外がマイナス20度でも、雪の下はなぜ0度のままなの?
― 雪は冷たさではなく、あたたかさを閉じこめています
雪は冷たいものの代表です。ところが雪国の真冬、外の空気がマイナス20度まで下がっても、積もった雪の底の温度はほとんど0度のあたりから動きません。ネズミも、カエルも、草の根も、その細い温度の帯にもぐりこんで冬をやりすごしています。冷たいはずの雪が、なぜ「あたたかい場所」をつくれるのでしょうか。
よく晴れた真冬の朝、雪国の畑は一面まっ白です。空気は肌を刺すほど冷たく、温度計はマイナス15度を指しています。
ところが、スコップで雪をよけて地面まで掘ると、土は凍っていません。掘った穴の底に手を入れると、外よりずっとぬるく感じます。
雪と地面のあいだには、細いすき間が続いていることもあります。そこには小動物の足あとやトンネルが残っています。マイナス15度の世界のすぐ下で、生きものが冬じゅう動き回っているのです。
理由は、大きく2つです
降ったばかりの雪は、体積の9割ほどが空気だとされています。氷の粒はすかすかにつながっているだけで、そのすき間の空気が熱の行き来をさえぎります。雪は「冷たい氷のかたまり」ではなく、羽毛ぶとんに近いものです。
地面は夏のあいだにためた熱を、冬にかけてゆっくり手放します。雪がふたをしていると、その熱は逃げきれずに底にたまります。そして土の中の水が凍るとき熱を出すので、温度は0度のあたりで足踏みします。
つまり雪の底の0度は、「冷えきった結果」ではなく、上からの冷たさと下からの熱がつり合った場所なのです。順に見ていきます。
すき間だらけだから、熱が通れない
熱を伝えにくい材料には、共通点があります。中に細かい空気の部屋をたくさん持っていることです。発泡スチロールも、セーターも、羽毛ぶとんもそうです。空気そのものが熱を伝えにくいうえに、部屋が細かく仕切られていると、空気が動いて熱を運ぶこともできません。
新しく降った雪は、まさにその構造をしています。細い氷の枝が絡み合い、そのあいだを空気が満たしています。だから雪は、同じ厚さの氷にくらべて、けたちがいに熱を通しにくいのです。降り積もった雪が押しつぶされて固くなるほど空気は減り、断熱の力は弱まっていきます。ふんわりした新雪ほど、下を守る力が強いことになります。
図1を見てください。左が雪の断面、右が深さごとの温度です。雪の表面は外の空気とほぼ同じ温度まで冷えますが、深くなるほど温度は上がり、底では0度のあたりに落ち着きます。
下からの熱と、0度で止まるブレーキ
雪がふとんだとしても、ふとんは自分では発熱しません。人がふとんであたたかいのは、体が熱を出しているからです。雪の場合、その役目を果たすのが地面です。
地面は夏のあいだ、日射を受けて深いところまであたためられています。その熱は秋から冬にかけて、時間をかけて上へ抜けていきます。雪が積もっていないと、この熱はどんどん空へ逃げ、土は深くまで凍ります。雪がふたをすると、逃げ道がせばまり、熱は雪の底にたまります。
さらに強力なブレーキがあります。土の中の水が凍るときには熱が出ます。逆にとけるときには熱を吸います。どちらの場合も、まわりの温度は0度から動けません。氷水にどれだけ氷を足しても水温が0度のままなのと同じで、水と氷が同居しているあいだ、温度はそこで足踏みするのです。雪の底が0度前後で安定するのは、この性質のおかげです。
積雪がおよそ30センチをこえると、地面の温度は外の空気の日々の上がり下がりをほとんど追わなくなる、とされています。冬のはじめに雪が早く積もった年は、土が凍らずに冬を越します。逆に、寒いのに雪が少ない年ほど、土は深くまで凍りつきます。
雪の下の土がずっと0度前後に保たれていると、植物の根や土の中の微生物は活動をやめずに冬を越せます。雪どけの直後に、まるで準備ができていたかのように芽が伸びるのは、その下でずっと準備が続いていたからだと考えられています。
まとめ
雪は、冷たさを地面に押しつけているのではありません。空気をたっぷり含んだ層になって外の寒さをさえぎり、地面が手放す熱をその下に閉じこめています。マイナス20度と0度という20度の差が、わずか数十センチの白い層をはさんで向かい合っている――それが雪国の冬の地面です。
雪は、冷たさをためる布ではなく、
あたたかさを逃がさない布です。
同じ「雪はすき間だらけ」という性質は、音の世界にも顔を出します。雪が積もった朝は、なぜあんなに静かなの?もあわせてどうぞ。地面の温度が季節にどう遅れてついてくるかは井戸水や湧き水は、なぜ夏は冷たく、冬は温かく感じるの?で、雪の下で冬を越す動物の体のしくみは冬眠する動物は、なぜ何か月も食べずにいられるの?で扱っています。
- 雪が20センチ以上積もった日に、平らな場所を選びます。スコップで、地面が見えるまで垂直に掘ります(斜面や、車の通る場所ではやらないこと)。
- 掘った断面の「雪の表面近く」と「地面のすぐ上」に、料理用の温度計をそれぞれ差しこみ、1分ほど待って読みます。外の気温もいっしょに記録します。
- 底のほうが表面よりずっとあたたかく、しかも0度を大きく下回らないことを確かめます。日を変えて外気温が下がった日にも測ると、底の値だけがほとんど動かないことがわかります。
掘った穴は、必ず埋めてから帰りましょう。屋根の下や、雪が高く積み上げられた場所には近づかないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(雪氷学・伝熱工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 熱伝導率:材料が熱をどれだけ通しやすいかを表す数値です。値が小さいほど熱を通しません。雪の値は、空気の割合が多いほど小さくなります。
- 潜熱:水が凍るときに出し、氷がとけるときに吸う熱のことです。この出入りのあいだ、温度は0度から動きません。
- 雪面下空間:積もった雪と地面のあいだにできる、すき間の層のことです。ネズミなどの小動物が、そこを通り道にして冬を過ごします。
中学高校式で確かめる:雪の底から、熱はどれだけ逃げているか
厚さ50センチの新雪が積もり、雪の表面がマイナス20度、底が0度だとします。この雪の層を通って、1平方メートルあたり毎秒どれだけの熱が上へ逃げているかを見積もります。
| 新雪の熱伝導率 | およそ0.05(単位はワット毎メートル毎ケルビン)とされる |
| 雪の厚さ | 0.5メートル |
| 表面と底の温度差 | 20度 |
| 1メートルあたりの温度差に直す | 20 ÷ 0.5 = 40 |
| 1平方メートルを通る熱(ワット) | 0.05 × 40 = 2 |
| 1時間あたりの熱(ジュール) | 2 × 3600 = 7200 |
逃げていく熱は、1平方メートルあたり2ワットほどです。小さな豆電球1個分にすぎません。地面が秋までにためこんだ熱で、この程度の流出なら冬じゅう支えられる、という見当がつきます。記号の意味は、熱伝導率が「材料の通しやすさ」、厚さが「距離」、温度差が「押す力」にあたります。
高校高校+同じ厚さでも、雪の重さで結果が変わります
高校熱の伝わり方には、伝導・対流・放射の3つがあります。雪の中では、氷の枝を伝わる伝導と、すき間の空気の中の伝導が主役です。空気の割合が大きいほど、全体としては熱が通りにくくなります。
高校+実際の積雪では、これに水蒸気の移動が加わります。雪の中で温度差があると、あたたかい側で氷が水蒸気になり、冷たい側でまた氷に戻ります。この繰り返しが、熱を運ぶ第4の道になります。そのため実測の熱伝導率は、氷と空気の割合だけから計算した値より大きくなることが知られています。
大学密度が決める、雪の断熱の力
雪氷学では、雪の熱伝導率を密度の関数として近似する式がいくつも提案されています。降ったばかりの軽い雪と、締まって重くなった雪とでは、値が10倍近く違うことがあります。冬のあいだ雪は自分の重さで沈み込み、密度が上がっていくので、同じ深さの雪でも断熱の力は季節とともに落ちていきます。地面の凍り方を予測するには、積もった量だけでなく、いつ積もったかまで追う必要があります。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 雪が減ると土は冷える。 気温が上がるのに土は凍りやすくなる、という一見ねじれた現象が各地で報告されています。根が傷むことで、春以降の植物の育ち方や、土から出る温室効果ガスの量がどう変わるかは、まだ結論が出ていません。
- 雪の下の微生物。 0度前後の暗い土の中でも、微生物は活動を続けています。冬のあいだの分解が、1年ぶんの物質の流れにどれだけ寄与しているのかは、測定が難しく見積もりに幅があります。
- 水蒸気が運ぶ熱の割合。 雪の中の熱伝導率をどう定式化するかは、いまも議論が続いています。とくに水蒸気が運ぶぶんをどう扱うかで、値の見積もりが変わります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。雪の下は、意外なほど観測しにくい場所です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・状態変化と熱 | 凍るときに熱が出て、温度が0度で止まる話 |
| 高校 | 物理基礎・熱の伝わり方 | 伝導・対流・放射の区別と、空気の断熱 |
| 高校+ | 物理・熱力学の発展 | 水蒸気の移動が熱を運ぶという第4の道 |
| 大学 | 雪氷学・伝熱工学 | 密度から熱伝導率を見積もる近似式 |
| 研究 | 陸域生態学・寒冷地土壌学 | 積雪の減少が土の凍結と物質循環に与える影響 |
| ― | 生活とのつながり | 水道管の凍結、冬の畑の管理、雪国の家づくり |
- 防災科学技術研究所(雪氷防災研究センターによる積雪の観測・研究)
- 気象庁 過去の気象データ検索(積雪深・気温の実測値)
- 前野紀一・福田正己 編『基礎雪氷学講座』古今書院(雪の物性と熱的性質)
- 日本雪氷学会 編『雪と氷の事典』朝倉書店(積雪の密度と熱伝導率、雪面下の生物)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。雪を掘るときは、斜面や積み上げられた雪のそばを避け、自治体や現地の指示に従ってください。