明るい部屋と外の日なたは、なぜ同じくらいの明るさに感じるの?
― 目は、200倍の差を6倍ほどに縮めて見せています
よく晴れた昼の屋外と、照明をつけた部屋。どちらも「ふつうに明るい」としか感じません。ところが機械ではかると、その差は200倍ほどあります。差が無いのではなく、目のほうが差を縮めて見せているのです。
昼間、部屋の中で本を読んでいます。照明もついていて、明るさに不満はありません。
そのまま玄関を出て、日なたに立ちます。「まぶしいな」とは思いますが、少し目を細めれば、すぐ慣れてしまいます。
感覚としては、せいぜい「何倍か明るくなった」くらいでしょう。ところが実際の明るさは、部屋と日なたで200倍ほど離れています。
差が消えて見える理由は、2つあります
黒目の中心にある瞳の穴は、明るい場所では小さく、暗い場所では大きくなります。直径で4倍、入ってくる光の量にすると16倍ほどを、自分で調節しています。
それでも16倍ぶんしか稼げません。残りは、目の奥と脳の側が引き受けます。光の量が200倍になっても、感じる明るさは6倍ほどにしかならない。そういう縮め方をしています。
この2つが同時に働くので、私たちは暗い部屋からまぶしい日なたまでを、ひと続きのふつうの世界として体験できます。便利なしくみですが、そのぶん、実際の明るさを言い当てるのがとても下手になります。
実際の明るさは、けた違いに離れている
明るさをはかる単位に、ルクスというものがあります。よく晴れた日の屋外は約10万、曇りの日でも約1万、オフィスの机の上が500ほど、家のリビングは100から200ほどとされています。夜、満月の下ではおよそ0.25です。
いちばん上といちばん下で、40万倍ほど離れています。これをふつうの目盛で1枚の図にすると、下のほうがつぶれてまったく描けません。そこで図1では、目盛を1つ進むごとに10倍になる書き方にしてあります。
この「下手さ」が、身のまわりで悪さをする
目が差を縮めてくれるおかげで暮らしやすいのですが、そのぶん、明るさが足りているかどうかの判断をよく間違えます。困りごとは、だいたい次の3つに出てきます。
ひとつめは、窓ぎわに置いた観葉植物が、なぜか元気をなくすこと。人の目には十分明るくても、植物が受け取る光は屋外の数十分の1しかありません。ふたつめは写真です。部屋の中で撮った写真がぶれたり暗くなったりするのは、目が思っているより実際がずっと暗いからです。
みっつめは体内時計です。朝の光が体のリズムを整えるはたらきには、ある程度の明るさが必要だとされています。室内の照明では、その明るさに届かないことが多いのです。同じ「明るい」でも、体にとっては別ものだと考えたほうがよさそうです。
どんよりした曇りの日でも、屋外は約1万ルクスあります。よく照らされた部屋の20倍ほどです。「今日は暗いから外に出ても同じ」と感じても、光を浴びるという点では、窓ぎわに座っているより外に出るほうがはるかに効きます。
もし感じ方が明るさそのままだったら、屋外に出たとたん、室内で見えていた段差や文字の濃淡はすべて真っ白につぶれてしまいます。差を縮めるのは、けた違いに条件が変わる自然の中で、いつでも「ものの形」を見分けるための工夫だと考えられています。
まとめ
部屋と日なたの明るさは200倍ほど違います。瞳の穴の開き具合で16倍ほどをならし、残りは感じ方そのものを圧縮する。そうやって私たちは、その差をほとんど意識せずに暮らしています。便利な反面、明るさが足りているかどうかの判断は、あまり当てになりません。
目は、明るさをはかる道具ではありません。
けた違いの世界でも形が見えるように、差を縮める道具です。
暗いほうへ移ったときに目が慣れるまでの時間については明るい所から暗い部屋に入ると、なぜしばらく何も見えないの?で、曇りの日の屋外が思ったより強い光を届けていることは曇りの日でも日焼けするのは、なぜ?でも扱っています。
- スマートフォンに、明るさをルクスで表示するアプリを入れます。カメラや明るさセンサーを使うもので、おおよその目安として使えます。
- まず部屋の机の上ではかり、数字を覚えます。次に「外は何倍くらいだろう」と自分で予想してから、玄関を出て日なたではかります。
- 予想と実際を比べます。多くの人は10倍以内と答えますが、実際は100倍を超えているはずです。曇りの日、窓から1m離れた場所、夜の室内でも試すと、差の縮まり方がよく分かります。
太陽にカメラを直接向けてはかるのはやめてください。数字も正しくなりませんし、目にも機械にもよくありません。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(視覚科学・心理物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 照度:面にどれだけ光が届いているかを表す量。単位はルクス。この記事で「実際の明るさ」と呼んできた数字です。
- 順応:まわりの明るさに合わせて、目の感度が作り変わること。瞳の開き具合の変化と、目の奥の細胞の感度の変化の両方をふくみます。
- 対数目盛:目盛を1つ進むごとに10倍になる並べ方。けた違いに離れた数を1枚の図に収めるときに使います。図1の上の帯がこれです。
中学高校式で確かめる:200倍の差が、6倍に見えるまで
感じ方と実際の明るさをつなぐ式を立て、そこに数値を入れて追ってみます。
| 記号で書くと | S = k × E0.33 |
| 言葉で書くと | 感じる明るさ = 定数 × 照度の3乗根 |
| どこから来る式か | 刺激の強さと感じ方の関係を表すスティーブンスのべき法則。多くの人に明るさを答えてもらう実験から得られた経験則で、明るさの場合の指数は0.33から0.5ほどとされています。 |
| 記号の意味 | S は感じる明るさ(単位のない相対値)、E は照度(単位はルクス)、k は比例定数 |
| よく晴れた日の屋外の照度 | 約 100000 ルクス |
| よく照らされた室内(オフィスの机の上)の照度 | 約 500 ルクス |
| 瞳の穴の直径 | 明るい所で約 2 ミリ、暗い所で約 8 ミリ |
| 3乗すると約200になる数 | 約 5.8 とされます |
| 屋外と室内の、実際の明るさの比 | 100000 ÷ 500 = 200 |
| 瞳の直径の比 | 8 ÷ 2 = 4 |
| 入る光の量の比(穴の面積で決まる) | 4 × 4 = 16 |
| 感じ方の比を5.8として、3乗して確かめる | 5.8 × 5.8 = 33.64 |
| もう1回かける | 33.64 × 5.8 ≒ 195 |
最後の195が、はじめの200とほぼ同じになりました。つまり「感じ方は6倍ほど」という見積もりは、実際の200倍という差と3乗根の式でつじつまが合います。そして瞳が稼げるのは16倍ぶんだけです。200倍のうち大半は、目の奥から先の側で縮めていることになります。
高校高校+瞳だけでは、まるで足りない
高校瞳の穴は、虹彩という輪の形をした筋肉が開け閉めしています。明るいと縮み、暗いと開く動きは、自分の意思とは関係なく起こる反射です。神経のはたらきの例として生物基礎で扱われます。
高校+人が体験する明るさの幅は、星明かりから真昼の雪原まで、およそ100億倍にもおよぶとされています。瞳で稼げる16倍は、この幅に対してごくわずかです。残りは、光を受け取る細胞そのものの感度が時間をかけて変わること、そして明暗の絶対値ではなく「まわりとの比」を伝える回路の作りによって埋められています。
大学感じ方を、なぜべき乗で書けるのか
刺激の強さと感じ方の関係をべき乗で表す考え方を、スティーブンスのべき法則と呼びます。これとは別に、感じ方を対数で表すウェーバー・フェヒナーの法則もあり、どちらがよく当てはまるかは感覚の種類によって変わります。明るさの指数はおよそ0.33から0.5とされ、この記事では3乗根として扱いました。ただし、この値は測り方で動きます。小さな光の点を暗闇で見せる場合と、広い面を明るい部屋で見せる場合とでは、同じ人でも違う値が出ます。感じ方の法則は、条件ごとの近似だと考えるのが実際的です。
📖 式の形や、さらに先の内容:ウィキペディア日本語版「精神物理学」(べき法則と対数の法則を並べて説明しています)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 体内時計に効く明るさの線引き 朝の光が体のリズムを整えることは広く認められています。しかし、どれだけの明るさを何分浴びれば十分かは、年齢や前の晩の過ごし方でも変わり、一律の基準はまだ定まっていません。
- 屋外の光と近視 外で過ごす時間が長い子どもほど近視になりにくいという報告が各国から出ています。明るさそのものが効いているのか、遠くを見ることが効いているのか、光の色の成分が効いているのかは、なお議論が続いています。
- 夜の人工的な明るさ 夜に浴びる照明が睡眠や体調にどこまで影響するかは、研究ごとに結果の幅が大きく、量と影響の関係はまだ整理の途中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。照度の数値も、はかる場所と時刻で大きく動く目安だと考えてください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・光の性質/刺激と反応 | 明るさの単位と、目が光を受け取るしくみ |
| 高校 | 生物基礎・神経とからだの調節 | 瞳の開き具合が反射で変わる話 |
| 高校+ | 数学・対数/物理・測光 | けた違いの量を対数目盛で並べた図1 |
| 大学 | 視覚科学・心理物理学 | スティーブンスのべき法則 |
| 研究 | 時間生物学・眼科学 | 体内時計に必要な明るさ、屋外の光と近視 |
| ― | 生活とのつながり | 室内の植物、写真の失敗、朝に外へ出る効き目 |
- 日本産業規格 JIS Z 9110「照明基準総則」― 事務所・住宅など、場所ごとの推奨照度を定めた規格
- S. S. Stevens「On the psychophysical law」Psychological Review(1957)― 刺激の強さと感じ方をべき乗で表す考え方の原典
- 照明学会編『照明ハンドブック』― 屋外・屋内の照度の実測値や、目の順応の解説
- 大山正ほか『視覚心理学への招待』― 明るさの知覚と順応についての入門書
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。照度ははかる場所・時刻・天候で大きく変わります。光と目や体調の関係で心配なことがあるときは、眼科医など専門家に相談してください。