夕立の直前、なぜ急に冷たい風が吹くの?
― 雲から落ちてきた空気が、地面で横に広がっています
夏の午後、空が暗くなったあと、雨よりも先に冷たい風が来ることがあります。あれは、遠くから涼しい風が吹いてきたのではありません。頭上の雲の中で冷やされた空気が、そのまま下へ落ちてきたものです。落ちた空気は地面より下へは行けません。行き場をなくして横へ広がり、その先端があなたのところへ届きます。つまり、風は横から来たのではなく、上から来て曲がったものだと考えられています。
夏の夕方、洗濯物を取りこもうか迷っている場面です。空の一角が、灰色から黒に変わっていきます。
そのとき、生ぬるかった空気が、ふっと入れかわります。ひんやりした風が、土やほこりのにおいを連れて吹きつけてきます。
傘を開くより先に、風のほうが来た。その数分後に、大つぶの雨が屋根をたたきはじめます。
理由は、大きく2つです
雲から落ちる雨つぶは、途中の乾いた空気の中で少しずつ蒸発します。蒸発するとき、まわりから熱をうばいます。そのぶん空気は冷えて、まわりより重くなります。
重い空気のかたまりは、雲の底から地面へ向かって落ちます。しかし地面より下へは進めません。行き場を失った空気は、四方へ押し広がります。その広がりの先端が、突風になります。
順番に見ていきましょう。まず、空気が冷える場面からです。
なぜ、雨は空気を冷やすのでしょう
水が蒸発するとき、まわりから熱をうばいます。汗をかいた肌に風が当たると涼しいのは、このためです。同じことが、上空でも起きています。
雲の底から落ちた雨つぶは、その下の乾いた空気の中を通ります。乾いた空気の中では、雨つぶの表面から水がどんどん蒸発します。うばわれた熱のぶん、まわりの空気は冷えていきます。
冷えた空気は縮んで、同じ体積あたりで重くなります。まわりより重ければ、下へ落ちます。しかも落ちながら、新しい雨つぶがまた蒸発して、さらに冷やします。こうして、冷たい空気のかたまりは加速しながら落ちていきます。これを下降気流とよびます。図1を見てください。上から下へ、そして横へ、という流れになっています。
地面にぶつかった空気は、どこへ行くのでしょう
落ちてきた空気は、地面で止まります。しかし勢いは消えません。上から押されつづけるので、空気は横へ押し出されます。コップの水を床にこぼしたときと同じで、円をえがくように広がっていきます。
この広がりの先端は、冷たい空気と、もとからあった暖かい空気の境目です。境目は目に見えませんが、気象の世界では前線の一種として扱われ、ガストフロント(突風前線)とよばれます。この境目が通りすぎる瞬間に、風向きが変わり、気温が下がり、風が強まります。
下降気流がとくに強く、地面で激しい風になったものはダウンバーストとよばれます。夕立の前のさわやかな風と、被害を出すダウンバーストは、しくみとしては同じ流れの、強さの違いです。
風といっしょに、土のにおいが運ばれてくることがあります。あれは、離れた場所ですでに降りはじめた雨のにおいを、広がる風が運んできたものだと考えられています。
この風は、雲の下で作られた空気です。つまり、冷たい風を感じたということは、その空気を作った雲がそう遠くない所にある、というしるしになります。
じゃあ、どうすればいいの?
この風は、気持ちのいい涼しさとして来ます。だからこそ、注意の合図だと知っておくと役に立ちます。冷たい風のうしろには、激しい雨と、しばしば落雷を伴う雲が控えているからです。
- まず、じょうぶな建物の中へ入る屋外にいるなら、涼しくなった時点で移動をはじめます。「雨が降ってから」では遅いことがあります。
- 木の下や、テント・仮設の屋根には近づかない木は落雷の通り道になります。テントや看板は、突風でたおれたり飛ばされたりします。近づかないで離れてください。
- 雷の音が聞こえたら、屋外の活動をやめて避難する音が聞こえる距離は、すでに落雷が届きうる範囲だとされています。おさまってしばらくたつまで、外に戻らないでください。
ダウンバーストの風は、木を折り、屋根の材料を飛ばすほどの強さになることがあります。また、この風を作った雲は落雷を伴うことが多いとされています。倒れた木や飛来物でけがをした人がいたら、無理に動かさず119番へ通報してください。垂れ下がった電線には、絶対に近づかないでください。安全な場所へ避難することを、いちばんに考えてください。
まとめ
夕立の前の冷たい風は、遠くから来た風ではありません。頭の上の雲で作られ、落ちてきて、地面で曲がった風です。雨つぶの蒸発が空気を冷やし、重くなった空気が落ち、地面で横へ広がる。この3つがつながった結果として、あの一陣の風があります。
その風は、横から吹いてきたのではありません。
雲から落ちてきて、地面で曲がったのです。
この風を作る雲そのものについては入道雲(積乱雲)は、なぜあんなに高く成長するの?が、雲の中で氷が育つ話は真夏なのに、なぜ空から氷の粒(ひょう)が降ってくるの?がくわしいです。雨のにおいの正体は雨が降りはじめると、なぜ独特のにおいがするの?、木の下が危ない理由は雷のとき、木の下に隠れてはいけないのはなぜ?で説明しています。
- ぬれた手のこうに、口で息を吹きかけてみてください。乾いた手より、ぬれた手のほうがはっきり冷たく感じます。蒸発が熱をうばっている証拠です。
- 夏の夕方、空の一角が暗くなったら、風の向きに注意してみてください。暗い雲のあるほうから風が吹いてきたら、それが広がってきた冷たい空気です。
- そのとき、腕の外側の感じ方に注目します。気温が2〜3度下がるだけでも、体はかなりはっきり気づきます。ただし、観察は必ず建物の中や玄関先など、すぐ屋内に入れる場所から行ってください。
③は、外に出て空を見上げつづける観察ではありません。窓ぎわからでも、じゅうぶん分かります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎・物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(気象学・流体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 気化熱(蒸発熱):液体が気体になるときに、まわりからうばう熱のことです。空気を冷やす出発点になります。
- 下降気流:雲の中や下で、空気が下向きに動く流れのことです。ここでは冷やされて重くなった空気が作ります。
- ガストフロント(突風前線):広がる冷たい空気と、まわりの暖かい空気との境目のことです。通過する瞬間に風向きと気温が変わります。
- ダウンバースト:下降気流がとくに強く、地面付近で激しい風になったもののことです。被害をもたらすことがあります。
中学高校式で確かめる:冷たい風は、どれくらいで届くのでしょう
広がる速さと、雲までの距離が分かれば、届くまでの時間はわり算だけで出せます。ここでは目安の数字を使います。
| 広がる冷たい空気の速さ(一例) | 秒速 15 メートル |
| 雲までの距離(一例) | 6000 メートル |
| 1分の長さ | 60 秒 |
| 秒速を時速に直す | 15 × 3.6 = 54 |
| 距離を速さでわる | 6000 ÷ 15 = 400 |
| 秒を分に直す | 400 ÷ 60 ≒ 6.7 |
時速にすると54キロメートル、つまり自動車なみの速さです。6キロメートル先の雲の下で生まれた風は、7分ほどであなたのところへ届く計算になります。速さも距離もその時々で変わるので、これはあくまで大きさの感じをつかむための目安です。
高校高校+なぜ冷たい空気は「落ちる」のでしょう
高校気体は、温度が下がると同じ圧力のもとで体積が小さくなります。同じ量の空気が小さくまとまるので、密度が大きくなります。まわりより密度の大きい空気は、浮力より重力が勝って、沈みます。水の中に入れた重い物が沈むのと同じ関係です。
高校+空気の湿り具合も効きます。乾いた空気の層が厚いほど、雨つぶはよく蒸発し、冷え方が大きくなります。逆に、すでに湿りきった空気の中では蒸発が進まず、強い下降気流は育ちにくいとされています。夏に日本で強い突風が起きやすいのは、地上付近が暑くて上空との温度差が大きく、途中に乾いた層が入りやすいことが関係すると考えられています。
大学密度の違う流れとして見る
気象学では、この広がる冷たい空気のかたまりをコールドプール(冷気プール)とよびます。まわりより密度の大きい流体が、重力にひかれて水平に広がっていく流れの一種で、流体力学では重力流(密度流)として扱われます。広がる先端の進む速さは、密度の差と冷気の厚さから見積もることができ、ダムを切った水が広がる問題と同じ枠組みで理解されます。さらに、この先端が周囲の暖かく湿った空気を持ち上げることで、新しい積乱雲が生まれることもあります。ひとつの雲の吐き出した空気が、次の雲の引き金になるわけです。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 強い突風の直前予測。 どの積乱雲が地上に被害を出すほどの下降気流を生むのかを、数分から数十分前に見分けることは、いまも簡単ではありません。観測とシミュレーションの両面から研究が続いています。
- 雨が少ないのに強い突風。 地上にほとんど雨が届かないのに、強い下降気流だけが降りてくる場合があります。乾いた層での蒸発が主役だと考えられていますが、条件のそろい方は完全には整理されていません。
- 冷気が次の雲を呼ぶしくみ。 広がった冷気の先端が、どんなときに新しい積乱雲を作り、どんなときに作らないのか。積乱雲の集団の寿命を左右する問題として、活発に研究されています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。骨組みは確かめられていますが、細かい条件の効き方には、まだ研究の余地が残されています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・状態変化と熱/気象とその変化 | 蒸発が熱をうばう話、冷たい空気が下へ動く話 |
| 高校 | 地学基礎(大気)・物理基礎(浮力と密度) | 密度の差で空気が沈む説明 |
| 高校+ | 地学(前線・大気の安定度) | 乾いた層と冷え方の関係、ガストフロントを前線として見る話 |
| 大学 | 気象学・流体力学(重力流、メソスケール気象) | コールドプールと重力流の節 |
| 研究 | 突風の直前予測、対流の組織化 | 「まだわかっていないこと」の節 |
| ― | 生活とのつながり | 屋外での行動を切りかえる合図として使う |
- 気象庁ホームページ(突風・雷など、激しい気象現象に関する解説と注意報の情報)
- アメリカ海洋大気庁 国立気象局(雷雨にともなう突風についての一般向け解説)
- 小倉義光『一般気象学』第2版補訂版、東京大学出版会(大気の安定度と対流の基礎)
- 日本気象学会編『気象科学事典』東京書籍(ガストフロント・ダウンバーストの項)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の気象は場所や日によって大きく変わります。荒天のときは、気象庁の発表する情報と、消防・自治体等の指示に従ってください。