ホタルはなぜ、熱くならずに光れるの?
― 電球は「熱くして光らせて」いました
白熱電球は、しばらく点けておくと素手で触れないほど熱くなります。ところがホタルは、手のひらに乗せても熱くありません。同じ「光る」なのに、この差はどこから来るのか。答えは効率の良し悪しではなく、光の作り方そのものが違うことにあります。電球は熱を通り道にしていて、ホタルは通っていません。
点けたばかりの白熱電球に、うっかり触れてやけどしそうになった――そんな経験があるかもしれません。ガラスの表面は100℃を超えます。
なぜあれほど熱いのでしょうか。じつは、熱くなければ光れないからです。中の細い金属線を、電気で2000℃以上に熱しています。熱くなったものが光る。たき火の炭が赤く光るのと同じ理屈です。
ホタルはどうでしょうか。手に乗せても、まったく温かくありません。それでいて、暗い夜道でもはっきり見える明るさで光ります。
ここから、ひとつ言えることがあります。光ることと、熱いことは、本来つながっていません。電球のほうが、余計な回り道をしていたのです。
熱を通り道にしています。だから熱くなるのは失敗ではなく、必要な段階です。そして大半が熱のまま残ります。
熱を通りません。分子が反応した勢いが、そのまま光になります。だから温度が上がりません。
そして白熱電球が光に変えているのは、使った電気の5%ほどです。残りは熱です。順に見ていきます。
熱いものは、なぜ光るのか
まず電球の側から見ます。ものは温度が上がると、光を出しはじめます。暖房のヒーターが赤く見えるのも、溶けた鉄がまぶしいのも、同じ現象です。
ただし温度が低いうちは、目に見えない光しか出ません。人の体も光を出していますが、赤外線なので見えません。目に見える光を出すには、とても高い温度が要ります。
白熱電球の中の金属線は、2000℃を超えています。それでもなお、出てくる光の大半は目に見えない赤外線です。見える光になるのは、ごく一部にすぎません。
だから白熱電球は「熱くなってしまう」のではなく「熱くしなければ光れない」のです。熱は副産物ではなく、途中の段階そのものでした。
熱くすることが、光らせる方法だったからです。
ホタルは、途中を飛ばしています
ホタルのやり方は、まったく違います。体の中で、ある物質が酸素と結びつく反応を起こします。その反応の勢いが、そのまま光として出てきます。
ここで大事なのは、反応の相手を選ぶ道具(酵素)を使っていることです。ねらった反応だけを、ねらった速さで進められます。だから「まず熱くする」という手順が要りません。
点滅できるのも、このためです。電球は熱いので、消してもすぐには暗くなりません。ホタルは反応を止めればすぐ消え、始めればすぐ光ります。種によって決まった間隔で点滅し、それが相手を見つける合図になっているとされています。
色にも意味があります。ホタルの光は黄緑色で、これは人を含む多くの動物の目が、いちばん感じやすい色に近い範囲です。暗いところで、少ないエネルギーでよく見える色を使っていることになります。
よく「ホタルの光は、エネルギーのほぼ100%が光になる」と紹介されます。この数字は、慎重に扱ったほうがよさそうです。
もとになったのは20世紀半ばの測定で、88%という値が長く引用されてきました。ところが2008年に、より慎重な方法で測り直した研究が出ており、そこでは41%程度と報告されています。
さらに紛らわしいのは、この「効率」が電球の効率とは別のものを指していることです。反応が1回起きるたびに、光の粒が何個出るかを表す数値であって、「投入したエネルギーの何%が光になったか」ではありません。同じ土俵で比べられる数字ではないのです。
それでも「熱を通らない」という違いは本物で、ホタルが熱くならない理由の説明としては、そこだけで十分です。有名な数字ほど、何を測ったものかを確かめる価値があります。
この話は、電気代につながっています
白熱電球が熱を出すということは、照明が暖房にもなっているということです。冬はありがたいかもしれませんが、夏は困ります。
冷蔵庫の記事で書いたとおり、部屋に入った熱は、冷房で外へ運び出すことになります。その運び出しにも、電気が要ります。
計算すると、60 Wの電球10個を点けた部屋では、照明に600 W、その熱を追い出すのにさらに140 Wほどかかることになります(くわしくは最後の折りたたみに)。照明を替えると、冷房代まで下がるのはこのためです。
いまの LED 照明は、熱を通らずに電気から直接、光を作ります。作り方としては、電球よりホタルに近い仲間です。同じ明るさで、電気は8分の1ほどで済みます。
ホタルは光で仲間を探しています。強い明かりを向けると、その合図がかき消されてしまいます。
- 懐中電灯やスマホの画面を、ホタルへ向けない。足元を照らすときは、赤いセロハンをかけると影響が小さいとされています
- 捕まえない。成虫の期間は1〜2週間ほどとされ、その間に相手を見つける必要があります
- 生息地は水辺です。暗い足場で川に近づくことになるので、足元と、同行者の位置に気をつけてください
地域によっては保護の取り決めがあります。その場所の案内に従ってください。
家で確かめられること
- 家にある照明を見つける。LED電球と、あれば白熱電球や古い照明器具
- 点けてから5分ほど待つ
- 手をかざして(触らずに)、20 cm ほど離れたところで熱を比べる
- 白熱電球のほうは、はっきり暖かさを感じます。LEDはほとんど感じません
- それぞれのワット数と、明るさ(ルーメン)の表示を見比べる。同じ明るさで消費電力が何倍違うか計算する
5がこの観察の要です。「同じ明るさなのに、電気の量が何倍も違う」ことを、自分の数字で確かめられます。差はそのまま熱になっています。白熱電球は非常に高温になるので、絶対に触れないでください。近くに紙や布を置かないこと。LEDでも器具の根元は温かくなります。
まとめ
ホタルが熱くならないのは、効率がよいからというより、熱を通り道にしていないからです。白熱電球は熱くしなければ光れない作りで、使った電気の95%ほどが熱になります。光ることと熱いことは、本来つながっていません。
回り道をしていたのは、電球のほうでした。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生物物理・光化学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:光をめぐる言葉
- 白熱:高温になったものが光を出すこと。白熱電球の名前は、ここから来ています。
- 赤外線:目に見えない光。熱として感じます。白熱電球が出す光の大半がこれです。
- 生物発光:生き物が化学反応で光を作ること。ホタル、一部の魚、キノコなどに見られます。
- 酵素:決まった反応だけを進める、生き物の道具。ホタルの発光にも使われています。
- ルーメン:明るさの単位。ワット(消費電力)とは別のものです。比べるならルーメンで比べます。
高校式で確かめる:電球のエネルギーは、どこへ行くのか
冷蔵庫の記事と同じで、入ったエネルギーの行き先を追うだけです。足し算と引き算で足ります。
使った電気 = 光になった分 + 熱になった分
| 使った電気 | 消費電力[W] |
| 光になった分 | 目に見える光として出た分[W] |
| 熱になった分 | 赤外線と、器具の発熱[W] |
エネルギーは消えないので、どちらかに必ず行きます。白熱電球が光に変えられるのは、およそ5%とされています。
| 60 W の白熱電球 | 消費電力 60 W |
| 光になる分 | 60 × 0.05 = 3 W |
| 熱になる分 | 60 − 3 = 57 W |
3 Wの照明器具と、57 Wのヒーターを、同時に点けているようなものです。「電球」というより、ついでに光っているヒーターに近いことになります。
同じ明るさを LED で出すと、およそ8 Wで済みます。
| 白熱電球 | 60 W |
| 同じ明るさの LED | 約 8 W |
| 何倍か | 60 ÷ 8 = 7.5 倍 |
照明が出した熱は、部屋に残ります。冷房を使っていれば、それを外へ運び出す電気もかかります。
| 60 W の電球を10個 | 60 × 10 = 600 W |
| そのうち熱になる分 | 600 × 0.95 = 570 W |
| 冷房で運び出すのに要る電気(成績係数4) | 570 ÷ 4 ≒ 143 W |
| 合計 | 600 + 143 = 743 W |
同じ明るさを LED にすると、
| 8 W の LED を10個 | 8 × 10 = 80 W |
| 熱になる分(仮に半分とする) | 80 × 0.5 = 40 W |
| 冷房で運び出す電気 | 40 ÷ 4 = 10 W |
| 合計 | 80 + 10 = 90 W |
743 W と 90 W。8倍以上の差になります。照明そのものの差は7.5倍でしたが、冷房の負担まで数えると、差はさらに開きます。
照明を替えると冷房代まで下がるのは、この二重の効果によるものです。ひとつの機器を替えただけなのに、別の機器の負担が減る。エネルギーの行き先を追うと、こういうつながりが見えてきます。
※ LED が熱になる割合は製品によって幅があります。ここでは効果の大きさをつかむための概算です。
本文で触れた、ホタルの発光効率の話です。2008年の報告では、およそ41%とされています。これは反応が100回起きたときに、光の粒が何個出るかを表す数値です。
| 反応の回数 | 100 回 |
| 光の粒が出る回数 | 41 回 |
| 光にならなかった回数 | 100 − 41 = 59 回 |
残りの59回ぶんは、熱や、光を出さない別の経路へ流れます。「ほぼ100%」ではありません。
ただし、ここで比べ方に注意が要ります。②で出した電球の5%は「エネルギーの何%が光になったか」、こちらの41%は「回数の何%で光が出たか」。単位が違うので、41 対 5 と並べて比べてはいけません。
それでも、この記事の結論は変わりません。ホタルが熱くならない理由は効率の高さではなく、熱を通り道にしていないことだからです。5%か41%かに関係なく、成り立ちます。
数字が有名なほど、何を測ったものかを確かめる。そして結論がその数字に頼っていないかを確かめる。この2つは、いつでも役に立つと思います。
高校+温度で光る、とはどういうことか
ものが高温になると光を出すのは、中の粒子が激しく動き、その動きが電磁波として外へ出るためです。出る光の色は温度で決まり、温度が高いほど、短い波長の光が増えます。
ここに白熱電球の限界があります。目に見える光をたくさん出すには、太陽の表面ほどの温度(およそ5500℃)が要ります。ところが金属は3000℃台で溶けてしまいます。
2000℃台で妥協せざるをえず、その温度では出る光の大半が赤外線になる。これが「5%」の正体です。材料が足りないのではなく、原理として届かないということになります。
一方、化学発光や LED は温度とは無関係に、決まったエネルギーの光を出します。反応や素子の性質で色が決まるので、ねらった色だけを作れます。赤外線を出す必要がありません。
大学「光る」にも、いくつか種類があります
まぎらわしい言葉が並ぶので、整理しておきます。
| 種類 | エネルギー源 | 例 |
|---|---|---|
| 熱放射 | 温度そのもの | 白熱電球、たき火、太陽 |
| 化学発光 | 化学反応 | ホタル、ケミカルライト |
| 蛍光 | 当たった光 | 蛍光ペン、蛍光灯の内側 |
| 電界発光 | 電流(半導体の中) | LED、有機EL |
共通しているのは、熱放射だけが「温度」を必要とすることです。ほかの3つは、分子や素子が高いエネルギーの状態になり、そこから落ちるときに光を出します。全体を温める必要がありません。
ホタルの反応では、酵素が反応する場所を水から隔てた環境に置いていることが、効率に関わっていると考えられています。周囲の水分子にエネルギーを奪われると、光にならず熱に変わってしまうためです。「熱にしないための工夫」が、酵素の構造そのものに組み込まれていることになります。
研究まだ決着していないこと
- 発光効率の値そのものが、確定していません。本文で触れたとおり、長く引用された88%は、2008年の報告で41%程度へ下方修正されました。測定が難しく、条件にも依存するため、いまも議論があります。教科書や解説記事には古い値が残っていることがあります。
- 色が種によって違うしくみは、完全には説明できていません。使っている物質は同じなのに、酵素のわずかな違いで緑から橙まで変わります。どの部分がどう効いているのかは、研究が続いています。
- 集団で同期して光る種の仕組みも、途中までしかわかっていません。東南アジアなどで、多数のホタルが一斉に点滅する現象が知られています。互いの光を見て調整していると考えられていますが、細かい規則は種によって違うとされています。
- そもそも、なぜ光るのかにも複数の説があります。相手を見つけるためというのが主な説明ですが、幼虫やさなぎも光るため、それだけでは足りません。捕食者への警告という説もあり、種によって役割が違う可能性があります。
なお、ホタルの発光に関わる酵素は、いまや実験室の道具として世界中で使われています。細胞の中で遺伝子が働いているかを、光の強さで測るのです。虫の光り方を調べた研究が、まったく別の分野の基盤になった例だと思います。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・エネルギーの移り変わり | 電気が熱と光に分かれること |
| 高校 | 物理基礎・エネルギーの保存 | 60 − 3 = 57 の計算 |
| 高校 | 生物基礎・酵素のはたらき | 決まった反応だけを進める道具 |
| 高校+ | 物理・熱放射/化学・光と分子 | 温度と出る光の色、2000℃の限界 |
| 大学 | 光化学・生物物理 | 発光の4分類、酵素が水を遠ざける役割 |
| 研究 | 生物発光(未解決) | 効率の値、色の制御、同期発光 |
| ― | 生活・環境 | 照明と冷房の関係、ホタルの見方 |
- Ando, Y. et al., Firefly bioluminescence quantum yield and colour change by pH-sensitive green emission, Nature Photonics 2, 2008。
- Seliger, H. H. & McElroy, W. D., 1960年前後のホタル発光効率に関する一連の報告(88%の出典)。
- Shimomura, O., Bioluminescence: Chemical Principles and Methods(生物発光の標準的な書籍)。
- 資源エネルギー庁および照明関連団体による、光源の効率に関する資料。
- 環境省および各自治体による、ホタルの生息環境の保全に関する資料。
※ 光源の効率、LED の発熱割合は製品によって大きく変わります。本記事では一般に引用される目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。白熱電球は非常に高温になります。取り扱いは製品の説明に従い、可燃物を近づけないでください。ホタルの観察については、各地域の保全のきまりと、水辺での安全に配慮してください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。