地球にアリは何匹いるの?
― ひとりあたり約240万匹。重さを合わせると、野生の鳥と獣を足したより重くなります
地球上のアリは、およそ2京匹(2のあとに0が16個)と見積もられています。数が大きすぎてぴんと来ませんが、計算してみると身近な数字に変わります。足もとの地面1平方メートルには、平均で100匹をこえるアリがいる計算になるのです。
公園のベンチでおにぎりを食べていたら、こぼれたごはん粒に、いつの間にかアリが列を作っていました。さっきまで、地面には1匹も見えなかったはずです。
どこから来たのでしょう。じつは、見えていなかっただけです。アリの多くは、土の中や落ち葉の下で暮らしています。
では、地球全体では何匹いるのでしょうか。2022年、世界中の調査を集めて、この問いに数字で答えた研究があります。
こんなに多い理由は、2つだけ
1匹の重さは数ミリグラムほどです。1つの巣には数百匹から、種類によっては数百万匹が暮らします。女王は何年も卵を産み続けます。
名前のついた種類だけで1万4000種をこえるとされます。熱帯の森から砂漠、街の歩道のすき間まで住んでいます。いないのは南極など、ごく一部の寒い土地だけです。
小さな体を、たくさん、どこにでも。この2つが掛け合わさると、数は想像をはるかにこえていきます。順番に見ていきましょう。
どうやって数えたの?
もちろん、1匹ずつ数えたわけではありません。研究者たちは、世界各地で行われた489件の調査を集めました。調査では、地面に小さな落とし穴をしかけたり、落ち葉をふるいにかけたりして、アリを数えています。
そこから「1平方メートルあたり何匹いるか」を、森・草原・砂漠など土地の種類ごとに出しました。それぞれに、その土地の広さをかけて足し合わせたのです。答えは約2京匹でした。
この数を陸地の広さでならすと、1平方メートルあたり平均で約130匹になります。図1のつまみで、広さを変えてみてください。6畳間なら1000匹をこえ、サッカー場なら100万匹に近づきます。
この2京匹は、地面の上と落ち葉の中にいるアリだけを数えた、控えめな値とされています。木の上や地中深くで暮らすアリは、十分には数えられていません。本当の数は、もっと多い可能性があります。
重さを合わせると、どれくらい?
数だけでなく、重さも比べてみましょう。生き物の量は、体に含まれる炭素の重さで比べるのがふつうです。水分の量は種類や季節で変わってしまうからです。
アリ全体の炭素は、約1200万トンと見積もられました。野生の哺乳類は約700万トン、野生の鳥は約200万トンとされます。つまり、アリだけで野生の鳥と獣を足したより重いのです。図2を見てください。
1匹あたりに直すと、炭素はわずか0.6ミリグラムほどです。そんな小さな体が2京匹集まると、人間全体の5分の1もの重さになります。
それだけいると、何をしているの?
これだけの数がいると、アリのふだんの仕事は、陸の自然全体を動かす量になります。アリは巣を掘って土をかき混ぜ、空気と水の通り道を作ります。死んだ虫を運び、分解のはじめの一歩を受け持ちます。
植物の種も運びます。スミレやカタクリの種には、アリの好む小さな「おまけ」がついています。アリはそれを目当てに種を巣へ運び、おまけだけ食べて種を捨てます。歩道のすき間にスミレが咲いているのは、アリが運んだ種かもしれません。
アリ研究で知られるウィルソンらは、以前「世界のアリは1000兆〜1京匹ほど」と見積もっていました。昆虫全体の数に、アリの割合をかけた大まかな推定です。2022年の研究は、実際の調査の数を積み上げて、それより多い約2京匹という値を出しました。
まとめ
地球のアリは約2京匹と見積もられています。人ひとりあたり約240万匹、地面1平方メートルあたり平均約130匹です。1匹は小さくても、合わせると野生の鳥と獣を足したより重くなります。足もとの地面は、私たちが思うよりずっとにぎやかです。
1匹は、ごはん粒より軽い。
でも全部集めると、野生の鳥と獣より重い。
アリが迷わず列を作るしくみは「アリの行列は、なぜ迷わず一列にまとまるの?」で、小さな体の力持ちぶりは「アリは、なぜ自分の体重の何十倍もの荷物を持ち上げられるの?」で読めます。大きな数を身近に直す考え方は「いま吸った空気に、昔の人が吐いた空気は入っているの?」とも共通です。
- 晴れた日の公園や庭で、地面に50センチ四方の範囲を決めます。ひもや小枝で四隅に印をつけましょう。
- 真ん中にビスケットのかけらを1つ置き、10分間に集まったアリの数を数えます。
- 日なたと日かげ、土の上と舗装のすき間など、場所を変えて同じことをくらべてみましょう。
集まってくるのは、巣にいるアリのごく一部です。数えた数の何倍もが、地面の下にいると考えてみてください。アリにかまれたり刺されたりしないよう、素手でさわらないようにしましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生態学・昆虫学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この話には名前があります
- 生物量(バイオマス):ある場所や地球全体にいる生き物の量を、重さで表したもの。比べやすいように、体に含まれる炭素の重さで表すことが多い。
- 社会性昆虫:女王と働きアリのように役割を分けて、巣ごと集団で暮らす昆虫。アリ・ミツバチ・シロアリなど。
- 種子散布:植物が種を親から離れた場所へ運ばせること。アリに運ばせるものは「アリ散布」と呼ばれる。
中学高校式で確かめる:足もとには何匹、ひとりあたり何匹?
研究の総数から、平均の密度とひとりあたりの数を出してみます。数が大きいので、10を何回かけたかで書きます(10¹⁶ は1のあとに0が16個)。
| 記号で書くと | N = ρ × A (平均の密度は ρ = N ÷ A) |
| 言葉で書くと | アリの総数 = 1平方メートルあたりの数 × 地面の広さ |
| どこから来る式か | 密度の定義そのもの。研究では森・草原・砂漠など土地の種類ごとに密度を測り、それぞれの広さをかけて足し合わせた |
| N | アリの総数(匹) |
| ρ | 1平方メートルあたりのアリの数(匹/m²) |
| A | 陸地の広さ(m²) |
| アリの総数(2022年の推定) | 約 2×10¹⁶ 匹(2京匹) |
| 陸地の広さ | 約 1.5×10¹⁴ m²(1億5000万 km²) |
| 世界の人口 | 約 8.2×10⁹ 人(82億人) |
| アリ全体の炭素の重さ | 約 1.2×10¹³ g(1200万トン) |
| 人間全体の炭素の重さ | 約 6000万トン |
| 1 m² あたりの平均の数 ρ | (2×10¹⁶) ÷ (1.5×10¹⁴) ≒ 133 匹 |
| 6畳間(約10 m²)にいる数 | 133 × 10 = 1330 匹 |
| 人ひとりあたりの数 | (2×10¹⁶) ÷ (8.2×10⁹) ≒ 2.4×10⁶ 匹 |
| 1匹あたりの炭素 | (1.2×10¹³) ÷ (2×10¹⁶) = 6×10⁻⁴ g |
| 人間とくらべた重さ | 1200 ÷ 6000 = 0.2 |
平均で1平方メートルに約130匹、ひとりあたり約240万匹です。1匹の炭素は0.6ミリグラムで、乾かした体の約半分が炭素とされるので、乾いた重さは1ミリグラムほどになります。それが2京匹集まると、人間全体の5分の1の重さになります。
高校高校+どこに、どれだけいるのか
高校生物基礎では、生態系の中の生き物の量を「生物量ピラミッド」で表すことを学びます。アリは肉食・草食・分解のどれにも関わるので、1つの段に収まりきらない、いわば何でも屋です。
高校+2022年の研究によると、アリの数は熱帯で多く、とくに熱帯の森とサバンナに集中しているとされます。同じ調査では、落ち葉の中より地面の上を歩くアリを数えた値のほうが多く出たとも報告されています。
大学推定の手法と、地球の生物量の全体像
アリの採集には、地面に容器を埋める「ピットフォールトラップ」と、落ち葉を乾かしてアリを追い出す「ウィンクラー抽出」がよく使われます。研究では、これらで得た密度を生物群系(バイオーム)ごとにまとめ、面積をかけて外挿しました。地球全体の生物量を分類群ごとに見積もった研究(バーオンら、2018年)とつなげると、アリの重さの位置づけが見えてきます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:バイオマス(生物量)― ウィキペディア / アリの数と生物量の推定(2022年の原論文)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 木の上と地中深くのアリ。 熱帯の木の上や、土の深いところにいるアリは調査が少なく、総数にどれだけ上乗せされるかは分かっていません。
- 調査の少ない地域。 アフリカや中央アジアなどは調査地点が少なく、推定の幅が大きいとされます。
- アリは増えているのか、減っているのか。 昆虫の減少が各地で報告される一方、アリの数が時代とともにどう変わったかは、まだよく分かっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。2京匹という数は、今後の調査で上にも下にも動く可能性があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2分野「自然界のつり合い」「分解者」 | アリが土をかき混ぜ、死んだ虫を運ぶ話 |
| 高校 | 生物基礎「生態系」「生物量ピラミッド」 | 重さを炭素で比べる図2 |
| 高校+ | 生物「動物の行動」社会性昆虫 | 巣ごと暮らすから数が多い、という理由1 |
| 大学 | 生態学・昆虫学(採集法と外挿による推定) | どうやって数えたか |
| 研究 | 地球規模の生物量の推定 | 木の上・地中のアリ、増減の傾向 |
| ― | 生活とのつながり | 公園で食べこぼしにすぐアリが来る理由、歩道のすき間のスミレ |
- Schultheiss, P. et al. (2022) The abundance, biomass, and distribution of ants on Earth. PNAS 119(40)
- Bar-On, Y. M., Phillips, R., Milo, R. (2018) The biomass distribution on Earth. PNAS 115(25)
- Hölldobler, B., Wilson, E. O. (1994) Journey to the Ants. Harvard University Press
- 寺山守・久保田敏・江口克之『日本産アリ類図鑑』朝倉書店(2014)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。アリの総数や重さは研究による推定値で、調査の進展により変わる可能性があります。