自然のふしぎ 生命・生物 予備知識なしでOK 読了 約7分

サボテンは、なぜ水をやらなくても枯れないの?
― 息をするのは、夜のあいだだけです

同じ部屋に置いた観葉植物は、数日水をやらないだけでしおれます。ところがサボテンは、ひと月ほったらかしても平気な顔をしています。ちがいをつくっているのは、体にためた水の量ではありません。水の「出口」をいつ開けるか、です。ふつうの植物が昼に開ける口を、サボテンは昼のあいだ閉じきっています。そのかわり、夜のうちに空気を取りこんでおくのです。

公開:2026.09.05 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

旅行から帰ってきて、部屋の植物を見にいきます。窓辺の観葉植物は葉がぐったりと垂れ、土はからからに乾いています。

そのとなりの小さなサボテンは、出かける前とまったく同じ姿でそこにいます。土はもっと乾いているのに、しぼんだ様子がありません。

水をためこんでいるから、と言ってしまえばそれまでです。けれど、ためた水を使い切らずにいられる理由のほうが、じつは大事なところです。

理由は、大きく2つあります

1
昼のあいだ、口を閉じている

植物の葉には、空気を出し入れする小さな口があります。ここを開けると水も一緒に逃げます。サボテンは、いちばん乾く昼にこの口を閉じきっています。

2
夜のうちに、空気をためておく

昼に口を閉じたままでは材料が入りません。そこでサボテンは、涼しい夜に口を開けて二酸化炭素を取りこみ、酸のかたちに変えて体の中にためます。

この2つは、ひとつづきの工夫です。順番に見ていきましょう。

植物の「口」は、どうしても水を逃がします

植物の葉の表面には、目に見えないほど小さな口がたくさん並んでいます。気孔(きこう)と呼ばれる穴です。植物はここから二酸化炭素を取りこみ、光を使って糖をつくります。

ところが、この穴には困った性質があります。二酸化炭素が入ってくる道は、そのまま水蒸気が出ていく道でもあるのです。葉の内側は水でしめっていますから、口を開けたとたんに水が逃げはじめます。

乾いた昼の空気は、この逃げ足をさらに速くします。気温が高いほど、空気はたくさんの水蒸気を吸いこめるからです。つまり植物は、光がいちばん強い時間帯に、いちばん激しく水を失うことになります。ふつうの植物は、根から吸い上げた水でこれを補っています。砂漠には、その補給がありません。

そこでサボテンは、思い切った選択をしました。昼は口を閉じる、と決めてしまったのです。図1の左が夜、右が昼のようすです。

左:夜 口をひらく 右:昼 口をとじる サボテン 酸にかえて ためる 二酸化炭素 気孔はあいている 夜の空気は湿っていて、水は逃げにくい 日ざし ためた酸 から 光合成 水は出ていけない 気孔はとじたまま 材料は、ゆうべのうちに入れてある
図1:左が夜、右が昼のサボテン。左では気孔がひらき、右から来た矢印にそって二酸化炭素が体に入り、酸に変えてためられる。右では気孔が閉じ、外へ向かう矢印にバツ印がついていて、水が逃げないことを示している。昼の光合成の材料は、前の晩にためた酸から取り出される。

夜に空気を「酸」の形でためる

昼に口を閉じたままでは、光合成の材料である二酸化炭素が入ってきません。光だけあっても、材料がなければ糖はつくれません。

そこでサボテンは、時間をずらしました。日が沈んで空気が涼しくなり、しめってくる夜に気孔を開けます。同じ量の二酸化炭素を取りこんでも、このときなら失う水はずっと少なくてすみます。

取りこんだ二酸化炭素は、そのままでは体の中にとどまってくれません。気体のままだと、また外へ抜けていってしまうからです。そこでサボテンは、二酸化炭素を体の中の物質とくっつけて、リンゴ酸という酸に変えます。液体に溶けた酸なら、細胞の中の袋にためておけます。

夜が明けると、サボテンは気孔をぴたりと閉じます。そして、ためこんだリンゴ酸から二酸化炭素をゆっくり取り出し、閉じた体の中だけで光合成を回します。外の空気とやりとりせずに、一日ぶんの仕事をこなすわけです。この昼夜逆転のやり方は、ベンケイソウ型有機酸代謝と呼ばれています。

💡 明け方のサボテンは、酸っぱい

この仕組みをもつ植物は、夜のあいだに酸をためこみます。ですから明け方がいちばん酸味が強く、日が高くなるにつれて酸が使われて薄れていきます。パイナップルも、同じやり方をする植物として知られています。

💡 とげは、じつは葉です

サボテンのとげは、葉が変化したものと考えられています。葉が平たく広いほど光はよく受けられますが、水も逃げやすくなります。とげまで縮めてしまえば、水の出口はほとんどなくなります。かわりに光を受ける仕事は、太くなった茎が引き受けています。

まとめ

サボテンが枯れないのは、水をたくさんためているからだけではありません。乾いた昼に口を閉じ、しめった夜に開けるという、時間のずらし方そのものが答えです。光と材料を同じ時間にそろえることをあきらめて、水を守るほうを選んだ植物、と言ってもいいかもしれません。

昼に閉じ、夜に開ける。
サボテンは、水を減らすのではなく「失う時間」をずらしました。

水を運ぶ工夫という点では、木はなぜ、100メートルの高さまで水を吸い上げられるの?も同じ話の裏側です。動物の側の答えを知りたい方はラクダは、なぜ何日も水を飲まずに歩き続けられるの?を、砂漠そのものの厳しさは砂漠は昼あんなに暑いのに、夜はなぜ凍えるほど寒くなるの?をどうぞ。葉から水が出ていくはたらきについては森はなぜ、街より涼しいの?でも触れています。

🧪 台所のはかりで、水の減り方をくらべる
  1. 小さなサボテン(または多肉植物)の鉢と、同じくらいの大きさの観葉植物の鉢を用意します。どちらにも同じだけ水をやり、受け皿の水を捨てます。
  2. それぞれの鉢の重さを台所のはかりで量り、紙に書いておきます。そのあと、同じ窓辺に並べて置きます。
  3. 3日おきに同じ時刻に量り、減った重さを記録します。2週間ほど続けると、減り方の差がはっきり見えてきます。

減った重さの大半は、土の表面と葉から出ていった水です。サボテンの側は、線がほとんど寝たままになるはずです。植物が弱らない範囲で、様子を見ながら行ってください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:同じ体をつくるのに、何倍の水がいるか

植物が体をつくるのにどれだけの水を使うかは、種類によって大きく違います。ふつうの植物とサボテンの仲間を、同じ体重ぶんだけ育てるつもりで並べてみます。

① もとになる数値
ふつうの植物が、かわいた体1グラムをつくるのに使う水およそ500グラムとされています
サボテンの仲間が、同じ1グラムをつくるのに使う水およそ50グラムとされています
ここで育てたい体の重さ1000グラム
家庭の浴槽1杯ぶんの水およそ200リットル
② 計算してみる
何倍の差があるか500 ÷ 50 = 10
ふつうの植物が使う水(グラム)500 × 1000 = 500000
それをリットルに直す500000 ÷ 1000 = 500
サボテンの仲間が使う水(グラム)50 × 1000 = 50000
それをリットルに直す50000 ÷ 1000 = 50
ふつうの植物は浴槽で何杯ぶんか500 ÷ 200 = 2.5

同じ1キログラムの体をつくるのに、ふつうの植物は浴槽2杯半ぶん、サボテンの仲間は4分の1杯ほどですみます。雨がめったに降らない土地では、この差がそのまま生き死にの差になります。数値は種類や環境で大きく変わる目安です。

高校高校+なぜ夜だと、水の損が小さいのか

高校気孔から水が出ていく速さは、葉の内側と外の空気とで、水蒸気の量にどれだけ差があるかで決まります。差が大きいほど、水はどんどん出ていきます。

高校+空気がふくめる水蒸気の量は、気温が上がるほど急に増えます。昼の乾いた空気は、この受け皿が大きく空いた状態です。夜は気温が下がって受け皿が小さくなり、しかも湿度が上がります。同じだけ口を開けても、失う水はずっと少なくなります。

大学酸をためる場所と、その代償

夜につくられたリンゴ酸は、細胞の中の液胞という大きな袋にためられます。明け方の液胞は、かなり酸性に傾いていることが知られています。この仕組みには代償もあります。ためられる酸の量は液胞の大きさで頭打ちになり、一日にとりこめる二酸化炭素の量が制限されるからです。サボテンの仲間が、じゅうぶんな水があっても他の植物ほど速く育たないのは、このためだと考えられています。乾燥した土地で生き残ることと、速く育つことは、両立しにくいわけです。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。植物が水とどう折り合いをつけているかは、まだ書き換わる余地のある話題です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・植物のからだのつくりとはたらき気孔と蒸散、光合成の材料の話
高校生物基礎・生物/代謝と光合成二酸化炭素の取りこみと固定の順番
高校+生物・発展/植物の環境応答夜に水の損が小さくなる理由
大学植物生理学・生態学液胞に酸をためる代償と、成長の遅さ
研究植物分子生理学・作物学切り替えの合図、乾燥地の作物への応用
生活とのつながり鉢植えの水やりの間隔、置き場所の選び方
参考・出典
  1. テイツ・ザイガー編『植物生理学』(培風館)― 気孔の開閉と蒸散、光合成の炭素固定の章
  2. Osmond, C. B., "Crassulacean acid metabolism: a curiosity in context", Annual Review of Plant Physiology, 1978
  3. Nobel, P. S., "Remarkable Agaves and Cacti", Oxford University Press, 1994
  4. Borland, A. M. ほか, "Exploiting the potential of plants with crassulacean acid metabolism for bioenergy production on marginal lands", Journal of Experimental Botany, 2009

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。栽培のしかたは種類や環境によって大きく変わります。実際の水やりは、育てている植物の性質にあわせて判断してください。