水と油は、なぜ混ざらないの?
― 理由は、油ではなく水のほうにあります
油が水をきらっている。そう説明されることが多いのですが、本当の主役は水のほうです。水の分子どうしが強く結びついていて、そこに油の入るすきまがありません。はじき出された油は、しかたなく自分どうしで集まります。
ドレッシングのびんを、力いっぱい振ります。中身はいったん白くにごり、全体が混ざったように見えます。ところが数分置くと、上に油、下に水と、また元どおりに分かれています。
皿洗いでも同じです。油のついた皿に水をかけただけでは、油は玉のまま皿の上をすべっていきます。
一方で、砂糖や塩はコップの水に入れると、かき混ぜているうちに見えなくなります。同じ「水に入れる」なのに、なぜ油だけが仲間はずれになるのでしょうか。
理由は、大きく2つあります
水の分子は、となりの水の分子と強い手をつなぎ合っています。油の分子は、この手をつなぐしくみを持っていません。割りこもうとしても、水どうしのつながりに勝てないのです。
油のまわりの水は、向きをそろえて囲いを作らされます。囲いに入った水は、好きな向きを向けません。油がひとつにまとまれば囲いは少なくてすみ、水は自由を取りもどせます。
順番に見ていきましょう。まず、水がどれほど「仲良し」なのかという話からです。
水は、水どうしでかたまりたい
水の分子は、電気の偏りを持っています。酸素のある側がわずかにマイナスに、水素のある側がわずかにプラスに寄っているのです。この偏りのおかげで、となりの分子のプラス側とマイナス側が引き合います。この結びつきを水素結合といいます。
水素結合は、ふつうの分子どうしの引き合いより、かなり強いものです。水が室温で液体でいられるのも、たくさんの水素結合が分子をつなぎとめているからだとされています。
いっぽう、サラダ油の主な成分は、炭素と水素がつながった長い鎖です。この鎖には、電気の偏りがほとんどありません。だから油は、水と手をつなげません。砂糖や塩がすぐ溶けるのは、逆に水と手をつなげる相手だからです。
油がまとまるのは、水の都合
では、なぜ油は細かい玉のままでいずに、大きな層まで集まってしまうのでしょうか。
油の玉のまわりでは、水が向きをそろえて囲いを作っています。ふだんの水は、くるくると向きを変えながら相手を取りかえています。しかし囲いの水は、油の側に手を出しても意味がないため、限られた向きしか取れません。動きの自由が減った状態です。
ここで油の玉どうしがぶつかって合体すると、水と接する面積が小さくなります。囲いに動員される水の数も減り、残りの水はふたたび自由に動けます。図1の左と右を見くらべてください。同じ量の油でも、ばらばらのままだと囲いが何組も必要で、ひとまとまりになれば囲いは1組ですみます。
つまり油は、自分から集まっているというより、水にしぼり出されて集まっています。このはたらきを疎水効果と呼びます。
強く振ると、油は細かいつぶに砕かれます。つぶが小さいほど浮き上がる速さは遅くなるので、しばらくは白くにごって見えます。ただしつぶどうしはぶつかるたびに合体していくので、時間がたてば層に戻ります。
石けんや台所用洗剤の分子は、水と仲のよい部分と、油と仲のよい部分を1本の中に持っています。油つぶのまわりに並び、外側を水と仲のよい部分でおおいます。すると油つぶは、水の中を漂えるようになります。
まとめ
水と油が分かれるのは、油がわがままだからではありません。水の分子どうしの結びつきが強く、油を混ぜると水の側が自由を失うからです。だから油ははじき出され、水と接する面積がいちばん小さい形、つまりひとつの層に落ち着きます。
油がきらわれているのではありません。
水どうしが、あまりに仲が良いのです。
水と油の境目にできるうすい膜の話は、シャボン玉は、なぜ虹色に見えるの?にも出てきます。水をはじく羽根のしくみは、水鳥は、なぜ一日中水に浮かんでいても羽がぬれないの?で扱っています。
- 透明なコップに水を半分入れ、そこへサラダ油を大さじ1杯そそぎます。混ぜなくても、すぐに境目ができることを確かめます。
- ふたのできる容器に移して20回ふり、置いてから時計を見ます。にごりが消えて上下に分かれるまで、何分かかるか記録します。
- 台所用洗剤を1滴だけ落とし、もう一度20回ふります。分かれるまでの時間が、どれだけ延びるか比べてみてください。
洗剤を入れたものは飲めません。観察が終わったら流しに捨て、容器をよく洗ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎・化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学・生化学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 水素結合:水の分子どうしが、電気の偏りを通してつなぎ合う結びつき。ふつうの分子どうしの引き合いより強い。
- 疎水効果:油のような分子が水の中で集まろうとする性質。油どうしが引き合うというより、水がまとまろうとした結果として現れる。
- 界面張力:混じり合わない2つの液体の境目にはたらき、境目の面積を小さくしようとする力。
中学高校式で確かめる:細かく散らばると、境目はどれだけ広がるか
油がまとまりたがる理由は、水と接する境目の面積にあります。同じ量の油を細かく砕くと、境目がどれだけ広がるのかを計算してみます。
| 用意する油の量 | 1立方センチメートル |
| 砕いたつぶの直径 | 0.1センチメートル |
| 直径0.1センチメートルの球1個の体積 | 0.00052立方センチメートル |
| 同じ球1個の表面積 | 0.0314平方センチメートル |
| 1立方センチメートルがひとつの球になったときの表面積 | 4.8平方センチメートル |
| つぶは何個できるか | 1 ÷ 0.00052 ≒ 1900 |
| つぶ全部の表面積(平方センチメートル) | 1900 × 0.0314 ≒ 60 |
| ひとつにまとまった球と比べると | 60 ÷ 4.8 = 12.5 |
| まとまることで減る面積(平方センチメートル) | 60 - 4.8 ≒ 55 |
細かく散らばった状態は、まとまった状態より12倍以上も広い境目を持ちます。境目が広いほど、水はたくさんの囲いを作らされます。だから油はまとまるほうへ進みます。
| 直径 | つぶの差し渡しの長さ。単位はセンチメートル |
| 体積 | つぶが占める大きさ。単位は立方センチメートル |
| 表面積 | 水と接する面の広さ。単位は平方センチメートル |
高校高校+「似たものどうしがよく溶ける」の中身
高校水の分子は折れ曲がった形をしているため、電気の偏りが打ち消されずに残ります。これを極性といいます。油の主成分は炭素と水素の鎖で、極性がほとんどありません。極性のある水は極性のある相手とよく混じり、極性のない油は極性のない相手とよく混じります。
高校+ただし、溶けるかどうかは引き合う力の強さだけでは決まりません。混ざったときに全体の乱雑さ、つまりエントロピーがどう変わるかも効いてきます。水と油では、囲いを作る水の乱雑さが減る分が大きく、混ざらないほうが落ち着くと説明されます。
大学自由エネルギーで見る疎水効果
熱力学では、混ざるかどうかを自由エネルギーの増減で判断します。疎水効果の場合、常温付近ではエントロピーの寄与が主役だとされています。温度を上げるとこの割合は変わり、説明の重みも移っていきます。細胞の膜がひとりでに二重の層をつくるのも、たんぱく質が特定の形に折りたたまれるのも、この効果が支えていると考えられています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 囲いの水は、どこまで並んでいるのか。 古い説明では、油のまわりの水はかごのように固く並ぶとされてきました。実際にどの範囲まで並びが残るのかは、いまも測定と計算で議論が続いています。
- 大きさで、しくみが変わる。 小さな分子のまわりと、大きな油滴の表面とでは、疎水効果の効き方が違うと考えられています。その境目がどこにあるのかは、はっきりしていません。
- 生き物の中での役割。 たんぱく質の折りたたみでは、疎水効果のほかに水素結合や電気的な引き合いも同時にはたらきます。どれがどれだけ効いているのかを分けて測るのは、いまも難しい課題です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。身近な現象ほど、細かく見ると未解決の部分が残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・第1分野(水溶液、物質の性質) | 砂糖は溶けるのに油は溶けない、という場面 |
| 高校 | 化学基礎・化学(分子の極性、分子間力) | 「水は、水どうしでかたまりたい」 |
| 高校+ | 化学(溶解とエントロピー) | 折りたたみの「高校+」の段落 |
| 大学 | 物理化学・生化学(自由エネルギー、疎水効果) | 折りたたみの「大学」の節 |
| 研究 | 水の構造と疎水効果をめぐる研究 | 「まだはっきりとはわかっていないこと」 |
| ― | 生活とのつながり | ドレッシング、皿洗い、石けんのはたらき |
- Chandler, D., Interfaces and the driving force of hydrophobic assembly, Nature 437, 640-647 (2005)
- Tanford, C., The Hydrophobic Effect: Formation of Micelles and Biological Membranes, Wiley(疎水効果を体系的に扱った古典的な書籍)
- アトキンス『物理化学』(東京化学同人)― 溶液・分子間力・自由エネルギーの章
- 日本化学会編『化学便覧 基礎編』(丸善出版)― 液体の界面張力の数値
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。観察は必ず大人といっしょに行い、洗剤を混ぜた液を口に入れないでください。