🔆 日常のふしぎ 🧬 生命・生物 予備知識なしでOK 読了 約8分

ホタルはなぜ、熱くならずに光れるの?
― 電球は「熱くして光らせて」いました

白熱電球は、しばらく点けておくと素手で触れないほど熱くなります。ところがホタルは、手のひらに乗せても熱くありません。同じ「光る」なのに、この差はどこから来るのか。答えは効率の良し悪しではなく、光の作り方そのものが違うことにあります。電球は熱を通り道にしていて、ホタルは通っていません。

公開:2026.08.17 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、古い電球を思い出してください

点けたばかりの白熱電球に、うっかり触れてやけどしそうになった――そんな経験があるかもしれません。ガラスの表面は100℃を超えます。

なぜあれほど熱いのでしょうか。じつは、熱くなければ光れないからです。中の細い金属線を、電気で2000℃以上に熱しています。熱くなったものが光る。たき火の炭が赤く光るのと同じ理屈です。

ホタルはどうでしょうか。手に乗せても、まったく温かくありません。それでいて、暗い夜道でもはっきり見える明るさで光ります。

ここから、ひとつ言えることがあります。光ることと、熱いことは、本来つながっていません。電球のほうが、余計な回り道をしていたのです。

1
電球は「電気 → 熱 → 光」

熱を通り道にしています。だから熱くなるのは失敗ではなく、必要な段階です。そして大半が熱のまま残ります。

2
ホタルは「化学反応 → 光」

熱を通りません。分子が反応した勢いが、そのまま光になります。だから温度が上がりません。

そして白熱電球が光に変えているのは、使った電気の5%ほどです。残りは熱です。順に見ていきます。

① 光の作り方が、そもそも違う 白熱電球 電気 2000℃に熱する ← ここが通り道 大半が熱のまま外へ ホタル 化学反応 熱を通らない だから温度が上がらない ② 60 W の白熱電球で、エネルギーはどこへ行くか 光になる分 3 W(5%) 熱になる分 57 W(95%) 「電球」というより、ついでに光っているヒーターに近いことになります
図1:上は作り方の比較。白熱電球は電気で2000℃に熱してから光らせるので、熱が通り道になります(上段)。ホタルは化学反応から直接、熱を通らずに光を作ります(下段)。下は60 Wの電球の行き先。光になるのは3 W(いちばん短い棒)で、残りの57 Wは熱です。

熱いものは、なぜ光るのか

まず電球の側から見ます。ものは温度が上がると、光を出しはじめます。暖房のヒーターが赤く見えるのも、溶けた鉄がまぶしいのも、同じ現象です。

ただし温度が低いうちは、目に見えない光しか出ません。人の体も光を出していますが、赤外線なので見えません。目に見える光を出すには、とても高い温度が要ります。

白熱電球の中の金属線は、2000℃を超えています。それでもなお、出てくる光の大半は目に見えない赤外線です。見える光になるのは、ごく一部にすぎません。

だから白熱電球は「熱くなってしまう」のではなく「熱くしなければ光れない」のです。熱は副産物ではなく、途中の段階そのものでした。

電球が熱いのは、失敗ではありません。
熱くすることが、光らせる方法だったからです。

ホタルは、途中を飛ばしています

ホタルのやり方は、まったく違います。体の中で、ある物質が酸素と結びつく反応を起こします。その反応の勢いが、そのまま光として出てきます。

ここで大事なのは、反応の相手を選ぶ道具(酵素)を使っていることです。ねらった反応だけを、ねらった速さで進められます。だから「まず熱くする」という手順が要りません。

点滅できるのも、このためです。電球は熱いので、消してもすぐには暗くなりません。ホタルは反応を止めればすぐ消え、始めればすぐ光ります。種によって決まった間隔で点滅し、それが相手を見つける合図になっているとされています。

色にも意味があります。ホタルの光は黄緑色で、これは人を含む多くの動物の目が、いちばん感じやすい色に近い範囲です。暗いところで、少ないエネルギーでよく見える色を使っていることになります。

🔎 「ホタルの発光効率はほぼ100%」は、下方修正されています

よく「ホタルの光は、エネルギーのほぼ100%が光になる」と紹介されます。この数字は、慎重に扱ったほうがよさそうです。

もとになったのは20世紀半ばの測定で、88%という値が長く引用されてきました。ところが2008年に、より慎重な方法で測り直した研究が出ており、そこでは41%程度と報告されています。

さらに紛らわしいのは、この「効率」が電球の効率とは別のものを指していることです。反応が1回起きるたびに、光の粒が何個出るかを表す数値であって、「投入したエネルギーの何%が光になったか」ではありません。同じ土俵で比べられる数字ではないのです。

それでも「熱を通らない」という違いは本物で、ホタルが熱くならない理由の説明としては、そこだけで十分です。有名な数字ほど、何を測ったものかを確かめる価値があります。

この話は、電気代につながっています

白熱電球が熱を出すということは、照明が暖房にもなっているということです。冬はありがたいかもしれませんが、夏は困ります。

冷蔵庫の記事で書いたとおり、部屋に入った熱は、冷房で外へ運び出すことになります。その運び出しにも、電気が要ります。

計算すると、60 Wの電球10個を点けた部屋では、照明に600 W、その熱を追い出すのにさらに140 Wほどかかることになります(くわしくは最後の折りたたみに)。照明を替えると、冷房代まで下がるのはこのためです。

いまの LED 照明は、熱を通らずに電気から直接、光を作ります。作り方としては、電球よりホタルに近い仲間です。同じ明るさで、電気は8分の1ほどで済みます。

🔎 ホタルを見に行くときに

ホタルは光で仲間を探しています。強い明かりを向けると、その合図がかき消されてしまいます。

地域によっては保護の取り決めがあります。その場所の案内に従ってください。

家で確かめられること

🧪 5分でできる観察:照明の「熱」を手で測る
  1. 家にある照明を見つける。LED電球と、あれば白熱電球や古い照明器具
  2. 点けてから5分ほど待つ
  3. 手をかざして(触らずに)、20 cm ほど離れたところで熱を比べる
  4. 白熱電球のほうは、はっきり暖かさを感じます。LEDはほとんど感じません
  5. それぞれのワット数と、明るさ(ルーメン)の表示を見比べる。同じ明るさで消費電力が何倍違うか計算する

5がこの観察の要です。「同じ明るさなのに、電気の量が何倍も違う」ことを、自分の数字で確かめられます。差はそのまま熱になっています。白熱電球は非常に高温になるので、絶対に触れないでください。近くに紙や布を置かないこと。LEDでも器具の根元は温かくなります。

まとめ

ホタルが熱くならないのは、効率がよいからというより、熱を通り道にしていないからです。白熱電球は熱くしなければ光れない作りで、使った電気の95%ほどが熱になります。光ることと熱いことは、本来つながっていません。

回り道をしていたのは、電球のほうでした。

もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」「生物基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の「物理」「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生物物理・光化学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:光をめぐる言葉

高校式で確かめる:電球のエネルギーは、どこへ行くのか

冷蔵庫の記事と同じで、入ったエネルギーの行き先を追うだけです。足し算と引き算で足ります。

① まず、式そのもの

使った電気 = 光になった分 + 熱になった分

使った電気消費電力[W]
光になった分目に見える光として出た分[W]
熱になった分赤外線と、器具の発熱[W]

エネルギーは消えないので、どちらかに必ず行きます。白熱電球が光に変えられるのは、およそ5%とされています。

② 数値を入れて解いてみる
60 W の白熱電球消費電力 60 W
光になる分60 × 0.05 = 3 W
熱になる分60 − 3 = 57 W

3 Wの照明器具と、57 Wのヒーターを、同時に点けているようなものです。「電球」というより、ついでに光っているヒーターに近いことになります。

同じ明るさを LED で出すと、およそ8 Wで済みます。

白熱電球60 W
同じ明るさの LED約 8 W
何倍か60 ÷ 8 = 7.5 倍
③ 夏は、二重に損をしている

照明が出した熱は、部屋に残ります。冷房を使っていれば、それを外へ運び出す電気もかかります。

60 W の電球を10個60 × 10 = 600 W
そのうち熱になる分600 × 0.95 = 570 W
冷房で運び出すのに要る電気(成績係数4)570 ÷ 4 ≒ 143 W
合計600 + 143 = 743 W

同じ明るさを LED にすると、

8 W の LED を10個8 × 10 = 80 W
熱になる分(仮に半分とする)80 × 0.5 = 40 W
冷房で運び出す電気40 ÷ 4 = 10 W
合計80 + 10 = 90 W

743 W と 90 W。8倍以上の差になります。照明そのものの差は7.5倍でしたが、冷房の負担まで数えると、差はさらに開きます。

照明を替えると冷房代まで下がるのは、この二重の効果によるものです。ひとつの機器を替えただけなのに、別の機器の負担が減る。エネルギーの行き先を追うと、こういうつながりが見えてきます。

※ LED が熱になる割合は製品によって幅があります。ここでは効果の大きさをつかむための概算です。

④ 「41%」という数字が意味していること

本文で触れた、ホタルの発光効率の話です。2008年の報告では、およそ41%とされています。これは反応が100回起きたときに、光の粒が何個出るかを表す数値です。

反応の回数100 回
光の粒が出る回数41 回
光にならなかった回数100 − 41 = 59 回

残りの59回ぶんは、熱や、光を出さない別の経路へ流れます。「ほぼ100%」ではありません。

ただし、ここで比べ方に注意が要ります。②で出した電球の5%は「エネルギーの何%が光になったか」、こちらの41%は「回数の何%で光が出たか」。単位が違うので、41 対 5 と並べて比べてはいけません。

それでも、この記事の結論は変わりません。ホタルが熱くならない理由は効率の高さではなく、熱を通り道にしていないことだからです。5%か41%かに関係なく、成り立ちます。

数字が有名なほど、何を測ったものかを確かめる。そして結論がその数字に頼っていないかを確かめる。この2つは、いつでも役に立つと思います。

高校+温度で光る、とはどういうことか

ものが高温になると光を出すのは、中の粒子が激しく動き、その動きが電磁波として外へ出るためです。出る光の色は温度で決まり、温度が高いほど、短い波長の光が増えます。

ここに白熱電球の限界があります。目に見える光をたくさん出すには、太陽の表面ほどの温度(およそ5500℃)が要ります。ところが金属は3000℃台で溶けてしまいます。

2000℃台で妥協せざるをえず、その温度では出る光の大半が赤外線になる。これが「5%」の正体です。材料が足りないのではなく、原理として届かないということになります。

一方、化学発光や LED は温度とは無関係に、決まったエネルギーの光を出します。反応や素子の性質で色が決まるので、ねらった色だけを作れます。赤外線を出す必要がありません。

大学「光る」にも、いくつか種類があります

まぎらわしい言葉が並ぶので、整理しておきます。

種類エネルギー源
熱放射温度そのもの白熱電球、たき火、太陽
化学発光化学反応ホタル、ケミカルライト
蛍光当たった光蛍光ペン、蛍光灯の内側
電界発光電流(半導体の中)LED、有機EL

共通しているのは、熱放射だけが「温度」を必要とすることです。ほかの3つは、分子や素子が高いエネルギーの状態になり、そこから落ちるときに光を出します。全体を温める必要がありません。

ホタルの反応では、酵素が反応する場所を水から隔てた環境に置いていることが、効率に関わっていると考えられています。周囲の水分子にエネルギーを奪われると、光にならず熱に変わってしまうためです。「熱にしないための工夫」が、酵素の構造そのものに組み込まれていることになります。

研究まだ決着していないこと

なお、ホタルの発光に関わる酵素は、いまや実験室の道具として世界中で使われています。細胞の中で遺伝子が働いているかを、光の強さで測るのです。虫の光り方を調べた研究が、まったく別の分野の基盤になった例だと思います。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・エネルギーの移り変わり電気が熱と光に分かれること
高校物理基礎・エネルギーの保存60 − 3 = 57 の計算
高校生物基礎・酵素のはたらき決まった反応だけを進める道具
高校+物理・熱放射/化学・光と分子温度と出る光の色、2000℃の限界
大学光化学・生物物理発光の4分類、酵素が水を遠ざける役割
研究生物発光(未解決)効率の値、色の制御、同期発光
生活・環境照明と冷房の関係、ホタルの見方
参考・出典
  1. Ando, Y. et al., Firefly bioluminescence quantum yield and colour change by pH-sensitive green emission, Nature Photonics 2, 2008。
  2. Seliger, H. H. & McElroy, W. D., 1960年前後のホタル発光効率に関する一連の報告(88%の出典)。
  3. Shimomura, O., Bioluminescence: Chemical Principles and Methods(生物発光の標準的な書籍)。
  4. 資源エネルギー庁および照明関連団体による、光源の効率に関する資料。
  5. 環境省および各自治体による、ホタルの生息環境の保全に関する資料。

※ 光源の効率、LED の発熱割合は製品によって大きく変わります。本記事では一般に引用される目安を示しました。

※本記事は一般向けの科学解説です。白熱電球は非常に高温になります。取り扱いは製品の説明に従い、可燃物を近づけないでください。ホタルの観察については、各地域の保全のきまりと、水辺での安全に配慮してください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。