立ちっぱなしだと足がむくむのは、なぜ?
― 足の血を心臓へ返しているのは、心臓ではありません
朝はすんなり履けた靴が、夕方にはきつい。長い立ち仕事や、長時間の移動のあと、足がだるく重くなる。これは気のせいではなく、足のあたりに血と水がたまっている状態です。ふしぎなのは、心臓は休まず動いているのに、なぜ血が足にたまるのか、という点です。答えは、足から心臓へ帰る道のポンプは、心臓ではないところにあります。
電車で立ったまま、30分ほど揺られています。特に何をしたわけでもないのに、降りるころには足が重くなっています。
ところが、そこから歩き出して数分たつと、その重さがすっと軽くなります。座って休んだときより、歩いたときのほうが楽になることさえあります。
休むと重く、動くと軽い。この逆転こそ、足の血がどうやって心臓へ帰っているのかを教えてくれます。
理由は、大きく2つです
心臓が押し出した血は、細い血管を通るあいだに勢いをほとんど失います。足まで下りてきた時点で、上へ押し返す力はもう残っていません。しかも足は心臓より1メートル以上も低く、そこには血自身の重さがのしかかります。
ふくらはぎの筋肉が縮むたびに、その中を通る血管がしぼられ、血が上へ押し出されます。血管の内側には、上向きにしか開かない弁が並んでいて、押し出された血は下へ戻れません。歩くこと自体がポンプなのです。
つまり、立ち止まっているあいだは、この二つ目のポンプが止まっています。順番に見ていきましょう。
足の血管には、血の重さがのしかかっている
水を入れたホースを縦に垂らすと、下のほうほど内側から強く張ります。上にある水の重さが、そこにかかるからです。体の中でも、これと同じことが起きています。
立っているとき、足首の血管には、心臓の高さから足首までの血の柱の重さが、まるごと余分にかかります。あとの計算で確かめますが、その大きさは大気圧のおよそ8分の1にもなります。血管はゴムのようにやわらかいので、この圧で少しふくらみ、血がそこにたまります。
さらに、圧が高いと、血管のいちばん細いところから血の水の成分がじわじわとしみ出します。しみ出した水が足の組織にたまったものが、むくみの正体です。図1の左側が、このようすを表しています。
歩くと軽くなるのは、ポンプが動き出すから
ふくらはぎは、しばしば「第二の心臓」と呼ばれます。ここには太い血管が筋肉のあいだを走っていて、筋肉が縮むたびに外から強くしぼられます。
ただ、しぼるだけでは、血は上にも下にも逃げてしまいます。そこで働くのが弁です。血管の内側には、うすい膜が向かい合わせに並んでいて、下から上への流れでは開き、上から下への流れでは閉じます。だから、しぼられた血は上へしか進めません。
一歩あるくたびに、この動作がくり返されます。歩いていると足が軽くなるのは、たまっていた血が心臓へ送り返されているからです。逆に、立ったまま動かないでいると、筋肉が縮まないのでポンプが止まり、血がたまり続けます。座り続けたときも同じで、ふくらはぎが動かないことが問題になります。
つま先立ちをしてかかとを上げ下げすると、ふくらはぎの筋肉がまとめて縮みます。数十回くり返すだけでポンプが何度も動き、足にたまった血がかなり戻ります。長い移動や立ち仕事の合間に足首をゆっくり回すのも、同じ理屈です。
横になると、足と心臓の高さがほぼそろいます。血の柱の重さがなくなるので、たまっていた水は血管へ戻り、腎臓へ運ばれます。夜中や朝方にお手洗いが近くなる人がいるのは、これが一因とされています。朝に足のむくみが引いているのも、同じ理由です。
まとめ
足の血が心臓へ帰れるかどうかは、心臓の強さではなく、ふくらはぎが動いているかどうかで決まります。立ち止まっている時間が長いほど、重力に押し負けて血と水が足にたまります。動くことは、体の下半分にとって、それ自体がポンプの仕事なのです。
足の血を押し上げているのは心臓ではなく、
あなたが歩くたびに縮む、ふくらはぎです。
飲み物が上がってくるのも、押しているのは口ではなく大気でした(なぜストローで飲み物が飲めるの?)。血の流れと体温の関わりは お風呂で人が倒れる「ヒートショック」は、なぜ起きるの? が、冷たい場所で足を守る動物のしくみは カモは氷の池に立っていても、なぜ足が凍らないの? がくわしいです。
- 手を下げたまま1分ほど立ち、手の甲を見ます。血管が太く浮き出ているのが分かります。
- そのまま腕を頭より高く上げ、30秒ほど待ってから、もう一度手の甲を見ます。浮き出ていた血管が、すっと平らになっているはずです。
- 次に、夕方に靴下のゴムの跡を見てみます。朝より跡が深く残る日は、足を動かす時間が少なかった日です。
1と2の差が、まさに「血の柱の重さ」です。手の高さを変えただけで、血管にかかる圧が変わったことが目で見えます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・生体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 静水圧:静止した液体の中で、上にある液体の重さによってかかる圧のことです。深いほど大きくなります。
- 静脈弁:心臓へ帰る血管の内側にある、うすい膜の弁です。上向きの流れだけを通します。
- 筋ポンプ:まわりの筋肉が縮むことで血管がしぼられ、血が送られるしくみのことです。
- 浮腫:血管の外の組織に水がたまった状態のことで、ふだんは「むくみ」と呼ばれます。
中学高校式で確かめる:足首にかかる余分な圧はどれくらい?
液体の重さによる圧は「密度 × 重力加速度 × 高さ」で求められます。心臓から足首までの高さを1.2メートルとして計算します。記号の意味と単位は、次の表に添えたとおりです。
| 血液の密度(1立方メートルあたりの重さ) | 約1060 kg/m³ |
| 重力加速度(落ちるときの速さの増え方) | 約9.8 m/s² |
| 心臓から足首までの高さ(血の柱の長さ) | 約1.2 m |
| 密度に重力加速度をかける | 1060 × 9.8 = 10388 |
| 高さをかけてパスカルにする | 10388 × 1.2 ≒ 12466 |
| ヘクトパスカルに直す | 12466 ÷ 100 ≒ 125 |
約125 hPa です。地上の大気圧はおよそ1013 hPa ですから、その8分の1ほどが、立っているだけで足首の血管に上乗せされている計算になります。座っているときは高さが半分以下になるので、上乗せもそれだけ小さくなります。
高校高校+なぜ行きの血管より帰りの血管が問題になるのか
高校血の重さによる上乗せは、行きの血管にも帰りの血管にも同じようにかかります。ただし行きの血管は壁が厚く、内側の圧ももともと高いので、少し上乗せされてもふくらみません。
高校+いっぽう帰りの血管は壁がうすく、少しの圧でよくふくらみます。体の血のおよそ6割から7割が、この帰りの血管にあるとされ、容量血管とも呼ばれます。立った瞬間に数百ミリリットルの血が下半身へ移り、心臓へ帰る量が一時的に減ります。立ちくらみが起きやすいのは、この移動に体の調節が追いつかないときだと考えられています。
大学しみ出しと吸い戻しの釣り合い
いちばん細い血管の壁では、血管の内圧が水を外へ押し出す一方、血の中のタンパク質が水を引き寄せています。この二つの釣り合いで、しみ出す量と吸い戻す量が決まります。立っていると内圧だけが大きく上がるため、釣り合いがしみ出し側に傾き、組織に水がたまります。たまった水は、血管とは別にある細い管を通って、ゆっくり回収されます。この回収の管も、まわりの筋肉が動くことで流れが増えるため、やはり「動かないこと」が不利に働きます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 弁が傷む原因 年齢とともに帰りの血管の弁がうまく閉じなくなり、血管がこぶのように浮き出ることがあります。なぜ人によって進み方が大きく違うのかは、まだ完全には説明できていません。
- むくみの測り方 足のむくみを日常的に、正確に測る方法は確立していません。周囲の長さや電気の通りやすさから推定する試みが続いています。
- 重力のない場所での体液 宇宙飛行士では、血や水が上半身へ移動して顔がむくむことが知られています。地上に戻ったあとの回復の個人差については、研究が進められています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。足のむくみやだるさが長く続く場合や、片足だけが急に太くなった場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・水圧と大気圧/動物のからだのつくり | 深いところほど圧が高い話、血液の循環 |
| 高校 | 物理基礎「圧力」/生物基礎「体液の循環」 | 式で確かめるの計算、行きと帰りの血管の違い |
| 高校+ | 生物「体液の恒常性」 | 容量血管と、立ったときの血の移動 |
| 大学 | 生理学・生体力学 | しみ出しと吸い戻しの釣り合い |
| 研究 | 血管医学・宇宙医学 | 弁が傷む原因、重力のない場所での体液の移動 |
| ― | 生活とのつながり | かかとの上げ下げ、長い移動での足の動かし方 |
- Guyton and Hall, Textbook of Medical Physiology(循環の章。静脈還流と静水圧の扱い)
- 標準生理学(医学書院)循環器の章
- 日本静脈学会ほか 編『下肢静脈瘤に関する診療ガイドライン』
- 日本救急医学会 医学用語解説集「静脈血栓塞栓症」の項
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。体調に関わる判断は、医師など専門家の指示に従ってください。