砂は乾いていると崩れるのに、
濡らすとなぜ固まるの?
砂どうしをくっつけている「のり」は、どこにもありません。粒と粒のあいだにかかった、ほんの少しの水が、両側の粒を内側へ引っぱっています。その引っぱりが、砂の山を立たせています。
海辺で、乾いた白い砂をすくって山を作ろうとします。指のすきまからサラサラとこぼれ、いくら盛っても低いなだらかな山にしかなりません。
そこで、波打ちぎわの湿った砂を持ってきます。すると同じ砂なのに、垂直に近いかべが立ち、トンネルまで掘れてしまいます。
ところが、そこへバケツで水をたっぷりかけると、せっかくの形はどろりと崩れてしまいます。乾いても駄目、濡らしすぎても駄目。ちょうどよい湿り気だけが、砂を固めます。
理由は、大きく2つです
少しの水は、粒のすきまにたまって小さな橋になります。水の表面は縮もうとする性質があるので、この橋は両側の粒を内側へ引き寄せます。
粒どうしが強く押しつけ合うと、そのぶん摩擦が大きくなります。すべって崩れようとする動きが止まり、砂は形を保てるようになります。
この2つはひと続きです。水が引き寄せ、引き寄せられた粒が摩擦で踏みとどまる。順番に見ていきます。
水の「橋」が、砂粒を引き寄せている
水には、表面をできるだけ小さくしようとする性質があります。これを表面張力といいます。葉の上の水滴が丸くなるのも、同じ性質のあらわれです。
砂粒と砂粒がふれあうところに少量の水があると、水はそのすきまに集まり、くびれた形の橋になります。この橋の表面も縮もうとします。縮もうとする水の面は、両側の粒を内側へ引っぱります。
さらに、橋の内側は、まわりの空気より圧力が低くなります。外から押される力も加わり、粒どうしはいっそう強く押し合うことになります。
図1を見てください。左が乾いた砂、中央が少し湿った砂、右が水びたしの砂です。
引き寄せられた粒は、なぜずれなくなるのか
砂の山がくずれるとき、粒は下へ落ちるより先に、たがいの上をすべります。ですから砂の強さは、「粒どうしがどれだけすべりにくいか」で決まります。
すべりにくさを決めるのは摩擦です。摩擦の大きさは、面どうしが押しつけ合う強さにほぼ比例します。水の橋が粒を内側へ引き寄せると、粒どうしは強く押し合います。押しつけ合う力が増えれば、すべりに抵抗する力も増えます。こうして砂は、垂直に近いかべを支えられるようになります。
土をあつかう分野では、この一時的な強さを「見かけの粘着力」と呼びます。乾かせば消え、水びたしにしても消える、水分がつくり出した強さという意味です。
すきまが全部水で満たされると、水面のくびれがなくなります。橋がなくなれば、引き寄せる力も消えます。さらに粒のあいだの水が押し出されにくくなり、粒どうしは水に浮いたような状態になります。ぬかるみがどろりとするのは、このためです。
同じ量の水でも、粒が細かいほど橋の数は増えます。また粒が小さいほど、粒自身の重さに対して引き寄せる力が相対的に大きくなります。粘土質の土が乾いてかちかちになるのも、細かさが効いている例です。
まとめ
砂を固めているのは、のりでも氷でもなく、粒のあいだに残った少量の水です。水の面が縮もうとする力が粒を引き寄せ、押しつけ合いが摩擦を増やし、砂はすべらなくなります。乾かせばその橋は蒸発し、水をかけすぎれば橋は水没します。砂が形を保てるのは、湿り気がちょうどよい範囲にあるあいだだけです。
砂をつないでいるのは、粒でも土でもなく、
すきまに残った、ほんの少しの水です。
同じ「水がすきまを引っぱる力」は、冬の朝に土から生えてくる霜柱のしくみにも、羽のすきまが水をはじく水鳥の羽の話にも登場します。砂そのものの動きに興味がわいたら、砂丘のさざ波模様の記事もどうぞ。
- 乾いた砂(細かい砂糖でも代用できます)をコップに入れ、ひっくり返して山の形を見ます。すそが広い、低い山になります。
- 同じ砂に、霧吹きで少しずつ水を足しながら、そのつどひっくり返します。ある湿り具合から、急にかべが立つようになります。
- さらに水を足し続けると、どこかで形が保てなくなります。かべが立つ湿り具合の「上と下の境目」を探してみてください。
粒の細かさを変えて同じことをすると、境目の位置がずれるのが分かります。屋外で試したときは、掘った穴を必ず埋めて帰りましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(土質力学・粉体工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 表面張力:液体の表面が、できるだけ小さくなろうとする性質。水滴が丸くなる理由でもあります。
- 液架橋:粒と粒のあいだにかかった、くびれた形の小さな水のかたまり。両側の粒を引き寄せます。
- 見かけの粘着力:湿り気があるあいだだけ生まれる、砂や土の一時的な強さ。乾いても水びたしでも消えます。
中学高校式で確かめる:水の橋は、砂粒の重さの何倍を引くのか
直径0.2ミリほどの砂粒を2つ考えます。そのあいだにかかった水の橋が、粒をどれくらいの強さで引き寄せるのかを見積もります。使う記号にあたるものの意味は、次のとおりです。
| 記号にあたるもの | 意味と単位 |
|---|---|
| 表面張力 | 液面が縮もうとする強さ。単位はニュートン毎メートル |
| 粒の半径 | 砂粒の大きさ。単位はメートル |
| 引き寄せる力 | 橋が両側の粒を引く強さ。単位はニュートン |
| 水の表面張力(20℃) | 0.072 ニュートン毎メートル |
| 砂粒の半径(直径0.2ミリの場合) | 0.0001 メートル |
| 円周率の2倍 | 6.28 |
| 砂粒1個にはたらく重力の目安 | 0.00000011 ニュートン |
水の橋が引く力は、およそ「円周率の2倍 かける 粒の半径 かける 表面張力」ほどの大きさになるとされています。
| まず、円周にあたる長さを出す | 6.28 × 0.0001 = 0.000628 |
| 表面張力をかけて、引き寄せる力にする | 0.000628 × 0.072 ≒ 0.0000452 |
| 砂粒1個の重さと比べる | 0.0000452 ÷ 0.00000011 ≒ 411 |
水の橋は、砂粒1個にはたらく重力のおよそ400倍の強さで粒を引き寄せている、という見積もりになります。だから砂は、自分の重さでつぶれずに立っていられます。
| 体重60キログラムの人に置きかえる | 60 × 400 = 24000 |
自分の体重の400倍、24000キログラム分の力で床に押しつけられているようなものです。それだけ強く押し合っていれば、簡単にはすべりません。
高校高校+摩擦と、くびれた水面の圧力
高校摩擦力は、面を押しつける力に比例して大きくなると習います。砂の場合、押しつける力は上からの重さだけではありません。水の橋が加える引き寄せも、そのまま押しつけ合いとして効きます。
高校+くびれた水面の内側は、平らな水面より圧力が低くなります。曲がった液面の内と外に圧力差が生じるためです。この差は、液面の曲がりが急なほど大きくなります。粒が細かいほど橋のくびれは急になり、引き寄せは強くなります。
大学有効応力とサクション
土質力学では、粒どうしが実際に押し合う力を有効応力と呼び、土の強さはこの有効応力で決まると考えます。水分が少ない土では、すきまの水の圧力が大気圧より低くなります。この負の圧力はサクションと呼ばれ、土の粒を内側へ締めつけます。乾きすぎればサクションを伝える水がなくなり、水びたしになれば負圧そのものが消えます。どちらの端でも強さが落ちる理由は、この枠組みで説明されます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- いちばん強くなる水分量。 実験では、水分がごく少ないうちに強さがほぼ頭打ちになるという報告があります。どの粒の形・大きさでそうなるのかは、まだ整理の途中です。
- 橋の形の移り変わり。 水が増えると、橋どうしがつながって複雑な形に変わります。その様子を立体的に観察する研究が進んでいますが、強さとの対応づけは簡単ではありません。
- 粒の表面のざらつき。 実際の砂粒は角張っていて、表面もなめらかではありません。この凹凸が水の橋の形や摩擦をどう変えるかは、モデル化の難しいところとされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は目安であり、砂の種類によって大きく変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・力のはたらき、水の性質 | 水の表面が縮もうとする話、摩擦の話 |
| 高校 | 物理基礎・摩擦力とつり合い | 押しつける力が増えると摩擦も増えるところ |
| 高校+ | 物理・液面の圧力差、毛細管現象 | くびれた水面の内側の圧力が下がる話 |
| 大学 | 土質力学・粉体工学 | 有効応力とサクション、見かけの粘着力 |
| 研究 | 湿った粒状体の力学 | 水分量と強さの対応、橋の形の移り変わり |
| ― | 生活とのつながり | 砂遊び、園芸の土づくり、粉ものが固まる現象 |
- D. J. Hornbaker ほか「What keeps sandcastles standing?」Nature 387巻 765ページ(1997年)
- M. Scheel ほか「Morphological clues to wet granular pile stability」Nature Materials 7巻 189ページ(2008年)
- 石原研而『土質力学』(丸善出版)― 土のせん断強さ、有効応力とサクションの基礎
- 国立天文台編『理科年表』― 水の表面張力の、温度による値
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。砂の性質は、粒の大きさや形によって大きく変わります。屋外で観察するときは、その場所の管理者や自治体の指示に従ってください。