🌕 日常のふしぎ 🌊 海と月の話 予備知識なしでOK 読了 約7分

潮の満ち引きは、
なぜ1日に2回もあるの?

「月が海の水を引っぱるから」――そこまでは聞いたことがあるかもしれません。でも、それだけなら満潮は1日1回のはずです。実際には、満潮はほぼ1日に2回やってきます。月の反対側の海まで盛り上がる、この不思議のしくみを見ていきましょう。

公開:2026.08.24 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

海辺の町で、朝から夕方まで過ごす一日。朝、堤防の下には広い砂浜が広がっていました。ところが昼すぎに戻ってくると、砂浜はほとんど海の下。夕方には、また現れはじめています。

堤防の壁をよく見ると、貝や海藻がびっしり付いた帯が、地面と平行にくっきり走っています。海面がいつもそのあたりまで上がってくる、という印です。

釣りの好きな人なら知っているとおり、この上げ下げは1日におよそ2回ずつ、時計のように規則正しくくり返されます。「月が引っぱるから」だけでは、実はこの「2回」が説明できません。

しくみは、2つの盛り上がり

1
月に近い側の海は、強く引かれて盛り上がる

月の引力は、月に近いほど強くなります。月に面した側の海水は、地球の他の部分より強く引かれて、月の方へ盛り上がります。ここまでは直感どおりです。

2
月から遠い側の海は、「取り残されて」盛り上がる

実は地球全体も、月に引かれて動いています。月から遠い側の海水は引かれ方がいちばん弱く、動いていく地球から取り残される形で、月と反対の方へ盛り上がります。

つまり海は、月に向いた側と、その正反対の側の2か所で同時に盛り上がっています。地球はその下で1日1回転しているので、どの海辺も1日に2回、盛り上がりの下を通過する――これが「満潮が1日2回」の正体です。

地球 近い海水:強く引かれる 地球の中心:中くらい 遠い海水:弱い こちら側の盛り上がり 取り残されてできる盛り上がり
図1:地球と月を北極の上から見たところ(大きさと距離は誇張しています)。黄色の矢印は月の引力の強さで、月に近いほど長く=強くなっています。近い側の海水は地球より強く引かれて月の方へ、遠い側の海水は地球より弱くしか引かれず取り残されて反対方向へ。青い水の膨らみが2か所にできるのがポイントです。

「取り残される」を、綱引きでたとえると

3人が一列につながって、綱で同じ方向へ引かれているところを想像してください。先頭の人は強く、真ん中の人はほどほどに、最後尾の人は弱くしか引かれていません。すると列はどうなるでしょうか。全員が同じ方向に動きながらも、列そのものは前後に引き伸ばされていきます

地球と海で起きているのは、まさにこれです。月に近い海水・地球本体・遠い海水の3者が、それぞれ違う強さで月に引かれる。全体として月の方に引かれつつ、差の分だけ、地球は月の方向に沿って前後に引き伸ばされる。岩の地球はほとんど変形しませんが、自由に動ける海水は、この「引き伸ばし」に素直に応えて2つの膨らみを作るのです。

💡 満潮の時刻が、毎日約50分ずつ遅れる理由

地球が1回転する間に、月も地球のまわりを少し進んでいます。だから「同じ月の真下」に戻るには、1回転+ちょっとおまけの時間がかかります。このおまけが約50分。満潮から次の満潮までは、24時間50分の半分の約12時間25分になります。潮見表の満潮時刻が毎日少しずつ後ろへずれていくのは、月の公転が原因だったのです。

大潮と小潮 ― 太陽も参加している

海水を引き伸ばしているのは、実は月だけではありません。太陽も同じことをしています(力は月の半分以下です。理由は最後の折りたたみで)。

新月や満月のころは、太陽・地球・月が一直線に並び、月の引き伸ばしと太陽の引き伸ばしが同じ方向に重なります。このときが、満潮と干潮の差がいちばん大きい大潮。半月のころは、月と太陽が直角の位置関係になり、お互いの引き伸ばしを打ち消し合って、差が小さい小潮になります。

大潮(新月・満月のころ) 小潮(半月のころ) 太陽 引き伸ばしが重なって、膨らみ最大 太陽 月(直角の方向) 打ち消し合って、膨らみ最小
図2:左が大潮、右が小潮のときの並び(大きさと距離は誇張しています)。左では太陽と月の引き伸ばしが同じ軸に重なり、海の膨らみ(青いだ円)が大きくなります。右では月が直角の方向にいるため、2つの引き伸ばしが別方向に働いて打ち消し合います。膨らみは月の方向(縦)にわずかに残るだけで、干満の差は小さくなります。
💡 同じ日本でも、干満差は場所で20倍も違う

九州の有明海では、大潮の干満差が約6mに達します。一方、日本海側では0.3m程度しかありません。月の引力はどちらにも同じように働いているのに、です。この差を生むのは海底や湾の形。奥に向かってすぼまる浅い湾では、寄せてきた海水が行き場を失って高く積み上がり、さらに湾の形と潮のリズムが合うと、ブランコを押すように揺れが増幅されるとされています。

まとめ

満潮が1日2回あるのは、①月に近い側の海が強く引かれて盛り上がり、②遠い側の海は取り残されて反対に盛り上がる――地球をはさんで2つの膨らみが同時にできているからです。その下で地球が1回転するたび、私たちの海辺は2回、膨らみをくぐります。

月は、海を「引っぱって」いるだけではありません。
地球ごと引きながら、海を前後に「引き伸ばして」いるのです。

この「引き伸ばす力」は、実は月自身の形と自転も変えてきました。月がいつも同じ面を地球に向けている理由は、こちらの記事で説明しています。

🧪 1週間でできる観察:満潮時刻の「毎日のずれ」を確かめる
  1. 気象庁のサイトや潮見表アプリで、近くの海の満潮時刻を毎日1回メモする(海に行かなくてもできます)
  2. 1週間分たまったら、満潮時刻が毎日どれくらい遅れているかを引き算してみる
  3. あわせて月齢(月の満ち欠け)もメモし、新月・満月の日に干満の差が大きくなっているかを見る

遅れはおよそ50分前後になるはずです。ぴったりでないのは、湾の形や気圧・風の影響が重なるため。ずれ方そのものにも、その土地の海の個性が表れています。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」「物理」「地学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の「物理」の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(海洋物理学・測地学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:満潮の間隔と、毎日のずれ

本文の「約12時間25分」と「毎日約50分のずれ」を、実際に計算して確かめてみましょう。使うのは足し算・かけ算・わり算だけです。

① もとになる事実
地球の1回転24時間
月が「同じ真上」に戻ってくる周期約24時間50分(月が公転で先へ進む分のおまけ約50分を含む)
海の膨らみの数2つ(月側と反対側)
② 満潮から満潮までの間隔を出す
24時間50分を分に直す(時間の部分)24 × 60 = 1440(分)
おまけの50分を足す1440 + 50 = 1490(分)
膨らみは2つなので半分にする1490 ÷ 2 = 745(分)
時間に戻す745 ÷ 60 ≒ 12.4(時間)= 約12時間25分

潮見表の満潮どうしの間隔と、ほぼ一致します。「2つの膨らみの下を順にくぐる」という図1のイメージが、そのまま数字になっていることがわかります。

③ 有明海と日本海の干満差を比べる
有明海の大潮の干満差(目安)約6 m
日本海側の干満差(目安)約0.3 m
比をとる6 ÷ 0.3 = 20(倍)

同じ月の下でも、湾の形しだいで20倍の差が生まれます。起潮力が決めるのは「海をどれだけ引き伸ばそうとするか」まで。実際に海面が何メートル動くかは、それぞれの海の形との合作なのです。

高校高校+なぜ月が主役で、太陽は脇役なのか

高校物理で習う万有引力の式では、引力は距離の2乗に反比例します。太陽は月よりはるかに重いので、地球を引く力そのものは太陽のほうが圧倒的に強い。それなのに潮汐の主役が月なのは、不思議に思えます。

高校+カギは、潮汐を起こすのが「引力そのもの」ではなく「場所による引力の差」だという点です。地球の直径ぶんだけ離れた2点での引力の差を計算すると、この差は距離の3乗に反比例することが導けます(2乗の式を距離で微分した形になります)。距離が近いことが3乗で効くため、月の起潮力は太陽の2倍あまりになります。具体的な数字での比較は、月の自転の記事の折りたたみで「割り算2回」の形でやっています。

大学実際の海は「2つの膨らみ」よりずっと複雑

図1のような「2つの膨らみが地球を回る」という説明は平衡潮汐論と呼ばれ、リズムや回数をよく説明します。しかし実際の海には大陸という壁があり、水深もまちまちで、膨らみは地球を素直に一周できません。現実の潮汐は、海盆ごとに「無潮点」と呼ばれる回転の中心のまわりを、潮の波がぐるぐる回るという形で進みます(動的潮汐論)。有明海のような増幅も、湾の固有周期と潮のリズムの共鳴として、この枠組みで扱われます。現代の潮汐予報は、この動的な計算と観測データの組み合わせで行われています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

潮汐は何百年も研究されてきた現象ですが、いまも活発に研究が続いている部分があります。

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。毎日くり返される身近な現象の中に、気候から他の天体の海まで続く問いが埋まっています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・月の動きと満ち欠け満潮時刻のずれ、大潮・小潮と月齢の関係
高校物理・万有引力/地学基礎・海洋引力の距離依存、潮汐の基本リズム
高校+物理・万有引力の応用(発展扱いの内容)起潮力が距離の3乗に反比例する理由
大学海洋物理学・測地学平衡潮汐論と動的潮汐論、無潮点、湾の共鳴
研究海洋物理学・惑星科学(未解決)内部潮汐と海洋のかき混ぜ、古代の1日の長さ、氷衛星の潮汐加熱
生活とのつながり潮見表の読み方、干満差の地域差、堤防の貝の帯
参考・出典
  1. 気象庁「潮汐・海面水位の知識」(潮汐のしくみ、大潮・小潮、全国の潮位観測)。
  2. 国立天文台・暦計算室による、月の出没と潮汐周期に関する解説。
  3. 海洋物理学の標準的な教科書における平衡潮汐論・動的潮汐論の解説(宇野木早苗『沿岸の海洋物理学』など)。
  4. Munk, W. & Wunsch, C., Abyssal recipes II: energetics of tidal and wind mixing, Deep-Sea Research I 45, 1998(内部潮汐と海洋混合)。
  5. Williams, G. E., Geological constraints on the Precambrian history of Earth's rotation, Reviews of Geophysics 38(1), 2000(過去の1日の長さの推定)。

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の潮位は気圧や風でも変わります。海辺での観察や釣り・潮干狩りの際は、必ず最新の潮見表と現地の掲示を確認し、無理のない行動を心がけてください。