自然のふしぎ 天文・宇宙 予備知識なしでOK 読了 約6分

中秋の名月は、なぜ満月とは限らないの?
― 暦が決めているのは、月の形ではなく日付のほうです

お月見の夜、「今年の名月は満月ではありません」と天気予報が言うことがあります。おかしな話に聞こえますが、これは暦の間違いではありません。名月の日付は太陽と月の位置から先に決まり、満月になる瞬間はそのあとから追いついてくるからです。しかも月は、いつも同じ速さで回っているわけではありません。

公開:2026.09.20 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

秋のはじめ、だんごを用意して縁側から空を見上げます。今夜は中秋の名月です。

ところが、よく見ると月の右側がほんの少し平らに見えます。次の日の夜のほうが、まんまるに見えたりもします。

名月の日をまちがえたのでしょうか。いいえ、暦はまちがっていません。もともと、ぴたりと重なる保証がないのです。

理由は、大きく2つだけです

1
名月の日付は「形」ではなく「数え方」で決まる

中秋の名月は、昔の暦の8月15日の夜のことです。新月になった瞬間を含む日を1日目と数え、そこから15日目にあたります。つまり日付の決まりごとであって、「まんまるの日」という意味ではありません。

2
月の進む速さが、一定ではない

月の通り道はわずかにつぶれた輪で、地球に近いときは速く、遠いときはゆっくり進みます。そのため新月から満月までにかかる日数が、年によって14日ほどだったり15日半ほどだったりします。

この2つがすれちがうと、15日目の夜に満月の瞬間がまだ来ていなかったり、すでに過ぎていたりします。順に見ていきます。

数えはじめの日が、まるまる1日ぶんずれることがあります

昔の暦では、新月になった瞬間を含む日がその月の1日目でした。ここに落とし穴があります。新月の瞬間は、朝かもしれないし、夜中の直前かもしれません。

新月が午前0時すぎに起きた年は、1日目がほぼまるまる残ります。夜11時に起きた年は、1日目は1時間しかありません。数えはじめの基準が、最大で1日近くずれるわけです。

図1は、その数え方を横一直線に並べたものです。左端の下向きの矢印が新月の瞬間、右側の上向きの矢印が満月の瞬間です。新月が日付のどこで起きたかによって、満月の瞬間が15日目の枠から押し出されることがあります。

暦の「15日目」と、満月の瞬間はずれることがあります 1 6 11 15 16 新月の瞬間(この日が1日目) 満月の瞬間が、15日目の右どなりへ出た例 左から右へ1日ずつ数えます(黄色い枠が15日目=名月の夜)
図1:暦の日付の数え方と、満月の瞬間の関係。左上の下向きの矢印が新月、右下の上向きの矢印が満月です。黄色い枠が15日目で、満月がその右どなりの日に入ってしまうと、名月の夜はまだ少し欠けて見えます。

月は、近いときほど速く進みます

もうひとつの理由は、月の通り道の形です。月の道はぴったりの円ではなく、わずかにつぶれた輪になっています。地球にいちばん近づくときと、いちばん遠ざかるときで、距離は1割ほど変わります。

このとき、月は近いところでは速く、遠いところではゆっくり進みます。地球と月を結んだ線が同じ時間にはらう面積が、いつも同じになるように動くからです。

図2はその様子です。左のほうが遠くてゆっくり進む場所、右のほうが近くて速く進む場所です。うすく塗った2つの扇形は、同じ日数で進んだ範囲を表していて、形はちがっても面積はほぼ同じです。

同じ日数で進む範囲(うすい扇形)は、面積がほぼ同じです 地球 遠いときの月 近いときの月 → 右:近いところ ― 進む角度が大きい(はやい) 左:遠いところ ― 進む角度が小さい(おそい) 通り道のつぶれ方は、見やすいように実際より大げさに描いています
図2:月の通り道と進む速さ。右の地球に近い側では、うすい橙色の扇形が上下に広がり、短い日数で大きく回ります。左の遠い側では水色の扇形が細長く、同じ日数でも進む角度はわずかです。
💡 名月が満月でなくても、見ごろは変わりません

満月の瞬間からずれていても、欠け方はほんのわずかです。肉眼で気づくのはむずかしく、写真をくらべてやっとわかる程度です。名月の夜は、そのまま楽しめばよいと思います。

まとめ

中秋の名月は、月の形で決めた日ではありません。新月の瞬間から数えて15日目という、日付の決まりごとです。一方、満月の瞬間は月の進み具合で決まります。新月から14日ほどで来る年もあれば、15日半かかる年もあります。この2つが別々の理由で決まるので、重なる年もあれば1日ずれる年もあります。

名月は、暦が決めた夜。
満月は、月が決めた瞬間。

月の形が毎日変わるしくみは月の形は、なぜ毎日変わるの?で、同じ「暦と天体のずれ」の話は秋分の日は、なぜ年によって9月23日だったり22日だったりするの?でくわしく書いています。

🧪 名月の夜に、自分で確かめてみる
  1. 名月の夜と、その前後の夜の月を、同じ場所・同じ倍率でスマホで撮ります。
  2. 3枚の写真を並べ、月の左右のふちがまるいか、少し平らかをくらべます。
  3. いちばんまるく写った夜が、その年の満月にいちばん近い夜です。

スマホは明るさを自動で調整します。指で月をタップして明るさを下げると、ふちの形が見やすくなります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・地学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(天体力学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:朔から望までは、何日かかるのか

主題の量は「朔から望までの日数」です。平均を出したうえで、月の速さの変化でどれだけ前後するかを見ます。

⓪ もとになる式
記号で書くとr1² × ω1 = r2² × ω2
言葉で書くと近いときの距離の2乗 × 近いときの角速度 = 遠いときの距離の2乗 × 遠いときの角速度
どこから来る式か地球と月を結ぶ線が同じ時間にはらう面積が等しい、という面積速度一定の性質。もとは角運動量が保存することから出ます(ケプラーの第二法則)
① もとになる数値
r(地球からの距離)が最も小さいときおよそ 36.3 万km とされています
r が最も大きいときおよそ 40.6 万km とされています
朔望月の平均29.53 日
実際の朔から望までの幅およそ 13.9 日から 15.6 日の間とされています

記号の意味です。r1・r2 は地球から月までの距離で、単位は万km。ω1・ω2 はそれぞれのときに月が1秒で進む角度で、単位は度毎秒です。

② 計算してみる
遠いときと近いときの距離の比40.6 ÷ 36.3 ≒ 1.12
ω の比は、距離の比の2乗1.12 × 1.12 ≒ 1.25
朔から望までの平均日数(朔望月の半分)29.53 ÷ 2 ≒ 14.77
いちばん長い年とのずれ15.6 - 14.77 ≒ 0.83
いちばん短い年とのずれ14.77 - 13.9 ≒ 0.87

近いところを通るときの月は、遠いところを通るときより1.25倍ほど速く角度を進みます。その結果、朔から望までの日数は平均の14.77日から前後に0.8日ほど動きます。暦の15日目という固定された枠に対して、満月の瞬間が丸1日近く前後するわけです。

高校高校+朔望月と公転周期は、別のものです

高校月が地球を1周して星空の同じ場所へ戻るまでは約27.32日で、これを恒星月といいます。しかしその間に地球も太陽のまわりを進みます。太陽との位置関係がそろい直すには約29.53日かかり、これが朔望月です。

高校+月が地球に最も近づく点そのものも、およそ8.85年かけて一周する向きに動きます。これを近点移動といいます。そのため朔の時期と、月が近づく時期との組み合わせは毎年ずれ、朔から望までの日数の長短も年ごとに変わります。

大学二体問題と、月の運動の摂動

地球と月だけを考えた二体問題では、軌道は楕円に定まり、面積速度一定と軌道長半径から周期が決まります。しかし実際の月には太陽の引力が強く効くため、軌道要素が刻々と変化します。これを摂動といい、出差や二均差といった古くから知られた周期的なずれが現れます。月の位置を高い精度で予報するには、こうした項を多数含む月理論や数値積分が必要です。国立天文台が発表する朔望の時刻も、この計算にもとづいています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ケプラーの法則朔望月

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は代表的な値を示しています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・地球と宇宙(月の満ち欠け)朔と望、名月の日付の決まり
高校地学基礎・物理基礎(円運動と天体)面積速度一定、恒星月と朔望月の差
高校+物理・力学(角運動量の保存)近点移動と、日数が年ごとに変わる理由
大学天体力学・位置天文学二体問題と摂動、月理論
研究地球惑星科学月が遠ざかる速さと内部構造
生活とのつながりお月見の日取り、カレンダーの月齢表示
参考・出典
  1. 国立天文台 暦計算室「暦象年表」朔弦望および月の距離に関する解説
  2. 朔望月(ウィキペディア日本語版)
  3. ケプラーの法則(ウィキペディア日本語版)
  4. 長沢工『日の出・日の入りの計算 ― 天体の出没時刻の求め方』(地人書館)
  5. 渡邊敏夫『日本の暦』(雄山閣)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の朔望の時刻や名月の日付は、国立天文台が公表する値をご確認ください。