地球が回っていることは、どうやって確かめたの?
― 振り子の揺れる向きが、ひとりでに回っていきました
「地球は回っている」と教わっても、足元が回っている感じはまったくしません。それを、誰の目にも見える形で初めて示したのは、1851年のパリでの1本の振り子でした。振り子は、振れる向きを自分では変えません。それなのに、何時間か見ていると向きが少しずつずれていく。ずれていたのは振り子ではなく、私たちの立つ床のほうでした。
科学館の吹き抜けに、天井から長いワイヤーで大きな金属の球がつるされています。球はゆっくり、同じ線の上を行ったり来たりしています。
床には、ぐるりと円をえがくように小さなピンが立っています。案内板には「ピンが倒れるのは、地球が回っている証拠です」と書いてあります。
でも、球は同じ線を往復しているだけに見えます。いったい何が、ピンを順番に倒していくのでしょうか。
振り子の向きがずれていく理由は、2つだけ
つるした球を引いて放すと、球は同じ平面の中を往復し続けます。横から押す力がなければ、その平面をひねる理由がないからです。
振り子の下の床は、地球の自転で少しずつ向きを変えます。床の上の人から見ると、振り子の向きのほうが回ったように見えます。
考え方は単純です。でも、これを実際に目に見えるほど大きく、しかも誰にも文句を言わせない形で示すのは、とても難しいことでした。
真夜中の地下室で始まった実験
この実験を考えたのは、レオン・フーコーというフランスの人です。もとは医学を学んでいましたが、血を見るのが苦手で、物理の実験の道に進んだと伝えられています。
1851年1月のある深夜、フーコーは自宅の地下室で、長さ約2メートルの針金に重いおもりをつるしました。街の馬車の振動が少ない時間を選んだのです。振り子を何往復かさせて見ていると、振れる向きが、時計回りにわずかにずれていきました。
難しかったのは、放し方です。手で放すと、ほんのわずかな横向きの力が入ります。すると振り子は楕円をえがき、その楕円そのものが回りはじめてしまいます。そこでフーコーは、おもりを糸で壁に結んで止め、その糸を火で焼き切って放したとされています。人の手が触れない放し方です。
同じ年の3月、フーコーはパリのパンテオンという大きな建物で、公開実験を行いました。ワイヤーの長さは約67メートル、おもりは約28キログラムとされています。おもりの下には針が付いていて、床にしいた砂に線を引きました。1往復ごとに、その線が数ミリずつ横へずれていきます。集まった人たちは、地球が回るのを自分の目で見ることになりました。
1日で1周しない、というふしぎ
地球は約1日で1回転します。それなら振り子の向きも、1日でちょうど1周しそうです。ところがパリでは、1周するのに約32時間かかりました。フーコーはこの「ずれ」まで正しく予想していました。
鍵になるのは緯度です。北極の真上なら、床は真上から見て1日で1回転します。振り子はその場で向きを変えないので、1日で1周に見えます。ところが赤道の上では、床は空を向いたまま地球と一緒に運ばれるだけで、床そのものはひねられません。そのため、振り子の向きはまったく回りません。
その間の緯度では、回り方も中間になります。図1のつまみで緯度を変えて、確かめてみてください。北半球では、上から見て時計回りにずれていきます。南半球では向きが逆になり、反時計回りです。
図1で北極(90度)にすると、6時間でちょうど直角の90度回り、1周は約24時間です。東京あたりの緯度では、1周に約41時間かかります。床が「どれだけ空に対してひねられているか」が、緯度で変わるのです。
1661年ごろ、イタリアの科学者ヴィヴィアーニが、振り子の向きが少しずつずれることに気づいていた、という記録が残っているとされています。ただ、それを地球の自転と結びつけて説明したのは、フーコーが初めてでした。見えていても、意味に気づくには別の一歩が必要です。
フーコーは、パリ天文台での実験の前に「地球が回るのを見に来ませんか」という趣旨の案内を出したと伝えられています。何世紀も議論されてきたことを、たった1本の糸と球で「見せる」と言い切ったわけです。
まとめ
振り子は、振れる向きを自分では変えません。それでも向きがずれて見えるのは、足元の床が地球と一緒に回っているからです。床のひねられ方は緯度で決まるので、北極では1日で1周、東京では約41時間、赤道ではまったく回りません。フーコーは地下室の2メートルの振り子から始め、67メートルの振り子で、それを人々の目の前に示しました。
振り子が回ったのではない。
回っていたのは、見ている私たちのほうでした。
地球の自転が身のまわりで目立たない理由は「ジャンプしても同じ場所に落ちるのはなぜ?」で、自転が風や渦にどう効くのかは「お風呂の渦は、南半球では逆回りになるって本当?」で解説しています。
- 糸の先に5円玉を数枚結び、ハンガーなどにつるします。糸は長いほど、ゆっくりで見やすくなります。
- 5円玉を少し引いて、そっと放します。ハンガーを持つ手を、ゆっくり半回転させてみてください。
- 手と一緒に糸の付け根が回っても、5円玉の振れる向きは部屋に対してほとんど変わらないはずです。回る手を「地球」、部屋を「宇宙」と考えると、フーコーの振り子と同じ関係になります。
放すときに横へ押すと、楕円をえがいてしまいます。フーコーが糸を焼き切って放した理由が、実感として分かるはずです。科学館の中には、本物のフーコーの振り子を展示しているところもあります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(力学・回転座標系)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- フーコーの振り子:長い振り子を長時間振り続け、振れる面が回っていく様子から地球の自転を示す装置です。
- 慣性:外から力がはたらかなければ、物体は今の動き方を続けようとする性質です。振り子の振れる面が保たれるのは、このためです。
- 恒星日:遠くの星を基準にした、地球の1回転にかかる時間です。約23時間56分で、太陽を基準にした1日(24時間)より約4分短くなります。
中学高校式で確かめる:パリと東京で、振り子の向きが1周する時間
床が空に対してひねられる速さは、地球の自転の速さに「緯度の正弦(サイン)」をかけたものになります。この関係を使って、1周にかかる時間を出します。
| 記号で書くと | T = T₀ ÷ sin φ |
| 言葉で書くと | 振れる向きが1周する時間 = 地球が1回転する時間(恒星日) ÷ 緯度の正弦 |
| どこから来る式か | 地球の自転の回転を、その場所の「真上向き」の成分と「水平向き」の成分に分けたとき、床をひねるのは真上向きの成分だけです。その大きさが、緯度の正弦の分だけ小さくなります(フーコーの正弦則)。 |
| T | 振れる向きが1周する時間(単位は時間) |
| T₀ | 地球が星に対して1回転する時間=恒星日(単位は時間) |
| φ | 振り子のある場所の緯度(単位は度) |
| 恒星日 T₀ | 約 23.93 時間 |
| パリ(北緯 約48.85度)の緯度の正弦 | およそ 0.753 |
| 東京(北緯 約35.7度)の緯度の正弦 | およそ 0.584 |
| パンテオンの振り子の振れ幅(中心から端まで) | 約 3 メートルとされる |
| パリで1周する時間(時間) | 23.93 ÷ 0.753 ≒ 31.8 |
| 東京で1周する時間(時間) | 23.93 ÷ 0.584 ≒ 41.0 |
| パリで1時間に回る角度(度) | 360 ÷ 31.8 ≒ 11.3 |
| 北極で1時間に回る角度(度) | 360 ÷ 23.93 ≒ 15.0 |
| パンテオンの振り子の1往復の時間(秒)。長さ67メートル、重力加速度 9.8 から | 67 ÷ 9.8 ≒ 6.84 |
| 6.84 の平方根は およそ 2.62 とされます。これに 2 × 円周率(6.28)をかける | 6.28 × 2.62 ≒ 16.5 |
| 1往復のあいだに回る角度(度)。1時間は 3600 秒 | 11.3 ÷ 3600 ≒ 0.00314 |
| 1往復ぶん(16.5秒)で回る角度(度) | 0.00314 × 16.5 ≒ 0.052 |
| 振れ幅3メートルの円周(メートル) | 2 × 3.14 × 3 ≒ 18.8 |
| 1往復で砂の線がずれる長さ(メートル) | 18.8 × 0.052 ÷ 360 ≒ 0.0027 |
パリでは向きが1周するのに約32時間、1時間に約11度ずつ回ります。振り子の端では、1往復ごとに約3ミリずつ砂の線がずれていきます。ずれ自体はわずかでも、30分も見ていれば誰でも気づける大きさです。東京で同じ実験をすれば、1周に約41時間かかります。
高校高校+振り子の長さと、実験の難しさ
高校単振り子の周期は、おもりの重さや振れ幅(小さいとき)にはよらず、糸の長さと重力加速度だけで決まります。周期は「2 × 円周率 × 長さを重力加速度でわった値の平方根」です。67メートルの振り子は1往復に16秒以上かかるので、動きがゆっくりで、ずれを観察しやすくなります。
高校+長い糸と重いおもりを使うのは、空気の抵抗で振れ幅が小さくなるのを遅らせ、何時間も振り続けさせるためです。また、振り子が少しでも楕円をえがくと、その楕円自体がゆっくり回る効果が加わり、地球の自転による回転と混ざってしまいます。そのため、まっすぐ放すことが何より大切でした。
大学回る床の上から見た運動:コリオリの力
地球と一緒に回る床の上で運動を書くと、見かけの力として遠心力とコリオリの力が現れます。振り子の運動方程式にコリオリの力を入れて解くと、振動面が角速度「地球の自転の角速度 × 緯度の正弦」で回ることが導けます。これがフーコーの正弦則です。回転座標系(非慣性系)の力学の、最も有名な例題の一つです。楕円軌道による歳差(エアリーの歳差)など、実際の振り子で誤差になる効果も、同じ枠組みで扱えます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:フーコーの振り子(ウィキペディア) / コリオリの力(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 日食のときの「異常」は本物か。 1954年、フランスのアレが日食中に振り子の動きが乱れたと報告しました。その後も追試が行われていますが、再現するという報告としないという報告があり、結論は出ていないとされています。
- 1日の長さが揺らぐ理由。 現在は振り子ではなく、光やレーザーを使った装置で地球の回転を精密に測っています。1日の長さは1000分の数秒の幅で揺らいでおり、その原因の一部(地球の中心部と外側の層とのやりとりなど)は、まだ調べられている最中です。
- 小さな振り子で、どこまで正確に測れるか。 科学館の振り子でも、つるし方のわずかな非対称や空気の流れで、回る速さが正弦則からずれることがあります。短い振り子でずれを抑える工夫は、今も試みが続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。地球が回っていることそのものは疑いようがありませんが、その回り方の細かな揺らぎは、いまも測り続けられています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・地球の自転と天体の動き/慣性 | 振り子が向きを変えない理由、床が回る理由 |
| 高校 | 物理・単振り子の周期/地学・地球の自転 | 67メートルの振り子の周期、緯度による違い |
| 高校+ | 物理・慣性力(発展) | 楕円をえがくと実験が乱れる理由 |
| 大学 | 力学・回転座標系とコリオリの力 | フーコーの正弦則の導出 |
| 研究 | 測地学・地球回転の精密測定 | 日食中の異常、1日の長さの揺らぎ |
| ― | 生活とのつながり | 科学館の振り子の見方、台風の渦の向き |
- ウィキペディア「フーコーの振り子」
- ウィキペディア「コリオリの力」
- L. Foucault, "Démonstration physique du mouvement de rotation de la Terre au moyen du pendule", Comptes Rendus de l'Académie des Sciences, 32, 1851.
- W. Tobin, "The Life and Science of Léon Foucault: The Man Who Proved the Earth Rotates", Cambridge University Press, 2003.
- A. D. Aczel, "Pendulum: Léon Foucault and the Triumph of Science", Atria Books, 2003.
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。歴史的な経緯には諸説あり、細部は資料によって異なります。