🌿 日常のふしぎ 🌡 地面の中の熱 予備知識なしでOK 読了 約6分

井戸水や湧き水は、なぜ夏は冷たく、冬は温かく感じるの?
― 水ではなく、まわりの空気のほうが動いています

夏に飲むと驚くほど冷たいのに、冬に手を入れるとほんのり温かい。まるで季節に合わせて温度を変えているようですが、実は逆です。水の温度は、ほとんど変わっていません。大きく変わっているのは、あなたの側なのです。

公開:2026.08.30 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

真夏の山道を歩いていて、道ばたの湧き水に出会います。手をひたすと、氷水のように冷たい。「山の水はやっぱり冷たいなあ」と思います。

ところが同じ場所へ、真冬に来てみます。あたりは霜で真っ白なのに、湧き水からはうっすら湯気が上がっている。手を入れると、外の空気よりずっと温かいのです。

季節ごとに水温を切りかえる装置など、地面の下にはありません。では、何が起きているのでしょうか。

理由は、大きく2つだけです

1
土は、熱を伝えるのがとても遅い

金属なら熱はすぐ伝わりますが、土や岩はけた違いに遅い物質です。地表の暑さや寒さは、下へ向かってゆっくりとしか進めません。

2
届く前に、季節が入れかわってしまう

夏の暑さが数メートル下へ進むころには、もう冬の寒さが追いかけてきます。両者が打ち消し合い、深いところでは温度がほとんど動かなくなります。

この2つが重なった結果、地下の水は一年を通してほぼ同じ温度を保ちます。その温度は、その土地の一年の平均気温にとても近い値になります。日本の多くの平地なら、だいたい15℃前後です。

「冷たい」と感じているのは、水ではなく差のほう

15℃の水を、気温33℃の真夏に触れば、体は「冷たい」と判断します。同じ15℃の水を、気温3℃の真冬に触れば、今度は「温かい」と感じます。水は何も変えていません。変わったのは、比べる相手である空気のほうです。

つまり湧き水は、季節に合わせて動いているのではなく、季節に合わせて動くことを拒んでいるのです。まわりが上下に大きく振れるなかで、そこだけが止まっている。だから、いつでも反対向きに感じられます。

暑さ寒さは、どこまで潜れるのか

地表の温度は、一年のあいだに大きく上下します。その波は地面の中へ伝わっていきますが、進むにつれてどんどん弱くなります。図1は、そのようすを表したものです。

深くなるほど、1年の温度の振れ幅はしぼんでいく 0℃ 10℃ 20℃ 30℃ まん中のたて線=年平均気温 約15℃ 深さ 2m 5m 10m 夏の地表 約28℃ 冬の地表 約4℃ 矢印の先が井戸水・湧き水 太い実線=夏(8月ごろ) 破線=冬(2月ごろ) 左へいくほど冷たく、右へいくほど温かい。下へいくほど深い。
図1:横軸が温度、たて軸が深さです。いちばん上の地表では、右側の太い実線(夏)と左側の破線(冬)が大きく離れています。しかし下へ行くほど二本は真ん中のたて線(年平均気温)へ寄っていき、矢印が指す深さ10メートルあたりではほとんど重なります。井戸や湧き水のもとになる水は、この「重なった場所」から来ています。

目安として、地面の中では深さ2メートルほど進むごとに、温度の振れ幅はおよそ3分の1へ減っていくとされています。ですから深さ10メートルまで来ると、地表で20℃以上あった年間の振れ幅は、1℃にも満たない大きさになってしまいます。

おまけに、季節が「遅れて」届きます

弱くなるだけではありません。地中では、暑さ寒さの到着そのものが遅れます。深さ数メートルの地点に夏の暖かさが届くのは、地上が夏を終えたずっとあとです。

そのため地面の浅いところでは、「地上の秋がいちばん暖かい」といった、季節がずれた状態が生まれます。トンネルや洞くつの中がひんやり感じられるのも、同じ理由の親せきです。

💡 地面の中の温度は、冷暖房にも使われています

地下の温度が一年中ほぼ一定であることは、そのまま利用価値になります。夏は外より冷たく、冬は外より温かい相手と熱をやりとりできれば、冷やすのも温めるのも少ない力ですみます。地中に管を埋めて熱を交換するしくみは、この性質を使ったものです。

💡 ただし「深ければ深いほど冷たい」ではありません

地下深くには、地球そのものが持つ熱があります。目安として、深さ100メートルにつき3℃ほど温度が上がっていくとされています。数十メートルまでは年平均気温に近いままですが、それより深くなると、今度はじわじわと温かくなっていきます。

まとめ

湧き水の温度は、季節に合わせて変わっているのではありません。土が熱を伝えるのが遅いために、地表の暑さも寒さも深いところまでは届かず、その土地の年平均気温のまま止まっているのです。夏に冷たく冬に温かいのは、水ではなく、まわりの空気が動いた結果です。

湧き水は、季節を追いかけていません。
季節から取り残されているだけです。

地面の下の熱をもっとたどると 温泉は、なぜ熱いの? にたどりつきます。同じ温度なのに感じ方が変わる話は なぜ金属は木より冷たく感じるの? が、空気と地面の温度差が水を生む話は 朝の草はなぜ濡れているの? がくわしいです。

🧪 自分で確かめてみる
  1. 庭の土に、深さ5センチと深さ30センチの穴をあけ、料理用の温度計をそれぞれ刺して10分待ちます(自分の土地以外で掘るときは、管理者の許可を得てください)。
  2. よく晴れた日の昼と、日が沈んだあとの2回はかります。浅いほうは大きく上下し、深いほうはほとんど動かないはずです。
  3. 近くに湧き水や井戸があれば、季節を変えて2回、水温をはかってみます。気温には何十度も差があるのに、水温の差はごくわずかだと確かめられます。

わずか30センチでも差ははっきり出ます。深く掘れないときは、日陰の地面と日なたの地面で比べるだけでも、土が熱をためこむようすが見えてきます。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・地学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(伝熱工学・水文学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:暑さ寒さは、地下何メートルまで届くのか

一年の温度の波が地面へしみこむとき、その振れ幅は深さとともに小さくなります。「もとの3割ほどまで弱まる深さ」を求めてみます。土の熱の伝わりやすさは、しめった土でおよそ0.5平方ミリメートル毎秒とされています。

① もとになる数値
記号ア:土の熱の伝わりやすさ0.5(単位は平方ミリメートル毎秒)
記号アの2倍にした値1.0(単位は平方ミリメートル毎秒)
記号イ:1年の長さ31500000(単位は秒)
円1周分を表す数の2倍6.28(単位なし)
② 計算してみる
1年を、波の進み具合の目安に直す31500000 ÷ 6.28 ≒ 5020000
しみこむ深さの2乗を出す1.0 × 5020000 = 5020000
2乗してこの値になる数をさがす2240 × 2240 = 5017600
ミリメートルをメートルに直す2240 ÷ 1000 = 2.24

記号でいえば、しみこむ深さは「記号アの2倍を、波の進み具合で割った値」の平方根です。単位は長さ、つまりメートルになります。得られた約2.24メートルが、振れ幅がもとの3割ほどまで弱まる深さです。

③ 実感に直す
深さ10メートルは、その何倍か10 ÷ 2.24 ≒ 4.5
4.5倍の深さでの弱まり方0.011(この割合になるとされる)
地表の振れ幅を12℃としたときの残り12 × 0.011 ≒ 0.13

つまり深さ10メートルでは、一年の温度の振れ幅がおよそ0.13℃しか残りません。温度計の目もりでは、ほとんど動いていないように見える大きさです。

高校高校+なぜ「遅れ」も生じるのか

高校熱は、温度の高いほうから低いほうへ、温度差に応じた速さで流れます。地表が暖まると、そのすぐ下へ熱が流れ、そこが暖まると、さらに下へ流れます。バケツリレーのように受けわたすので、深いところほど到着が遅くなります。

高校+この遅れは、深さに比例して大きくなります。さきほど求めた約2.24メートルごとに、季節はおよそ2か月ぶんずつ遅れて届くとされています。深さ約7メートルでは半年ずれるため、地上が真夏のときにその深さは真冬にあたる、という逆転まで起こります。

大学熱伝導方程式が、答えを一つに決める

地面を一様な半無限の物体とみなし、表面の温度が一年周期で上下すると置くと、内部の温度は熱伝導方程式の解として書けます。その解は「深さとともに指数関数的に振れ幅が減り、同時に位相が深さに比例して遅れる波」になります。振れ幅の減り方と遅れ方が、同じ長さの尺度で決まるのがこの解の特徴です。上で計算した約2.24メートルが、その尺度にあたります。実際の地面は層ごとに性質が違い、雨水の出入りや積雪もあるため、観測値は解から少しずれます。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。あなたの家のそばの地面が、この計算どおりにふるまう保証はありません。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・身のまわりの現象(熱の移動)土が熱を伝えるのは遅い、という話
高校物理基礎(熱と温度)・地学基礎熱の流れと、季節の遅れの説明
高校+物理(熱伝導の発展的な扱い)しみこむ深さの計算と、半年ぶんの遅れ
大学伝熱工学・水文学(熱伝導方程式)振れ幅の減りと位相の遅れが同じ尺度で決まる話
研究古気候学・都市の地下環境地中温度から昔の気温を読む試み
生活とのつながり湧き水の温度、地中の熱を使った冷暖房
参考・出典
  1. 気象庁「地中温度(地温)の観測」および各地の地中温度の統計値
  2. 国立天文台編『理科年表』丸善出版(気温・地温および物質の熱的性質の項)
  3. 産業技術総合研究所 地質調査総合センター「日本の地温勾配・地殻熱流量に関する資料」
  4. H. S. Carslaw and J. C. Jaeger, Conduction of Heat in Solids, Oxford University Press(周期的な表面温度に対する半無限体の解)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。湧き水や井戸水は、見た目が澄んでいても飲用に適さない場合があります。飲む前に自治体の案内や水質検査の結果を確認し、指示に従ってください。