たまごの殻は、なぜ手で握っても割れないのに、ふちで軽く当てると割れるの?
― 形が力を散らし、一点が力を集めています
たまごの殻は、指でつまむと簡単にへこみそうなくらい薄いのに、手のひらで包んで力いっぱい握っても、なかなか割れません。ところがボウルのふちに軽くコツンと当てるだけで、あっさりひびが入ります。同じ殻なのに、この差はどこから生まれるのでしょうか。答えは「殻の強さ」ではなく、力の当たり方にあります。
朝、目玉焼きを作ろうとして、たまごをボウルのふちに当てます。ほとんど力を入れていないのに、コツンという小さな音とともに、殻にすっとひびが走ります。
ところがその同じたまごを、手のひらでまるごと包んでぎゅっと握ってみると、驚くほど割れません。指を立てず、手のひら全体で包んだままなら、かなりの力をかけても平気なことがあります。
力の大きさだけで考えると、逆のことが起きているように見えます。強く握ったほうが割れないのは、なぜでしょうか。
理由は、大きく2つです
たまごの殻は、どこを切っても丸くふくらんだ「屋根」の形をしています。この形は、外から押された力を、殻の壁づたいに全体へ流していきます。手のひらで包むと、力は一か所にとどまらず、殻じゅうに薄く散らばります。
殻の材料は、押しつぶす力にはよく耐えますが、引きちぎる力にはとても弱いとされています。まるごと握られたときの殻には、押す力ばかりが働きます。しかし一点で当てられると、その周りだけが曲げられ、殻の内側に引っぱる力が生まれます。
この2つは、同じことを表と裏から見たものです。順番に見ていきましょう。
まるごと握ると、力は殻ぜんぶに散らばります
たまごの形は、上下に少し長い、丸みのある閉じた殻です。この形の面白いところは、外から押されたときに、力が殻の壁の中を伝わっていくという点にあります。石を積んだ橋のアーチや、丸い屋根の建物と同じ考え方です。
手のひらで包んで握ると、殻は広い面積で押されます。押された力は、その場所にとどまらずに殻の壁づたいに周りへ流れ、やがて反対側の手のひらに受けとめられます。どこか一か所だけが特別に苦しい、という状態になりません。だから、かなり強く握っても殻は持ちこたえます。
ところが、ボウルのふちが当たるのは、ほんの数ミリの範囲です。図1を見てください。左の図が手のひらで包んだ場合、右の図がふちに当てた場合です。同じ大きさの力でも、当たる面積が小さいほど、その場所にかかる負担は大きくなります。
一点で当てると、殻は「曲げられ」ます
力が集中することのほかに、もうひとつ大事な違いがあります。それは、殻の内側で何が起きるかです。
たまごの殻は、その大部分が炭酸カルシウムという物質でできているとされています。この材料は、押しつぶす力にはとてもよく耐えますが、両側から引っぱって裂こうとする力には弱い、という性質を持ちます。石やコンクリートと似た仲間だと考えると分かりやすいでしょう。
手のひらで包んだときの殻には、押す力ばかりが働きます。得意な力だけを受けている状態です。ところがふちに一点で当てられると、その周りの殻がわずかにへこみます。へこんだところでは、殻の外側は縮み、内側は逆に引きのばされます。これが「曲げ」です。殻がいちばん苦手な引っぱる力が、内側の面に生まれてしまうわけです。
さらに、殻の表面や内部には、目に見えない小さな傷やすき間があります。引っぱる力がかかると、こうした弱いところが起点になって、ひびが一気に走ります。だから割れ方が「じわじわ」ではなく「ぱきっ」と急なのです。
鶏卵の殻の厚さは、およそ0.3ミリメートルほどだとされています。たまごの短いほうの直径はおよそ45ミリメートルですから、大きさに対する薄さの比は、ピンポン球の壁に近いものです。それでも握って壊れにくいのは、材料が強いからではなく、形が力を上手に配っているからです。
同じ理屈が、内側からだと逆に働きます。ひなは、くちばしの先の小さな突起で、殻を内側から一点だけ押します。すると殻の外側が引きのばされ、殻が苦手な引っぱる力がかかります。外からは壊しにくく、内側からは壊しやすい。この非対称さが、卵という容器のうまくできたところだとされています。
まとめ
たまごの殻が握っても割れにくいのは、丸い形が力を殻ぜんぶへ配り、殻が得意な「押される力」だけを受けている状態になるからです。逆にふちに当てると、力がごく狭い範囲に集まり、殻が曲がって内側に「引っぱられる力」が生まれます。割れやすさを決めているのは力の大きさではなく、その力がどこに、どう当たるかなのです。
強いのは殻ではなく、殻の「形」。
だから、当て方ひとつで結果が変わります。
体の大きさと強さの関係はアリが自分の何十倍もの荷物を運べる理由で、材料が「強い」とはどういうことかはクモの巣が雨や風で壊れない理由で取り上げています。殻の材料である炭酸カルシウムそのものについては鍾乳石がゆっくり伸びる理由が、割ったあとのたまごの話は生卵がゆでると固まる理由が近い内容です。
- 流しの上で、たまごを手のひら全体で包みます。指輪ははずし、指先や爪を立てないようにして、ゆっくり力を加えてみます。かなり握っても割れないことが多いはずです。
- 次に、同じたまごを人差し指と親指の2点だけでつまみ、同じくらいの力をかけてみます。今度は、先ほどよりずっと小さな力で割れるはずです。当たる面積の違いだけで、結果が変わります。
- 割れた殻のかけらを、指先で押しつぶしてみます。丸みを保ったままだと意外に硬く、平らに近い小さな破片は、ぱきぱきと簡単に折れます。形が効いていることが実感できます。
割れたたまごは料理に使い、作業のあとは手と流しをよく洗ってください。テーブルの上ではなく、流しの中で試すと片づけが楽です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(材料力学・シェル理論)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 圧力:面を垂直に押す力を、その面積で割った量。同じ力でも、面積が小さいほど圧力は大きくなります。
- アーチ作用:丸くふくらんだ形が、外からの力を壁づたいに流し、押す力として受けとめるはたらき。
- 引張応力:材料の中で、両側へ引きのばそうとする向きに働く力の強さ。殻はこれに弱いとされています。
- 曲げ:板や殻が反るように変形すること。外側は縮み、内側はのびます。
中学高校式で確かめる:当たる面積で、負担は何倍変わるか
握るときと、ふちに当てるときで、殻が受ける負担がどれだけ違うのかを比べます。記号の意味と単位は、下の表のとおりです。数値は、しくみを比べるための目安の値です。
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| 力 | 殻を押す力の大きさ。単位はニュートン |
| 面積 | 殻に触れている部分の広さ。単位は平方センチメートル |
| 圧力 | 力を面積で割った値。単位はニュートン毎平方センチメートル |
| 手のひらで握るときの力 | 200 とする |
| 手のひらが触れている面積 | 40 とする |
| ふちに軽く当てるときの力 | 10 とする |
| ふちが触れている面積 | 0.02 とする |
| 握るときの圧力 | 200 ÷ 40 = 5 |
| ふちに当てるときの圧力 | 10 ÷ 0.02 = 500 |
| ふちのほうが何倍か | 500 ÷ 5 = 100 |
力そのものは握るときのほうが20倍も大きいのに、殻が受ける圧力は、ふちに当てるときのほうが100倍大きくなります。「強く握ったのに割れない」の正体は、この面積の差です。しかも握るときは押す向きの力だけなのに対し、ふちに当てるときは曲げによる引っぱりが加わります。
高校高校+殻の中では、力はどう流れているのでしょうか
高校物体にかかる力は、接している面から面へと伝わっていきます。丸い殻を外から押すと、力は殻の壁に沿った向きの押し合いに変わり、殻の各部分がとなりの部分を押しながら、全体でつり合いを保ちます。これが、アーチ橋がまん中の重さを両端の土台まで運ぶしくみと同じです。
高校+薄い殻では、壁に沿った押し合いや引っぱり合いを「面内の力」、反りによる力を「曲げの力」と分けて考えます。丸い形をなめらかに押した場合はほとんどが面内の力ですみますが、狭い範囲を押すと曲げの力が急に大きくなります。曲げに耐えられる量は殻の厚さの2乗におおよそ比例するとされ、薄い殻ほど曲げに弱くなります。
大学殻の理論と、割れの始まり
大学の材料力学では、薄い曲面の構造をシェルと呼び、面内の力だけでつり合う理想的な状態を膜応力状態といいます。実際の殻では、力が集中する点や境目のまわりだけで曲げの成分が急に増えることが知られ、この局所的な効果は境界層のように扱われます。また、割れの始まりは平均的な強さではなく、材料の中にある最も大きな欠陥の寸法で決まるという考え方があり、破壊力学と呼ばれます。卵殻のように、硬い鉱物の結晶とたんぱく質の膜が層になった材料では、この膜がひびの進行を少し押しとどめる役割を持つと考えられています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 殻の内側の膜が、どこまで効いているのか。 殻の内側にある薄い膜が、ひびの進み方をどの程度おさえているのかは、測り方によって結果が分かれるとされています。
- 鳥の種類ごとの形の違いの意味。 転がりにくい細長い卵、丸みの強い卵など形はさまざまですが、それが巣の場所によるものか、飛び方や体のつくりによるものかは、いまも議論が続いています。
- 人工の材料への応用。 硬い粒とやわらかい層を重ねた卵殻のような構造を、工業材料でまねる試みが進んでいますが、生き物と同じ強さと軽さを両立できるかは、まだ分かっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は目安であり、たまごの個体差や持ち方によっても変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科(力と圧力) | 面積が小さいほど圧力が大きくなる話 |
| 高校 | 物理基礎(力のつり合い) | 殻の中を力が流れていくしくみ |
| 高校+ | 物理(弾性と変形) | 曲げによって内側が引っぱられる話 |
| 大学 | 材料力学・シェル理論・破壊力学 | 膜応力状態と、割れの始まりの考え方 |
| 研究 | 生物材料学 | 殻の膜のはたらきと、材料への応用 |
| ― | 生活とのつながり | たまごの割り方、丸い屋根やアーチ橋の強さ |
- 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構):鶏卵の品質と殻の性状に関する解説。
- 日本家禽学会などによる、卵殻の厚さと強度の測定に関する報告。
- 材料力学の標準的な教科書における、薄いシェルの膜応力と曲げ応力の章。
- 生物材料の力学に関する総説における、炭酸カルシウムとたんぱく質の層構造の記述。
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。台所で試すときは、割れた殻や中身で足元がすべらないよう気をつけ、生のたまごを扱ったあとは手をよく洗ってください。