🌳 日常のふしぎ 🌍 環境・生態 予備知識なしでOK 読了 約7分

森はなぜ、街より涼しいの?
― 木々は、汗をかくように空気を冷やしています

夏の暑い日、アスファルトの道路から公園や森に足を踏み入れると、すっと空気がひんやりするのを感じることがあります。日かげに入っただけでは説明しきれないほどの涼しさです。木々は、日射をさえぎるだけでなく、絶えず水を蒸発させて、まわりの空気そのものから熱を奪っているとされています。

公開:2026.08.22 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、思い出してみてください

真夏の昼下がり、照り返しの強いアスファルトの道を歩いたあと、街路樹の並ぶ公園や、こんもりした森の中に入ると、体感の涼しさがはっきり変わることがあります。

ビルの日かげに入っても、たしかに涼しくはなりますが、森の中の涼しさは、それよりも一段深いと感じられることが少なくありません。

同じように直射日光をさえぎっているはずなのに、この違いはどこから来るのでしょうか。

1
日かげだけでは、説明がつきません

ビルの日かげも森の日かげも、直射日光をさえぎるという点では同じです。それでも涼しさに差が出ます。

2
木々は、絶えず水を蒸発させています

木は根から吸い上げた水を、葉から水蒸気として絶えず放出しています。この蒸発が、まわりの熱を奪います。

木が高いところまで水を吸い上げるしくみで見た「蒸散」というはたらきが、ここでは「冷却装置」として効いています。

① アスファルト ― 光を熱として蓄え、照り返す 太陽光 アスファルト(熱をためこむ) 照り返しと熱で、まわりの空気が暖まる ② 森 ― 光の一部を、水の蒸発に使う 太陽光 葉(蒸散) 水蒸気として 放出 周囲から熱を奪う 根から水を吸い上げる
図1:上(①)はアスファルトの道。太陽光の多くを熱として蓄え、まわりの空気を暖めます。下(②)は森。太陽光の一部が、葉からの水の蒸発(蒸散)に使われ、その分だけまわりの空気から熱が奪われます。同じ日射でも、行き先が違うことが、涼しさの差を生んでいます。

日かげだけでは、説明がつきません

ビルや街路樹の日かげは、どちらも直射日光をさえぎるという点では共通しています。ただし、ビルの壁やアスファルトは、日なたの部分で太陽光を吸収し、熱として蓄え続けます。そして都市がヒートアイランドになるしくみで見たように、蓄えた熱を昼も夜も周囲に放出し続けます。日かげにいても、こうしたまわりからの熱の影響を受けてしまうのです。

一方、森の中では、地面や幹に届く太陽光の量そのものが少ないうえに、蓄熱の主役となる「照り返す硬い面」が少ないという違いもあります。ですが、それだけでは森の涼しさの、もう一段深い部分は説明できません。

木々は、絶えず「汗をかいて」います

木は、根から吸い上げた水を、葉にある気孔という小さな穴から、絶えず水蒸気として放出しています。これを蒸散と呼びます。1本の木が、1日に放出する水の量は、木の大きさや種類、天候によって幅がありますが、大きな木では100リットルを超えることもあるとされています。

この蒸散は、人が汗をかいて体温を下げるのと、基本的な原理は同じです。水が液体から気体(水蒸気)に変わるとき、まわりから熱を吸収するという性質を利用しています。

森の涼しさは、日かげの「引き算」だけでなく、
蒸発という「熱の持ち出し」によって生まれています。

水が蒸発するとき、まわりから熱を奪います

水が水蒸気になるには、分子どうしが結びついている力を振り切るだけのエネルギーが必要です。このエネルギーを気化熱(蒸発熱)と呼びます。

プールから上がった直後に肌寒く感じるのも、肌についた水が蒸発するときに、体の熱を奪っていくからです。木の葉から水蒸気が放出されるときも、まったく同じしくみで、まわりの空気から熱が奪われています。

森全体では、無数の葉が、絶えずこの「気化熱による冷却」をくり返しています。これが、日かげの効果に上乗せされる形で、森を街よりもさらに涼しくしていると考えられています。実際にどれくらいの熱が奪われているのか、次の折りたたみで数字を使って確かめます。

アスファルトとの違いも、涼しさに関わっています

森の地面や葉は、アスファルトほど日射を吸収して蓄えこみません。また、森は風の通り道をさえぎったり、逆に地表付近の空気の流れを変えたりすることで、都市部で暖まった空気がそのまま流れこんでくるのを、ある程度やわらげるとも考えられています。日かげ・蒸散・蓄熱の少なさ・風の変化が、いくつも重なって、森の涼しさを作り出しているというのが実情に近いようです。

🔎 都市の緑地にも、同じしくみがはたらいています

公園や街路樹などの都市緑地も、規模は森より小さいものの、同じ蒸散のしくみで周囲を冷やす効果があると報告されています。夏の暑さ対策として、緑地の確保や街路樹の維持が検討されるのは、こうした効果が背景にあるとされています。

自分で確かめられること

🧪 蒸発による冷却を、肌で確かめる(安全に、屋内でできます)
  1. 片方の手の甲に、少量の水をつける(もう片方の手はそのまま)
  2. 両手を、うちわや扇風機の風に当てず、そのまま数十秒待つ
  3. 水をつけた手のほうが、ひんやり感じられることを確かめる
  4. うちわであおいで、蒸発を早めると、冷たさがさらに増すことも確かめてみる(蒸発が速いほど、熱が奪われる速さも増します)

木の葉から水蒸気が放出されるときも、これと同じ「気化熱」のしくみで、周囲の熱を奪っています。

まとめ

森が街より涼しいのは、木々が日射をさえぎるだけでなく、絶えず水を蒸発させて(蒸散)、まわりの空気から熱を奪っているからだと考えられています。これは汗が体温を下げるのと同じ、気化熱というしくみです。加えて、アスファルトのように熱をためこまないことや、風の流れを変えることも、涼しさに関わっているとされています。

森は、日光をよけているだけではありません。
絶えず水を蒸発させて、空気そのものを冷やし続けています。

もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学基礎」「物理基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の「生物」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(環境科学・気象学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:森の涼しさをめぐる言葉

高校式で確かめる:1本の木は、1日にどれだけの熱を奪うのか

木が1日に蒸散させる水の量と、水の気化熱をかけ合わせることで、1本の木が周囲から奪う熱の量を見積もることができます。

① まず、考え方

奪われる熱 = 蒸発する水の質量 × 気化熱

蒸発する水の質量単位は kg。水1リットルは、およそ1kgです
気化熱水がよく知られた基準として、およそ 2.26×10⁶ J/kg(100℃での代表的な値)とされています
奪われる熱単位は J(ジュール)

実際の気化熱は温度によって多少変わりますが、ここでは教科書でもよく使われる代表的な値を使って、大きさの見当をつけます。

② 大きな木、1本分で計算してみる

大きな木が1日に蒸散させる水の量を、代表的な目安として100リットル(100kg)とします。

奪われる熱100 × 2.26×10⁶ = 2.26×10⁸
1日に奪われる熱約 2.26×10⁸ J

これだけでは大きさが実感しにくいので、電力の単位(キロワット時、kWh)に直してみます。1kWhは、3.6×10⁶ Jです。

kWhに変換(2.26×10⁸) ÷ (3.6×10⁶) ≒ 62.8
1日に奪われる熱(kWh換算)約 62.8 kWh

家庭用エアコン1台の冷房能力を、代表的な目安として2.2kWとすると、これは次のように換算できます。

エアコンの稼働時間に換算62.8 ÷ 2.2 ≒ 28.5
換算した稼働時間約 28.5 時間分

大きな木1本の、1日分の蒸散だけで、家庭用エアコンを丸1日以上動かしたのと同じくらいの熱を、周囲の空気から奪っているという計算になります。森全体では、この効果が無数の木々分、積み重なっていることになります。

※ 蒸散量・気化熱・エアコンの能力は、いずれも代表的な目安の数値です。実際の値は木の種類・大きさ・天候・製品によって大きく異なります。

高校+蒸散は、いつでも同じ量ではありません

木の蒸散量は、気温・湿度・日射・風・土壌中の水分など、さまざまな条件によって変わります。土壌が乾燥している場合には、木が気孔を閉じて蒸散を抑え、水分の損失を防ぐことも知られています。気象条件から理論上どれだけ蒸散できるか(可能蒸発散量)と、実際に蒸散する量(実蒸発散量)は、必ずしも一致しないという考え方が、環境科学で使われています。

大学地面が受け取ったエネルギーの「配分」という考え方

気象学・環境科学では、地表が受け取った太陽エネルギーが、どのように配分されるかを考えます。空気を直接暖める「顕熱」と、水の蒸発に使われる「潜熱」の比率はボーエン比と呼ばれる指標で表されます。植生が豊かで水分が十分な場所ほど、エネルギーの多くが潜熱(蒸発)に使われ、顕熱(空気を直接暖める分)の割合が下がる傾向があるとされ、これが森や緑地が涼しく感じられる理由の、定量的な裏づけの1つになっています。

研究まだ、はっきりしていないこと

森が涼しいという感覚は身近なものですが、その効果を正確に測り、都市計画に活かす方法は、いまも研究が続いている領域です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・状態変化と植物のはたらき蒸散・気化熱の基本用語
高校化学基礎・物理基礎、状態変化気化熱から、木が奪う熱量を見積もる計算
高校+生物・植物の水分生理気孔の開閉と蒸散量の変化
大学気象学・環境科学顕熱・潜熱の配分、ボーエン比
研究都市気候学(研究中)緑地配置の最適化、気候変動と蒸散能力
参考・出典
  1. 環境省「ヒートアイランド対策における緑化の効果」に関する解説資料。
  2. 森林・林業関連の教科書における、蒸散と森林の気候緩和効果に関する解説。
  3. 気象学関連の教科書における、顕熱・潜熱の配分(ボーエン比)に関する解説。
  4. 都市気候学に関する研究レビュー(都市緑地の冷却効果とその要因分解について)。
  5. 化学基礎教科書における、水の気化熱(蒸発熱)の代表値に関する記載。

※ 蒸散量・気化熱・エアコンの冷房能力などの数値は代表的な目安であり、実際の値は条件によって大きく異なります。

※本記事は一般向けの科学解説です。緑地整備や都市計画に関する具体的な効果・数値については、環境省や自治体など公的機関の情報をご確認ください。