雨の日、ミミズはなぜ地面の上に出てくるの?
― 土のすき間から、空気が追い出されています
雨あがりの道に、ミミズが何匹も出ている。ふしぎな光景ですが、理由の中心はとても物理的です。土のすき間をうめていた空気が水に置きかわると、酸素の届く速さが極端に落ちてしまうのです。
夜のあいだにまとまった雨が降って、朝、学校や職場へ向かう道がまだ黒くぬれています。
その道の上に、ミミズが何匹も、ゆっくりと体を伸ばしている。ふだんは土の中にいるはずの生きものです。
なぜ、わざわざ固くて乾きやすい道の上へ出てきたのでしょうか。土の中で、いったい何が変わったのでしょう。
理由は、大きく2つだけです
ミミズは皮ふ全体で息をしています。酸素は、ふだんは土のすき間の空気を伝ってすばやく届きます。そのすき間が水でうまると、酸素の届く速さが極端に落ちてしまいます。
ミミズの体は、かわくとすぐに弱ってしまいます。地面がぬれている雨の日だけは、地上を長い距離まっすぐ進めます。新しいすみかへ引っこすには、またとない日なのです。
ひとつめは「出ざるをえない事情」、ふたつめは「出るなら今だという事情」です。順に見ていきましょう。
土の中は、じつは「すき間の建物」です
畑の土をひとにぎり手に取ると、細かいつぶの集まりに見えます。けれども体積の半分近くは、つぶとつぶのあいだのすき間です。ふだん、そのすき間には空気が入っています。
ミミズには、私たちの肺のような器官がありません。皮ふのすぐ下に細い血管が走っていて、まわりから酸素を直接受け取ります。ですから、体のまわりのすき間に空気があるかどうかが、そのまま呼吸のしやすさになります。
ここで効いてくるのが、酸素の「しみ込む速さ」の差です。酸素は、空気の中ならすばやく広がりますが、水の中ではとてもゆっくりしか広がりません。その差は、およそ一万倍とされています。図1の左が晴れの日、右が大雨のあとのようすです。
「息がしにくい」だけでは、話が半分です
ただし、ミミズは水そのものが苦手なわけではありません。水を入れた容器の中で、何時間も、種類によっては何日も元気でいることが知られています。ですから「水が入ってきたから、あわてて逃げた」という説明だけでは足りません。
大事なのは、水にとけている酸素の量です。流れてきたばかりの雨水なら酸素をふくんでいますが、土の中にたまって動かなくなった水は、まわりの生きものや微生物に酸素を使われて、だんだん少なくなっていきます。しかも、いちど減った酸素は、水の中をゆっくりとしか補われません。
つまり、土の中は「水びたしになった瞬間」ではなく、「水がたまったまま時間がたったとき」に苦しい場所へ変わります。ミミズが出てくるのが、降りはじめではなく雨が続いたあとや明け方に多いのは、これと合っています。
そしてもう一方の理由です。ミミズにとって、地上はふだん危険な場所です。体がかわけば動けなくなり、鳥にも見つかります。ところが雨の日は湿度が高く、地面もぬれています。土の中を掘り進むより、地上を進むほうがずっと速い。新しい落ち葉のある場所や、仲間のいる場所へ引っこす好機なのです。
夜のうちに出てきたミミズは、日が昇ると帰り道を見失うことがあります。アスファルトの上には手がかりになるにおいも湿りけもなく、土へもぐることもできません。太陽が出れば路面はすぐかわきます。雨の朝に見かけるミミズの多くは、この「帰れなかった一群」です。
ミミズが掘ったあなは、雨水の通り道になります。ミミズの多い土は、そうでない土より雨水がしみ込みやすいことが各地の観察で知られています。土の中の空気の通り道をつくっているのも、じつは彼ら自身なのです。
まとめ
雨の日にミミズが地上へ出てくる理由は二つです。土のすき間から空気が追い出されて、酸素の届き方が極端に遅くなること。そして、ぬれた地面なら遠くまで移動できることです。この二つが重なった結果だと考えられています。逃げ出しているだけではなく、引っこしの日でもあるわけです。
土の中の呼吸を支えていたのは、土そのものではなく、
つぶとつぶのあいだにあった、目に見えないすき間でした。
雨あがりの土の中で起きていることは、ほかの記事ともつながっています。雨のあとにキノコが急に生えるしくみはキノコは、なぜ雨のあとに急に生えてくるの?で、土のつぶが水をふくんで斜面が動くしくみは土砂崩れは、なぜ雨がやんだあとにも起きるの?で説明しています。雨そのもののにおいについては雨が降りはじめると、なぜ独特のにおいがするの?もどうぞ。
- コップに乾いた土を半分ほど入れ、そこへ静かに水を注ぎます。水面から小さなあわがいくつも上がってきます。これが、すき間に入っていた空気が追い出された証拠です。
- あわの量をおぼえておき、別のコップで、いちど水につけて置いておいた土でも同じことをしてみます。あわはほとんど出ません。すき間がすでに水でうまっているからです。
- 雨の日と、その二日後の晴れた日に、同じ道を同じ時刻に歩いて、ミミズの数を数えてみます。雨が長く続いたあとの朝ほど多いはずです。数えるだけで、手でさわる必要はありません。
生きものを観察したあとは手を洗いましょう。土を持ち出すときは、その場所の管理者の許可を得てください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(土壌学・生態学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 皮ふ呼吸:肺やえらを使わず、体の表面から直接、酸素を取り入れる呼吸のしかた。ミミズはこの方式です。
- 拡散:気体や、液体にとけたものが、こい方からうすい方へ、かき混ぜなくても自然に広がっていく動き。
- 土の間げき:土のつぶとつぶのあいだのすき間。ふつうの畑の土では、全体の体積の四割から五割ほどを占めるとされています。
- 溶存酸素:水にとけこんでいる酸素。水温が高いほど、とけられる量は少なくなります。
中学高校式で確かめる:酸素が1センチ進むのに、どれだけかかるか
拡散でものが広がるとき、進む距離とかかる時間の関係は、おおまかに「時間は距離の2乗に比例する」となります。ここではその関係を使って、空気の中と水の中の差を実感できる数にしてみます。数値はしくみをつかむための目安です。記号は使わず、単位は平方センチメートル毎秒と秒で表しています。
| 空気の中での酸素の広がりやすさ | およそ 0.2 平方センチメートル毎秒とされる |
| 水の中での酸素の広がりやすさ | およそ 0.00002 平方センチメートル毎秒とされる |
| 今回考える距離 | 1 センチメートル |
| 距離を2乗する | 1 × 1 = 1 |
| 空気の中でかかる時間は秒の単位で | 1 ÷ 0.2 = 5 |
| 水の中でかかる時間は秒の単位で | 1 ÷ 0.00002 = 50000 |
| それを時間の単位に直す | 50000 ÷ 3600 ≒ 13.9 |
空気の中なら数秒で届く道のりが、水の中では半日以上かかります。土のすき間が水でうまるとは、ミミズにとって、こういう変化が起きることを意味します。
高校高校+「水にとけている酸素」の少なさ
高校同じ体積で比べると、空気にふくまれる酸素と、水にとけていられる酸素では、量そのものが大きく違います。20度の水にとけられる酸素は、同じ体積の空気がもつ酸素と比べて、けた違いに少ないとされています。広がる速さだけでなく、たくわえられる量も少ないのです。
高校+水温が上がると、とけられる量はさらに減ります。夏の夕立のあと、あたたかい雨水が土にたまったときのほうが、ミミズにとって条件が厳しくなる理由のひとつです。
大学土の呼吸を決めているのは「つながったすき間」
土壌学では、すき間の量そのものより、空気の入ったすき間が上から下まで連続してつながっているかどうかが重要だと考えます。すき間の合計が同じでも、途中に水の膜ができて道が切れていれば、気体はそこで足止めされます。植物の根が水びたしの土で弱るのも、同じ理屈です。ミミズが掘るあなは、この「つながった道」を増やしている構造物でもあります。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 本当に酸素だけが理由か。 雨のあとの土は、酸素が減るだけでなく、二酸化炭素がたまり、酸性の度合いも変わります。どれがミミズを地上へ押し出す主な引き金なのかは、種類によっても違うと考えられています。
- ふるえに反応している可能性。 雨つぶが地面をたたくふるえを、ミミズが天敵の動きと取り違えて地上へ出る、という説があります。人が地面をこすってミミズを集める方法は各地にあり、ふるえに反応すること自体は知られていますが、雨の日の出現をどこまで説明できるかは決着していません。
- どこまで移動しているのか。 地上へ出たミミズが、平均してどれだけの距離を移動し、どれだけが無事に土へ戻れているのかは、追跡が難しく、まとまった記録はまだ少ないとされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。身近な生きものほど、意外と調べ尽くされていません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・生物のからだのつくりと働き(呼吸) | 皮ふ呼吸のしくみ |
| 高校 | 生物基礎・化学基礎(気体のとけ方) | 水にとけている酸素の少なさ |
| 高校+ | 化学(拡散と濃度) | 式で確かめるの計算 |
| 大学 | 土壌学・生態学 | つながったすき間と土の通気 |
| 研究 | 土壌動物学 | 地上へ出る引き金と移動の距離 |
| ― | 生活とのつながり | 雨あがりの道、家庭菜園の土づくり |
- チャールズ・ダーウィン『ミミズと土』(1881年。ミミズが土をつくる働きを初めてまとめた古典)
- 中村好男『ミミズと土と有機物』(土の中でのミミズの働きをまとめた解説書)
- 国立天文台編『理科年表』丸善出版(気体の広がりやすさ、水への酸素のとけ方)
- 日本土壌肥料学会編による土の物理性についての各種解説(土の間げきと通気性の基礎)
- 気象庁「雨の強さと降り方」(まとまった雨の目安)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。屋外での観察は、天候や道路の状況に十分注意し、気象庁や自治体の発表する情報や指示に従って、無理のない範囲で行ってください。