自然のふしぎ 気象 予備知識なしでOK 読了 約7分

雨が降りそうな雲は、なぜ黒く見えるの?
― 黒い絵の具は、どこにも入っていません

白い雲も、黒い雲も、中身は同じ「小さな水のつぶ」です。色のちがいを生んでいるのは、つぶの種類ではありません。雲がどれだけ厚いかと、太陽の光がその中をどれだけ長く旅してくるか。その二つだけで、雲の色は白から灰色、そして黒へと変わっていきます。

公開:2026.08.31 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

よく晴れた日の空に、わたのような雲がぽっかり浮かんでいます。まぶしいくらいの白です。

ところが夕方、同じ空に別の雲が近づいてきました。下のほうが灰色で、真ん中あたりはほとんど黒く見えます。「これは降るな」と、なんとなく分かります。

でも不思議です。雲に黒い絵の具が混ざったわけではありません。どちらの雲も、正体は同じ水のつぶの集まりなのです。

雲の色を決めているのは、この2つだけ

1
厚い雲ほど、下まで光が届かない

雲のつぶは光をあちこちへ跳ね返します。跳ね返された光の多くは、上へ戻っていきます。だから雲が厚いほど、地上まで抜けてくる光は少なくなります。

2
明るい空と、見比べているから

私たちは雲だけを見ているのではありません。まぶしい空や、白く光る雲のてっぺんと同時に見ています。そのとなりにあると、少し暗いだけの灰色も「黒」に感じられます。

つまり雲の色は、雲そのものの性質ではなく、「光がどこを通って自分の目まで来たか」で決まります。順番に見ていきましょう。

雲のつぶは、色をえり好みしない

空が青いのは、空気の分子がとても小さく、青い光をよく散らかすからです。ところが雲のつぶは、それよりずっと大きい水のしずくです。目に見える光の波よりも大きいくらいの大きさがあります。

この大きさになると、色による差はほとんどなくなります。赤も緑も青も、同じように跳ね返されます。全部の色がまざれば白です。雲が白いのも、霧が白いのも、かき氷が白いのも、理由はここにあります。

だとすれば、黒い雲の中でも同じことが起きているはずです。ちがうのは、跳ね返される「回数」のほうでした。

厚い雲の中で、光は迷子になる

雲の中に入った光は、まっすぐには進めません。つぶにぶつかるたびに向きを変え、また別のつぶにぶつかります。行ったり来たりをくり返すうちに、多くの光は入ってきた方向、つまり上へ戻ってしまいます。

薄い雲なら、数回ぶつかるだけで下へ抜けられます。だから下から見ても明るい白です。ところが雲が厚くなると、下へたどり着ける光はどんどん減ります。図1を見てください。左のうすい雲では光が下まで通り抜けていますが、右の厚い雲では、矢印の多くが上へ戻ってしまっています。

左:うすい雲 右:厚い雲 太陽 太陽 厚さ うすい 下まで届く 上は白いまま 底は暗い 点線:何度も 跳ね返る道 上へ戻る ごくわずか 見上げると白い 見上げると黒い
図1:左のうすい雲と、右の厚い雲を横から見たようす。上から差しこむ光は、左では下向きの矢印のように通り抜けます。右では点線の道すじのように雲の中で何度も跳ね返され、多くが上へ戻ります(右側の上向きの太い矢印)。下へ抜ける光はごくわずかで、雲の底は暗く見えます。

飛行機の窓から同じ雲を上から見ると、まぶしいほどの白いじゅうたんに見えます。同じ雲でも、上から見れば白、下から見れば黒。これは、雲が光を吸い込んでいるのではなく、跳ね返していることのなによりの証拠です。

もうひとつの理由は、私たちの目のほうにあります

人の目は、明るさの絶対値を測る機械ではありません。まわりと見比べて「明るい・暗い」を判断します。同じ灰色でも、白いものの横に置けば暗く、暗いものの横に置けば明るく見えます。

雲の底はたいてい、明るい空や白く輝く雲のてっぺんと並んで目に入ります。だから、実際には灰色でしかない部分が、はっきりと「黒」に感じられるのです。写真に撮って明るさを測ると、思ったほど暗くないことがよくあります。

💡 つぶが大きくなると、光は通りやすくなります

雲の中で水のつぶが育って雨のつぶになると、同じ量の水でも、つぶの数はぐっと減ります。光をさえぎる面の合計も小さくなるので、じつは光は通りやすくなります。それでも降りそうな雲が暗いのは、つぶが育つころには雲自体がとても厚くなっているからです。厚さの効果が、はるかに勝っています。

💡 夕方の雲が、下からオレンジに染まる理由

日が沈むころ、太陽の光は空気の層を長く横切って届きます。青い光は途中で散らされ、残った赤みの強い光が雲の底に当たります。同じ雲でも、当たる光の色が変われば、見える色も変わります。

まとめ

雲は白い水のつぶの集まりで、色をえり好みせずに光を跳ね返します。ですから雲そのものに黒い成分はありません。雲が厚くなると、光は中で何度も跳ね返されて上へ戻り、下まで届く分がわずかになります。そこに「まわりの明るさとの見比べ」が加わって、雲の底は黒く見えます。

黒い雲とは、色の変わった雲ではありません。
光が下まで降りてこられなくなった、分厚い白い雲です。

空の色のしくみは、空はなぜ青いのに、夕焼けは赤くなるの?で詳しく説明しています。雲のつぶがどうやって生まれ、なぜ落ちてこないのかは雲は水のかたまりなのに、なぜ落ちてこないの?を、同じ「跳ね返して白くなる」しくみは氷は透明なのに、雪はなぜ白く見えるの?をどうぞ。

🧪 自分で確かめてみる
  1. コップに水を入れ、牛乳を一滴だけ落としてかき混ぜます。白くにごった水ができます。これが雲のミニチュアです。
  2. コップの真上から明かりを当て、横から見ます。上のほうは明るく光り、底に近いほど暗いことが分かります。厚みの効果です。
  3. 牛乳をもう数滴足すと、上と底の差はさらに大きくなります。同じ白いにごりなのに、底は灰色に沈んで見えます。

空でも同じことを確かめられます。厚い雲が通り過ぎるとき、雲のふちの薄いところだけが明るく光っているのを探してみてください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎(光と波)」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(大気放射学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:厚さが2倍になると、暗さはどうなるか

雲の中を一定の距離だけ進むごとに、下へ向かう光が半分になる、という単純なモデルで考えてみます。ここでは100メートル進むごとに半分としましょう。実際の雲の性質そのものではなく、厚みの効き方をつかむための目安です。

① もとになる数値
記号のかわりに使う量:やや厚い雲の厚さ の目安500 メートル
よく発達した雲の厚さ の目安1000 メートル
光が半分になる距離(このモデルでの仮定)。長さの単位はメートル100 メートル
② 計算してみる
500メートルの雲で、半分になる回数500 ÷ 100 = 5
半分を2回くり返すと、もとの何分の1か2 × 2 = 4
3回では4 × 2 = 8
4回では8 × 2 = 16
5回では16 × 2 = 32
下へ届く光の割合1 ÷ 32 ≒ 0.03
百分率に直すと0.03 × 100 = 3

下に届くのは、およそ3パーセントということになります。同じ計算を1000メートルの雲で行うと、半分になる回数は10回になり、届く光はおよそ1000分の1、つまり0.1パーセントほどです。厚さが2倍になっただけで、暗さは桁ちがいに深まります。雲の底が黒に見えるのは、この急な落ち方のためです。

高校高校+つぶの大きさと、散らばり方の関係

高校光の散らばり方は、つぶの大きさと光の波の長さの比で性質が変わります。つぶが波の長さよりずっと小さいときは、短い波ほど強く散らばり、空は青くなります。つぶが波の長さと同じか大きいときは、どの色もほぼ同じように散らばります。雲のつぶは後者にあたります。

高校+雲のつぶの直径は、およそ0.01ミリメートル前後とされています。目に見える光の波の長さは、その百分の一ほどしかありません。この比では、色による差はほとんど消えます。一方で雨つぶは直径1ミリメートル前後まで育ちます。同じ量の水でも、つぶが大きくなるほど表面の合計は小さくなり、光をさえぎる力は落ちます。

大学放射伝達の考え方で見ると

大気放射学では、雲を通る光を放射伝達方程式で扱います。雲の中の光は吸収よりも散乱がはるかに強く、目に見える光では吸収がほぼ無視できるとされています。つまり雲は光を消しているのではなく、行き先を変えているだけです。発達した雲の上の面が跳ね返す割合は非常に高くなり、その分だけ下の面に届く量が減ります。この振る舞いは、地球全体の熱の出入りを見積もるうえでも重要な要素とされています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。雲の色という身近な話題が、気候の研究の最前線とつながっています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・光の反射/気象観測雲のつぶが光を跳ね返す話
高校物理基礎・光と波つぶの大きさと散らばり方の関係
高校+物理・地学の発展/コラムつぶの大きさと表面の合計の話
大学大気放射学・気象学放射伝達と雲の反射率
研究気候科学・衛星観測雲のむらと、細かいちりの影響
生活とのつながり空を見上げて、降りそうかを見分ける目安
参考・出典
  1. 気象庁ホームページ「雲の種類」など、雲に関する解説ページ。
  2. 小倉義光『一般気象学』東京大学出版会(雲粒の大きさと成長、雲の光学的性質の章)。
  3. 柴田清孝『光の気象学』朝倉書店(大気中の散乱と放射伝達の基礎)。
  4. Grant W. Petty, A First Course in Atmospheric Radiation, Sundog Publishing(散乱と放射伝達の入門書)。

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。空模様から天気を判断するときは、気象庁や自治体などの発表する最新の情報と指示に従ってください。