ミョウバンの結晶は、なぜあんなにきれいな形に育つの?
― ゆっくり時間をかけることの意味
理科の実験で、ミョウバンを水に溶かして数日〜数週間置いておくと、誰も手を加えていないのに、平らな面と、くっきりした角を持つ、まるで宝石のような結晶が育っていることがあります。粉だったミョウバンが、なぜこれほど整った幾何学的な形に育つのでしょうか。
お湯にミョウバンをたっぷり溶かし、そのまま少しずつ冷ましていくと、底や糸につるした種となる小さな結晶のまわりに、少しずつ透明な結晶が育っていくのを観察できます。できあがった結晶は、誰かが彫刻したわけでもないのに、平らな面ときれいな角を持つ、規則正しい形をしています。
粉状のミョウバンには、そんな整った形は見られません。溶けて、また固体に戻る過程で、いったい何が起きているのでしょうか。
ミョウバンの結晶の内部では、原子やイオンが、決まったパターンで、くり返し規則正しく並んでいるとされています。
時間をかけてゆっくり結晶化させると、原子やイオンが正しい位置に落ち着く時間の余裕が生まれ、きれいな結晶に育つと考えられています。
この「規則正しい並び」と「ゆっくり育てることの意味」を、順番に見ていきます。
結晶は、なぜ角ばった形になるのか:原子の規則正しい並び
ミョウバンが水に溶けている状態では、原子やイオンはばらばらに、自由に水の中を動き回っています。ところが、水に溶けきれる量をこえた分(過剰な分)は、原子やイオンどうしが結びつき、規則正しいくり返しのパターンで並びながら、固体(結晶)として現れ始めます。この、原子やイオンが規則正しく並んだ構造そのものが、結晶の平らな面や、角度の決まった角を生み出していると考えられています。
「溶解度」という、水に溶ける量の限界
水にミョウバンを溶かせる量には、温度によって決まった限界があります。この限界の量は「溶解度」と呼ばれ、一般に、水の温度が高いほど、より多くのミョウバンを溶かせるとされています。お湯にたっぷり溶かしたミョウバンを冷ましていくと、低い温度では溶けきれなくなった分が、結晶として現れてくるというわけです。
原子やイオンが、決まったルールにしたがって、勝手に並んでいっただけなのです。
ゆっくり冷やすと、なぜきれいな結晶が育つのか
急激に冷やすと、水の中の多くの場所で、いっせいに小さな結晶ができ始めてしまいます。それぞれの小さな結晶が、ばらばらの向きのまま急いで成長するため、形の整わない、細かい結晶がたくさんできてしまうと考えられています。一方、ゆっくり時間をかけて冷やすと、新しく生まれる結晶の数が少なく抑えられます。そして、すでにある結晶(種結晶)のまわりに、原子やイオンが正しい位置を選びながら、時間をかけて積み重なっていきます。この「時間の余裕」こそが、大きくきれいな結晶に育つための、重要な条件だとされています。
食塩の結晶が立方体に近い形をしていたり、雪の結晶が六角形を基本にしていたりするのも、それぞれの物質特有の、原子やイオンの規則正しい並び方に由来すると考えられています。並び方が違えば、結晶の形も変わってくるというわけです。
自分で確かめられること
- お湯にミョウバンを、溶けきらなくなるまでたっぷり溶かす
- 底に沈んだ小さな結晶(種結晶)を1つ選び、糸などでつるす
- ほこりが入らないようふたをして、できるだけ温度変化の少ない、涼しい場所に置く
- 数日〜数週間、種結晶のまわりに、少しずつ結晶が育っていく様子を観察する
急いで冷やした場合と、じっくり時間をかけた場合とで、できあがる結晶の大きさやきれいさがどう違うか比べてみるのもおすすめです。
まとめ
ミョウバンの結晶がきれいな形に育つのは、原子やイオンが規則正しく、くり返しのパターンで並ぶという、結晶そのものの性質によるものです。水に溶けきれなくなった分が結晶として現れるとき、ゆっくり時間をかけるほど、原子やイオンが正しい位置に落ち着く余裕が生まれ、大きく整った結晶に育つと考えられています。
結晶の美しい面と角は、誰かのデザインではなく、原子の世界にもとから備わっていた、規則正しさの現れだったのです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「化学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(結晶学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:ミョウバンの結晶をめぐる言葉
- 結晶:原子やイオンが規則正しく並んでできた固体。
- 溶解度:ある温度で、一定量の水に溶かせる物質の限界の量。
- 種結晶:新しい結晶を育てるときの、核となる小さな結晶。
高校式で確かめる:冷やしたときに現れる結晶の量
高い温度と低い温度での溶解度の差から、冷やしたときに現れる結晶の量を計算してみます。
現れる結晶の量(g) = 高温での溶解度(g) − 低温での溶解度(g)
| 高温での溶解度 | 水100mLあたりに溶けていた量 |
| 低温での溶解度 | 冷やしたあと、水100mLあたりに溶けていられる量 |
| 現れる結晶の量(g) | 60 − 10 = 50 |
| 結果 | 約50gの結晶が、冷やす過程で現れる |
| 現れる結晶の量(g) | 90 − 10 = 80 |
| ②との差(g) | 80 − 50 = 30 |
| 結果 | 約80gの結晶が現れ、②より約30g多い |
高温と低温での溶解度の差が大きいほど、冷やしたときに現れる結晶の量も多くなります。ミョウバンは、この差が比較的大きい物質の1つとされ、結晶を育てる実験によく使われる理由の1つになっています。
※ ここでの溶解度の数値は、しくみを理解するための目安の値です。実際の溶解度は、温度の測り方や条件によって変わることがあるとされています。
高校+「過飽和」と核形成の関係
溶解度をこえた量の物質が、まだ結晶化せずに水に溶けたままになっている状態を「過飽和」と呼びます。過飽和の状態から、最初の小さな結晶のもと(核)ができることを「核形成」と言います。急激に冷やすと、あちこちで同時に核形成が起きやすく、結果として小さな結晶が多数できやすいとされています。
大学結晶学が明らかにする、結晶面の選ばれ方
結晶学の分野では、結晶が成長するとき、どの面がよく発達し、どの面があまり成長しないかが研究されています。原子やイオンが積み重なりやすい面と、積み重なりにくい面があり、この違いが、最終的な結晶の形を決める要因の1つだと考えられています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- 結晶のどの面が、どのような条件でよく発達するのかについて、詳しい理論的な解明は、結晶学の分野で、いまも研究が続けられているテーマです。
- 半導体や医薬品の製造では、不純物が少なく、質の高い結晶を効率よく育てる技術の研究開発が進められています。
- 宇宙ステーションなど、重力の影響が小さい環境でタンパク質などの結晶を育てる実験も行われており、地上より質の高い結晶が得られる可能性が研究されています。
小さなミョウバンの結晶1つにも、化学と結晶学が交わる、いまも研究が続く豊かなテーマが詰まっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・水溶液と再結晶 | 結晶・溶解度・種結晶の基本用語 |
| 高校 | 化学基礎・溶解度 | 冷やしたときに現れる結晶量の計算 |
| 高校+ | 化学・結晶の性質(発展) | 過飽和と核形成の関係 |
| 大学 | 結晶学 | 結晶面の発達しやすさの違い |
| 研究 | 結晶学・材料工学(研究中) | 結晶面選択性の解明、産業応用、微小重力結晶育成 |
- 化学関連の教科書における、結晶・溶解度・再結晶に関する解説。
- 結晶学関連の資料における、結晶成長と核形成に関する解説。
- 材料工学分野における、単結晶育成技術に関する研究レビュー。
- 宇宙科学関連の資料における、微小重力環境でのタンパク質結晶育成実験に関する解説。
- 化学教育関連の資料における、ミョウバンの結晶成長実験に関する解説。
※ 溶解度の数値は、よく紹介される目安の値です。実際の値は、条件や測定方法によって変わることがあるとされています。
※本記事は一般向けの科学解説です。ミョウバンの結晶を育てる実験を行う際は、熱湯の取り扱いに注意し、できあがった結晶や溶液を口に入れないようにしてください。