花はなぜ、あんなに色とりどりなの?
― 虫の目には、人に見えない模様が見えています
葉はどれも似たような緑なのに、花だけは赤や黄や青にきれいに分かれています。色をつくっているのは、花びらにたまった数種類の色素です。そしてその色は、人に見せるためのものではありません。花を訪れるハチの目は、人には見えない紫外線まで感じています。人には一色に見える花の真ん中に、虫だけが見える「印」が描かれていることがあります。
春の花壇。同じ土から生えているのに、となりあった花が、赤・黄・むらさきと見事に咲き分かれています。
そこへハチが飛んできます。ハチは花の上で迷うことなく、まっすぐ中心に降りて、すぐ蜜のある場所へ潜り込みます。
まるで、着地点に印がついているかのようです。実際、印はついています。ただし、その印は人の目には映っていません。
理由は、大きく2つです
花びらには色素という粒がたまっています。色素は光のうち特定の色だけを吸いこみ、吸わなかった分をはね返します。私たちが見ている花の色は、その花が吸わなかった光です。
花の色は、蜜を運んでもらう相手に見つけてもらうための合図です。相手の目に合わせて進化してきたので、人の目ではなく、ハチやチョウの目で見たときに目立つようになっています。
この2つは別々の話に見えて、じつは1本につながっています。順に見ていきます。
色は「持っている絵の具」で決まります
花びらの細胞の中には、色素が入っています。おおまかに言うと、たった数系統の色素の組み合わせで、あの多様さがつくられています。
黄色からだいだい色をつくるのはカロテノイドという仲間です。ニンジンやカボチャを黄色くしているのと同じ系統で、油になじみやすく、細胞の中の小さな粒にたまります。
赤・むらさき・青をつくるのはアントシアニンという仲間です。こちらは水になじみやすく、細胞の中の水ぶくろに溶けています。同じアントシアニンでも、まわりの水が酸性寄りだと赤く、中性に近づくと青むらさき寄りに見えます。金属イオンとくっついても色は変わります。「1つの色素=1つの色」ではないのです。
白い花は、色素を持たないだけではありません。花びらの中に小さな空気のすき間がたくさんあって、光をあらゆる方向にはね返しています。雪が白く見えるのと同じ理屈です。
ハチが見ている光は、人とずれています
ここからが本題です。人の目が色として感じられる光は、およそ380〜780ナノメートルの範囲だとされています。ミツバチの目はこれより短い側にずれていて、およそ300〜650ナノメートルとされます。
ハチには、人に見えない紫外線が見えます。そのかわり、深い赤がほとんど見えません。窓の幅はだいたい同じで、位置だけがずれているのです。図1の上半分が、その比較にあたります。
花びらの色素の中には、紫外線をよく吸うものがあります。その色素が花の中心のまわりだけに多くたまっていると、そこは紫外線を吸って暗く沈み、外側は明るいままになります。人の目には一色の花でも、ハチの目には、中心を囲む輪や、中心へ向かう筋が見えるわけです。この模様は蜜標と呼ばれ、蜜のありかを指す着地標識のようにはたらくと考えられています。
青い花は、赤や黄に比べてはっきり少数派です。青を出すには、アントシアニンをただ持つだけでは足りません。細胞の中の酸性度や金属イオン、ほかの物質との組み合わせまで、いくつもの条件をそろえる必要があるためだとされています。青いバラやカーネーションをつくる研究が長く続いたのも、この難しさが理由です。
ハチが赤を苦手にする一方で、鳥は赤い色をよく見分けるとされています。鳥に運んでもらう花に赤が目立つのは、そのためだと説明されています。同じ「目立つ色」でも、来てほしい相手によって正解が違うのです。
まとめ
花の色は、色素が吸い残した光です。そしてどの色を残すかは、蜜を運ぶ相手の目に合わせて決まってきました。人が眺めている花畑は、本当の宛先ではない私たちが、横から見ている風景ということになります。
花の色は、人に向けた飾りではありません。
虫あての手紙を、横から読んでいるだけです。
光を吸って残った色が見える、というしくみは葉でも同じです。植物はなぜ緑色なの?では、葉が緑の光を捨てている理由を扱っています。同じ色素の仲間が葉の中で表に出てくる話は、紅葉は、なぜ赤や黄色に色づくの?にまとめました。花が咲く時期そのものの不思議は、桜はなぜ、毎年いっせいに咲くの?をどうぞ。
- むらさき色の花びら(アサガオ、ツユクサなど)を数枚とり、少量の水につけて指でもみ、色を水に移します。落ちた色がアントシアニンです。
- その色水を2つに分け、片方に食酢を数滴入れます。酸性側に寄ると、赤みが強くなるのが見えます。もう片方は比べる用に、そのまま残します。
- 黄色い花びら(マリーゴールドなど)で同じことをすると、色はあまり水に移りません。カロテノイドは水になじみにくいからです。色素の系統の違いが、こんな形で表に出ます。
※花は、よその家や公園の花壇から勝手にとらないでください。実験のあとの色水は飲まず、流して捨ててください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学・感覚生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 色素:特定の波長の光を吸収する物質。吸われなかった光が目に届き、それが「色」として見えます。
- アントシアニン:水になじみやすい色素の仲間。赤からむらさき、青までを担当し、まわりの酸性度や金属イオンで色合いが変わります。
- カロテノイド:油になじみやすい色素の仲間。黄色からだいだい色を担当します。
- 蜜標:花にある、蜜のありかを示す模様。人に見える模様もありますが、紫外線でしか見えないものもあります。
- 送粉者:花粉を運ぶ生きもの。ハチ、チョウ、鳥、コウモリなど、花ごとに主な相手が違います。
中学高校式で確かめる:見える光の「窓」は、どれだけずれているか
人とミツバチで、色として感じられる波長の範囲を比べてみます。単位はナノメートル(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)で、数値はおおよその目安です。難しい記号は使わず、幅の引き算だけで確かめます。
| 人が色を感じる範囲 | 約 380 〜 780 nm とされる |
| ミツバチが色を感じる範囲 | 約 300 〜 650 nm とされる |
| 紫外線と呼ばれる範囲 | 380 nm より短い側 |
| 人の窓の幅 | 780 − 380 = 400 nm |
| ハチの窓の幅 | 650 − 300 = 350 nm |
| 短い側へのずれ | 380 − 300 = 80 nm |
| 長い側で見えていない分 | 780 − 650 = 130 nm |
| ずれは人の窓の何割か | 80 ÷ 400 = 0.2 |
窓の広さそのものは、350 と 400 でそう変わりません。違うのは位置です。人の窓の2割ぶんだけ短い側へずれ、そのぶん長い側の 130 nm を手放しています。ハチは「よく見える生きもの」ではなく、「別のところを見ている生きもの」だと考えると分かりやすくなります。
高校高校+吸収と反射の関係
高校色素の分子は、光を受け取ると電子がエネルギーの高い状態へ移ります。移るのに必要なエネルギーは分子ごとに決まっていて、それに合う波長の光だけが吸収されます。吸われずに残った光の合計が、私たちの見る色です。
高校+アントシアニンの色が酸性度で変わるのは、分子から水素イオンが取れたりついたりして、形と電子の広がりが変わるためです。電子が広い範囲に広がるほど、吸収される光の波長は長い側へ寄ります。アジサイの色が土によって変わる話も、この延長線上にあります。
大学色は、受け取る側の設計で決まる
ミツバチは、紫外線・青・緑のあたりに感度の山を持つ3種類の受容体を持つとされています。人も3種類ですが、山の位置が青・緑・赤寄りです。同じ光が来ても、3つの受容体がどの割合で反応するかが違えば、感じ取る色は別物になります。つまり「花が何色か」は、花だけでは決まりません。色は、光と色素と目の三者が決めています。ハチにとっての色の近さ・遠さを平面上の位置として表す図式も、この考え方から作られています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 蜜標はどこまで効いているのか 模様があると訪問が増える例は多く報告されていますが、花の種類や虫の経験によって効果の大きさは変わります。どんな条件で強くはたらくのかは、まだ整理の途中です。
- 色の多様さは、競争の結果なのか 近くの花と色を変えたほうが虫に覚えてもらいやすい、という説明があります。ただし色の違いには、乾燥や強い光から身を守るなど別の役割も重なっていて、切り分けは簡単ではありません。
- 送粉者が減ったとき、色はどう変わるのか 送粉者の減少が報告される地域で、花の色や模様が世代を追ってどう変化するのかは、観測が始まったばかりです。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。花の色は、化学と生態と進化が重なる場所にあります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・光の性質/植物のからだのつくり | 吸わなかった光が色に見える話、花のはたらき |
| 高校 | 生物基礎・化学基礎/有機化合物 | 色素の系統、酸性度による色の変化 |
| 高校+ | 化学・光の吸収と分子の構造 | 電子の広がりと吸収波長の関係 |
| 大学 | 植物生理学・感覚生理学 | 受容体3種類の反応の割合で色が決まる話 |
| 研究 | 送粉生態学 | 蜜標の効果、色の多様さの由来 |
| ― | 生活とのつながり | 花びらの色水くらべ、青い花の少なさ |
- 日本植物生理学会(植物の色素やはたらきについての一般向け解説を公開)
- Peitsch, D. ほか「The spectral input systems of hymenopteran insects and their receptor-based colour vision」Journal of Comparative Physiology A, 170巻(1992年)
- Chittka, L.「The colour hexagon: a chromaticity diagram based on photoreceptor excitations」Journal of Comparative Physiology A, 170巻(1992年)
- Grotewold, E. 編「The Science of Flavonoids」Springer(2006年)― 花の色素の化学と生合成の解説
- 田中修『花のふしぎ100』ほか、花の色と送粉者の関係を扱った一般向けの解説書
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。見える光の範囲は、個体差や測り方によって幅があります。野外での植物の採取は、その場所の管理者の指示や自治体のきまりに従ってください。