ラクダは、なぜ何日も水を飲まずに歩き続けられるの?
― こぶの中身は「水」ではなく「脂肪」だった
「ラクダのこぶには、水がたくわえられている」という話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。実はこれ、よくある誤解とされています。こぶの中身は水ではなく、おもに脂肪です。それなのに、なぜラクダは何日も水を飲まずに、砂漠を歩き続けられるのでしょうか。
「ラクダは水筒のような、こぶの中に水をためている」というイメージを持っている人は少なくありません。ところが実際にこぶを調べてみると、中に入っているのは水ではなく、脂肪の組織だとされています。
こぶが水タンクではないのなら、ラクダはいったいどうやって、水を飲まない期間を乗り切っているのでしょうか。実はそこには、複数のしくみが組み合わさった、からだ全体の工夫があるとされています。
こぶにたくわえた脂肪を体内で分解するとき、副産物として水が生まれるとされています。
体温が大きく変動しても平気なからだのしくみによって、汗による水分の消費を抑えていると考えられています。
この「脂肪から生まれる水」と「汗を減らす工夫」を、順番に見ていきます。
こぶの中身は「水」ではなく「脂肪」
ラクダのこぶは、脂肪の組織が盛り上がってできているとされています。水をたくわえているわけではありません。この脂肪は、エサが十分にとれないときのエネルギー源として、たくわえられていると考えられています。「こぶ=水タンク」というのは広く知られたイメージですが、実際のしくみとは異なる、よくある誤解とされています。
脂肪を分解すると、水が生まれる:代謝水のしくみ
体の中で脂肪が分解されるとき(呼吸によって脂肪が酸素と結びついてエネルギーに変わるとき)、副産物として水が生まれるとされています。この水は「代謝水」と呼ばれています。ラクダはこぶに大量の脂肪をたくわえているため、それを分解することで、まとまった量の代謝水を得られると考えられています。これが、水を飲まない期間を乗り切るための、手がかりの1つになっているというわけです。
必要になったときに、水を生み出せる「燃料タンク」なのです。
汗をあまりかかない体温調節のしくみ
多くの動物は、体温が上がりすぎないよう、汗をかいて体を冷やしています。ところがラクダは、1日のうちで体温が大きく上下することを許容できるとされています。朝は体温を低めに保ち、日中は多少体温が上がっても、無理に汗をかいて冷やそうとしないと考えられています。汗をかくと、そのぶん体の水分が失われてしまうため、この体温変動への耐性が、水分の節約に大きく役立っているとされています。
ラクダの腎臓は、尿にふくまれる水分を極限まで再吸収し、非常に濃い尿を出すことができるとされています。また、鼻の中の複雑な構造によって、吐く息にふくまれる水分の一部を、体内に取り戻しているとも考えられています。水を飲めない期間、体のあちこちで水分の節約が徹底されているというわけです。
自分で確かめられること
- 片方の腕の内側に、少量の水をつける
- もう片方の腕は、何もつけずそのままにする
- 両方の腕に、うちわや扇風機で同じように風を当てる
- 水をつけたほうの腕が、より涼しく感じられることを確認する
汗(水分の蒸発)が体を冷やすしくみを体感できます。この冷却をあまり使わないラクダは、そのぶん水分を節約していると考えられます。
まとめ
ラクダが何日も水を飲まずにいられるのは、こぶに水をためているからではありません。こぶの脂肪を分解して得られる代謝水、体温変動を許容して汗を減らすしくみ、腎臓や鼻での徹底した水分節約が組み合わさっているためだと考えられています。
ラクダのこぶは、水の貯金箱ではなく、いざというときに水すら生み出せる、優秀なエネルギー貯蔵庫だったのです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「生物」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:ラクダの水分保持をめぐる言葉
- 代謝水:脂肪などが体内で分解されるときに生まれる水。
- 体温調節:体温を一定の範囲に保とうとするはたらき。
- 再吸収:尿になる前の水分を、体内に取り戻すはたらき。
高校式で確かめる:脂肪の分解で、どれだけの水が生まれるか
脂肪の分解で生まれる水の量を、目安の比率を使って計算してみます。
生まれる水の量(g) = 分解した脂肪の量(g) × 1.1(目安の比率)
| 1.1という比率 | 脂肪が分解されるときに生まれる水の量の目安とされる値 |
| 生まれる水の量(g) | 50000 × 1.1 = 55000 |
| リットルに直す | 55000 ÷ 1000 = 55 |
| 結果 | 約55Lもの水が生まれる計算になる |
これはあくまで脂肪をすべて分解した場合の目安であり、実際には体を動かすエネルギーとしても脂肪が使われるため、代謝水だけで必要な水分すべてをまかなえるわけではないとされています。それでも、こぶの脂肪の量を考えると、まとまった量の水を体内で生み出せることが分かります。
※ 「1.1」という比率や脂肪量は、しくみを理解するための目安の値です。実際の値は個体や状況によって変わることがあるとされています。
高校+体温変動を許容する、というエネルギー戦略
汗による体温調節(発汗)は、確実に体を冷やせる一方で、大量の水分を消費してしまうという欠点があります。ラクダが体温の変動を大きく許容するのは、「多少体温が上がっても、水を使わずにやり過ごす」という、水の確保を優先した戦略だと考えられています。
大学腎臓による、極限までの水分再吸収
生理学の分野では、ラクダの腎臓が持つ特殊な構造や機能により、非常に高い濃度まで尿を濃縮できるしくみが研究されています。また、脱水が進んでも血液の性質が保たれやすい、特殊な形をした赤血球を持つことも知られています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- 体温の変動を許容する範囲が、どのようなしくみで細かく調整されているのかについては、生理学の分野で、いまも研究が続けられているテーマです。
- 気候変動や砂漠化が進む中で、ラクダのような乾燥地帯の生き物の生態がどう変化していくかについても、生態学の重要な研究課題とされています。
- ラクダの水分保持のしくみを、人間の脱水症治療や、乾燥地での農業・畜産技術に応用できないかという研究も進められています。
砂漠を歩くラクダの体には、生理学と生態学が交わる、いまも研究が続く豊かなテーマが詰まっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・呼吸と代謝 | 代謝水・体温調節・再吸収の基本用語 |
| 高校 | 生物基礎・呼吸とエネルギー | 脂肪の分解で生まれる水の計算 |
| 高校+ | 生物・恒常性(発展) | 体温変動許容というエネルギー戦略 |
| 大学 | 生理学 | 腎臓の水分再吸収と特殊な赤血球 |
| 研究 | 生理学・生態学(研究中) | 体温調節の詳細機構、気候変動の影響、応用研究 |
- 生物学関連の教科書・資料における、代謝水と脂肪分解に関する解説。
- 生理学関連の資料における、ラクダの体温調節と発汗抑制に関する解説。
- 生理学分野における、ラクダの腎臓の水分再吸収機構に関する研究レビュー。
- 動物学関連の資料における、ラクダの赤血球の形状に関する解説。
- 生態学分野における、乾燥地帯の動物の水分保持戦略に関する研究レビュー。
※ 代謝水の比率や脂肪量などの数値は、しくみを理解するための目安の値です。実際の値は個体や環境条件によって変わることがあるとされています。
※本記事は一般向けの科学解説です。実際に動物を観察する際は、動物にストレスを与えないよう、施設のルールを守ってください。