自然のふしぎ 力学 予備知識なしでOK 読了 約7分

地球が回っていることは、どうやって確かめたの?
― 振り子の揺れる向きが、ひとりでに回っていきました

「地球は回っている」と教わっても、足元が回っている感じはまったくしません。それを、誰の目にも見える形で初めて示したのは、1851年のパリでの1本の振り子でした。振り子は、振れる向きを自分では変えません。それなのに、何時間か見ていると向きが少しずつずれていく。ずれていたのは振り子ではなく、私たちの立つ床のほうでした。

公開:2026.11.02 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

科学館の吹き抜けに、天井から長いワイヤーで大きな金属の球がつるされています。球はゆっくり、同じ線の上を行ったり来たりしています。

床には、ぐるりと円をえがくように小さなピンが立っています。案内板には「ピンが倒れるのは、地球が回っている証拠です」と書いてあります。

でも、球は同じ線を往復しているだけに見えます。いったい何が、ピンを順番に倒していくのでしょうか。

振り子の向きがずれていく理由は、2つだけ

1
振り子は、振れる向きを自分では変えない

つるした球を引いて放すと、球は同じ平面の中を往復し続けます。横から押す力がなければ、その平面をひねる理由がないからです。

2
足元の床が、地球と一緒に回っている

振り子の下の床は、地球の自転で少しずつ向きを変えます。床の上の人から見ると、振り子の向きのほうが回ったように見えます。

考え方は単純です。でも、これを実際に目に見えるほど大きく、しかも誰にも文句を言わせない形で示すのは、とても難しいことでした。

真夜中の地下室で始まった実験

この実験を考えたのは、レオン・フーコーというフランスの人です。もとは医学を学んでいましたが、血を見るのが苦手で、物理の実験の道に進んだと伝えられています。

1851年1月のある深夜、フーコーは自宅の地下室で、長さ約2メートルの針金に重いおもりをつるしました。街の馬車の振動が少ない時間を選んだのです。振り子を何往復かさせて見ていると、振れる向きが、時計回りにわずかにずれていきました。

難しかったのは、放し方です。手で放すと、ほんのわずかな横向きの力が入ります。すると振り子は楕円をえがき、その楕円そのものが回りはじめてしまいます。そこでフーコーは、おもりを糸で壁に結んで止め、その糸を火で焼き切って放したとされています。人の手が触れない放し方です。

同じ年の3月、フーコーはパリのパンテオンという大きな建物で、公開実験を行いました。ワイヤーの長さは約67メートル、おもりは約28キログラムとされています。おもりの下には針が付いていて、床にしいた砂に線を引きました。1往復ごとに、その線が数ミリずつ横へずれていきます。集まった人たちは、地球が回るのを自分の目で見ることになりました。

1日で1周しない、というふしぎ

地球は約1日で1回転します。それなら振り子の向きも、1日でちょうど1周しそうです。ところがパリでは、1周するのに約32時間かかりました。フーコーはこの「ずれ」まで正しく予想していました。

鍵になるのは緯度です。北極の真上なら、床は真上から見て1日で1回転します。振り子はその場で向きを変えないので、1日で1周に見えます。ところが赤道の上では、床は空を向いたまま地球と一緒に運ばれるだけで、床そのものはひねられません。そのため、振り子の向きはまったく回りません。

その間の緯度では、回り方も中間になります。図1のつまみで緯度を変えて、確かめてみてください。北半球では、上から見て時計回りにずれていきます。南半球では向きが逆になり、反時計回りです。

横から見た地球 北極 赤道 黄色の点 = 振り子のある場所 その場所の床を、真上から見ると 点線:はじめの向き 実線:6時間後の向き 6時間で 53° 1周まで 41時間
東京は約35.7度、パリは約48.9度。90度が北極です
図1:振り子の向きの回り方と緯度。左の地球の上で、黄色の点が振り子のある場所です。右の円はその場所の床を真上から見たもので、点線がはじめに振った向き、太い実線が6時間後の向きです。つまみで緯度を上げると実線が大きく回り、右下の「1周まで」の時間が短くなります。赤道に近づけると、実線は点線からほとんど離れません。

図1で北極(90度)にすると、6時間でちょうど直角の90度回り、1周は約24時間です。東京あたりの緯度では、1周に約41時間かかります。床が「どれだけ空に対してひねられているか」が、緯度で変わるのです。

💡 気づいていた人は、もっと前にもいた

1661年ごろ、イタリアの科学者ヴィヴィアーニが、振り子の向きが少しずつずれることに気づいていた、という記録が残っているとされています。ただ、それを地球の自転と結びつけて説明したのは、フーコーが初めてでした。見えていても、意味に気づくには別の一歩が必要です。

💡 招待状の言葉

フーコーは、パリ天文台での実験の前に「地球が回るのを見に来ませんか」という趣旨の案内を出したと伝えられています。何世紀も議論されてきたことを、たった1本の糸と球で「見せる」と言い切ったわけです。

まとめ

振り子は、振れる向きを自分では変えません。それでも向きがずれて見えるのは、足元の床が地球と一緒に回っているからです。床のひねられ方は緯度で決まるので、北極では1日で1周、東京では約41時間、赤道ではまったく回りません。フーコーは地下室の2メートルの振り子から始め、67メートルの振り子で、それを人々の目の前に示しました。

振り子が回ったのではない。
回っていたのは、見ている私たちのほうでした。

地球の自転が身のまわりで目立たない理由は「ジャンプしても同じ場所に落ちるのはなぜ?」で、自転が風や渦にどう効くのかは「お風呂の渦は、南半球では逆回りになるって本当?」で解説しています。

🧪 振り子が「向きを変えない」ことを、家で確かめる
  1. 糸の先に5円玉を数枚結び、ハンガーなどにつるします。糸は長いほど、ゆっくりで見やすくなります。
  2. 5円玉を少し引いて、そっと放します。ハンガーを持つ手を、ゆっくり半回転させてみてください。
  3. 手と一緒に糸の付け根が回っても、5円玉の振れる向きは部屋に対してほとんど変わらないはずです。回る手を「地球」、部屋を「宇宙」と考えると、フーコーの振り子と同じ関係になります。

放すときに横へ押すと、楕円をえがいてしまいます。フーコーが糸を焼き切って放した理由が、実感として分かるはずです。科学館の中には、本物のフーコーの振り子を展示しているところもあります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(力学・回転座標系)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:パリと東京で、振り子の向きが1周する時間

床が空に対してひねられる速さは、地球の自転の速さに「緯度の正弦(サイン)」をかけたものになります。この関係を使って、1周にかかる時間を出します。

⓪ もとになる式
記号で書くとT = T₀ ÷ sin φ
言葉で書くと振れる向きが1周する時間 = 地球が1回転する時間(恒星日) ÷ 緯度の正弦
どこから来る式か地球の自転の回転を、その場所の「真上向き」の成分と「水平向き」の成分に分けたとき、床をひねるのは真上向きの成分だけです。その大きさが、緯度の正弦の分だけ小さくなります(フーコーの正弦則)。
T振れる向きが1周する時間(単位は時間)
T₀地球が星に対して1回転する時間=恒星日(単位は時間)
φ振り子のある場所の緯度(単位は度)
① もとになる数値
恒星日 T₀約 23.93 時間
パリ(北緯 約48.85度)の緯度の正弦およそ 0.753
東京(北緯 約35.7度)の緯度の正弦およそ 0.584
パンテオンの振り子の振れ幅(中心から端まで)約 3 メートルとされる
② 計算してみる
パリで1周する時間(時間)23.93 ÷ 0.753 ≒ 31.8
東京で1周する時間(時間)23.93 ÷ 0.584 ≒ 41.0
パリで1時間に回る角度(度)360 ÷ 31.8 ≒ 11.3
北極で1時間に回る角度(度)360 ÷ 23.93 ≒ 15.0
パンテオンの振り子の1往復の時間(秒)。長さ67メートル、重力加速度 9.8 から67 ÷ 9.8 ≒ 6.84
6.84 の平方根は およそ 2.62 とされます。これに 2 × 円周率(6.28)をかける6.28 × 2.62 ≒ 16.5
1往復のあいだに回る角度(度)。1時間は 3600 秒11.3 ÷ 3600 ≒ 0.00314
1往復ぶん(16.5秒)で回る角度(度)0.00314 × 16.5 ≒ 0.052
振れ幅3メートルの円周(メートル)2 × 3.14 × 3 ≒ 18.8
1往復で砂の線がずれる長さ(メートル)18.8 × 0.052 ÷ 360 ≒ 0.0027

パリでは向きが1周するのに約32時間、1時間に約11度ずつ回ります。振り子の端では、1往復ごとに約3ミリずつ砂の線がずれていきます。ずれ自体はわずかでも、30分も見ていれば誰でも気づける大きさです。東京で同じ実験をすれば、1周に約41時間かかります。

高校高校+振り子の長さと、実験の難しさ

高校単振り子の周期は、おもりの重さや振れ幅(小さいとき)にはよらず、糸の長さと重力加速度だけで決まります。周期は「2 × 円周率 × 長さを重力加速度でわった値の平方根」です。67メートルの振り子は1往復に16秒以上かかるので、動きがゆっくりで、ずれを観察しやすくなります。

高校+長い糸と重いおもりを使うのは、空気の抵抗で振れ幅が小さくなるのを遅らせ、何時間も振り続けさせるためです。また、振り子が少しでも楕円をえがくと、その楕円自体がゆっくり回る効果が加わり、地球の自転による回転と混ざってしまいます。そのため、まっすぐ放すことが何より大切でした。

大学回る床の上から見た運動:コリオリの力

地球と一緒に回る床の上で運動を書くと、見かけの力として遠心力とコリオリの力が現れます。振り子の運動方程式にコリオリの力を入れて解くと、振動面が角速度「地球の自転の角速度 × 緯度の正弦」で回ることが導けます。これがフーコーの正弦則です。回転座標系(非慣性系)の力学の、最も有名な例題の一つです。楕円軌道による歳差(エアリーの歳差)など、実際の振り子で誤差になる効果も、同じ枠組みで扱えます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:フーコーの振り子(ウィキペディア) / コリオリの力(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。地球が回っていることそのものは疑いようがありませんが、その回り方の細かな揺らぎは、いまも測り続けられています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・地球の自転と天体の動き/慣性振り子が向きを変えない理由、床が回る理由
高校物理・単振り子の周期/地学・地球の自転67メートルの振り子の周期、緯度による違い
高校+物理・慣性力(発展)楕円をえがくと実験が乱れる理由
大学力学・回転座標系とコリオリの力フーコーの正弦則の導出
研究測地学・地球回転の精密測定日食中の異常、1日の長さの揺らぎ
―生活とのつながり科学館の振り子の見方、台風の渦の向き
参考・出典
  1. ウィキペディア「フーコーの振り子」
  2. ウィキペディア「コリオリの力」
  3. L. Foucault, "Démonstration physique du mouvement de rotation de la Terre au moyen du pendule", Comptes Rendus de l'Académie des Sciences, 32, 1851.
  4. W. Tobin, "The Life and Science of Léon Foucault: The Man Who Proved the Earth Rotates", Cambridge University Press, 2003.
  5. A. D. Aczel, "Pendulum: Léon Foucault and the Triumph of Science", Atria Books, 2003.

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。歴史的な経緯には諸説あり、細部は資料によって異なります。