日なたに停めた車の中は、なぜ外より20度以上も暑くなるの?
― 窓を少し開けるだけでは、追いつきません
外の気温は30度なのに、車のドアを開けたとたん、熱い空気がむわっと押し返してくる。あれは気のせいではありません。車の中は、太陽のエネルギーが入る一方で、出ていきにくい部屋になっています。しかもその原因は、車が特別だからではなく、ガラスという材料の性質そのものにあります。
買い物のあいだの15分だけ、日なたに車を停めておいた。戻ってドアを開けると、中の空気が熱くて息が詰まりそうになる。ハンドルは、素手で握れないほど熱くなっている。
不思議なのは、外に立っている自分は平気だということです。同じ太陽が当たっているのに、車の中だけが別の場所のようになっています。
よく「窓を少し開けておけば大丈夫」と言われます。ところが、しくみが分かると、その方法があまり効かない理由も見えてきます。
理由は、大きく2つだけです
太陽から来る光はガラスを素通りして、座席やハンドルに吸われます。温まったそれらは今度は熱の光を出しますが、その光はガラスを通り抜けられません。つまり、入り口はあるのに出口がないのです。
外で暑くないのは、風が体のまわりの熱い空気を持ち去ってくれるからです。閉じた車の中では空気がほとんど動きません。温まった空気がその場に居座り、どんどん熱がたまっていきます。
この2つは、どちらも「熱が入るのは簡単なのに、出るのは難しい」という同じ向きに働きます。だから差が開きっぱなしになります。順番に見ていきましょう。
ガラスは、行きと帰りで態度を変えます
太陽の光と、温かいものが出す熱の光。この2つは、じつは同じ仲間です。どちらも電磁波と呼ばれる波で、ちがうのは波の長さだけです。
太陽の表面はおよそ6000度あるとされています。そこから来る光は、波が短い光です。目に見える光と、その少し外側の近い赤外線が大半を占めます。ガラスは、この短い波の光をよく通します。だから窓の外の景色が見え、日ざしが車内まで届きます。
いっぽう、光を吸って40度や60度になった座席やダッシュボードも、光を出しています。ただし温度が低いぶん、波がずっと長い赤外線です。ガラスはこの長い波の赤外線をほとんど通さず、吸い込んでしまいます。図1を見てください。行きは素通り、帰りは通せんぼ。同じ1枚のガラスが、光の波の長さによって態度を変えているのです。
「窓を少し開ける」が、思ったより効かない理由
ここで2つめの理由が効いてきます。熱を外へ捨てる方法は、じつは光を出すことだけではありません。温まった空気そのものを入れ替えれば、熱は運び出せます。外にいる人が平気なのは、風がその役目をしているからです。
ところが車の中は、空気が閉じ込められています。数センチの窓のすきまでは、入れ替わる空気の量がわずかしかありません。しかも温まった空気は軽くなって天井に張りつくので、下のほうの熱はなおさら動きません。自動車の団体が行った実験でも、窓を少し開けただけでは車内の温度はあまり下がらなかったと報告されています。
真夏の晴れた日に日なたへ停めた車では、車内が50度を超え、ダッシュボードの表面は70度近くに達することがあるとされています。外気温が25度から30度ほどの、真夏とはいえない日でも、車内が40度を超えることは珍しくありません。「今日はそこまで暑くないから」という感覚は、車の中ではあてになりません。
ガラスやビニールが「短い波は通し、長い波は止める」のは、温室が温かい理由そのものです。地球をつつむ二酸化炭素や水蒸気も、似た役目をしています。車の中で起きているのは、地球全体で起きていることの、とても小さくて速い縮図です。
黒い塗装は光をよく吸うので、車体そのものが熱くなります。ただし窓から入った光が中で熱に変わる分は、色に関係なく起こります。色は効きますが、色を変えれば安心というわけではありません。
じゃあ、どうすればいいの?
いちばん大切なことは、しくみから素直に出てきます。熱が入り続けて出ていかない部屋なのですから、人や動物をその中に残さないことです。
- 車の中でひとりで待たない「すぐ戻るから」の数分でも、中の温度は上がり続けます。短い時間でも一緒に降ります。
- 日かげを選び、日よけを立てる光が入らなければ、中で熱に変わりません。フロントガラスの日よけは、入り口をふさぐ道具です。
- 乗る前に、窓を全部開けて空気を入れかえるすきまではなく全開にして、たまった熱い空気を追い出してから乗ります。
ぐったりしている、汗が出ていない、呼びかけへの反応が鈍い。こうしたときは熱中症が進んでいるおそれがあります。すぐに119番へ通報し、涼しい日陰やクーラーの効いた場所へ移してください。首、脇の下、脚の付け根を冷やすと、太い血管を流れる血を効率よく冷やせます。意識がないときや自分で飲めないときは、無理に飲ませないでください。小さな子どもや高齢の方は自分から不調を訴えないことがあるため、こまめに声かけをして確認してください。救急車が来るまでの手当は、消防や自治体の指示に従ってください。
まとめ
車の中が暑くなるのは、太陽が強いからというより、ガラスが「行きは通し、帰りは通さない」からです。そこへ「空気が入れ替わらない」が重なって、熱がたまる一方の部屋ができあがります。窓のすきまが効きにくいのも、日よけが効くのも、同じ一つのしくみで説明できます。
車内が暑いのは、熱がたくさん入るからではありません。
入った熱が、出ていけないからです。
体の側で何が起きるのかは熱中症は、なぜ命に関わるの?に書いています。熱を「消す」のではなく「運ぶ」という見方は冷蔵庫は、なぜ部屋を暖めるの?とも地続きです。
- 晴れた日に、透明なふたつきの空き容器と、ふたのない同じ容器を、並べて日なたに置きます。20分後、中の空気の温かさを手で比べてみてください。ふたのあるほうが、はっきり熱くなっています。
- 次に、ふたつきの容器に白い紙をかぶせて日かげをつくり、もう一度20分待ちます。光そのものを入れないほうが、ふたのあるなしより効くことが分かります。
- 日なたに停めた車に乗る前、窓を全開にして1分待ってから、もう一度中の空気に手を入れてみてください。空気を入れ替えるだけで、体感がかなり変わります。
やけどを防ぐため、熱くなった金属やガラスには素手で長く触れないでください。実験は短時間で切り上げ、暑い日は日かげで行ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(伝熱工学・放射伝熱)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 温室効果:短い波の光は通し、長い波の光は通さない囲いがあると、中の温度が上がる現象。車の中でも、温室でも、地球全体でも同じ名前で呼ばれます。
- 放射(熱放射):ものが自分の温度に応じて光を出し、熱を運ぶこと。触れていなくても熱が伝わるのはこのためです。
- 対流:温まった空気や水そのものが動いて熱を運ぶこと。風のある屋外ではよく働き、閉じた車内ではほとんど働きません。
- 比熱:あるものを1度温めるのに必要な熱の量。空気は軽いので、少しの熱で大きく温度が上がります。
中学高校式で確かめる:車内の空気は、どれくらいの速さで温まるのか
車内の空気だけを考えて、太陽のエネルギーがすべて空気を温めるのに使われたとしたら、1度上げるのにどれくらいかかるかを見積もってみます。実際には座席や鉄板を温める分や、外へ逃げる分があります。ですからこれは「上限の速さ」です。
| 晴れた日に地面が受ける日ざしの強さ | 1平方メートルあたり およそ1000ワットとされています |
| 光が入る窓とガラス面の広さ(小型車の目安) | およそ3平方メートル |
| 車内の空気の体積(小型車の目安) | およそ3立方メートル |
| 空気1立方メートルの重さ | およそ1.2キログラム |
| 空気1キログラムを1度上げるのに要る熱 | およそ1000ジュール |
| 車が受け取る光の勢い(ワット) | 1000 × 3 = 3000 |
| 車内の空気の重さ(キログラム) | 3 × 1.2 = 3.6 |
| 空気全体を1度上げるのに要る熱(ジュール) | 3.6 × 1000 = 3600 |
| 1度上がるのにかかる時間(秒) | 3600 ÷ 3000 = 1.2 |
記号ではなく単位で読むと分かりやすくなります。ワットは「1秒あたりのジュール」という意味の単位です。だからジュールをワットで割ると、秒が出てきます。空気だけなら、わずか1秒あまりで1度上がる勘定です。実際にはもっとゆっくりですが、それは熱が座席や鉄板に取られたり、少しずつ外へ逃げたりするからです。向きとしては、止まらずに温度が上がり続けることに変わりはありません。
高校高校+なぜ、温度で光の波の長さが変わるのか
高校ものはその温度に応じた光を出しており、温度が高いほど、出てくる光の波は短くなります。太陽の表面はおよそ6000度で、出る光の中心は目に見える光のあたりにあります。60度の座席から出る光の中心は、それよりずっと波の長い赤外線の側にずれています。
高校+出す光の強さは、絶対温度の4乗に比例するという関係が知られています。つまり、絶対温度が2倍になると、出る光は16倍になります。車内が熱くなるほど外へ捨てようとする力も強まるので、温度は無限には上がらず、入る量と出る量がつり合ったところで止まります。その頭打ちの温度が、外気より20度も30度も高いというのが、この記事の話です。
大学ガラスの窓は、波長ごとに開いたり閉じたりしている
伝熱工学では、材料が波長ごとにどれだけ光を通すかを表す量を使って、この現象を扱います。ふつうの板ガラスは、目に見える光から近い赤外線までは通す割合が高く、波長がおよそ4マイクロメートルより長くなるとほとんど通さなくなるとされています。太陽の光の大半は前者に、常温付近のものが出す光の大半は後者に入ります。この境目のずれこそが、温室効果の正体です。放射だけでなく、車体を通じた伝導や、車内の空気の対流もあわせて解いてはじめて、実際の車内温度が予測できるようになります。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 車内の温度分布 車内は上と下、日なた側と日かげ側で温度が大きく違い、単純な平均では危険度を測れません。どこを測れば人の受ける負担を代表できるのかは、まだ研究が続いています。
- 小さな体への影響 体の小さい子どもは、大人より速く体温が上がるとされています。ただし、どのくらいの時間でどこまで危険になるかを人で実験することはできません。人形や計算モデルによる推定が使われており、その精度の確認が課題です。
- 熱を跳ね返す窓 近い赤外線だけを反射する膜をガラスに付ける技術が進んでいます。ただし目に見える光をどれだけ通しながら熱をどれだけ止められるか、費用と効果の折り合いは、まだ改良の途中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は条件によって大きく変わるので、目安として読んでください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科:光の性質/熱の伝わり方 | ガラスが光を通すこと、対流で熱が運ばれること |
| 高校 | 物理基礎:熱と温度/物理:電磁波 | 比熱を使った温度上昇の見積もりと、波の長さのちがい |
| 高校+ | 物理:熱放射(発展・コラム) | 温度が高いほど波が短くなること、4乗の関係 |
| 大学 | 伝熱工学・放射伝熱/建築環境工学 | 波長ごとに通す割合が変わることと、放射・伝導・対流の重ね合わせ |
| 研究 | 環境生理学・熱中症予防の研究 | 車内の温度分布と、体の小さい人への影響の推定 |
| ― | 生活とのつながり | 日よけを使う、乗る前に全開で換気する、車内に人や動物を残さない |
- 環境省 熱中症予防情報サイト
- 環境省『熱中症環境保健マニュアル』(症状と応急手当の項)
- 日本自動車連盟 ユーザーテスト「真夏の車内温度」
- 気象庁「日射・放射の観測」および気象観測の解説資料
- 日本機械学会『伝熱工学資料』(放射伝熱・材料の分光的な性質の項)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。車内の温度は車種・色・天候・時間帯によって大きく変わります。体調に異変を感じたときは、消防・自治体・医療機関の指示に従ってください。