サボテンは、なぜ水をやらなくても枯れないの?
― 息をするのは、夜のあいだだけです
同じ部屋に置いた観葉植物は、数日水をやらないだけでしおれます。ところがサボテンは、ひと月ほったらかしても平気な顔をしています。ちがいをつくっているのは、体にためた水の量ではありません。水の「出口」をいつ開けるか、です。ふつうの植物が昼に開ける口を、サボテンは昼のあいだ閉じきっています。そのかわり、夜のうちに空気を取りこんでおくのです。
旅行から帰ってきて、部屋の植物を見にいきます。窓辺の観葉植物は葉がぐったりと垂れ、土はからからに乾いています。
そのとなりの小さなサボテンは、出かける前とまったく同じ姿でそこにいます。土はもっと乾いているのに、しぼんだ様子がありません。
水をためこんでいるから、と言ってしまえばそれまでです。けれど、ためた水を使い切らずにいられる理由のほうが、じつは大事なところです。
理由は、大きく2つあります
植物の葉には、空気を出し入れする小さな口があります。ここを開けると水も一緒に逃げます。サボテンは、いちばん乾く昼にこの口を閉じきっています。
昼に口を閉じたままでは材料が入りません。そこでサボテンは、涼しい夜に口を開けて二酸化炭素を取りこみ、酸のかたちに変えて体の中にためます。
この2つは、ひとつづきの工夫です。順番に見ていきましょう。
植物の「口」は、どうしても水を逃がします
植物の葉の表面には、目に見えないほど小さな口がたくさん並んでいます。気孔(きこう)と呼ばれる穴です。植物はここから二酸化炭素を取りこみ、光を使って糖をつくります。
ところが、この穴には困った性質があります。二酸化炭素が入ってくる道は、そのまま水蒸気が出ていく道でもあるのです。葉の内側は水でしめっていますから、口を開けたとたんに水が逃げはじめます。
乾いた昼の空気は、この逃げ足をさらに速くします。気温が高いほど、空気はたくさんの水蒸気を吸いこめるからです。つまり植物は、光がいちばん強い時間帯に、いちばん激しく水を失うことになります。ふつうの植物は、根から吸い上げた水でこれを補っています。砂漠には、その補給がありません。
そこでサボテンは、思い切った選択をしました。昼は口を閉じる、と決めてしまったのです。図1の左が夜、右が昼のようすです。
夜に空気を「酸」の形でためる
昼に口を閉じたままでは、光合成の材料である二酸化炭素が入ってきません。光だけあっても、材料がなければ糖はつくれません。
そこでサボテンは、時間をずらしました。日が沈んで空気が涼しくなり、しめってくる夜に気孔を開けます。同じ量の二酸化炭素を取りこんでも、このときなら失う水はずっと少なくてすみます。
取りこんだ二酸化炭素は、そのままでは体の中にとどまってくれません。気体のままだと、また外へ抜けていってしまうからです。そこでサボテンは、二酸化炭素を体の中の物質とくっつけて、リンゴ酸という酸に変えます。液体に溶けた酸なら、細胞の中の袋にためておけます。
夜が明けると、サボテンは気孔をぴたりと閉じます。そして、ためこんだリンゴ酸から二酸化炭素をゆっくり取り出し、閉じた体の中だけで光合成を回します。外の空気とやりとりせずに、一日ぶんの仕事をこなすわけです。この昼夜逆転のやり方は、ベンケイソウ型有機酸代謝と呼ばれています。
この仕組みをもつ植物は、夜のあいだに酸をためこみます。ですから明け方がいちばん酸味が強く、日が高くなるにつれて酸が使われて薄れていきます。パイナップルも、同じやり方をする植物として知られています。
サボテンのとげは、葉が変化したものと考えられています。葉が平たく広いほど光はよく受けられますが、水も逃げやすくなります。とげまで縮めてしまえば、水の出口はほとんどなくなります。かわりに光を受ける仕事は、太くなった茎が引き受けています。
まとめ
サボテンが枯れないのは、水をたくさんためているからだけではありません。乾いた昼に口を閉じ、しめった夜に開けるという、時間のずらし方そのものが答えです。光と材料を同じ時間にそろえることをあきらめて、水を守るほうを選んだ植物、と言ってもいいかもしれません。
昼に閉じ、夜に開ける。
サボテンは、水を減らすのではなく「失う時間」をずらしました。
水を運ぶ工夫という点では、木はなぜ、100メートルの高さまで水を吸い上げられるの?も同じ話の裏側です。動物の側の答えを知りたい方はラクダは、なぜ何日も水を飲まずに歩き続けられるの?を、砂漠そのものの厳しさは砂漠は昼あんなに暑いのに、夜はなぜ凍えるほど寒くなるの?をどうぞ。葉から水が出ていくはたらきについては森はなぜ、街より涼しいの?でも触れています。
- 小さなサボテン(または多肉植物)の鉢と、同じくらいの大きさの観葉植物の鉢を用意します。どちらにも同じだけ水をやり、受け皿の水を捨てます。
- それぞれの鉢の重さを台所のはかりで量り、紙に書いておきます。そのあと、同じ窓辺に並べて置きます。
- 3日おきに同じ時刻に量り、減った重さを記録します。2週間ほど続けると、減り方の差がはっきり見えてきます。
減った重さの大半は、土の表面と葉から出ていった水です。サボテンの側は、線がほとんど寝たままになるはずです。植物が弱らない範囲で、様子を見ながら行ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 気孔(きこう):葉や茎の表面にある小さな穴。二酸化炭素の入り口であり、水蒸気の出口でもあります。両側にある2つの細胞が、開き具合を変えています。
- 蒸散(じょうさん):植物の体から水が水蒸気として出ていくはたらき。根から水を引き上げる力にもなっています。
- ベンケイソウ型有機酸代謝:夜に二酸化炭素を酸としてため、昼に取り出して光合成に使うやり方。サボテンやベンケイソウの仲間に見られます。
- リンゴ酸:果物にも含まれる酸。この仕組みでは、二酸化炭素を一時的にしまっておく形として使われます。
中学高校式で確かめる:同じ体をつくるのに、何倍の水がいるか
植物が体をつくるのにどれだけの水を使うかは、種類によって大きく違います。ふつうの植物とサボテンの仲間を、同じ体重ぶんだけ育てるつもりで並べてみます。
| ふつうの植物が、かわいた体1グラムをつくるのに使う水 | およそ500グラムとされています |
| サボテンの仲間が、同じ1グラムをつくるのに使う水 | およそ50グラムとされています |
| ここで育てたい体の重さ | 1000グラム |
| 家庭の浴槽1杯ぶんの水 | およそ200リットル |
| 何倍の差があるか | 500 ÷ 50 = 10 |
| ふつうの植物が使う水(グラム) | 500 × 1000 = 500000 |
| それをリットルに直す | 500000 ÷ 1000 = 500 |
| サボテンの仲間が使う水(グラム) | 50 × 1000 = 50000 |
| それをリットルに直す | 50000 ÷ 1000 = 50 |
| ふつうの植物は浴槽で何杯ぶんか | 500 ÷ 200 = 2.5 |
同じ1キログラムの体をつくるのに、ふつうの植物は浴槽2杯半ぶん、サボテンの仲間は4分の1杯ほどですみます。雨がめったに降らない土地では、この差がそのまま生き死にの差になります。数値は種類や環境で大きく変わる目安です。
高校高校+なぜ夜だと、水の損が小さいのか
高校気孔から水が出ていく速さは、葉の内側と外の空気とで、水蒸気の量にどれだけ差があるかで決まります。差が大きいほど、水はどんどん出ていきます。
高校+空気がふくめる水蒸気の量は、気温が上がるほど急に増えます。昼の乾いた空気は、この受け皿が大きく空いた状態です。夜は気温が下がって受け皿が小さくなり、しかも湿度が上がります。同じだけ口を開けても、失う水はずっと少なくなります。
大学酸をためる場所と、その代償
夜につくられたリンゴ酸は、細胞の中の液胞という大きな袋にためられます。明け方の液胞は、かなり酸性に傾いていることが知られています。この仕組みには代償もあります。ためられる酸の量は液胞の大きさで頭打ちになり、一日にとりこめる二酸化炭素の量が制限されるからです。サボテンの仲間が、じゅうぶんな水があっても他の植物ほど速く育たないのは、このためだと考えられています。乾燥した土地で生き残ることと、速く育つことは、両立しにくいわけです。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 何度うまれたのか。 この仕組みは、まったく縁の遠い植物のグループにも別々に見られます。進化の道すじで何度くり返し現れたのかは、いまも数え直されています。
- 切り替えの合図。 ふだんはふつうの光合成をし、乾くとこの仕組みに切り替える植物がいます。何を感じ取って切り替えているのか、細かい道すじは解明の途中です。
- 作物への応用。 水の少ない土地の作物に、この性質を持たせられないかという研究が続いています。育つ速さとの兼ね合いをどうつけるかが課題とされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。植物が水とどう折り合いをつけているかは、まだ書き換わる余地のある話題です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・植物のからだのつくりとはたらき | 気孔と蒸散、光合成の材料の話 |
| 高校 | 生物基礎・生物/代謝と光合成 | 二酸化炭素の取りこみと固定の順番 |
| 高校+ | 生物・発展/植物の環境応答 | 夜に水の損が小さくなる理由 |
| 大学 | 植物生理学・生態学 | 液胞に酸をためる代償と、成長の遅さ |
| 研究 | 植物分子生理学・作物学 | 切り替えの合図、乾燥地の作物への応用 |
| ― | 生活とのつながり | 鉢植えの水やりの間隔、置き場所の選び方 |
- テイツ・ザイガー編『植物生理学』(培風館)― 気孔の開閉と蒸散、光合成の炭素固定の章
- Osmond, C. B., "Crassulacean acid metabolism: a curiosity in context", Annual Review of Plant Physiology, 1978
- Nobel, P. S., "Remarkable Agaves and Cacti", Oxford University Press, 1994
- Borland, A. M. ほか, "Exploiting the potential of plants with crassulacean acid metabolism for bioenergy production on marginal lands", Journal of Experimental Botany, 2009
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。栽培のしかたは種類や環境によって大きく変わります。実際の水やりは、育てている植物の性質にあわせて判断してください。