冷蔵庫は、なぜ部屋を暖めるの?
― 熱を消しているのではなく、外へ運んでいます
暑い日に、冷蔵庫の扉を開けっぱなしにして部屋を涼しくしたい――そう考えたことがあるかもしれません。やってみると、部屋は涼しくなりません。むしろ暖かくなります。冷蔵庫は熱を消す機械ではなく、中から外へ運び出す機械だからです。しかも運ぶのに使った電気も、最後は熱になります。この記事は、足し算と引き算だけで最後まで進みます。
台所の冷蔵庫を、少し引き出して裏や側面に手を当ててみてください。ほんのり暖かいはずです。下のほうや、側面がとくに温まっています。
中は冷えているのに、外は暖かい。この「暖かさ」はどこから来たのでしょうか。
答えは2つの足し算です。ひとつは、庫内から取り出してきた熱。食品を冷やすということは、食品が持っていた熱をどこかへ移すことです。移した先が、この裏側です。
もうひとつは、運ぶために使った電気です。これも最後は熱になって、同じ場所から出ていきます。
冷やすとは熱を無くすことではありません。ここから、あそこへ動かすことです。動かした先では、必ず暖かくなります。
だから外へ出る熱は、庫内から取った分より、必ず多くなります。差は、使った電気ぶんです。
この2つを合わせると、部屋全体では必ず暖まるという結論になります。逃げ道はありません。
「冷やす」とは、熱を運び出すことです
ここがいちばん大事なところです。冷たさを作る機械は、存在しません。
冷蔵庫がしているのは、庫内にある熱をつかまえて、外へ捨てることだけです。水をくみ出して船を軽くするのと同じで、水が消えるわけではありません。船の外に出るだけです。
だから出した先は、必ず暖かくなります。冷蔵庫の裏側が暖かいのは、故障でも無駄でもなく、正常に働いている証拠です。
そしてもうひとつ。熱は、放っておいて冷たいほうから暖かいほうへは移りません。坂を水が自然に上らないのと同じです。上らせるには、ポンプが要ります。冷蔵庫のポンプを動かしているのが、電気です。
熱を、よそへ持っていくだけです。
だから、扉を開けても部屋は冷えません
ここで最初の疑問に戻ります。暑い日に扉を開けっぱなしにしたら、どうなるか。
庫内から汲み出した熱は、裏側から部屋へ出ます。ところが扉が開いていると、その熱は開いた口から庫内へ戻ってきます。行って戻るだけの、輪ができます。
残るのは、ポンプを動かすのに使った電気だけです。それも最後は熱になって部屋に出ます。
つまり扉を開けた冷蔵庫は、消費電力ぶんの電気ストーブになります。冷えるどころか、確実に暖まります。
計算すると、断熱のよい6畳の部屋なら、1時間で10℃以上上がる勢いです(くわしくは最後の折りたたみに)。もちろん実際には壁や窓から熱が逃げるのでそこまでは上がりませんが、向きは確実に「暖まる」です。
冷蔵庫が部屋を冷やせないのは、熱の捨て場所が同じ部屋の中だからです。ならば、捨て場所を外に出せばよいことになります。
それがエアコンです。室外機は、冷蔵庫の裏側にあたる部分を、そっくり屋外に置いたものです。冷やす仕組みは同じで、違うのは「どこへ熱を捨てるか」だけ。
だから室外機のまわりをふさぐと、効率が落ちます。捨てた熱がまた戻ってきて、冷蔵庫の扉を開けたのと似た状態に近づくからです。冷蔵庫の裏に物を詰め込むのも、同じ理由でよくありません。
窓用や置き型のエアコンで、排気ダクトを窓の外へ出す必要があるのも同じです。ダクトを室内に垂らしたままでは、冷えません。
逆に使うと、これほど得なことはありません
ここまでは「思ったのと逆になる」話でした。ところが、同じ性質を暖房に使うと、話がひっくり返ります。
電気ストーブは、電気を熱に変えます。1000 Wの電気から、1000 Wの熱。それ以上にはなりません。
一方エアコンの暖房は、外の冷たい空気から熱を汲み上げて、部屋へ運びます。電気は「熱を作る」のではなく「運ぶ」ために使われます。
すると1000 Wの電気で、3000〜4000 Wぶんの熱を部屋に入れられます。電気ストーブの3〜4倍です。電気代なら4分の1ということになります。
不思議に思えるかもしれませんが、エネルギー保存則には反していません。増えた分は、外から持ってきているだけです。冷たい空気にも熱はあります。「冷たい」は「熱がゼロ」ではありません。
- 冷蔵庫の裏と側面に、すき間をあける取扱説明書に「上◯cm、横◯cm あけること」と書かれています。捨てた熱が逃げられないと、効率が落ちて電気を余計に使います。裏に段ボールを立てかける、上に物を積む、はやめてください。
- 室外機の前をふさがない植木、自転車、物置。吹き出した熱がまた吸い込まれると、冷房も暖房も効きにくくなります。直射日光をさえぎるのは有効ですが、風の通り道をふさがないようにしてください。
- 暖房は、電気ストーブよりエアコンが得同じ電気で3〜4倍の熱が入ります。ただし外がとても寒いと効率は落ちます。また、ストーブには「すぐ暖かい」「狭い範囲を暖める」という別の良さがあります。燃焼式の暖房器具を使う場合は、必ず換気してください(一酸化炭素の記事)。
台所で確かめられること
- 冷蔵庫の側面や背面の下のほうに、手のひらを当ててみる(近年の機種は側面が放熱面のことが多い)
- 次に庫内に手を入れて、冷たさを確かめる
- 同じ機械の、すぐ隣どうしで、熱いと冷たいが分かれていることを確認する
- コンセント近くにある消費電力の表示を見る(本体の側面や背面のシールに書かれています)
- その数字が、そのまま「この冷蔵庫が部屋を暖める強さ」です
3と5がこの観察の要です。熱が消えているのではなく、片側から反対側へ移っているだけだと、手で確かめられます。そして部屋を暖める強さは、汲み出す量ではなく、消費電力で決まるという点が、この記事の結論そのものです。放熱部が熱くなっている機種もあるので、長く触れないでください。背面をのぞくときは、コードを引っかけないよう気をつけてください。
まとめ
冷蔵庫が部屋を暖めるのは、熱を消しているのではなく、庫内から外へ運んでいるからです。運ぶのに使った電気も熱になるので、外へ出る熱は、庫内から取った熱より必ず多くなります。扉を開ければ運んだ熱は戻ってきて、電気ぶんだけが残ります。
熱を運ぶ機械は、向きを変えれば暖房になります。
同じ性質が、損にも得にもなります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(熱力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:熱を運ぶ機械の言葉
- ヒートポンプ:熱を低いほうから高いほうへ汲み上げる仕組み。冷蔵庫もエアコンも、これです。
- 冷媒:熱を運ぶ役の物質。蒸発するときに熱を奪い、圧縮されて液体に戻るときに熱を放します。
- 成績係数(COP):使った電気1に対して、運べた熱がいくつか。冷蔵庫でおよそ2〜4とされています。
- エネルギー保存則:エネルギーは消えず、形を変えるだけ。この記事の計算は、すべてこれだけで進みます。
- 熱力学第二法則:熱は放っておくと、暖かいほうから冷たいほうへしか移らない、という決まり。
高校式で確かめる:足し算と引き算だけで結論が出る
この記事は、めずらしく掛け算すら、ほとんど要りません。使うのはエネルギー保存則ひとつです。
外へ出る熱 = 庫内から取った熱 + 使った電気
| 外へ出る熱 | 裏側から部屋へ出ていく分[W] |
| 庫内から取った熱 | 食品や庫内の空気から奪った分[W] |
| 使った電気 | コンセントから入ってきた分[W] |
入ってきたものは、どこかへ出ていく。それだけです。冷蔵庫の中にエネルギーが溜まり続けることはないので、入る側と出る側は必ずつり合います。
どれだけ汲み出せるかは、使った電気の何倍かで表します。これを成績係数(COP)といい、家庭用の冷蔵庫では2〜4程度とされています。
| 消費電力 | 100 W とする |
| 成績係数 | 3 とする |
| 庫内から汲み出す熱 | 100 × 3 = 300 W |
| 外へ出る熱 | 300 + 100 = 400 W |
100 Wの電気で、400 Wの熱が出ていきます。取ってきた300 Wと、電気の100 Wの合計です。
部屋にとっての差し引きを出します。庫内も同じ部屋の中にあるので、庫内が冷えた分は部屋にとって「マイナス」です。
| 部屋に出た熱 | 400 W |
| 庫内が引き受けた冷え | 300 W |
| 部屋の正味 | 400 − 300 = 100 W の暖房 |
ぴったり消費電力と同じです。これは偶然ではありません。①の式から、300が引き算で必ず消えるからです。
扉を開けると、庫内は部屋の一部になります。汲み出した300 Wは、開いた扉から庫内へ戻ってしまいます。
| 部屋に出た熱 | 400 W |
| 庫内へ戻っていく熱 | 300 W |
| 部屋の正味 | 400 − 300 = 100 W |
②とまったく同じ答えです。扉を開けても閉めても、部屋全体としては消費電力ぶんだけ暖まる。これが変わりません。
違うのは「どこが冷えるか」だけです。閉めていれば庫内が冷えます。開けていれば、どこも冷えません。冷たさが行き渡るのではなく、消えてしまいます。
成績係数を上げても、この結論は変わりません。COPが10でも、1000 − 900 = 100 で、やはり100 Wです。性能をどれだけ上げても、扉を開けた冷蔵庫は暖房のままだとわかります。
| 6畳の部屋の体積 | 約 25 m³ |
| 空気の密度 | 1.2 kg/m³ |
| 空気の質量 | 25 × 1.2 = 30 kg |
| 空気の比熱 | 約 1000 J/(kg·K) |
| 1℃上げるのに要る熱 | 30 × 1000 = 30000 J |
| 1時間で入る熱(100 W) | 100 × 3600 = 360000 J |
| 1時間での温度上昇 | 360000 ÷ 30000 = 12 ℃ |
熱がどこにも逃げなければ、1時間で12℃。実際には壁や窓から逃げるので、ここまでは上がりません。それでも向きは確実に「暖まる」です。
ちなみに、この計算には人も含まれます。人は安静時でおよそ100 Wの熱を出しているとされています。扉を開けた冷蔵庫1台は、部屋にもう1人いるのとほぼ同じということになります。
| 電気ストーブ 1000 W | 部屋に入る熱は 1000 W(それ以上にはならない) |
| エアコン暖房 1000 W、成績係数 4 | 1000 × 4 = 4000 W |
| 同じ熱を得るための電気の比 | 1000 ÷ 4000 = 0.25(4分の1) |
電気代は4分の1です。熱を「作る」のではなく「運ぶ」からで、足りない3000 Wは、屋外の空気から持ってきています。
エネルギー保存則に反しているように見えますが、反していません。外の空気は、そのぶん冷えています。「冷たい空気」にも熱はあり、絶対零度でない限り、汲み出せる熱が残っています。
※ 成績係数は外気温で変わり、寒いほど下がります。寒冷地では設計が異なります。
高校+汲み上げには、上限があります
「成績係数が高いほど得」なら、いくらでも上げたくなります。ところが上限があります。しかもその上限は、機械の出来ではなく温度差だけで決まります。
汲み上げる高さが低いほど楽なのと同じで、庫内と外の温度差が小さいほど、上限は高くなります。
| 庫内 0℃ を絶対温度に | 273 K |
| 外 27℃ を絶対温度に | 300 K |
| 温度差 | 300 − 273 = 27 K |
| 上限 | 273 ÷ 27 ≒ 10 |
理論の上限が10なのに対し、実際の冷蔵庫は2〜4程度です。まだ差はありますが、上限に近づくほど改良は難しくなります。
そしてこの上限は、温度差が開くほど下がります。冷凍庫(マイナス18℃)は、冷蔵室より温度差が大きいぶん不利です。冷凍のほうが電気を食うのは、性能の問題ではなく、原理からの結果です。
大学なぜ「圧縮して膨らませる」のか
冷媒は、庫内で蒸発するときに熱を奪い、外で液体に戻るときに熱を放します。液体が気体になるには大きな熱が要るので、少ない量でたくさんの熱を運べます(魔法瓶の記事で扱った蒸発熱と同じ性質です)。
ここで問題になるのが「庫内より低い温度で蒸発し、外気より高い温度で凝縮する」という条件です。同じ物質で、両方を満たさなければなりません。
これを可能にしているのが圧力の操作です。圧力を下げれば低い温度で沸き、上げれば高い温度でないと液体になりません(圧力鍋の記事と同じ関係です)。圧縮機は、この圧力差を作るために回っています。
つまり冷蔵庫は、同じ物質を、場所によって違う沸点で使い分ける機械です。電気は「冷やす」ためではなく、この圧力差を維持するために使われています。
研究まだ解けていないこと
- 冷媒そのものが、大きな課題です。かつて使われた物質はオゾン層への影響で規制され、次に使われた代替品は温室効果が二酸化炭素の数百倍から数千倍とされ、これも規制の対象になりました。性能・安全性・環境影響のすべてを満たす物質を探すことが、いまも続いています。可燃性や毒性のある候補もあり、単純ではありません。
- 圧縮を使わない冷却方式が研究されています。磁場をかけたり外したりして温度を変える方法、材料を伸縮させて熱を出し入れする方法などがあります。冷媒が要らないという大きな利点がありますが、実用的な能力とコストに届くかは、まだ見通せていません。
- 寒冷地でのヒートポンプ暖房は、いまも難所です。外が寒いほど汲み上げる高さが増え、効率が落ちます。改良は進んでいますが、どこまで低い外気温で成立させられるかは課題として残っています。
- 世界全体の冷房需要が急増しています。気温が上がると冷房が増え、冷房が増えると排熱と電力消費が増えます。この循環をどう扱うかは、技術だけでは決まらない問題として議論されています。
原理は19世紀に確立し、計算は足し算と引き算で足ります。それでも「何で熱を運ぶか」という一点が、いまも決着していません。わかりやすい原理と、解けている問題は、別のことです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・熱の移動/エネルギー | 熱は消えず移動すること |
| 高校 | 物理基礎・熱と仕事(第一法則) | 外へ出る熱 = 取った熱 + 電気 |
| 高校 | 物理基礎・熱量と比熱 | 6畳の部屋が何℃上がるかの計算 |
| 高校+ | 物理・熱機関と第二法則 | 成績係数の上限、温度差で決まること |
| 大学 | 熱力学・冷凍工学 | 冷凍サイクル、圧力と沸点の操作 |
| 研究 | 冷凍・空調(未解決) | 冷媒の選択、非圧縮式冷却、寒冷地 |
| ― | 生活 | 放熱スペース、暖房の選び方 |
- 日本冷凍空調学会による、冷凍サイクルおよびヒートポンプの解説資料。
- 資源エネルギー庁による、家庭用機器の省エネルギーに関する資料。
- Çengel, Y. A. & Boles, M. A., Thermodynamics: An Engineering Approach(熱力学の標準的な教科書)。
- 環境省による、フロン類の排出抑制および代替冷媒に関する資料。
- Kitanovski, A. ほか、磁気冷凍および固体冷却技術に関する研究。
※ 消費電力・成績係数・部屋の広さは、機種と条件で大きく変わります。本記事では計算しやすい代表値を用いました。
※本記事は一般向けの科学解説です。冷蔵庫やエアコンの設置・使用については、必ず製品の取扱説明書に従ってください。燃焼式の暖房器具を使用する際は、換気を怠らないでください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。