic Press, 1976
- Schweingruber, F. H.『Tree Rings: Basics and Applications of Dendrochronology』Reidel, 1988
- 日本木材学会 編『木材科学講座 木材の物理』海青社
- 森林総合研究所による、木材の構造と年輪に関する一般向けの解説
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。屋外で切り株を観察するときは、私有地や立入禁止区域に入らず、自治体や管理者の指示に従ってください。