「夕焼けの次の日は晴れ」は、本当なの?
― 空は、西から順番に届きます
この言い伝えは、かなりよく当たります。ただし、夕焼けが晴れを呼んでいるわけではありません。夕焼けが見えたという事実そのものが、西の空のようすを教えてくれているのです。そして日本付近では、空模様は西から東へ動いていきます。
夕方、洗濯物を取りこもうとベランダに出たら、西の空がまっ赤に染まっています。思わず写真を撮りたくなるような、きれいな夕焼けです。
そばにいた祖父が、こう言います。「これは明日、晴れるな」。実際、次の日はよく晴れました。
なぜ、夕方の空の色で明日がわかるのでしょうか。しかも朝焼けのときは、逆に「雨が近い」と言われます。同じ赤い空なのに、どうして反対の意味になるのでしょう。
理由は、2つだけ
日本のある中緯度の上空では、風がいつも西から東へ吹いています。雲や雨の区域は、この流れに乗って運ばれます。だから、いま西にある空模様が、数時間後にはこちらへ届きます。
夕日は、西の低い空から長い距離を通って目に届きます。その道すじが厚い雲でふさがれていれば、赤い空は見えません。夕焼けが見えたこと自体が、西が晴れている証拠なのです。
この2つを足すと、答えが出ます。「西が晴れている」ことと「西の空がこちらへ来る」ことが重なるので、翌日は晴れやすいのです。順に見ていきましょう。
理由1:日本の空は、西から順番に流れてくる
地球の中緯度、つまり日本がある帯では、上空を強い西風が地球をぐるりと取り巻いています。これを偏西風と呼びます。高気圧や低気圧は、この流れに押されて東へ移動していきます。
天気予報で「西日本から天気がくずれます」という言い方をよく聞きます。あれは決まり文句ではなく、実際に空が西から順番に入れかわるからです。春や秋には、晴れをもたらす高気圧と雨をもたらす低気圧が、交互に西から東へ通り過ぎていきます。
図1を見てください。あなたの西側にある空が、これからやってくる空です。東の空は、もう通り過ぎたあとの空になります。
理由2:夕焼けが見えること自体が、西の空の報告書
夕日の光は、地平線ちかくから長い距離の空気を通ってきます。その途中に厚い雲があれば、光はさえぎられます。つまり、赤い夕焼けが見えたということは、西の空がかなり遠くまで晴れているという意味になります。
朝焼けが「雨が近い」と言われるのは、この裏返しです。朝日は東から来ます。東が晴れているということは、晴れの区域がもう通り過ぎたあとだということです。そして次に控えているのは、西からやってくる別の空模様というわけです。
夕焼けの赤さは、空気の粒が青い光を先に散らしてしまうために生まれます。空が青いのと同じしくみです。赤が濃い日ほど翌日が晴れる、という関係があるわけではありません。大事なのは色の濃さではなく、夕日が見えたかどうかです。
夕焼けで確かめられるのは、せいぜい数百キロメートル先までの空です。その先に低気圧が控えていれば、翌日の午後には雨になります。また台風が近づく時期は、空模様が南から北へ動くこともあり、この言い伝えは当てになりません。
まとめ
夕焼けが翌日の晴れを呼んでいるのではありません。夕焼けが見えたという事実が、「西の空はいま晴れている」と教えてくれているだけです。そして日本付近では、その西の空がこちらへ順番に流れてきます。だから、この言い伝えはよく当たります。
夕焼けは、予言ではありません。
西の空から届いた、いちばん早い天気の知らせです。
夕焼けが赤くなるしくみそのものは空はなぜ青いのに、夕焼けは赤くなるの?で、雨雲が黒く見える理由は雨が降りそうな雲は、なぜ黒く見えるの?で扱っています。台風が日本の近くで急に東へ曲がるのも、同じ偏西風のしわざです。台風はなぜ、日本の近くで急に東へ曲がるの?もどうぞ。
- 夕方、西の空を見て「夕日が見えた」「見えなかった」だけを手帳に書きます。色の濃さは書かなくてかまいません。
- 翌日の昼に、「晴れ」「くもり」「雨」のどれだったかを書きます。これを1週間つづけます。
- 「夕日が見えた日の翌日」が何回晴れたかを数えます。言い伝えとしては、7回のうち5回も当たれば上等です。
外れた日は、その日の天気図をあとから見てみてください。西のさらに西に、低気圧が控えていたはずです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(気象学・大気力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 偏西風:中緯度の上空を、地球をひとまわりするように西から東へ吹き続ける風です。
- 移動性高気圧:春や秋に、日本付近を西から東へ次々と通っていく高気圧です。晴れをもたらします。
- 観天望気:空のようすや生き物のふるまいから、これからの天気を読む昔からの知恵のことです。
中学高校式で確かめる:西の晴れ間は、いつ届くの?
言い伝えがよく当たる理由と、それでも外れる理由を、数で見てみます。記号は使わず、日常の単位だけで計算します。
| 高気圧や低気圧が東へ進む速さ | 時速およそ40キロメートル(日本付近の目安とされています) |
| 夕日のあたりまで見わたせる距離 | およそ200キロメートル |
| 日没から翌日の昼までの時間 | およそ18時間 |
| 見えている晴れ間が届くまでの時間 | 200 ÷ 40 = 5 |
| 翌日の昼までに入れかわる空の広さ | 40 × 18 = 720 |
| 見えている範囲の何倍にあたるか | 720 ÷ 200 = 3.6 |
単位は、上から順に時間、キロメートル、倍です。夕焼けで確かめられた晴れ間は、5時間ほどで頭の上に来ます。ところが翌日の昼までには、その3.6倍もの広さの空が通り過ぎます。見えていない残りの部分に何が控えているかは、夕焼けでは分かりません。だからこの言い伝えは、よく当たるけれども絶対ではないのです。
高校高校+なぜ、風は西から吹くのでしょう
高校赤道は暖かく、極は冷たい。この南北の温度差が大気の流れを生み、そこに地球の自転の効果が加わることで、中緯度の風は西から東へ向きます。地上の風は山や海の影響を受けますが、上空ほどこの向きがはっきりします。
高校+偏西風のなかでも特に速い部分は、ジェット気流と呼ばれます。冬には時速300キロメートルを超えることもあるとされ、飛行機の飛行時間が行きと帰りで違う原因にもなっています。この流れは南北に大きくうねっており、うねりの谷や尾根の位置が、低気圧の生まれる場所を左右します。
大学低気圧は、流れのうねりから生まれる
大気力学では、南北の温度差をもつ流れがしだいに不安定になって波が育つ現象を、傾圧不安定と呼びます。温帯低気圧は、この不安定から生まれる波のひとつとして説明されます。この波は上空の流れに運ばれる一方で、自身は西向きに進もうとする性質をもっています。地上で見える移動速度が上空の風速よりずっと遅いのは、その差し引きの結果と考えられています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 言い伝えの的中率 「夕焼けの次の日は晴れ」がどれくらい当たるかは、土地や季節によって変わります。全国をそろえて調べた決定版と言えるものは、まだ多くありません。
- 予測の限界 大気の流れは、わずかな違いが育ってしまう性質をもっています。そのため予報の精度には原理的な限界があるとされ、その限界がどこにあるかは今も議論が続いています。
- 偏西風の変化 気候が変わるにつれて偏西風のうねり方が変わるかどうかは、研究の途中です。うねりが変われば、同じ天気が長く居座りやすくなる可能性も指摘されています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。空を見て翌日を当てる楽しみは、予報が発達したいまも失われていません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科 第2分野「天気とその変化」 | 天気が西から東へ移り変わる話 |
| 高校 | 地学基礎「大気と海洋」 | 偏西風と移動性高気圧 |
| 高校+ | 地学(発展) | ジェット気流と、うねりの谷や尾根 |
| 大学 | 気象学・大気力学 | 傾圧不安定と、低気圧の発達 |
| 研究 | 数値予報・気候学 | 予測の限界と、偏西風の変化 |
| ― | 生活とのつながり | 夕方に西の空を見て、翌日の予定を考える |
- 気象庁(天気予報・気象の基礎知識)
- アメリカ海洋大気庁 国立気象局「JetStream」(気象の学習資料)
- 小倉義光『一般気象学』東京大学出版会
- 日本気象学会編『気象科学事典』東京書籍
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の天気の判断は気象庁の発表する予報にもとづき、荒天のときは自治体・気象庁・消防などの指示に従ってください。