日本海側は、なぜ雪がたくさん降るの?
― 雪雲をつくっているのは、冷たい風と「暖かい海」です
同じ日の同じ国なのに、片側は一日中しんしんと雪が降り、山を越えた反対側はよく晴れている。冬の日本では、めずらしくない光景です。理由は「日本海側のほうが寒いから」ではありません。むしろ話は逆で、雪をつくっているのは冬でも十分に暖かい日本海の水面です。海から立ちのぼった水蒸気が雲になり、その雲が山にぶつかって持ち上げられ、たまらず雪として落ちてくるのです。
冬に、列車で山を越えたことはあるでしょうか。トンネルに入る前は青空だったのに、抜けたとたん、窓の外が一面の白に変わっている。逆向きに越えれば、深い雪の景色が数分で乾いた晴天に変わります。
天気予報の図でも、同じことが毎冬くり返されます。日本列島の片側にだけ雲が並び、反対側はすっぽり空いているのです。
気温を比べても、両側でそれほど大きな差はありません。それなのに、降る雪の量はまるで違います。この差はどこから来るのでしょうか。
理由は、大きく2つです
冬、大陸から日本へ向かって、とても冷たく乾いた風が吹き出します。その風が渡っていく日本海は、冬でも水面が10℃前後を保っています。冷たい空気は、この暖かい水面から熱と水蒸気を半日以上も受け取り続け、しめった空気に生まれ変わります。
しめった空気は、そのままでは雪になりません。列島の背骨のように連なる山地にぶつかると、逃げ場をなくして斜面を駆け上がります。空気は上へ行くほど冷え、含みきれなくなった水蒸気が氷の粒に変わります。こうして山の手前側に雪が集中します。
「寒いから降る」のではなく、「暖かい海があるから降る」。この順序が、日本海側の雪を理解する鍵になります。順番に見ていきましょう。
冷たい風が、海の上で「しめった風」に変わる
冬に大陸を出るときの空気は、とても乾いています。氷点下まで冷えた空気は、そもそも水蒸気をほとんど含めないからです。ところが日本海の水面は、南から流れ込む暖かい海流のおかげで、冬でも10℃前後あるとされています。
水面のほうが空気よりずっと暖かいと、水面から水が盛んに蒸発します。同時に、下から温められた空気は軽くなって上へのぼります。この上下の入れ替わりが海の上でずっと続くので、空気は進みながらどんどん水分を蓄えていきます。上昇した空気の中で水蒸気が水滴や氷の粒に変わると、それが雲です。日本海の上に細長い雲がきれいに並ぶ「すじ状の雲」は、この入れ替わりが列を作っている姿です。
図1を見てください。左から来た冷たい風が、中央の暖かい海の上を進むにつれて雲が育ち、右の山にぶつかって雪を落とす流れを描いています。
山が、水蒸気を「絞り出す」
海の上で水分をたっぷり受け取った空気も、平らな場所を流れているだけなら、そこまで激しくは降りません。強い雪をもたらすのは、行く手をふさぐ山地です。
風は山を避けて横へ逃げることもできますが、長く連なる山地ではそれが難しく、多くは斜面に沿って上へ押し上げられます。空気は上へ行くほど気圧が下がり、ふくらみながら冷えていきます。冷えた空気は水蒸気を抱えきれず、余った分が水滴や氷の粒として出てきます。ぬれた雑巾を絞ると水が落ちるように、山が空気から水分を絞り出しているわけです。
だからこそ、山を越えた先の空気はもう乾いています。水分を手前側で落としてしまったからです。反対側で冬に晴天と乾いた強風が続くのは、雲が来ないからではなく、雪を降らせ終えた風が下りてくるからです。同じ一本の風が、片側に雪を、反対側に晴れをもたらしています。
同じ強さの冷たい風が吹いても、海面が暖かい年ほど、空気が受け取れる水蒸気は多くなります。日本海の水温は年ごとに差があり、冬の降雪量を見通すうえで重要な手がかりのひとつとされています。
大陸の高い山を回り込んだ風どうしが日本海でぶつかり、雲が一本の帯にまとまることがあります。これは日本海寒帯気団収束帯と呼ばれ、この帯がかかった地域では、短い時間に集中して雪が積もることが知られています。
まとめ
日本海側の雪は、寒さだけでできているのではありません。冷たい風、暖かい海、そして山。この3つがそろって初めて、あれほどの量になります。ひとつでも欠ければ、雪は降ってもふつうの量にとどまります。世界的に見ても、これほど人の住む平野に雪が積もる地域はまれだとされています。
雪をつくっているのは、寒さではありません。
冷たい風が、暖かい海から借りてきた水です。
雪の結晶がなぜ六角形になるのかは雪はなぜ六角形なの?で、氷は透明なのに雪が白く見える理由は氷は透明なのに、雪はなぜ白く見えるの?で説明しています。山にぶつかった空気が天気を変えるしくみは山の天気は、なぜあんなに急に変わるの?とも共通しています。
- 冬の天気図と雲の画像を、天気予報の番組やウェブで見比べてみましょう。列島の片側にだけ雲が並び、細長いすじになっている日を探します。
- 同じ日の、山をはさんだ2つの町の天気と気温を調べます。気温はさほど変わらないのに、降っている量がまるで違うことが確かめられます。
- 湯を張った洗面器の上に、冷やしたガラスのコップをかざしてみましょう。水面から立ちのぼった水蒸気が、冷えた面で水滴に変わります。海の上で雲ができる入口の部分だけを、机の上で再現したことになります。
湯を使うときは熱さに注意し、大人といっしょに行ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(気象学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 季節風:季節によって決まった向きに吹く風のことです。冬は大陸から海へ、夏は海から大陸へ向かうのが日本付近の基本形です。
- 地形性上昇:風が山などの地形にぶつかり、斜面に沿って上へ押し上げられることです。雲や雨、雪をつくる代表的なきっかけのひとつです。
- すじ状の雲:暖かい水面の上で、空気が上下に入れ替わりながら列を作るときにできる、細長く並んだ雲のことです。
- 日本海寒帯気団収束帯:冷たい空気の流れどうしが日本海でぶつかり、雪雲が帯のように集まる場所を指す言葉です。
中学高校式で確かめる:風は何時間、海の上にいるのか
「半日以上かけて水蒸気を受け取る」という話を、数で確かめてみます。使う記号は距離(単位はメートル)、速さ(単位は毎秒メートル)、時間(単位は秒)の3つだけです。毎秒メートルは、1秒間に何メートル進むかを表す単位です。
| 大陸から日本列島までの、およその距離 | およそ800000 m(800 km) |
| 冬の季節風の、およその速さ | およそ15 m/s |
| 山を越えるときの、およその上昇の高さ | およそ2000 m |
| 雲ができている空気が上昇したときの冷え方 | 100 mにつき、およそ0.5℃とされる |
| 海の上を渡るのにかかる秒数 | 800000 ÷ 15 ≒ 53000 |
| 秒を時間に直す | 53000 ÷ 3600 ≒ 15 |
| 2000 mは、100 mの何個分か | 2000 ÷ 100 = 20 |
| 山を上るあいだに下がる温度 | 20 × 0.5 = 10 |
風はおよそ15時間、つまり半日以上も暖かい水面の上を旅していることになります。そして山を上る短いあいだに、空気はおよそ10℃も冷えます。長い時間をかけてためこんだ水分が、わずかな上昇で一気に吐き出される。これが、山ぎわに雪が集中する理由です。
高校高校+なぜ、上がると冷えるのか
高校空気は上へ行くほどまわりの気圧が下がるので、ふくらみます。ふくらむとき、空気はまわりを押しのける仕事をします。外から熱をもらわずに仕事をした分だけ内部の勢いが減り、温度が下がります。熱のやりとりなしで進むこの変化は、断熱膨張と呼ばれます。
高校+ただし、雲ができている空気の冷え方はもっとゆるやかです。水蒸気が水滴や氷に変わるとき、まとまるために手放した熱がまわりへ放出されるからです。この熱は潜熱と呼ばれ、上昇する空気を内側から温め直します。乾いた空気が100 mにつきおよそ1℃下がるのに対し、雲の中では半分ほどにとどまるのはこのためです。潜熱が加わることで空気は軽さを保ちやすく、上昇が長く続きます。
大学海から空へ、熱はどう受け渡されるのか
大学の気象学では、この受け渡しを海面での熱の流れとして扱います。温度差そのものによって伝わる分と、蒸発した水蒸気が熱を持ったまま運ばれる分の2つに分けて考えるのが基本です。冬の日本海では、水面と空気の温度差が大きく風も強いため、この流れが世界的に見ても大きな海域のひとつになるとされています。また、暖められた空気が細長い列をつくって上下に入れ替わる構造は、大気境界層の対流として研究されており、雲の並ぶ間隔や向きが層の厚さや風の変化と結びつくことが知られています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 雪雲の帯が、いつどこにかかるのかの予測です。帯そのものができる条件は分かってきましたが、幅数十キロメートルの帯が数時間後にどこへ動くかを当てるのは今も難しく、局地的な大雪の予測精度は研究課題です。
- 温暖化が進むと降雪量がどうなるかです。気温が上がれば雪は減ると考えられる一方、海面が暖かくなるほど空気が受け取る水分は増えます。地域や標高によって結果が分かれるとされ、量と回数の変化の見通しはまだ定まっていません。
- 雲の中で、氷の粒がどう増えるのかです。氷の粒がぶつかって砕け、そのかけらが新たな核になる過程などが提案されていますが、実際の雲でどの過程がどれだけ効いているかは測定が難しく、降る量の計算に不確かさを残しています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。大枠のしくみは確立していますが、どこにどれだけ降るかという細部は、いまも研究の最前線にあります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科 第2分野「天気とその変化」 | 季節風、水蒸気と雲のでき方 |
| 高校 | 地学基礎「大気と海洋」 | 山にぶつかった空気の上昇と冷却 |
| 高校+ | 物理基礎の発展「断熱変化」 | ふくらむと冷える理由、潜熱の効き方 |
| 大学 | 気象学・大気境界層 | 海面からの熱の受け渡し、列をつくる対流 |
| 研究 | 降雪予測・雲物理 | 雪雲の帯の予測、氷の粒が増える過程 |
| ― | 生活とのつながり | 片側だけ雪が降る理由、暖冬でも大雪になる年がある理由 |
- 気象庁「予報用語 ― 日本海寒帯気団収束帯」(気象庁ホームページ)
- 気象庁「日本近海の海面水温の長期変化傾向」(海洋の健康診断表、気象庁ホームページ)
- 小倉義光『一般気象学(第2版補訂版)』東京大学出版会
- 日本気象学会 編『気象科学事典』東京書籍
- 文部科学省『中学校学習指導要領解説 理科編』(第2分野「天気とその変化」)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。大雪が予想されるときは、気象庁の発表や自治体の呼びかけなど、公的機関の最新の情報と指示に従ってください。