植物の根はなぜ下に、芽は上に伸びるの?
― 種を逆さに植えても、ちゃんと育ちます
アサガオの種を、上下を気にせず土に埋めたことはありませんか。それでも根は必ず下へ、芽は必ず上へ伸びていきます。植物には目も脳もありません。それなのに、どちらが下かを知っている。その手がかりは、細胞の中にある「重いつぶ」でした。
小学校で、アサガオやインゲンの種をまいたときのことです。先生に「向きは気にしなくていい」と言われませんでしたか。実際、どんな向きで埋めても、ちゃんと芽が出てきます。
台風のあと、倒れた稲を見たことがあるかもしれません。数日たつと、倒れたまま先だけが持ち上がり、まるで首を起こしたような形になっています。
植物は動けないはずなのに、向きだけは直せる。この「向きを直す力」は、どこから来るのでしょうか。
理由は、大きく2つです
根の先や茎の一部の細胞には、まわりより重い小さなつぶが入っています。つぶは重力にひかれて、細胞の底に沈みます。沈んだ場所が「下」です。植物は、この沈む先で上下を知っています。
つぶが沈んだ側には、成長を調節する物質が多く集まります。この物質は、茎では成長を強め、根では逆に成長を弱めます。同じ片寄りなのに反応が逆なので、曲がる向きも逆になるのです。
言いかえると、植物は「上下を感じるしくみ」と「感じた結果を動きに変えるしくみ」を、別々に持っています。順番に見ていきましょう。
どうやって「下」を知るのか
根の先端には、根冠(こんかん)と呼ばれる帽子のような部分があります。その内側の細胞には、でんぷんをたくさんためた重いつぶが入っています。まわりの液より重いので、細胞の中をゆっくり底へ沈んでいきます。
つぶが沈むのには時間がかかります。横に倒してから沈みきるまでが数分、曲がりはじめが十数分後、目で見て分かるほど曲がるのは数時間後というのが、おおよその流れとされています。植物の反応がゆっくりに見えるのは、感じるのが遅いからではなく、細胞がのびるのに時間がかかるからです。
種を逆さに埋めれば、細胞ごと逆さになります。それでも、つぶはあらためて底へ沈み直します。地球上のどこであっても、つぶが沈む先が下です。植物はこの「沈む先」だけを頼りに、自分の姿勢を知っているのです。
図1を見てください。左の図が、横に倒された直後の芽ばえです。右の図が、しばらくたって向きを直した姿です。
なぜ根と芽で、曲がる向きが逆になるのか
つぶが沈んだあと、その側には成長を調節する植物ホルモンが多く運ばれます。ここまでは、根でも茎でも同じです。違うのは、そのあとの反応です。
茎の細胞は、この物質が多いほどよく伸びます。横倒しの茎では下側がよく伸びるので、茎は上へ反り返ります。
ところが根の細胞は、同じ物質が多すぎると伸びが止まります。横倒しの根では下側の伸びが弱まり、上側だけが伸びる。すると根は下へ曲がります。同じ合図に、正反対の返事をしているわけです。
もうひとつ大事なのは、曲がる場所です。重力を感じるのは先端の細胞ですが、実際にのび縮みして曲がるのは、その少し後ろの、まだやわらかい部分です。感じる場所と動く場所が離れているので、合図は物質の流れとして数ミリ運ばれます。
倒れた稲が、茎の途中から折れ曲がったように起き上がるのも同じ理由です。かたくなった根元は動きません。節のそばに残ったやわらかい部分だけが、のび直して姿勢を立て直しています。
芽が上に伸びるのは光を目指しているから、と思われがちです。しかし土の中は真っ暗です。芽ばえは、地上に出るまでは光をまったく使わずに向きを決めています。光に向かって曲がる性質は、地上に出たあとで重ねて働きます。
国際宇宙ステーションのように重さがほとんど働かない場所で植物を育てると、根の伸びる向きがばらつくことが報告されています。植物にとって重力は、あって当たり前の「基準線」なのです。
まとめ
植物は、細胞の中で沈むつぶによって上下を知り、沈んだ側に集まる物質の量で伸び方を変えています。根と芽で曲がる向きが逆になるのは、同じ物質への反応が逆だからです。種の向きを気にしなくてよいのは、植物が自分で向きを直せるからでした。
植物は下を「見て」いるのではありません。
細胞の中で、つぶが静かに沈んでいるだけです。
木が高いところまで水を運ぶしくみは「木はなぜ、100メートルの高さまで水を吸い上げられるの?」で、木が季節ごとに成長のしかたを変える話は「木の年輪は、なぜ1年に1本ずつできるの?」で、同じ成長の物質が種の並びをつくる話は「ひまわりの種は、なぜらせん状に並んでいるの?」で紹介しています。
- ぬらしたキッチンペーパーにインゲンやダイズの種を数粒のせ、透明な容器に入れてふたをします。日かげの室内に置き、乾かないように水をたします。
- 根が2〜3センチ伸びたら、容器を横向きに(90度たおして)置き直します。位置がずれないよう、種はペーパーで軽く押さえておきます。
- 半日ごとに横から見て、根の先だけが下へ曲がっていくようすを写真に残します。芽が出ていれば、そちらは上へ曲がるはずです。
曲がるのは根の「先の数ミリ」だけです。すでに固くなった部分は動きません。曲がりはじめた位置に印をつけておくと、成長している場所がどこか、はっきり見えます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 重力屈性(じゅうりょくくっせい):重力の向きを手がかりに、植物の器官が決まった向きへ曲がる性質。根は重力の向きへ、茎は逆へ曲がります。
- オーキシン:成長を調節する植物ホルモンのひとつ。茎では細胞ののびを強め、根では濃くなりすぎるとのびを抑えます。
- アミロプラスト:でんぷんをためた細胞内の小さなつぶ。まわりより重いため沈み、上下を知らせる重りとして働きます。平衡石(へいこうせき)とも呼ばれます。
- 根冠(こんかん):根の先端をおおう帽子のような部分。土をかき分けて先端を守りながら、重力を感じる細胞をかかえています。
中学高校式で確かめる:根はどれくらいの速さで伸びるのか
曲がるのは根の先のごく短い部分だけです。では、その先端はどれくらいの速さで進んでいるのでしょうか。芽ばえの根がのびる速さを1日あたり1センチとして、時間あたりに直してみます。単位のそろえ方に注目してください。
| 記号と意味 | 芽ばえの根がのびる速さ。単位はセンチ毎日 |
| のびる速さ(種類や温度で変わります) | 1日に約1センチ |
| 1日の長さ。単位は時間 | 24時間 |
| 1か月の日数。単位は日 | 30日 |
| 1時間あたり何センチのびるか | 1 ÷ 24 ≒ 0.042 |
| センチをミリに直す | 0.042 × 10 = 0.42 |
| 1か月では何センチのびるか | 1 × 30 = 30 |
1時間で約0.42ミリ、1か月で約30センチという計算になります。かみの毛がのびる速さは1か月で1センチほどとされますから、根はその30倍ほどの速さで土の中を進んでいることになります。植物は動かないように見えて、地面の下ではかなりの速さで移動しているのです。
高校高校+片寄りは、どうやって生まれるのか
高校高校の生物では、屈性を「刺激の向きに対して決まった向きに曲がる反応」として習います。光に対する反応が光屈性、重力に対する反応が重力屈性です。どちらもオーキシンの片寄りで説明されます。
高校+オーキシンは細胞から細胞へ、決まった向きにだけ運ばれます。運び出す役目のたんぱく質が細胞のどの面に並ぶかで、流れる向きが決まるのです。重力を感じた細胞では、この運び手が下側の面に集まり直すため、オーキシンの流れが下側へ傾くと考えられています。
大学重さの情報が、化学の合図に変わるまで
大学の植物生理学では、この現象を「重力の感知」「信号の変換」「反応」の三つの段階に分けて扱います。感知の段階では、沈んだつぶが細胞内の膜や骨組みを押すことが引き金になると考えられています。その押された情報がカルシウムイオンの動きや細胞内の酸性度の変化に置きかわり、最後に運び手のたんぱく質の並びを変える。力という物理量が、化学の合図に翻訳される過程です。根と茎で反応が逆になるのは、同じオーキシン濃度に対する細胞ののび方の反応曲線が、器官ごとに違うためだと説明されています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 沈んだつぶを、細胞は何で「感じて」いるのか。 つぶが沈むところまでは観察できますが、その重さや接触をとらえる部品が何なのかは、まだ完全には特定されていません。
- つぶを持たない部分の反応。 でんぷんのつぶをほとんど持たない植物でも、弱いながら重力に反応する例が知られています。別のしくみが重なっている可能性が議論されています。
- 宇宙で育てる植物。 重さがほとんど働かない場所で植物がどう育つかは、長い宇宙滞在で食べ物を作るためにも調べられていますが、地上との違いのすべてが説明できているわけではありません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。つぶが沈むという話は確かめられていますが、そこから先の道すじは、いまも書きかえられている途中です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・植物のつくりとはたらき/力と重さ | 根と芽の向き、重力という言葉の意味 |
| 高校 | 生物・植物の環境応答(屈性とオーキシン) | 根と茎で曲がる向きが逆になる理由 |
| 高校+ | 生物・発展/教科書のコラム | オーキシンの運び手と、流れの向き |
| 大学 | 植物生理学・細胞生物学 | 感知から反応までの三つの段階 |
| 研究 | 植物の重力応答、宇宙での栽培 | まだはっきりとはわかっていないこと |
| ― | 生活とのつながり | 種をまく向き、倒れた作物が起き上がること |
- 日本植物生理学会「みんなのひろば 植物Q&A」(重力屈性とオーキシンに関する解説)
- チャールズ・ダーウィン、フランシス・ダーウィン『The Power of Movement in Plants』(1880年、屈性の古典的な観察記録)
- 高等学校「生物」教科書(植物の環境応答の単元、屈性とオーキシンの項)
- 宇宙航空研究開発機構および米国航空宇宙局による、宇宙での植物栽培実験に関する公開資料
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。のびる速さや反応の強さは、植物の種類・温度・水分によって大きく変わります。観察をするときは、種や苗を屋外の自然環境から勝手に持ち出さないでください。