たき火にあたると、なぜ顔だけ熱くて、
背中は寒いままなの?
秋の夜、たき火を囲むと、火に向けた側だけが焼けるように熱くなります。それなのに背中はひんやりしたままです。まわりの空気が温まっているなら、体全体が暖かくなってもよさそうなものです。答えは「たき火の熱の大半は、空気を通って来ていない」ことにあります。熱は、光とそっくりな形で、まっすぐ飛んできているのです。
秋のキャンプ場。日が落ちて空気が冷えてきたので、たき火に近づきます。顔とひざが、じんわりどころではなく、はっきり熱くなってきました。
ところが背中は寒いままです。思わず、体をくるりと反対に向けたくなります。焼き芋を回しながら焼くのと同じで、人間のほうも回らないと全身は暖まりません。
しかも、火のすぐ上に手をかざすと熱くて耐えられないのに、同じくらいの距離だけ横にずれると、急に楽になります。この差はどこから来るのでしょうか。
理由は、大きく2つです
たき火の熱の多くは、赤外線という目に見えない光の形で運ばれます。光と同じくまっすぐ進むので、火のほうを向いた面だけが温まり、体の裏側には届きません。
火が温めた空気は軽くなって、まっすぐ上へのぼっていきます。横にいる人のところには来ません。それどころか、足元では冷たい空気が火に向かって吸いこまれています。
この2つを合わせると、「前だけ熱くて、背中はむしろ風が当たって寒い」という、あのちぐはぐな感じがそのまま説明できます。順番に見ていきましょう。
たき火の熱は、空気ではなく「光」で届いている
熱の伝わり方には、大きく3つの道があります。物の中を伝わる「伝導」、温まった空気や水が動いて運ぶ「対流」、そして光の形で飛んでいく「放射」です。
たき火の場合、離れて立っている人に届く熱の大部分は、この放射です。炎や赤くなった薪は、目に見える光と一緒に、目に見えない赤外線をたくさん出しています。赤外線は光の仲間なので、秒速およそ30万キロメートルでまっすぐ進みます。そして人の肌に当たったところで吸収され、そこで熱に変わります。
まっすぐ進む、というのが決定的です。懐中電灯を体の前から当てても背中が明るくならないのと同じで、赤外線も体を回りこんでくれません。だから火に向けた面だけが熱くなります。手をかざして「熱い」と感じるまでの時間がほとんどゼロなのも、光の速さで届いているからです。
図1を見てください。火から放射状にのびる直線が赤外線、上へのびる太い矢印が温まった空気の流れ、地面ぎわの細い矢印が足元に吸いこまれる冷たい空気です。人の体は、火の側だけが直線に当たっています。
温まった空気は、あなたのところへは来ない
では、火が温めた空気はどこへ行くのでしょうか。温まった空気は膨らんで軽くなるので、まわりの冷たい空気に押し出されるように、まっすぐ上へのぼります。たき火の煙が上へ立ちのぼるのは、この流れが目に見えているからです。
のぼった空気の分だけ、火のまわりには空気の足りない場所ができます。そこへ、地面すれすれを冷たい空気が横から流れこみます。つまりたき火のそばに立っている人の足元では、寒いほうの空気が火に向かって動いているのです。
背中が寒いのは、単に「暖かくない」からではありません。冷たい空気が背中側から前へ、ゆるやかに流れているからです。この流れが皮膚から熱を持ち去るので、実際の気温より寒く感じます。扇風機の風で涼しく感じるのと、同じしくみです。
そして火のすぐ上が耐えられないほど熱いのも、これで説明できます。上には赤外線に加えて、熱い空気そのものがのぼってくるからです。横にずれれば来るのは赤外線だけになり、急に楽になります。
石油ストーブや電気ストーブの前が「じりじり」と熱いのは、たき火と同じ放射だからです。向いた面だけが温まるので、部屋の隅は寒いままになりがちです。いっぽうエアコンは温めた空気を送り出す方式なので、部屋全体はゆっくり均一に温まりますが、体の一部だけが急に熱くなる感じはありません。同じ「暖房」でも、熱の届け方が違います。
よく晴れた冬の日、日なたに立つと顔だけが暖かいのも同じ放射です。相手が太陽になっただけで、しくみは変わりません。雲が太陽をさえぎった瞬間に暖かさが消えるのは、放射がさえぎられると同時に止まるからです。
じゃあ、どうすればいいの?
全身を暖めたいなら、体を回すのがいちばん確実です。それでも背中が寒いときは、背中側に壁やついたてを置くと、冷たい空気の流れが弱まり、火から出た熱の一部が跳ね返ってきます。昔から、たき火の背にむしろを立てたのは理にかなっています。
そのうえで、たき火は火災のもとにもなります。次の3つは、子どもにもそのまま伝えられます。
- 火の「上」には手を出さない横から近づくより、上のほうがずっと熱いからです
- 燃えるものを、火のまわりに置かない落ち葉や枯れ草は、放射だけでも熱くなって燃え出すことがあります
- あぶないと思ったら、火から離れて大人を呼ぶ自分で消そうとせず、まず逃げるのが先です
燃え広がりそうだと感じたら、まず自分がその場から離れ、避難してください。そのうえで119番に通報します。余裕があれば、燃料になるものを取り除き、熱源を止める(薪をくべるのをやめる、たき火台の火を水で消す)ことも助けになります。ただし炎が自分の背より高くなっている場合は近づかないでください。とくに、油に火がついた場合は水をかけてはいけません。消火のしかたは状況によって変わるため、最終的には消防や自治体の指示に従ってください。
まとめ
たき火が「前だけ熱い」のは、熱の大半が赤外線としてまっすぐ飛んでくるからです。まっすぐなので体を回りこまず、当たった面だけを温めます。そして火が温めた空気は上へ逃げ、代わりに足元へ冷たい空気が吸いこまれるので、背中側はむしろ冷やされています。
たき火の熱は、空気に運ばれてくるのではありません。
光と同じ速さで、まっすぐ飛んできています。
同じ「熱の伝わり方」の話としては、魔法瓶は、なぜ何時間も冷めないの?もあわせて読むと、放射をさえぎる工夫がよく分かります。冷たい空気の流れが体を冷やす話は扇風機の風は、なぜ涼しく感じるの?で、油に火がついたときの危険については天ぷら油の火に水をかけると、なぜ天井まで火柱が上がるの?で詳しく扱っています。
- たき火やストーブから1メートルほど離れ、手のひらを火のほうへ向けます。熱さを覚えておきます。
- 手のひらの向きだけを90度変え、火に対して横向きにします。手の位置は動かしません。熱さがはっきり弱まるはずです。向きだけで変わるのが、放射の特徴です。
- 次に、手と火のあいだに厚紙を1枚立てます。空気は自由に通れるのに、熱さはほとんど消えます。空気ではなく光が熱を運んでいた証拠です。
やけどをしない距離で行い、厚紙は火に触れさせないでください。ストーブでも同じことが確かめられます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(伝熱工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 熱放射:物体が温度に応じて赤外線などの光を出し、それによって熱を運ぶこと。空気がなくても伝わります。
- 対流:温まった気体や液体が軽くなって動き、その動きによって熱が運ばれること。たき火の煙が上へのぼるのがこれです。
- 赤外線:目に見える光より波長の長い光。人の目には見えませんが、肌に当たると吸収されて熱に変わります。
中学高校式で確かめる:1歩下がると、熱はどれだけ弱まるか
放射は火から四方八方へ広がるので、遠ざかるほど同じ面積あたりに届く量は減ります。減り方は距離の2乗に反比例するとされています。1メートルの位置で受ける熱を100として、2メートルまで下がったときにどうなるかを求めてみます。
| もとの距離 | 1メートル |
| そこで受ける熱の量(基準) | 100 |
| 下がったあとの距離 | 2メートル |
出てくる量の意味は、次のとおりです。
| 記号 | 意味と単位 |
| 距離 | 火の中心から体までの長さ。単位はメートル |
| 熱の量 | 1秒あたり、肌の同じ面積に届くエネルギー。ここでは基準を100とした比の値 |
| 倍率 | 距離が何倍になったかを表す数。単位はありません |
| 距離は何倍になったか | 2 ÷ 1 = 2 |
| その2乗をとる | 2 × 2 = 4 |
| 受ける熱の量 | 100 ÷ 4 = 25 |
| 減った分 | 100 - 25 = 75 |
たった1歩下がるだけで、届く熱は4分の1に落ちます。逆に、火へ1歩近づくと4倍になります。たき火のそばで「ちょうどいい距離」がとても狭く感じられ、少し動いただけで熱すぎたり寒すぎたりするのは、この急な変わり方のためです。
高校高校+温度が上がると、放射は一気に強くなる
高校物体が放射で出すエネルギーは、絶対温度の4乗に比例するとされています(シュテファン・ボルツマンの法則)。絶対温度は、セ氏の温度に273を足した値です。絶対温度が2倍になれば、放射は16倍になる計算です。
高校+だから、赤くなった薪と、その手前でくすぶっている炭とでは、見た目の温度差以上に届く熱が違います。また、温度が高い物体ほど短い波長の光を強く出すため、十分に熱くなると赤外線だけでなく目に見える赤い光まで出しはじめます。金属を熱すると赤くなり、さらに熱すると白っぽくなるのは、この波長の移り変わりが見えているものです。
大学「どれだけ火が見えているか」で決まる
伝熱工学では、ある面が別の面をどれくらい「見込んでいるか」を形態係数という量で表します。放射で運ばれる熱は、温度の4乗の差だけでなく、この形態係数に比例します。たき火に向けた胸の面は火を大きく見込んでいるので受け取りが大きく、背中は火をまったく見込んでいないのでゼロに近い、というのが正確な言い方です。実際の設計では、これに物体表面の放射率(黒っぽく粗い面ほど1に近い)を掛け合わせて計算します。焼き網の高さや暖房器具の向きを決めるときにも、同じ考え方が使われています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 炎そのものがどれだけ放射しているか。 炎の明るさは、燃料が不完全に燃えてできる細かいすすの粒が高温になって光っているものです。すすがどれだけできるかは燃料や空気の混ざり方で大きく変わり、炎からの放射量を前もって精密に予測するのは今も難しいとされています。
- 燃え広がる速さとの関係。 放射でまわりの木や草が温められて発火に至る過程は、実験室の条件ではよく調べられていますが、屋外の風や湿り気が加わるとずれが大きくなります。屋外での広がりを予測する研究が続いています。
- 人が感じる「暖かさ」との対応。 皮膚が受け取る放射と、実際に人が申告する快適さの関係は個人差が大きく、暖房の設計にどう反映するかは研究の途上にあります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。基本のしくみは確立していますが、実際の炎を数値で言い当てる部分には、まだ幅があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科(身のまわりの現象・熱の伝わり方) | 伝導・対流・放射の3つの区別 |
| 高校 | 物理基礎(熱とエネルギー) | 距離の2乗に反比例する計算、絶対温度 |
| 高校+ | 物理(電磁波・熱力学の発展) | 温度の4乗に比例する法則、波長の移り変わり |
| 大学 | 伝熱工学 | 形態係数と放射率による計算 |
| 研究 | 燃焼学・火災科学 | 炎からの放射量の予測、屋外での燃え広がり |
| ― | 生活とのつながり | 暖房器具の選び方、たき火の安全な囲み方 |
- 総務省消防庁(火災予防に関する広報資料)
- 日本機械学会『伝熱工学資料』(放射伝熱・形態係数の項)
- 日本建築学会『建築環境工学用教材 環境編』(放射と体感温度の項)
- 日本火災学会『火災と消火の科学』(炎からの放射と延焼の項)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。火を扱う際は各自治体の条例に従い、火災のおそれがあるときは無理をせず、消防・自治体等の指示に従ってください。