雪が積もった朝は、なぜあんなに静かなの?
― 音を吸いこんでいるのは、地面に降り積もったすき間です
雪の朝の静けさは、「みんなが出かけないから」だけではありません。積もったばかりの雪は、見た目はふかふかの白い布団ですが、中身は無数のすき間の集まりです。そこへ入りこんだ音は、外へ出てこられなくなります。
夜のあいだに雪が降った朝、カーテンを開ける前から「今日は積もったな」と分かることがあります。明るさで気づく人もいますが、多くの人が先に気づくのは音のほうです。
いつも聞こえている遠くの車の音、線路の音、風に鳴る木の音。それがまとめて薄くなって、耳がふさがれたような感じがします。
外に出ると、その感じはもっとはっきりします。自分の足音まで、どこかへ吸いこまれていくように聞こえます。
理由は、大きく2つだけです
降ったばかりの雪は、体積のほとんどがすき間だとされています。音がその細い通り道に入りこむと、空気がこすれて、音のエネルギーがわずかな熱に変わります。もう音としては出てきません。
ふだん私たちが聞いている音には、地面や道路ではね返って届く分がたくさん混ざっています。その地面が雪でおおわれると、はね返る分がごっそり消えます。
1つめは「音を消す」働き、2つめは「音を届けなくする」働きです。同じ雪が、両方をいっぺんにやっています。順番に見ていきます。
積もった雪は、ほとんどが「すき間」です
音は、空気の押し合いが次々と伝わっていく波です。空気そのものが遠くまで飛んでいくのではなく、押されたところがとなりを押す、という動きが伝わります。
この波が、雪の表面にぶつかったとします。かたい地面なら、そこで押し返されて向きを変えます。ところが新しい雪は、細かい氷の枝が絡み合っただけの構造で、体積の9割ほどが空気だとされています。波は、はね返るより先に、そのすき間へすっと入りこんでしまいます。
すき間はとても細いので、中の空気は自由に動けません。氷の枝の表面にこすれながら、しぶしぶ揺れることになります。このこすれが、音のエネルギーをほんのわずかな熱に変えます。図1を見てください。かたい地面と積もった雪で、音のたどる道がまったく変わります。
「はね返ってくる音」が、思ったより多い
もうひとつの理由は、はね返りが消えることです。遠くの音が耳に届くとき、まっすぐ飛んできた分だけを聞いているわけではありません。地面で一度はね返った分、建物で二度はね返った分が、少しずつ遅れて重なっています。
この重なりがあるおかげで、音は「厚み」を持って聞こえます。雪が地面をおおうと、その重なりの土台がなくなります。まっすぐ届く分は残るのに、あとから足されるはずだった分が来ないので、音が薄く、平たく感じられます。
自分の声や足音が「近くで完結してしまう」ように感じるのは、このためです。ふだんは自分の声もまわりから返ってきていて、それを無意識に聞いています。
この静けさは、降ったばかりの新しい雪でいちばん強く出ます。日が経って表面がとけて固まると、すき間がふさがり、逆に音をよくはね返す面に変わります。凍った雪の上では、音がふだんより響くこともあります。
壁にすき間の多い材料を張って、音のはね返りを調整する方法があります。ねらいは雪と同じで、入ってきた音を細いすき間で熱に変えることです。雪原は、自然にできた巨大な吸音材だと言えます。
まとめ
雪の朝が静かなのは、雪が音を吸いこむからであり、同時に、音をはね返してくれる地面が消えるからです。人が出歩かないことも効いていますが、それだけでは、真昼になっても続くあの独特の静けさは説明できません。
雪はふとんのように見えて、音にとっては底なしの穴です。
入った音は、熱になって出てきません。
音がどう伝わり、どう返ってくるかについては、やまびこは、なぜ少し遅れて聞こえてくるの?と、なぜ夜は、遠くの音がよく聞こえるの?もあわせて読むと、つながりが見えてきます。雪そのものについては、氷は透明なのに、雪はなぜ白く見えるの?もどうぞ。同じ「すき間だらけ」という性質が、色の理由にもなっています。
- 雪が積もった日と、晴れた別の日の同じ時刻に、同じ場所で30秒だけ目を閉じて立ち、聞こえた音を数えてみます。数が減っているか、種類が減っているかを比べます。
- 雪の上で手をたたき、次にアスファルトが出ている場所で同じ強さでたたきます。音の消え方の速さの違いを聞き比べます。
- 雪が降ってから数日たち、表面が固く凍った日に、同じ場所でもう一度手をたたきます。新しい雪のときより響けば、すき間がふさがった証拠です。
車道に出ない、足もとの凍結に気をつける、という2点を守って行ってください。雪の日は路面がすべりやすくなっています。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(音響学・雪氷学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 吸音:音のエネルギーが、材料の中で熱に変わって減ること。はね返らずに消える働きを指します。
- 多孔質:内部に無数の細かいすき間を持つ構造のこと。新しい雪、スポンジ、軽石などがこれにあたります。
- 残響:音源が鳴りやんだあとも、はね返りが重なって音が残ること。この残り方が、場所の印象を決めます。
中学高校式で確かめる:はね返るたびに、音はどれだけ減るのか
吸音の強さは「吸音率」という数字で表されます。1回ぶつかったときに、どれだけの割合が熱に変わるかを示す数字です。新しい雪の吸音率は、私たちがよく聞く高さの音に対して0.8ほどになる場合があるとされています。残りは、はね返ります。
| 記号と単位について | 吸音率は割合を表す数で、単位はありません |
| 新しい雪の吸音率(目安) | 0.8 |
| 1回はね返って残る割合 | 0.2 |
| 考える反射の回数 | 3回 |
| 2回はね返ったあとに残る割合 | 0.2 × 0.2 = 0.04 |
| 3回はね返ったあとに残る割合 | 0.04 × 0.2 = 0.008 |
| もとの音の何分の1か | 1 ÷ 0.008 = 125 |
3回はね返るあいだに、音の強さは125分の1まで落ちます。同じ計算をかたいアスファルトで行うと、はね返って残る割合が0.9をこえるので、3回はね返してもほとんど減りません。この差が、そのまま「静けさ」として耳に届きます。
| 雪の上で3回はね返った音 | もとの音の125分の1 |
| これは、どのくらいか | となりの人の話し声が、ささやき声より小さくなる程度 |
実際の屋外では、はね返る回数はもっと多く、条件によって大きく変わります。ここでの数字は、しくみをつかむための目安です。
高校高校+なぜ、細いすき間だと音が熱になるのか
高校音は縦波、つまり空気が進む向きに沿って濃くなったり薄くなったりする波です。波が運んでいるのは、空気の粒の運動のエネルギーです。この運動が止められれば、音は消えます。
高校+細い管の中では、壁のすぐそばの空気は壁にくっついて動けません。少し離れた空気は動こうとします。この速さの差が、空気の粘りけを通して摩擦を生み、熱を発生させます。すき間が細いほど、動けない部分の割合が増えるので、熱に変わる割合も増えます。雪の内部の通り道は、この「細い管」の集まりだと考えられます。
大学すき間の多い材料を、まとめて扱う考え方
音響学では、多孔質な材料の中を音が進むようすを、材料ひとつぶずつではなく、平均された物性値で表します。よく使われるのは、空気の通りにくさを表す流れ抵抗、すき間の体積の割合を表す空隙率、通り道の曲がりくねり具合を表す量などです。これらを使うと、材料の中で音がどれだけ減るかを、実測せずに見積もることができます。雪の吸音も、この枠組みで扱われることが多いとされています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 雪質による違いの整理 同じ「新雪」でも、結晶の形や積もり方で内部の構造は変わります。どの性質が吸音の強さをいちばん決めているのかは、まだ整理の途中です。
- 静けさの寄与の切り分け 雪の日の静けさには、吸音のほかに、行き交う車の数の減少や、地表付近の気温の並び方による音の曲がりも関わります。それぞれが何割ずつ効いているかは、簡単には測れません。
- 時間とともに変わる吸音 積もった雪は、日が経つにつれて内部の構造が変わっていきます。その変化を、吸音の強さと結びつけて連続的に追う測定は、まだ多くありません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。雪はできた瞬間から形を変え続けるので、測るそばから相手が変わっていく難しさがあります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科 第1分野「音の性質」 | 音が波として伝わること、はね返ること |
| 高校 | 物理基礎・物理「波」「音波」 | 縦波としての音、エネルギーの考え方 |
| 高校+ | 物理「熱と仕事」の発展 | 摩擦によって運動が熱に変わる過程 |
| 大学 | 音響学・雪氷学 | 多孔質な材料の中を進む音の扱い |
| 研究 | 雪氷物理・環境音響 | 雪質と吸音の関係、静けさの要因の切り分け |
| ― | 生活とのつながり | 雪の日の静けさ、部屋の音の響きの調整 |
- 日本雪氷学会 編『雪と氷の事典』朝倉書店 ― 積雪の内部構造と物理的性質の解説
- 日本音響学会 編『音響用語辞典』コロナ社 ― 吸音率・流れ抵抗・残響の定義
- 石田 完「積雪の音響的性質」北海道大学低温科学研究所『低温科学』― 積雪の吸音についての測定
- 前川純一・森本政之・阪上公博『建築・環境音響学』共立出版 ― 多孔質材料が音を吸うしくみ
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。雪の日に外で観察するときは、路面の凍結や車に十分注意し、気象情報や自治体からの呼びかけに従ってください。