自然のふしぎ 流体 予備知識なしでOK 読了 約7分

渦潮は、なぜ海の真ん中にできるの?
― 二つの海の「高さの差」が、川のような流れをつくります

海は平らに見えます。それなのに、狭い海峡では水がごうごうと流れ、いくつもの渦が生まれては消えていきます。じつは海峡の右と左では、潮が満ちる時刻がずれています。そのずれが海面の高さの差をつくり、海の中に「川」をつくっているのです。

公開:2026.08.31 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

橋の上から、狭い海峡を見おろしています。海はどこまでも続く平らな水面のはずです。

ところが目の下では、水が白く筋を引いて走っています。そのわきに、すり鉢のようなくぼみが口を開け、数十秒でほどけて消えました。すぐに、少し離れた場所で次の渦が生まれます。

風は強くありません。川でもありません。それなのに、どうして水がこんなに速く流れ、渦を巻くのでしょうか。

理由は、大きく2つです

1
海峡の右と左で、潮の時刻がずれている

潮の波は、海の形にそって回りこみながら進みます。そのため海峡の両側で満ち引きの時刻がずれ、片方が満ちているときに、もう片方はまだ引いたままになります。海面に高さの差ができ、水は高いほうから低いほうへ流れ出します。

2
速い流れと遅い流れが、となり合っている

海峡の中央は深く、流れが速くなります。岸ぎわは浅く、底との摩擦で流れがおそくなります。速い水と遅い水がとなり合うと、その境目は棒でかきまぜたときのようにねじれ、丸まって渦になります。

この2つは順番につながっています。1で「海の中の川」ができ、2でその川のふちが渦に巻く、という流れです。順に見ていきます。

まず、海面に「坂」ができます

潮の満ち引きは、月と太陽に引かれて海面がふくらむことで起こります。ただし、そのふくらみは陸地にぶつかりながら進むので、場所によって届く時刻が変わります。

たとえば、細い海峡をはさんで二つの海がつながっているとします。片方には潮の波が短い道を通ってすぐ届き、もう片方には長く回りこんでから届きます。すると、同じ時刻に見比べたとき、片方の海面が高く、もう片方が低い、という状態が生まれます。

水は、高いところから低いところへ流れます。海峡は、その二つの海をつなぐ細い通り道です。広い海全体の水位差を、狭い一本の道で埋め合わせようとするので、通り道の中の流れはとても速くなります。日本の鳴門海峡では、潮の流れの速さが秒速5メートルほどに達することがあるとされています。人が早足で歩くよりも、ずっと速い流れです。

次に、流れのふちが渦に巻きます

速い流れが一様に流れているだけなら、渦はできません。渦を生むのは「差」です。図1を見てください。海峡を上から見た様子で、中央ほど流れが速く、岸に近いほど遅くなっています。

海峡を上から見た図 上がわの陸地 下がわの陸地 左の海 水位が高い 右の海 水位が低い 中央:深くて流れが速い 岸ぎわ:浅くて遅い 岸ぎわ:浅くて遅い 境目で渦が巻く 境目で渦が巻く 横向きの点線が、速い流れと遅い流れの境目です
図1:海峡を上から見たところです。上下の緑の帯が陸地、その間が海峡です。左の海の水位が高く、右の海が低いので、水は左から右へ流れます。中央の長い2本の矢印が速い流れ、岸ぎわの短い矢印が遅い流れを表します。横向きの2本の点線が両者の境目で、そこに描いた丸い矢印が渦です。上の渦と下の渦は、回る向きがたがいに逆になります。

境目にいる水の粒を思い浮かべてください。その粒の片側は速い水に引っぱられ、反対側は遅い水に引きとめられます。前と後ろで押される強さが違えば、物は回りはじめます。片方のタイヤだけを速く回すと車体が向きを変えるのと、同じことです。

こうして境目にできた小さな回転が、まわりの水を巻きこんで大きく育ちます。中央の速い流れをはさんで、上下の岸ぎわで生まれるため、渦の回る向きは上と下で逆になります。育った渦はやがてくずれ、また新しい渦が生まれます。渦潮が「いくつも、次々に」現れるのは、このためです。

💡 渦潮がよく見えるのは、1日のうち短い時間だけ

流れの速さは、潮の高さの差が大きいときほど大きくなります。逆に、潮が変わり目にさしかかると差が小さくなり、流れも渦もおとなしくなります。観潮船の時刻表が日によってばらばらなのは、月の動きに合わせて「差が大きくなる時刻」がずれていくからです。

💡 満月と新月のころ、渦は大きくなります

月と太陽が同じ方向、または正反対にならぶ満月・新月のころは、潮の満ち引きの幅が大きくなります。海面の高さの差も大きくなるので、流れが速まり、渦も育ちやすくなります。年によって差はありますが、春と秋の大潮のころに大きな渦が見られやすいとされています。

まとめ

渦潮は、海峡の両側で潮の時刻がずれることで海面に高さの差が生まれ、そこを埋めようとする速い流れができ、その流れのふちが渦に巻いたものです。月の動き、海の形、海底の深さ。この3つがそろってはじめて現れる風景だといえます。

海が平らでなくなった一瞬を、
水は渦という形で見せてくれます。

潮の満ち引きそのもののしくみは潮の満ち引きは、なぜ1日に2回もあるの?で説明しています。流れのふちがねじれて水の道すじが変わる話は川はなぜまっすぐ流れず、蛇行するの?でも扱っています。海の流れが人を運ぶ側面については、海で「気づいたら沖に流されている」のは、なぜ起きるの?もあわせてどうぞ。

🧪 台所で「境目の渦」をつくってみる
  1. 洗面器か大きめの器に、水を深さ5センチほど入れます。表面に、ひとつまみの粉末(こしょうや粉末だしなど)をまいて目印にします。
  2. 手のひらを水面のすぐ下に入れ、器のはしから中央へ向けて、まっすぐ一方向にゆっくり動かします。かき回さず、一直線に動かすのがこつです。
  3. 手が通った筋の両わきを見てください。速い水と止まった水の境目に、小さな渦が数個ならんで生まれます。手を速くするほど、渦は小さく、数が増えます。

これが図1と同じしくみです。海峡では、手のかわりに潮の高さの差が水を押しています。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・地学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学・海洋物理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:高さの差から、流れの速さを見積もる

水位差から流れの速さを見積もる、いちばん簡単な考え方を使います。高いところにあった水が、その高さのぶんだけ落ちる勢いで走り出す、と考える方法です。ここで使う記号のうち、高さの差の単位は「メートル」、重力の強さの単位は「毎秒毎秒メートル」、速さの単位は「秒速メートル」です。

① もとになる数値
海峡をはさんだ海面の高さの差1.5メートルとする
重力の強さのめやすおよそ9.8
秒速を時速に直すときの決まった数3.6
② 計算してみる
まず重力の強さを2倍にする2 × 9.8 = 19.6
それに高さの差をかける19.6 × 1.5 = 29.4
同じ数をかけて29.4に近くなる数をさがす5.4 × 5.4 = 29.16
その秒速を時速に直す5.4 × 3.6 = 19.44

高さの差が1.5メートルなら、流れはおよそ秒速5.4メートル、時速にしておよそ19キロメートルになります。自転車で走るくらいの速さです。実際の海峡では、底の摩擦や海峡の長さのために、これよりおそくなります。それでも、実際に測られる潮流の速さと、だいたい同じ大きさになります。

高校高校+なぜ「狭い」ことが効くのか

高校通り道の断面がせまくなると、同じ量の水を通すために流れは速くならなければなりません。広い川が細い水路に入ると急に速くなるのと同じです。断面の面積と流れの速さは、かけ算した値がほぼ保たれる関係にあります。海峡はまさに、この「細い水路」です。

高校+速さの違う流れがとなり合う境目は、ほんのわずかな乱れでも不安定になり、波打ってから丸まることが知られています。この現象は、雲の形や、大気の層の境目でも同じように現れます。渦潮の渦は、この不安定さが海の規模で目に見えた姿です。

大学渦は「回転の量」として数えられる

大学の流体力学では、流れの場のねじれ具合を、場所ごとの回転の量として扱います。速さが場所によって変わる度合いが、そのままこの量になります。中央が速く岸ぎわが遅い流れでは、境目でこの量が大きくなり、そこから渦が生まれます。海洋物理学では、これに海底の地形や地球の自転の効果を加えて計算し、海峡ごとの潮流を予測しています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに個々の渦のふるまいは、これから書きかえられるかもしれません。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科:力のはたらき、月と地球の動き高さの差が水を押す話、潮の満ち引き
高校物理基礎:エネルギーの移り変わり/地学基礎:海洋高さの差から速さを見積もる計算
高校+物理:流れと断面の関係せまいところで流れが速くなる話
大学流体力学・海洋物理学回転の量として渦を数える考え方
研究沿岸海洋学の観測とモデル渦の寿命、深さ方向の姿
生活とのつながり観潮船の時刻、海峡の航路、漁場の豊かさ
参考・出典
  1. 海上保安庁 海洋情報部「潮汐・潮流」に関する解説ページ
  2. 気象庁「潮汐・海面水位に関する知識」解説ページ
  3. 宇野木早苗『沿岸の海洋物理学』東海大学出版会
  4. 柳哲雄『海の科学 ― 海洋学入門』恒星社厚生閣

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。潮流の速い海域では、小型の船や海岸から近づくことに危険がともないます。現地の案内板や、海上保安庁・自治体などの指示に従ってください。