タケノコは、なぜ1日に何十センチも伸びるの?
― 伸びている場所は、1か所ではありません
植物は、ふつう先っぽだけが伸びます。ところがタケノコは、体じゅうの何十か所が同時に伸びています。しかも、その材料を自分ではほとんど作っていません。速さのひみつは、この二つに分けて考えると見えてきます。
春の竹やぶです。きのう見つけたタケノコは、ひざくらいの高さでした。皮を何枚も重ねた、太くて短い姿でした。
次の日の夕方、同じ場所に行きます。その一本は、見上げるほどの高さになっています。太さはほとんど変わっていません。上へ、上へとだけ伸びています。
まわりの草花は、一日ではほとんど変わりません。同じ土から生えているのに、この差はどこから来るのでしょうか。
速さの理由は、大きく2つです
ふつうの草木が伸びるのは、先端の一点だけです。タケノコは節の一つひとつに伸びる部分をもっていて、そこが同時に伸びます。一か所あたりは少しでも、数十か所を足し合わせると大きな長さになります。
タケノコには、まだ光を受ける葉がありません。使っているのは、親の竹が前の年にためて地下茎に置いておいた養分です。細胞を新しく作るより、水を入れてふくらませるほうがずっと速く進みます。
この2つは、別々の話ではありません。「伸びる場所を増やす」やり方と、「一か所の伸び方を速くする」やり方が重なって、あの速さになっています。順に見ていきます。
伸びているのは、先っぽではありません
木や多くの草は、先端にある小さな成長点で細胞を作り、それを積み上げるようにして伸びます。だから、幹の途中に印をつけても、その印は地面からの高さをほとんど変えません。伸びているのは、いつも一番上だからです。
竹の仲間はちがいます。タケノコの中には、すでに数十枚の節が、うすい紙を重ねたようにぎゅっと詰まっています。そして節と節のあいだの付け根に、それぞれ伸びる部分があります。この部分は、下から順にではなく、多くが同時に働きます。
図1を見てください。左が、先端だけが伸びるふつうの草です。上向きの矢印は一本だけです。右がタケノコで、節ごとに短い矢印が何本も並んでいます。一本あたりの矢印は短くても、本数が多いので、合計は長くなります。望遠鏡の筒を一度に全部のばすようなものです。
細胞は「作る」より「ふくらませる」ほうが速い
もうひとつの理由は、伸び方そのものにあります。細胞を新しく作るには、まず中身を用意して、しきりのかべを作り、分かれる必要があります。手間も時間もかかります。
タケノコの節のあいだでは、すでにできている細胞が水を吸い込み、たてに長くのびます。細胞の中に水がたまると、内側から外へ押す力が強くなります。かべがそれにつれてゆるむと、細胞は風船のようにたてに引きのばされます。作るのではなく、ふくらませているのです。
その水と養分は、地面の下から来ます。竹は地下茎という太い地下の茎で、まわりの竹とつながっています。タケノコはその地下茎から生えた芽で、親の竹が前の年にためた養分を、そのまま受け取って使えます。自分で光を受けて作る必要がないので、はじめから全力で伸びられます。
木は年ごとに幹が太くなりますが、竹はちがいます。節の数も太さも、タケノコのうちにほぼ決まってしまいます。地上に出てから1か月ほどで高さが止まり、そのあとは何年たっても太くなりません。木の年輪ができないのも、このためです。
節のあいだが伸びるやり方は、竹だけのものではありません。イネ科の草に広く見られます。倒れた稲が、節のところで曲がって起き上がるのも同じしくみです。踏まれても伸び直せる草の強さは、伸びる場所を体じゅうに分けて持っていることから来ています。
まとめ
タケノコの速さは、特別に強い力で押し上げているからではありません。伸びる場所を数十か所に分け、その一つひとつを水でふくらませ、材料は地下から受け取る。この三つが重なった結果です。目を離したすきに伸びるのではなく、いま見ているあいだも、体じゅうで少しずつ伸びています。
一点をがんばるのではなく、
体じゅうで少しずつ、同時に伸びる。
ほかの植物の時間の使い方も見てみてください。キノコが雨のあとに急に生えてくる理由も「水でふくらむ」話です。桜がいっせいに咲くしくみや、根が下に、芽が上に伸びる理由も、あわせて読むと植物の見え方が変わります。
- 春に竹やぶのそばを通れるなら、タケノコの高さを朝と夕方の2回、そばの棒に印をつけて測ってみてください。半日で差が出ます(他人の土地には入らないでください)。
- 竹ぼうきの柄や、竹製の物さしで、節と節の間かくを下から順に測ってみてください。下のほうが短く、中ほどが長くなっているはずです。伸びかたの記録が残っています。
- 身近なイネ科の草(エノコログサなど)をそっと横に倒して置き、翌日見てください。節のところで折れ曲がり、先が上を向いています。
2番目は、家にある竹製品でもできます。節の間かくは、その竹が伸びていたときの記録そのものです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 節間分裂組織:節のすぐ上にある、細胞が分かれたり伸びたりする部分です。茎の途中に何十か所も置かれている点が、先端だけにある成長点とちがいます。
- 地下茎:地面の下を横に走る茎です。根ではありません。竹林の竹は多くが地下茎でつながっていて、養分をやりとりしています。
- 細胞伸長:細胞が水を取り込み、かべがゆるんでたてに長くなることです。細胞の数を増やさずに全体の長さを増やせます。
中学高校式で確かめる:1つの節は、どれくらい伸びているのか
竹の伸びは、条件がよい時期に1日で1メートルを超えた記録があるとされています。この長さを、節の数で割ってみます。一か所あたりは、むしろ静かな伸びであることが見えてきます。使う記号は次のとおりです。
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| 長さ | 1日に伸びた全体の長さ(ミリメートル) |
| 数 | 同時に伸びている節のあいだの数(個) |
| 時間 | かかった時間(時間) |
| 1日に伸びた長さ | 1200 ミリメートル(1.2 メートル)とされる |
| 節のあいだの数 | 60 個ほどとされる |
| かかった時間 | 24 時間 |
| 全体で1時間あたり | 1200 ÷ 24 = 50 |
| 節のあいだ1つの1日あたり | 1200 ÷ 60 = 20 |
| 節のあいだ1つの1時間あたり | 20 ÷ 24 ≒ 0.83 |
単位はミリメートルです。全体では1時間に5センチメートルほど伸びますが、節のあいだ1つで見ると1時間に1ミリメートルにも届きません。ごくふつうの伸びを数十か所ぶん足し合わせたものが、あの速さの正体です。
高校高校+水の圧力が、伸びる力になっています
高校細胞の中の液は、まわりより濃くなっています。そのため水が細胞の中へ入り込み、内側から外へ押す力が生まれます。この力が細胞のかべを外へ張りつめさせています。
高校+張りつめただけでは伸びません。かべを作っている繊維どうしのつながりが、ゆるむ必要があります。植物ホルモンのはたらきでかべがゆるみ、そこへ内側からの力がかかると、細胞はたてに引きのばされます。つまり押す力とゆるめるしくみの両方がそろって、はじめて伸びが起こります。
大学成長は「かべのやわらかさ」で決まります
植物生理学では、細胞の伸びる速さを、内側からの押す力と、かべがゆるみ始める境目の力との差で表す考え方が使われます。差がゼロ以下なら伸びず、差が大きいほど速く伸びます。かべのゆるみやすさを表す量をかけ合わせる形になっていて、水がいくらあっても、かべが固ければ伸びないことが式の上でも示されます。タケノコの節のあいだでは、このゆるみやすさが一時的に非常に大きくなっていると考えられています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 何十か所の足並みは、どうそろうのか。 節ごとの伸びが、どのような合図でそろえられているのかは、まだ完全には説明されていません。
- 地下茎の配り方。 竹林の中で、どのタケノコに養分を送り、どれを途中でやめるのか。その選び方のしくみは研究の途中です。
- 一斉に咲いて枯れる周期。 竹の仲間は数十年に一度いっせいに花を咲かせ、その後に枯れることが知られています。時間をどう数えているのかは、大きな謎のままです。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は種類や条件で大きく変わるため、目安として読んでください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・植物のからだのつくりとはたらき | 茎・地下茎・成長点の話 |
| 高校 | 生物基礎・生物/細胞と浸透 | 水が入って細胞がふくらむしくみ |
| 高校+ | 生物/植物ホルモンと成長 | 細胞のかべがゆるむ話 |
| 大学 | 植物生理学/細胞壁と成長の力学 | 伸びる速さを力の差で表す考え方 |
| 研究 | 植物生態学・園芸学 | 足並みのそろい方、一斉開花の周期 |
| ― | 生活とのつながり | 竹製品の節の間かく、春の味覚としての収穫時期 |
- 林野庁(竹林・竹材に関する資料)
- 内村悦三『タケ・ササ図鑑 ― 種類・特徴・用途』創森社
- 柴岡弘郎『植物の成長』(植物生理学の入門書)
- 日本植物生理学会「みんなのひろば 植物質問コーナー」(竹の成長速度・節間伸長に関する回答)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。竹林の多くは私有地です。観察や採取をする場合は所有者の許可を得て、自治体や地域の決まりに従ってください。